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(No138) 奈良国立博物館 まほろば講座「香を聞く 香木を識る」聴講記 その2

 平成21年5月10日(日)に、標記イベントを聴きに行った時のメモの続き。

 講師は「銀座香十」社長、日本香堂顧問の稲坂良弘さん。
 


 古代インドで那羅駄(ナラダ)と呼ばれていた香薬が中国では甘松香。却布羅(カフラ)は、龍脳と呼ばれています。

 ナラダはネパール産のオミナエシです。

 『最勝王経』や、『和香方』范曄 398〜445)、また、『隋書』には、「香方」、「雑香方」、「龍樹菩薩和香方」などがおさめられています。

 墨をするといい匂いがしますが、それは墨に龍脳が練り込んであるからです。

 香は形状で分類すると、抹香(きざまれた焚香や、塗香:ずこう)、煉香、香膏、香油などに分けられます。

 また、用途としては供香・空香・衣香・玩香などに分類されます。供香は、室町時代にはお線香に発展しました。同様に空香はいわゆる薫物(たきもの)、そして練香に、衣香も同じ炷物(たきもの)ですが、特に防虫用の薫衣香(くのえこう)に、玩香は香道へ発展しました。

 練香も、単に水で練ると乾いた時にはじけてしまうため、蜂蜜などで練られました。

 宋代の香書である『香譜』には香の調合が記されています。そこには沈香は4割弱、白檀は1割強、甘松香が1割弱、甲香が0.5割、麝香(じゃこう)が0.5割となっています。

 香木を分類すると、沈香と白檀に大別されます。

 沈香(じんこう)は、ジンチョウゲ科Aquilaria属の植物に樹脂が沈着し、香木化したものです。樹脂化で重くなるため、元は木だが水に沈むため沈水香、それから沈香、さらに略して沈と呼ばれます。

 伽羅(きゃら)は、沈香のうちの最高級品を指します。1g当たり2万円から4万円し、金の数倍に当たります。
 伽羅はベトナム産以外は、伽羅とは呼びません。
 正倉院御物で国宝の「蘭奢待
(らんじゃたい)」も伽羅です。

 白檀は、ビャクダン科ビャクダンの心材を乾燥させたものです。心(芯)材以外は扇子や数珠に加工されます。
 インド産のものを老山白檀(檀香)と呼ばれます。
 良い香料を採れるには60年以上かかるのですが、最近では若い白檀が切られています。

 鎌倉時代から室町時代にかけて、武家と公家の文化(価値観)が融合した時代です。
 公家の平安貴族は、練り香を作っていましたが、これは時間がかかります。
 ところが武家は明日死ぬかもしれないので時間をかけて練っていられません。そこで香木を炷く、一木をめでるという香道が育ちました。

 六國五味(りっこくごみ)とは、香道における香木の分類や鑑賞の基本となる分類です。

六國 木所(品質特性)で分類 1.伽羅、2.羅国、3.真南蛮、4.真那賀(伽):マナカ(マラッカ)、佐曽羅、寸聞多羅:スモタラ(スマトラ)の6種。
※ 新伽羅を加え、香の七木ともいう。
五味 香りを五つの味で違いを表現するもの 1.辛い、2.甘い、3.酸(酸っぱい)、4.苦い、5.鹹(無味。五味の全てを具える場合もある)

 


 それでは、香道を実践してもらいます。

 灰には箸目で模様が刻まれてます。

 
 香炉には真、行、草の3種があった。上部の灰に描かれた模様が異なっている。真は放射状に分かれたそれぞれのパーツが、更に斜めに区切られていたが、行は、ざっと6分割くらいにされているだけで、草は、さらに3分されているくらい。

 いずれもV字形に区切られた聞き筋を手前にして、香を聴く。

 たとえば、ここで香炉や箸目をご参照いただきたい。


 香炉の灰の上部に置かれる板状のものを銀葉
(ぎんよう)といい、雲母でできています。灰の下部に炭団が埋められており、火穴(空気穴)が通っており、その上に銀葉が置かれます。

 基本は、逆V字形を手前にすることです。絶対に水平に持つことです。傾くと銀葉から香片が落ちてしまいます。これを「香が走る」といいます。

 左手で香炉を水平に持ち、右手を、手を包み込むような形で香を聴き、横に吐きます。一般に「三息で聴く」といいます。

 今日聴いていただくのは、一品目が緑油伽楠香(ベトナム)、二品目が白檀(インド)、三品目が黒油伽楠香(ベトナム)の3種です。

 このほか紫油、黄油などがあります。

 

 『源氏物語』の「梅が枝」の巻には「六條院の薫物合わせ」が描かれています。

(ここで、第一香を聴いた。ハッカとか、甘いシナモンの香りがした)

 なぜ伽羅のあと、白檀を聴いてもらうかというと、同じ伽羅を続けるより違いを分かりやすくするためです。いわば鼻休めです。

 第一香を私なりに表現すると「緑の薫風と漂いくる青さ」というところでしょうか。

 香水もトップノート、ミドルノート、ボトムに分けられます。最初に出てくるのがトップ。180〜200℃くらいで漂う香りです。

 ミドルは300〜400℃というところでしょうか。

 足利義政の時代、公家のトップが三条西家、その中でも宮廷文化人のトップが三条西実隆で、彼が香道の祖といわれています。

 公家の香道は御家流といいます。各々の御家は基本知識、基本文化が共通しています。平安時代に伝わる香文化は共通しているのです。

 武家の香道を始めたのが志野宗信(しのそうしん)で、香炉もひと回り小さく、握り込むように持つなど形が違います。

 公家の香道は、自然体で心が和やかになることを目指します。自然に沿うことで美しい形となると考えます。
 武家の香道は、美しい形を律することで心が美しくなると考えます。武家礼法は、小笠原礼法に対応します。

 香道では香間で香元が「第三炉でございます」などと言って香炉をまわします。香間は非常に静かです。ふだん聞き逃している音も聴こえます。
 味覚、五感も覚醒します。現代人は一番嗅覚がダメになっているといわれます。

 貴族の庭は梅が植えられていることが条件でした。香を梅肉で練るのです。梅は土中に埋めて熟成されました。1000年以上前の梅も残っています。

 鑑真の伝えた煉香が日本で洗練させたのが練香です。六種(むくさ)の薫物という言葉も残っています。(注 春夏秋冬をテーマにした六種の基本レシピで、梅花、荷葉、侍従、菊花、落葉、黒方をいう)

 これらの練香は火鉢などにくすべられていました。

 「線香」も、日本のものは独特です。インドの竹線香は、竹ひごに香を塗ってあるだけです。台湾などもそうで、竹が燃えているだけです。

 日本は、100%香の材料で線香がつくられています。これには、タブの木の発見が大きい。タブというのは、本来台湾以南の植物ですが、日本では九州で産します。

 タブの木の皮の粉と香を混ぜるんですね。タブは、香りはしませんが焼いても崩れません。ですから日本の線香はタブを基材にし、熱を伝えるようにしています。
 日本の線香は煙量も調節できますし、香水などどんな香りもつけられます。色も自由自在です。

 線香は原料はマダガスカルやソマリアなどで産します。日本でとれる原料は何もないのです。

 日本は四季おりおりで、湿度の変化もあり、繊細な感性が育ちました。

 日本には灯り香炉というものがあります。ろうそくの炎で、香を焚くものです。
 また、水盤というものもあります。煙でなく香気だけを上げるものです。煙の中にはヤニが含まれているので、香の煙を直接衣にかけられません。香りだけを衣に薫きしめるのです。

 
  第二、第三の香の感想については、時がたって具体的に思い出せなくなってしまった。また、「香」を文章で表現するのは非常に難しい。

 いずれにせよ、貴重な経験をさせていただいた。こんな機会でもないと、香を聴くなんてことはできなかっただろう。


  


 お疲れ様でした。

 いつものことですが、録音しておりませんので記録違い、記憶違いはご容赦ください。

 
  

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