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(No37) 大阪市立東洋陶磁美術館 受贈記念特別展「鼻煙壺1000展」 鑑賞記 

 2008年7月19日(土)〜9月28日(日)、大阪市立東洋陶磁美術館にて開催された受贈記念特別展「中国工芸の精華・沖正一郎コレクション 鼻煙壺1000展」の鑑賞記です。


 鼻煙壺(びえんこ)とは、嗅(か)ぎタバコを入れる小さな容器をいう。
 嗅ぎタバコは、香料などを調合した粉末状のタバコを鼻孔になすりつけたり、吸い込んだりして香りと刺激を楽しむもので、ヨーロッパでも中国でも、「火をつける」という行為を野卑とみるためか、特に宮廷で大流行したそうだ。

 展示は鼻煙壺の材質別に分類されていた。陶磁器〜ガラス〜金属・象牙等〜貴石という順だった。

画像1(上から)

【 白ガラス上絵 花鳥図 鼻煙壺(0588) 】

【 夾彩 花文 鼻煙壺 「乾隆年製」 (0118) 】

※ 画像は、チラシより。作品名の後の番号は展示品の整理番号だと思う。
 最初のコーナーは、陶磁器製の鼻煙壺。

 嗅ぎタバコの習慣は、17世紀半ば頃にヨーロッパから中国に伝わり、清朝の宮廷で大流行したという。

 清代で、しかも金と手間暇に糸目をつけぬ宮廷中心だから陶磁器といっても、そりゃもう「何でもあり」である。

 青花(せいか。日本では染付(そめつけ)と呼ぶ。白磁にコバルトで絵付けを施した磁器。私のサイトでは、例えば陶磁器(19)陶磁器(12)陶磁器(13)で)、五彩(白磁の釉の上に赤や緑、黄色などで文様を描き、低温度で焼きつけたもの。日本では赤絵と呼ぶ。五彩とは5色限定でなく、多くの色で彩るという意味。私のサイトでは、先ほどと重複するが、とりあえず陶磁器(12)で)などを経て、

【 粉彩 桃樹図 鼻煙壺「道光年製」(0112) 】 

 
画像は画像2の真ん中。

 粉彩(ふんさい)とは、ヨーロッパの無線七宝の技術を導入して清時代の康煕末年に景徳鎮窯が新たに開発した上絵付けの技法をいう。
 石英砂を焼いて粉にして鉛と合わせると柔らかい玉のような美しい白色琺瑯(ほうろう)ができる。
 この白色琺瑯を基礎にすることで、銅で緑、金で紅色、アンチモニーで黄色など色数が飛躍的に増加し,濃淡のぼかしを生かした細密な描写が可能になった。

 このほか、大阪市立東洋陶磁美術館HPの展示作品紹介の(3)で

【 粉彩 花文 鼻煙壺 】

 ここの解説では粉彩は、「清時代の康熙・雍正年間に始まった上絵技法の一種で、白磁の表面に酸化錫を含んだ顔料で絵付けをしたもの」とされている。

画像2(左から)

【 象牙黒彩陰刻 樹下人物図 鼻煙壺「乾隆年製」(1093) 】

【 粉彩 桃樹図 鼻煙壺「道光年製」(0112) 】

【 緑ガラス白被せ 花文 鼻煙壺(0470) 】
 続いて、

【 夾彩 花文 鼻煙壺 「乾隆年製」 (0118) 】

 画像は、画像1の下側。

 夾彩(きょうさい)とは、粉彩でも余白を残さず、文様で塗りつめる技法をいう。

 確かに写真を見ても、花文の余白を魚子地(ななこじ。金工でよく用いられる小さな円を敷き詰めた地模様)で埋めている。


 あと、陶磁器のコーナーで印象に残ったのは茶葉末の鼻煙壺。


 茶葉末(ちゃようまつ)とは、陶磁器(13)の末尾で書いているが、鉄釉の一種で、呈色を中国では茶葉の粉末とみ、日本では蕎麦とみて、蕎麦釉とか蕎麦手と呼ぶ。

 茶色というか、濃い緑というか、そこにちょい紫も入っているような、なんとも「深い」感じの色であった。

 あと、
【 炉鈞釉 鼻煙壺(0149) 】

が、よかった。

 鈞窯(きんよう)とは北宋五大名窯の一つである。ほかの4つは何かというと陶磁器(20)で。鈞窯の場所は陶磁器(7)で。

 『鈞窯瓷』(二玄社)によると、鈞窯の磁器は「窯に入るは一色なれど、窯を出づれば万彩たり」、「鈞瓷に対(てき)無し、窯変双(なら)ぶ無し」と古来高く評価されている。
 同書では「景徳鎮の倣鈞瓷は”炉鈞”という」(P35)とも、「景徳鎮では〜”宜鈞”の効果に倣った品種も焼造され”炉鈞”と称された」(P83)ともある。
 「宜鈞」とは、「明清の時代には〜倣鈞の焼造が流行」し「江蘇省宜興〜の釉陶は”宜鈞”〜という」(P35)とある。
 要するに「まねっこ」か「まねっこのまねっこ」かは別にして、鈞窯の磁器に倣ったものに違いはない。

 雰囲気を知っていただくため、炉鈞釉の作品としては、ここここで。


【 青白釉透彫 龍鳳凰文 鼻煙壺「大清乾隆年製」(0150) 】

 画像は、画像4の一番右。非常に凝ったつくりである。




 続いて、ガラス製の鼻煙壺のコーナーへ。
 ここでは「被(き)せガラス」という言葉を知った。

 被せガラスとは、色の違うガラスを溶着することで、例えば白いガラスのコップの上にすっぽり赤いガラスを被せたとする。そして、上層部の赤いガラスで、ハートの形だけを残して、他の部分を削り取ってしまえば、白地に赤のハートマークが描かれたコップができるというわけだ。

画像3(上から)

【 孔雀石 鼻煙壺(0981)】

【 象牙描漆 樹下人物図 鼻煙壺(1094)】

【 白ガラス桃被せ 白菜形 鼻煙壺(0363)】

【 水晶 竹節形 鼻煙壺(0908) 】

 もちろん、被せガラスばかりではなく、透明や、単なる色ガラスの作品も多い。

【 赤ガラス 魚形 鼻煙壺(0197 】

 画像は、画像5の一番下。

 まあ、形がおもしろいってだけかな。何だか、駅弁に付いてくる醤油さしの魚みたい。
 「魚」は発音の「ユ」が、金が「余」る、につながって縁起がいいとされている。魚の形のものは多かった。
 あと、意匠でいくと、蟹だの、蝉だの、瓢箪はいうに及ばず、唐辛子、玉蜀黍など、これまた「何でもあり」。


 また、私はそれまで知らなかったのだが、雪片ガラスというものがあると知った。
 ここでは、「雪降り模様ガラス」と表現されているが、もう一つピンと来ない。透明ガラスのところどころに白い部分が「霜」ふり肉のように混じっているというか、凍りかけた水というか、溶けかけた氷というか、「かき氷」の「みぞれ」みたいというか。(←ますます、わからんか?)
 画像がないので分かりにくいが、味わいがあって、雪片ガラスの作品(鼻煙壺)っていいなと思った。

【 白ガラス桃被せ 白菜形 鼻煙壺(0363)】

 画像は、画像3の上から3番目。この文章のすぐ横。

 白ガラスの壺の上に桃色ガラスを被せ、白菜の葉の形を彫っている。
 さらによく見ると葉の先に青虫がいる。細かい芸だ。


【 緑ガラス白被せ 花文 鼻煙壺(0470) 】

 
画像は画像2の一番右。

 画像で、蓋の下から壺の中を下方に伸びる爪楊枝みたいな棒がお分かりだろうか。

 嗅ぎタバコはヨーロッパでは箱型容器が使われていたが、湿潤なアジアの気候に合わせ、中国では密閉式の独自な「壺」形の容器が生まれた。よって「鼻煙壺」なのである。

 よって、必ず壺には必ず上からすっぽりかぶせる「蓋」がセットとなる。
 で、ガラス製の壺の中に目をこらして想像したのだが、蓋の裏に棒がついていて、その先が「耳掻き」みたいになっているようだ。
 蓋を外し、棒の先で少量のタバコの粉を壺からすくい取るのだと思う。

 館のHPでは、作品(1)が

【 白ガラス緑被せ 蓮弁文 鼻煙壺 】



 単層のガラス、被せガラス容器を経て、

【 白ガラス上絵 花鳥図 鼻煙壺(0588) 】

 画像は画像1の上側。

 精密な絵であるし、美しいのは認める。
 でも陶磁器で、私は青磁などのように釉そのものの発色を愛でたい方なので、具象的な絵が描かれているものにはそれほど興味がわかない。ガラスであっても、同じ。

 ただ、それに加えて「内絵」というのは、すごいなと単純に感心する。
 画像がないので分かりにくいと思うが、鉤状の細い筆を使って、ガラス壺の内側に絵を描くものだ。

 「国立故宮博物院」というHPで瑠璃内絵鼻煙壺という画像があった。ここでは、ありがたいことに蓋を取ったとこの写真が載っていたので、ぜひご覧いただきたい。

 


 次は、金属や象牙などによる鼻煙壺のコーナー。
 

画像4(左から)

【 七宝 宝尽文 鼻煙壺(0745) 】

【 銀玉象嵌 花文 鼻煙壺(0730) 】

【 青白釉透彫 龍鳳凰文 鼻煙壺「大清乾隆年製」(0150) 】
 

【 銀玉象嵌 花文 鼻煙壺(0730) 】

 
画像は、画像4の真ん中で、この文章のすぐ横。

 時代ものの銀なんでピカピカしてなくて、まさに「いぶし銀」という感じの落ち着いた色になっている。


【 七宝 宝尽文 鼻煙壺(0745) 】

 画像は画像4の一番左で、これまたすぐ横。

 七宝は、金属製の下地に釉薬をのせ高温で焼成するもの。

 

【 象牙黒彩陰刻 樹下人物図 鼻煙壺「乾隆年製」(1093) 】

 画像は画像2の一番左側。

 
【 象牙描漆 樹下人物図 鼻煙壺(1094)】

 画像は、画像3の上から2番目。

 写真では分かりにくいが、実物では左上の部分、螺鈿(らでん)のように虹色に光ってきれいだった。


 続いて、貴石のコーナー。ダイヤモンドのような宝石ではないが、トルコ石、ラピスラズリ、オパール、瑪瑙(めのう)、琥珀(こはく)など様々な素材が使われていた。

【 水晶 竹節形 鼻煙壺(0908) 】

 画像は画像3の一番下。

 二連になっているので、二種類の風味の違うタバコを入れておける。こうした二連式のものは素材を問わず多く、金属製のものでは四連式のものもあった。おそらくその金属製のものは折り畳むこともできるのだと思う。

【 孔雀石 鼻煙壺(0981)】

 画像は画像3の一番上。

 自然の模様が美しい。


 館HPの作品(6)は、

【 瑪瑙雕琢 金魚文 鼻煙壺 】

 「めのうちょうたく きんぎょもん びえんこ」と読む。そう言えば、パスタの「ボンゴレ ビアンコ」に似てるな。



 あと、どうやら名前がつくような石じゃないようで、単に「石 鼻煙壺」というのが、多数展示されていた。でも、そんな名もない石の自然な模様の方が、巧緻な作品よりも好ましく感じられた。


 最後に小さな展示コーナーがあって、「セット物」など、少し毛色の変わったものが展示されていた。 

画像5(上から)

【 白玉 茄子形 鼻煙壺セット(0941) 】

【 象牙雕琢 宝相華文 鼻煙壺セット(1089) 】

【 赤ガラス 魚形 鼻煙壺(0197 】

【 白玉 茄子形 鼻煙壺セット(0941) 】

 画像は、画像5の一番上で、この文章のすぐ横。

 亀甲形の箱に茄子形の鼻煙壺が10個、放射状に並べてある。


【 象牙雕琢 宝相華文 鼻煙壺セット(1089) 】

 画像は、画像5の真ん中で、これもすぐ横。

 チラシにもHPにも「宝相華文」とあるが、会場の解説文には「団花文」とあった。

 右の写真を見ていただくと、中央の壺のほかに細長い釣鐘のようなものと、長い棒、丸い皿がお分かりと思う。

 鼻煙壺とは、ほとんどが7cm前後というか、手のひらに入るほどのものが大部分である。
 携帯用というか、つねに手もとに置いておくものなので、別のもっと大きな保管容器に買いためているタバコを随時鼻煙壺に補給することになる。

 鼻煙壺の口は小さいので、直接タバコを入れるのは難しい。

 釣鐘状のものは漏斗(ろうと)である。鐘の右側に細い小さな口があるが、これを鼻煙壺の口に立てる。 

 手前の棒(写真では分かりにくいだろうが、向って左側、太くなっているところが匙状になっている)を保管容器に突っ込み、タバコをすくう。そして、漏斗の上からタバコの粉を注ぎ入れるのであろう。

 鼻煙壺に入れたタバコを取り出すには、先述したように壺に付随した匙を使う。
 蓋の匙から直接鼻孔内になすりつけたり、吸い込むのは難しいし衛生的でない。せっかくの粉も湿気てしまうだろう。
 それで、鼻煙壺から取り出したタバコを入れるのが、右端の小皿である。そこにいったんあけて、指でなすりこんだりするのだろう。

 


  

 どうもお疲れ様でした。

 
  

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