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(No269) 日本の話芸 & 上方演芸ホール TV鑑賞記  
          

 春若は平成22年7月20日くらいの放送かな?吉朝は25日ゆうか24日(日)深夜?

 



桂 春若 「鴻池の犬」

 

 
 先ほどは三喬さんによる上方落語の神髄「花色木綿」。もう帰ってもろてもええんですが、一遍に殺到しますと混雑しますよって、私が演ってますうちに、一人帰り、二人帰り、五人帰り・・・・・・・・とやっていただいたら。


 運のええ、悪いゆうのがありますが、こんな噺があります。

「おじいちゃん、お誕生日おめでとう。ええ話と悪い話があるんやけど、どっちから聞く?」
「そうか。ほな、ええ話聞こか?」
「誕生日のお祝いにストリップダンサーが来てるねん」
「ああ、そうか。そら嬉しいな。で、悪い話ゆうのは?」
「うん、そのダンサー、おじいちゃんと同い年やねん」

 後はごくオーソドックスな「鴻池の犬」であり、特に感想はない。

 

 


桂 吉朝 「高津の富」

 これも上方演芸ホールで、吉弥(吉朝の二番弟子)を招き、小佐田定雄と対談していた。

 2005年の米朝師匠との二人会での「弱法師」が最後の高座だった。私が聴いた「風邪うどん」は、その一つ前である。
 一時はどうなんのかいなて思いました。(注 別の録音でも、前の高座のことを話題にしていたことがあるから、何かトラブルがあったのだろう。
 私が初めて高座で吉朝を生で聴いた時も、直前の雀々のアホみたいな高座を「今のは何やったんや?」とズバッ!と切っていた)

 まあ不景気でしてね。よぉ不景気でもお前らの商売には関係ないやろ、てなことをおっしゃる方がいますが、私ら要らないもんですからね。
 なくても何も困らないでしょ?

 要らないものを国が雇ってるゆうのもおかしなもんですが。(NHKの番組に出ていることを国が雇っていると表現しているのだろうか?)

 余興なども目に見えて減りました。
 名前ゆうたら皆さんご存知の会社がね、それまでは会社で米朝一門会を呼んでくれてたんですがおととしくらいからなくなりました。きっと会議で、そんなバカなことはやめましょうってなったんでしょうね。

 逆に、不景気やから来た仕事ゆうのもありまして。そこは、これまでオーケストラとかそこそこの歌手を呼んで歌謡ショーとかをやってたのをランクを落として落語会で済ますというのもありまして。
 嬉しいやら、情けないやら。

 こない景気が悪いと一攫千金を夢見る人間も多くなってまいります。

 大川町ゆいますから、淀屋橋あたり宿屋が並んでる中で、ある宿屋の前に立ったんが年の頃なら55、6。小さな風呂敷包みを提げた田舎風の親父さんでして。


「一人やが・・・・泊めてもらえるかな?」
「へい!そら、お一人さんが、お半分さんでも」
「半分ちゅうこたないが・・・2万両ばかりの取引で上方見物かたがた出てまいりましたが、相手のあるこっちゃで、五日ほどと思てるんやが十日になるや、半月余りもかかるのか。どうやな、最初に何ぼかまとまったもんを預けといた方がええのかな?」
「いえ、そら、どなたさんに限らず、お発ちの折りで結構でおます」
「ほな泊めてもらおとしょうかな」

「へい!おい!旦さんにおすすぎをお持ちせえ!」
「いえ、足袋に雪駄履いとりますで、すすぎ
(ワラジ履きの方などの素足を玄関先で湯で洗う)はけっこうじゃ。それより、静かな部屋をお願いしますで」

 案内されまして
「へえ、旦さん。おぶ
(お茶)をお持ちしました」
「ああ、主
(あるじ)さんかえ。まま、こっち来て一服しいや。

 どうじゃな。商売の方は?」
「へえ。まあ、ぼちぼちというとこでして」
「そうか。まあ、何の商売にせえ、ぼちぼちやったら良しとせんならん。

 事のついででゆうのやが、さっきゆうたとおり、2万両ばかりの取引でやって来ましたのやが、こんな服装(なり)してるで、この親父、何じゃ知らんと思てるやろが、これでも、因州鳥取の方では金持ちとか物持ち・・・・とか言われてましてな。自分の口からゆうのもおかしいが、かまわれんのがほん嫌いやよって、いつも供も連れずにこんな服装でして。
 これも話のついでやが、こないだも、店のもんが、旦さん寝てなはるどこやおまへんで、賊が参っておりますゆうのでな。
 そうか。賊ゆうたら盗人やろ。金が欲しゅうておいでなさったんなら、手向かいしてうちに怪我人が出たらあかん。金倉に案内して持っていってもらいなはれ、てゆうたのやが、店のもん怖がって誰もよう開けん。しゃあないから私が庭にぽい!とおりてカンヌキあけたったら、賊がどやどやっと18人。千両箱を両手で持つ奴、かたげよる
(肩にかつぐ)奴、運びよった、運びよった。
 そのうち、じんわり東の空が白いできたよって、賊も我が身が可愛いと見えて、おらんようになりよった。さて、どんだけ持っていってくれたか思て数えてみたが、あかんもんやなぁ、たったの千両箱が84しか減ったないのや。 はてさて、欲のないこっちゃで。ハッハァ〜、ハッハァ〜〜、ハッハァ〜〜〜

 
 親父さんの笑い方はけっこうパターンがあり、ハ〜、ハァ〜、ハァァ〜とちょっとずつ引っ張っていくようなパターンもあるが、吉朝は声低めで短めの「ハッハァ〜」を3回くり返す。

 後も、女中から持ちやすい漬けもんの重石がないかと言われ、千両箱を10ほど出しておいたら日が暮れになったら減っていく。不思議なこともあるもんやなぁ思てたら、出入りのもんが次々かたげて(担いで)帰りよる。貧乏人ゆうのはあさましいもんやなぁ。はっはぁ〜×3・・・・というホラ話。

「千両てな金、私ら貧乏人にとっては一生お目にかかることのでけん金。夢のような話でございます。

 どうですやろ。そんなお話につけこむ訳やおまへんけど、宿屋稼業だけでは食いかねまして、あちらの周旋、こちらのお世話などもやらせてもろてまして、明日に迫った高津の富札、1枚だけ残っておりまして。
 旦さんのような勢
(いっきょ)いのあるお方に買(こ)うてもろたら当たるような気がしまんので」

「富て何や」
「ああ、旦さんご存知おまへんか。高津の富ゆうたら一番くじが当たったら1000両、2番が500両、3番が300両とこうなっとりますので」
「ほな1番でも1000両出しゃええのやな?」
「何でございます?」
「いや、運悪ぅその1番とやらに当たったとしても1000両出したら堪忍してもらえんのか?」
「旦さん、間違い。
(両手を広げ)むちゃくちゃ間違(まちご)うたはります。
 1000両は向こうがくれますので」
「くれる?ほな、置いとこ
(やめておこう)。わずか1000両ばかり邪魔んなるだけや」
「まあ、旦さんにとってはそうでっしゃろけど、まあお遊びで」
「ええ?転合
(てんご。おふざけ)で?何ぼやねん?」
「一分でおます」
「一分?一分ゆうたら、こんな小さい奴か?確か、賽銭の残りが・・・・
(と、たもとをさぐって)これか?」
「へい!ほな、これ富札でおます」
「ああ、そんなんかまへん」
「いえ、そうゆう訳には・・・」
「そうか?ほな、まあ話の種にもろとこか?
(ふところに入れて、宿屋の亭主の顔を見て少し笑い)せや、ほな、こうゆうことにしよか。分からんで、分からんけど、何が当たっても、半分はお前さんにあげると、こうしよか?」
「旦さん。と、言いますと?」
「1000両当たったら500両、500両やったら250両、300両やったら150両、おまはんにあげよ、てゆうてんねんがな」
「さいでやすか!それは、それは、たくさんにありがとさんでおます!」
「当たってから礼ゆいぃな。面白いお人やな。

 それよりな、お腹がすいとりますで、ご膳をお願いします。その前にちょっと一杯やりたいので熱燗で5、6本持ってきておくれ。アテはみつくろいでかまへんさかいに。早幕(急いで持ってくること)でな。はい!はい!

 ・・・・・・行てしもたか。やまこ(虚勢でデタラメを言うこと。大風呂敷)もええ加減にせなあかん。何をゆうても信用するもんやさかい・・・・・とうとう大事にしてた虎の子の一分、取られてしもた。これで一文なしのからっけつや。
(掌を上にして両手を広げ、少し嘆息し)

 まあ、あんだけゆうてたら、あまり催促もしよるまい(しないだろう)、ええ加減呑み倒し、食べ倒し、すき見て逃げたろ」・・・・て悪い奴でして。

 

「ああ、持て来てくれた?酌も給仕もいらん。自分一人で「気こんかい」にやらしてもらいますで。何かあったら手を叩きます」

 「気こんかい」てどんな字か分からない。「広辞苑」には「気根に」で「気ままに」、「自由に」とあるので、そうゆう意味だと思う。
 なお『桂米朝コレクション4』(ちくま文庫)も『桂枝雀爆笑コレクション3』(ちくま文庫)も「気根かい」と表記し、注釈は米朝は「気長に」、枝雀は「気ままに」。

 ゆっくり酒やご膳をいただいてごろ〜っと横になる。

 あくる日、何も用事はございませんが、昨日ゆうた手前、宿におるわけにもいかず、
「おはようさん」
「ああ、これは旦さん。お早いお目覚めで」
「主さんは?」
「ちょっと出かけておりまして」
「そうか。いや、昨日もゆうてた2万両ばかりの取引で出かけますで、帰りは「夕けい」
(これも字は不明。上記米朝、枝雀は「晩方」)になると思いますで、大したもんはありゃせんが、ちょいちょい私の部屋、気ぃつけてもらいたい」
「心得ております。お早
(はよ)ぅお帰り」
「はい」・・・・とおさまりかえって出たもんの一文なしのからっけつ。行くあてがございませんので、大坂中をあっちへウロウロ、こっちへウロウロ。やがて高津の方へ出てまいりまして。

 富の人出をあてこんで「ぶっちゃけ商人」(あきんど。持ってきた安物をぶっちゃけて(そこらにぶちまけて)売るような物売り連中)が出ております。

 拝殿の正面に白木の三宝。その上に富札の入った箱が乗っておりまして。(このあたり、三宝や箱を示す吉朝の手振りがきびきびと美しくさえある)

 

「久しぶりの富やゆうのんで、えらい人でんなぁ」
「ほんまでんなぁ。こん中で一人だけが千両当たりまんねんなぁ」
「わたいも1枚買
(こ)うてまんねん。(順に指差していき)あんたも?あんたも?あんたは?え?2枚?あんたは?1枚?あんたは?え?4枚も買うてなはんの?あぁたは?」
「よぉ訊いとくんなはった。わたいはたった1枚。辰の857番。
(どん!と胸を叩き)これがわたいに当たりまんねん」
「え?一番の1000両でっか?」
「いや、二番の500両」
「そんなことまで分かりまんの?」
「ゆんべ、私の夢枕にうちの家の守り神が立ちましてな。『くぉとし
(今年)の2番の500両ぅは〜、おむぁえ(お前)に当ててやぁ〜るぅ〜』」
「どこの神さんでんねん?」

 米朝師はオーソドックスに高津の神さん。枝雀師は「日頃念ずるピリケンさん」でお告げの言葉の調子も「今年の2番は・・・・・・・・・・・・お前に・・・・やるっ!当てにして・・・・・・・・待てっ!」と独特の調子だった。
 吉朝はここでは「アナタハ〜神ヲ〜信ジマスカ〜」的な宣教師の片言のような口調。だから「どこの国の」というツッコミになる。

「500両当たったら、わたいがどないして使うと思いなはる?」
「そんなん分かりまへん」
「そら分かりまへんけど、人には推量、想像ゆうのがおますやろ?」
「それでしたら、地所でも買
(こ)うて、家でも建てなはるか?」
「えっへっへっへ 
(手を横に振って)なかなか、そんなことはせえしまへん」
「ほな米相場にでも手ぇ出しなはるか?」
「えっへっへっへ 
(手を横に振って)なかなか、そんなことはせえしまへん」
「日本国中、旅でもしなはるか?」
「えっへっへっへ 
(手を横に振って)なかなか、そんなことはせえしまへん」
「ほな、どないしまんねん?」
「えっへっへっへ・・・」
「こっちが尋
(たん)ねてまんねん」
「浜縮緬を一反買うてきて京へ藍の染めにやります。でけたらこれを縦にプツ〜〜と切って、長い長い袋をこさえます。ここへ500両を細かいのんにくずしてざざ〜っと入れまんねん。くるくるっとまとめるとこれくらいの
(手で大きなかたまりを示し)かたまりがでけるさかい、これをふところにぽいっ!と放り込むとゆうと、布袋さんみたいになりますわ。これで新町に行きまんねん。
 え?何でて?新町にわいのこれ
(小指を立て)がいてまんねん。
 歳はテンナラ、分かりまへんか?符丁でんがな。22ぃです。別嬪やおまへんけど、色の白い、丸ぽちゃで、笑うとえくぼがぺこっ!」
「のろけでっかいな」

「久しぶりでっさかい、ちょっとじらしたりまんねん。ちょっとこんなとこ(ふところ)に手ぇ突っ込んで、遠いとっから鼻唄もんだ。♪赤襟ぃ〜さんでぇ〜はぁ〜!!♪
「大きい声やなぁ」
「♪年季ぃ〜がぁ長いぃ〜あだなぁ〜年増にゃあ〜間夫
(まぶ)ぅがぁ〜あぁ〜るぅ♪

♪すちゃらかちゃんちゃんの〜なだめ〜こさいさい 北国屋(ほっこくや)の庄さんで きたしょ〜 佐野屋の佐っ助さんで さっこらさのさ〜 イとロとハとニで ホヘト さいさい〜♪」
「それ、何の唄でんねん?」

「今日あたりわいが来るんやないかとおなご、張り店で待っとります。惚れた男の声聴く時にゃ、ちょうちょのかんざし 抜けて出るちゅうやっちゃ。
『なあ、おちょやん
(使い走りの若い女中を指す「おちょぼ」のこと)。遠くで聞えてんの、あれ、松っちゃんの声と違うか?なあ、おちょやん・・・・・まあ、また居眠(いねぶ)って。ほんま、この子は灯ぃがともるようになったら、すぐ居眠りすんねやさかい、不景気な子ぉやで。なあ、おちょやん!あれ、松っちゃんの声と違うか?もう!辛気くさい子!ぱっ!』
(大きな声を出すので周囲の者が驚く。男の妄想はまだ続く)
 近くでわいの声が聞えたら、おなご、もうよぉじっとしてまへん。ぱっと飛び出してきたか思うと『松っちゃん、どこ行くねん?』」
(と、女になりきり、横の人の袖を引っ張る。びりっ!と音がして)
「何しまんねんな。・・・・・破れてますやないか。・・・・一人でやっとくなはれ」

「『ちょっとひと回りしていこう思て』
『いつもやったらすっと上がってくれんのに、何で今日に限ってそんな根性悪、ゆうねや?』
『上がったりたいけど・・・・銭がないがな』
『まあ・・・・・わたいが銭がないゆうていっぺんでも松っちゃんに恥かかしたことがあるか?
 上がんなはれ・・・・・・上がんなはれ・・・・・・上がんなはれ!』」

(勢いで、どん!と胸を突かれた周囲の男、屈みこんでゴホゴホとせきこみながら、指を1本立てて)
一人で・・・・お願いします

「座敷に上がるとゆうと、おなごがかんざし抜いて『おちょやん、これ、ちょっと帳場に持っていっとぉ』(持っていっておくれ)
 そうすると、これが1両ゆう銭に変わりまんねん。
 おなご、そん中から1朱
(1両の16分の1)だけ別にして残りを『おちょやん、これ帳場持っていって、あんじょうして(うまい具合にして。会計を済ませて)
 あ、それからこれ
(と、取り分けた1朱を渡し)おちょやん、松っちゃんからの祝儀やし、松っちゃんに礼ゆうとぉ(言いなさい)。ううん、わたいからとちゃうの。松っちゃんから。松っちゃんに礼、言いなはれ。ううん、松っちゃんから・・・・・・』」

(男は周囲の者を指を突きつけながら見回し)「あんたらねぇ・・・何ぼ〜っと聞いてまんねん。ここが一番ええとこだっせぇ!おなごがわがかんざし殺して、その中から祝儀だして『松っちゃんに礼ゆいなはれ』って。(近くの男の耳をひねりあげ)おなごの真実、どない思う?」
「・・・・美しいと思います

 馴染みの女との妄想を延々と語るのは誰の「高津の富」も同じだが、周りの者の反応が優しいとゆうか、おとなしいのがひとつの特徴だと思う。


「『おい、酒の燗を五十本。茶碗蒸し百ほどゆうてこい』
『茶碗蒸し、百もどないすんねん?』
『茶碗蒸しで風呂にも入られへんやろ。知れたこと、食うねんがな』
『百も食べられしまへんえ』
『ほな、朋輩に配ったらええがな』
『朋輩も百もいてへん』
『ほな、近所に配ったらええがな』
『また、そんなこと。ああ、分かった。酔うてなはんねんな。酔うたらいっつもそんな無茶ばっかり。

 そうや。今日はもう遅いし、身体に毒やさかい、今日は何も食べんと寝んねしまひょ。ね。何も食べんとおやすみやす』
『何も食わんと寝んねせえ?何も食わんとおやすみやす?
(芝居口調で)俺の口をば、干じめるな!(「ひじめる」は日干しにするという意味)』」

「えらい怒ったはりまっせぇ。こうゆう時は目ぇ合わしたらあきまへん」

「そないゆうてやるとゆうと、何をゆうても相手はおなご。『せやかて、あぁた、店の仕切りかてどうしてこさえたか見てるやろ・・・・・』え、えっ、えっぇ〜〜〜」
「今度は泣いてまっせぇ〜。忙しい人やなぁ」
 

「『泣くな。吠えるな。金がないゆうて泣いてんねんやろ?金なら何ぼでもあんのじゃ!』
 こないゆうて、懐の500両出してやりまんねん。えらい音しまっせぇ。

『まあ、松っちゃん、こないぎょうさんの金、どないしてやったんや?
 あっ!こないだ住友はんとこに賊が入ったゆうてたけど、あんた賊の片割れか?』
『あんた賊の片割れか?
(と、女のセリフを真似して) アホ抜かせ!(馬鹿なことを言うな!)高津の富が当たったんじゃい!じゃい!じゃい!じゃい!・・・・・』
『ええ?富が?富が?富が?』」

 男は演出効果を上げるために、自分で自分のセリフにエコーをかける。

 手を上げていきながらの残響音が面白い。

「親方呼んで来い。証文持ってこいゆうやっちゃ。一銭も値切らんと、祝儀までつけて身請けしたって、小奇麗な家借りて、女中衆(おなごし)の一人もつけてね。そしたら、わいは何もしまへんでぇ。朝風呂、丹前、金火鉢っちゅうやっちゃ。
 朝起きたら楊枝くわえて、手拭い肩に、シュッ!と風呂行きまんねん。帰ってきたら酒、肴が用意したぁって、おなごとチョネチョネ呑んでるうちにほろぉ〜と酔いがまわってきて『ちょっと寝よか?』てごろ〜っと横になる。
 目ぇ覚めたら楊枝くわえてシュッ!と風呂行って、帰ってきたら酒肴の用意。おなごとチョネチョネ呑んでたらほろ〜っと酔いがまわって『ちょっと寝よか』。目が覚めたらシュっ!と・・・・・」

「これ、誰ぞ止めたらなあかんのんと違いますか?これ、もし!」
「チョネ、チョネ、チョネ、チョネ・・・・・・・」
「あぁたねえ。しっかりしなはれ。風呂行ってチョネチョネばっかやけど、そらぁ当たったら・・・の話でっしゃろ?」
「いや、当たりまんねん」
「・・・・・・・そうでっしゃろけど、ひょっと当たらなんだら、どないしまんねん?」
「当たらなんだら・・・・?しゃあない、うどん食て寝る」

 富札の中味を皆に見せて蓋を閉め、世話方が穴をふさいで持ち上げて箱の中身をガアラ、ガラとかき回す。先ほどの男の子が
柄の長いキリのような棒を穴から中にプツッ!すっと上げますとゆうと、札が1枚上がってまいります。これを世話方が受け取って読み上げる。

「第一番の〜〜御富(おんとみ)〜〜」

 この声がかかりますとゆうと今までぶわ〜っ(両手を上に上げる)となっとったのが、わら灰に水打ったごとく、し〜〜ん(と両手を下げていく)

「子(ね)ぇの千三百六十五番〜」


「すれた、すれた・・・・・」(とへたりこむ男)。
「え?すれた?両袖ゆうて、わずかなすれやったら金くれまっせ」
「たったの870・・・・」
「・・・・・・それは『すれ』やのぉて、外れた、ゆいまんねん」

 「わずかなすれやったら・・・」とアドバイスするのは誰の「高津の富」でも一緒だが、吉朝は「両袖」というセリフを目だたないが入れていた。
 これで今の宝くじの前後賞というシステムと同じなんだなって分かる。


「第二番の〜〜御富ぃ〜〜」
 妄想男は、自分の出番だ、とばかり左右に手刀を切り、自分の鼻を指差し、次に前方を指す。

 男はねじり鉢巻して気合を入れ、二番の富くじの当選番号を読み上げる男に指を突きつけ、大向こうから声をかける。


「さぁやってくれ。チョネチョネ呑んで寝るか、うどん食うて寝るか。

 たっちゃろう〜〜!?(辰だろう!?)
「辰の〜〜」
「八百かぁ〜〜」
「八百〜〜」
「五十やろ〜〜」
「五十〜〜」
「どんなもんじゃい!」


「人の一念ゆうのは恐ろしいもんでんなぁ。こら当たるゆうより、引き寄せてはりまっせ。

 ちょっと、あぁた、こらうどんちゃいまっせ。チョネチョネでっせ」
「おおきに。
 ひち
(七)番かぁ〜?」
「一番〜〜」
(平泳ぎのような手をしながら)
「うどんや、うどん、うどん食て寝まひょ・・・・」
「何や、この人」


 三番富も突き切りまして、潮の引くごとく人が出て行きます。

 そこへやって来た、からっけつの親父さん。
「おお、えらい人が出るなぁ。ああ、宿屋の亭主がゆうてた高津の富か。
 あの、富は?」
「終わりましたで。当たりは紙に書いて、前に貼り出してま」
「そうでっか。

 なになに・・・・。一番が子の千三百六十五番。二番が辰の八百五十一番。三番が寅の千四十番・・・・か。干支頭に竜虎。勢いのある番号やなぁ。

 ああ、せや。わいも宿屋の亭主に買わされた富札が1枚あんねや。
 わしのんが子ぇの千三百六十五番・・・か。

 ほんで・・・一番が子ぇの千三百六十五番。
・・・・・二番が辰の八百五十一番。
 三番が寅の千四十番・・・・・か。

(札をほうり投げ)当たらんもんじゃなぁ。・・・・・まあ、当たる筈もなし。

 これでいよいよ一文なしか。(所在なげに周りを見回し、ヒマつぶしのように読み上げる)
 一番が子ぇ〜の千三百六十五番。
 二番が辰の八百五十一番。
 
三番が寅の千四十番。

・・・・・・子ぇの千三百六十五番?何や小耳にはさまるなぁ。

(ふと棄てた札を拾い上げ)番の五十六百三千の子ぇ〜?(さかさまであることに気づき持ち直し)
 子ぇ〜の千三百六十五番・・・・・。
(にた〜っと笑みを浮かべ)ええとこまで行たんねん。

 これが、子ぇ〜の千三百六十五番。あれが・・・・子ぇ〜の千三百六十五番。
(気づいてきて)子ぇ?子ぇ?千?千?(一つ一つ照らし合わせ、身体がガタガタ震え出す)

 あた!あた!あた!あたあたあたあた!」
「え?何?え?当たりはったん?運のええ人やなぁ。ほな、札、大事にしもて、うち帰んなはれ。世話方が金持ってきますよって」
(忠告に従い、ふところに札をしまおうとするが、ガタガタ震える手で着物の前をさ迷うばかり)
「ふところがないぃ〜!!」
「外探ってるさかいや。内らに入れなはれ」
「あっ!あった。

 あた、あた、あたあたあた・・・・。

 宿帰ったら、亭主が『旦さん、高津の富が当たりましたでぇ』とかゆうでぇ。あた、あた。
 そん時、『当たったらええじゃないか』と何で落ち着いて言えんかなぁ。あた、あた。

 ただいま。今、戻りました。あた、あた」

「まあ!旦さん、どないしやはりました?真っ青な顔してガタガタ震えて・・・」
「いや、たかが2万両ばかりで判やの、証文やのとゴテクサ、ゴテクサ・・・。せやから貧乏人は嫌いじゃちゅうねん。けんか幕で帰ってきました。二階に床、取っておくれ。今日は誰にも会いませんで。あた、あた、あた、あた・・・」
 親父っさん、布団かぶって寝てしまいました。


 宿屋の亭主もやっぱり気になると見えて高津さんへ。

「旦さんが、何が当たっても半分やるてゆうてくらはったさかい、当たらん思ても何や気になるもんやなぁ。へえ、へえ、前に貼ってまんの?

 何、何・・・・?(番号を読み上げ)やっぱ、当たる番号は、どっかちゃうなぁ。当たるゆう番号が当たるちゅうこっちゃなぁ。・・・・・・何のこっちゃ分からんけど。

 当たるの、当たらんのって・・・・・。ん?これは子ぇの千三百六十五番。あれは、子ぇの千三百六十五番。・・・・どこが違うの?どこが?

(あらためてじっくり確かめて)あたっ!あたっ!あたっ!あたっ!(左右順番に正拳突きする)
「激しいな、あんた。え?当たったん?ほな、家、帰ってなはれ。世話方が金持っていきますよって」
「そうでっか。おおきに。あの旦さんが来はった時、後光が差したように見えて、ああ、これは福の神のご入来かいな思てたら、ほんまにせやった。
 1000両の半分ゆうたら・・・・5万両か?いや、ちゃう。・・・500両か。500両で何買おう?大坂いっぱいの地所買
(こ)うて、大坂いっぱいの宿屋建てて・・・・・・って、そんな泊まってくれる人いてるやろか?

(両手を伸ばし、間に手拭いをはさんだまま手が離れない)
 ああ、この手が離れへん。この手、離すのんに500両かかったら、どうしょう?
(と、片手を目に当てて泣く。そこではっ!と気づき)あっ、離れた!

 ただいま!」
「何や、あんた、そんなん流行ってんのか。あんたも顔真っ青やで」
「そんなことはどうでもええねや。旦さんにな、高津の富の一番くじが当たったんじゃ!」
(崩れ落ちながら)「あた、あた、あたあた・・・・・」
「お前までせんでええ。旦さんは?え?寝てる?何をじゃらじゃらと。旦さんはご酒
(しゅ)が好きやさかい祝い酒、祝い酒。え?銚子みたいなもんで間に合うかい。風呂の湯ぅ抜け!下から焚き付けて、どぼ〜んと入ってもらうのじゃ。酒風呂、酒風呂。

 何?旦さん、二階?何をじゃらじゃらと。

 旦さん!旦さん!」
「あた、あた・・・誰にも会わんゆうたのに、来たのは誰じゃ?ご亭主かいな?」
「旦さん!高津の一番富が当たりました!」
(必死に落ち着いて)当たったら、そんでええじゃないかい。

 わずかばかりの金が当たったんが、そない嬉しいんかいな。人の枕元でわ〜わ〜と。せやから貧乏人は嫌いじゃ。

 何や!何ぼ嬉しいか知らんが、人の寝間に下駄ぐちで上がりこんで!」
「あっ!これはあんまり嬉しゅうて、うっかり脱ぐのん忘れておりました。
 それより、寝ててもうてはどんなりまへん。ちっとも早
(はよ)ぉ、お祝い酒を!」
と布団をめくりますとゆうと、旦那、雪駄はいて寝ておりました。


 吉朝の噺の後は、小佐田定雄と吉弥の対談。

 今回の噺は放送時間をオーバーしたのでカットしたが、今回はノーカット放送とのこと。

 吉弥が師匠の遺品の扇子を見せる。白地の扇面に小さく吉朝という名前と、三つ柏と略式の結び柏という紋が一つずつ散らしてある。
「師匠らしいゆうか。シャイで遠慮がちやけど、しっかり主張していた」
「今日の襦袢の色も洒落てたね。

 噺も工夫してました」
「エコーのとことかね」
「あれは米朝師匠の?」
「いや、ちゃいます。

 工夫も落語から離れていくんやのぉて、落語の中で遊んで・・・・落語の力を信じてました」


「師匠が東京で独演会やる時、私が『東の旅』をやって、その後、師匠が『煮売屋』と『七度狐』を演ることになりまして」
「リレーで演んねんね」
「最初にね、小拍子でね、進めていくんですけど吉弥独自の演出を入れたんですよ。『これでけっこう難しいんですよ』とか『これで、寝てる人、起こすんでっせぇ!』とかね。」
「まあ、ギャグ入れられへんしね。初めて見る人にはその方が親切かもしれへんね」

「そしたら、後で師匠が、
『お前、分かってへんなぁ。俺は、お前に俺が教えた通りの「東の旅」をやって、東京の人を驚かせてほしかったのに。・・・・・残念やなぁ』て言われたんです。

 私にしたら、良かれと思ってやったことを否定されて、そん時は正直『何で・・・』て思たんですが、自分でも弟子を持つようになって、分かりました」
「まっすぐにやんのがシャレてんねん、て。

 でも、恥ずかしがりやったね」
「今、こんなんでも恥ずかしがってる思います。も、もうええがなって」
「ほどのええとこで止める人やったね」
「あらためて思うのは・・・・残念やな、ゆうことです。やっぱり生で観る芸やから、あっちへ全部持って行ってしまうのでね」
「何分の一かでも、引き継いでください」
(←取りようによったら、相当失礼だが、別に異論はない) 

 2回聴いたので、相当詳しくメモしました。

 



 どうも、お退屈さまでした。殴り書きのメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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