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(No98) 米朝一門会 鑑賞記 その1 平成20年3月30日にヴィアーレホールにて開催された米朝一門会。木戸銭は特別価格1000円なり。
(1) 桂ちょうば 「時うどん」
幕が上がったのだが、舞台に据えられた高座が思いのほか高いので会場から歓声があがった。
前座らしく、羽織を着ていない。
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・・・・・・・・・すぐ終ります。
いつもお願いしてますが、携帯電話は電源を切っていただくか、マナーモードにしていただくようにお願いします。
また、ポケベルをお持ちの方は・・・・・・・・早く携帯電話に替えて下さい。
会場一杯のお運びで、ありがとうございます。
落語ブームとも言われてまして、「ちりとてちん」が人気なんですねぇ。私は見てないんですが。ムカムカするんでね。
25歳から30歳という条件でオーデションがあって、3次審査まで通ったんです。
東京と大阪で4人ずつ残ったんですが、その中で本職の落語家ゆうたら私だけです。
こらてっきり通る思て友達に電話したんですが・・・・・・。
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それから、そいつから電話のたびに「いつ出んねん?」て訊かれまして。
先日、吉弥兄さんと祇園に行ったんです。「吉弥・ちょうば 二人会」というので。
吉弥兄さんも、はっきりゆうて、こないだまで普通の兄ちゃんだったんですよ。それが道歩いてると「はっ!あの人ちりとてちんの・・・」、「あら、ちりとてちんの・・・・・」って。もう道の両側で「ちりちりちりちり・・・・・・」って。
鯖寿司を土産に買うて帰ろうゆうことで店入ったら、そこのおばちゃんが「草原兄さん!」って。どう見ても、その人の方がはるかに年上なんですが。
それで、そのおばちゃんが私に携帯渡して「一緒に撮ってもろてよろしい?」。マネージャーや思とるんです。腹立つから顔半分にしたった。
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桂吉弥は、2004年のNHK大河ドラマ「新撰組!」で山崎蒸を演じ、2007年の朝ドラ「ちりとちん」では渡瀬恒彦演じる徒然亭草若の一番弟子、草原(そうげん)を演じ有名になった。 |
さて、演目は「時うどん」。ごく一般的なもの。聴いてから日が経っていることもあり、よく覚えていない。
以前も書いたが、東京の「時そば」は、横で見ていてからくりに気づいて真似するのだが、上方の「時うどん」は「時そば」と同じパターンと、二人で15文しかないが1人前食べようと兄貴分に誘われるパターンの両方がある。
以前聴いた吉の丞のは上方では珍しく「時そば」パターンだった。
今日のはオーソドックスな喜六清八タイプ。この方が、後で一人で真似する時に「二人だった時の真似」までして「引っ張りな!」、「欲しいんか?欲しけりゃやるわい!」とか言ってうどん屋に気味悪がられるというギャグも入れられるし、横で見てるだけでからくりに気づく利口者のくせに、真似してあほな失敗をするという不自然さもない。
あと、特徴としては前日のうどん屋と違って一人で来た時は、なかなか出てこないし、だしもきいておらず、やたら塩辛いし、かまぼこも薄い・・・というパターンが多いが、今回のではすっ!と出てくるし味に対する文句もなかったから、うどんのレベルとしては同じだったようだ。
まあ、前座で時間がないから、その辺の演出は省略したのだと思う。
(2) 桂こごろう 「いらち車」
続いてはこごろう。
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昔と比べまして、乗り物はずいぶん便利になりましたな。新幹線とかね。
先日、JRに乗ってたんですが、新大阪ゆう駅に着く時に「次は大阪〜」と車掌さんがゆうたんですな。
新大阪ゆうのは、大阪の一つ手前の駅なんです。
で、私、次に車掌さんがどないゆうかな、思て楽しみに待ってたんです。何せ、さっき「次は大阪〜」ってゆうてしまいましたからね。
すんませんでした、ゆうて訂正すんのか思たら、なかなか。謝りまへんで。その車掌さん、平気でこう言いました。
「次も大阪〜」
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若い頃のあこがれゆうたら。高級外車に女の子乗せてドライブすることでした。
反対側にハンドルついてるやつ。・・・・・・反対側ゆうても、後ろについてんのんとちゃいまっせぇ。
外車ゆうたら、パワーウィンドウたらゆうもんがついてまんなぁ。ボタン押したら勝手に窓ガラスが動くやつ。私ら乗る車は、たいていハンドルで必死に回さんとガラスは動きませんでした。そっちの方がよっぽどパワー要ると思うねんけど。
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似たような感想で申し訳ないが、特別な印象はなし。(出来が悪かったということではない。傑出したところはなかったということ)
この噺、最初にのんびりした俥屋が出て、次にやたら慌てる俥屋が出てくるので「反対車」とも、後半のいらち(せっかち)の俥屋を特筆して「いらち車」とも呼ぶ。
よく会場で「演目」が手書きで貼り出されたりするが、この日はそうゆう掲示は気が付かなかった。多分なかったのでは?
で、勝手に「いらち車」にしておく。
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(3) 桂南光 「義眼」
中トリ(中入り前、つまり前半部のトリ)は南光。
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皆さんがたは安定したご職業だと思いますが、我々もね、定年がないんです。
ま、中には止めたい人もいてるんですが、ともかく本人が高座に上がりたい!ゆうてる間は上がることがでけるんですね。
ギャラもろて、別に立ち仕事するわけでなく、ずっと座らせてもらえるわけです。
特に危険もないしね。ま、たまに上からごみが落ちてくるくらい。
もう大丈夫や思いますけどね。楽屋でもゆうてましたんや。客も皆、上見てるでぇゆうて。
(注 この日、なぜか高座の上の天井裏からほこりのかたまりが時々落ちてきていたのだった)
うちの師匠(もちろん桂米朝師)も去年の11月6日で82歳になりはって。もう誰にも止められません。
毎日お酒もお召し上がりになってねぇ。
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で、訳のわからんことをおっしゃる。「南光、お前、戦争の時はどこにおったんや?」とかね。
小松左京先生と仲がええんですが。小松先生の方が7歳ほど若いんでっせぇ。せやけど、小松先生のことを、
「小松左京は、あら、もうあかんなぁ。・・・・おんなじこと何べんもゆうねや」って・・・・この話を何べんも言いはるんです。
今日は特別なエピソードを紹介させていただきますが、私、南光になって15年目になります。もちろん、私ら声が出んと商売にならんのですが、さあ、もう何年前になりますやろ。
べかこの名ぁでちょっと売れて忙しくなってきた頃でしたが(注 桂南光を襲名する前は桂べかこであった)、何の拍子か、突然声が出んようになったんです。
忘れもしません、厚生年金病院の渡辺先生ゆう先生に診てもらいました。この先生、ユーミンや中島みゆきも診たことあるっちゅう有名な先生なんです。
私、診てもらう時、水戸黄門みたいに嫁とマネージャー、両脇に立たせましてね。
その病院、白衣やのうてピンクの服やったんですが、ピンクの看護婦さんらが「べっかっちゃぁ〜ん!」て声かけてね。渡辺先生は真面目な人やから、「カーテン閉めましょ」ゆうて。別にええのに。
のどを診んならんので、先に鏡ついた棒をのどに入れはるんですが、私、すぐにオェッ!ってなってしまうんです。
先生は「リラックス、リラックス」て励ましてくれはるんですが、横から嫁はんが「うちの人、根性ないでしょ」って。
そしたら先生が真剣な口調で「奥様。これは根性とは関係ございません」。カーテンの向こうで聞いてた看護婦さんらがドォッ〜っと笑ってね。
何べんやってもオエッってなるから、3.5ミリくらいの光ファイバーに変えはったんですが、それでもオエ〜って。とうとう渡辺先生が「・・・・根性ないんちゃいますか」。あんた、関係ないゆうたんちゃうんか!と言いたなりました。
で、別の所に入れましょう、ゆうて。私の可憐な鼻の穴がこれぐらいに(両手で大きな輪をつくる)画面に映るんです。
声帯ゆうのはV字形してて、声を出す時これがパンパンパン!と当たると声になるそうです。
ポリープなんかができてると、このポリープできっちりくっつかないから声が出んそうでして、私はポリープやなかったんやけど、何か声帯が切れててカサブタがでけて声帯がくっつかんかったそうです。
嫁さんが「どんな措置がいるんでしょうか?手術?入院?」て訊いたら、「いえ。ただ、10日ほど黙ってください」・・・・・・。
これが辛い。黙ってるゆうのは大変でっせぇ。
無言の行てな修行がありますからな。昔3人の僧侶が座禅して無言の行をしてたそうです。そしたら蜂が飛んできて端っこのお坊さんをチクッ!と刺しよった。
「アイタ!」・・・・・・これで一人アウトですわ。
真ん中のお坊さんが、これをたしなめて「しゃべったら、あかん」。これもアウト。
そしたら、反対の端の坊さんがニヤッと笑って「黙ってんのん俺だけや」・・・・・。
ともかく声が出せませんので、もっぱら筆談です。不思議なもんで、「お茶ほしいな」思っても字にすると「お茶いれて」だけでは何とのうキツイんですな。
ついホワイトボードに「前略このたびは・・・」とか何とか時候のあいさつとかで始まって、「つきましては・・・・」とようやくお茶を頼んで、最後には「・・・・・あらあらかしこ」。
そしたら、嫁さん、平気で「煎茶とほうじ茶とどっちがええ?」とか言いよるんですな。
で、しゃあないから、また時候の挨拶して、「できますれば、ほうじ茶でお願いしたい」とか書いて、最後「それでは、どうぞ良いお年をお迎え下さい」とかギャグも入れたりね。
茶ぁ一杯飲むだけで、えらい疲れてしまう。
普通にしゃべれるというのが、どんなにありがたいことなのか、気付かされます。
人は病気をすることで成長するといいますか、悟りを得るなんてこともあると思います。
まあ、病気てなもん、どれも大変や思いますが、目ぇを患うゆうのもほんま大変ですな。
「新しい目の玉入れておいたが、ガタガタしませんかな?」
・・・・・・・・今、会場で何人かが、こいつ突然、何言い出すねんてな顔をされましたが・・・。ま、続けて聴いてるとわかってきますんで、手を上げて質問したりせんようにお願いします。
「入っとりますな?動きますな?気に入ってもらいましたか?
ああ、ちょっと注意を与えときますが、まだ安定してませんので、激しい運動とか、あんま、マッサージなどは避けるようにね。後ろから叩かれるとせっかく入れた目の玉が飛び出ますのでね。
で、夜、寝てる間は目ぇは必要ありませんので、大きな湯呑みに水を入れて、そこに目ぇを漬けておくとよろしい。朝、その水に漬けてた目ぇを入れるとヒンヤリして、まことに気分がよろしいでな」
「あのぉ、先生。実は私、松島に馴染みのおなごがおりまして、私の目ぇのこと、いつも心配してくれてますんで、今からそこ行って、安心させてやりたいと思いまんねんが、よろしおますやろか」
「ああ、よろしいよ。ただし、激しい運動は避けるようにな。それとくれぐれも湯呑みに水をはって、漬けとくことを忘れんように」 この松島ゆうのは、芭蕉の「松島や・・・・」ゆうのとは何の関係もございません。
昔の大阪には松島、今里、飛田といった、とても素敵な所があったそうです。
ところが昭和33年頃に「見ず知らずの人に優しくしちゃいけません!」て法律がでけたそうで。
しかし、聞くところによると、今でも営業してるそうですね。私は知りません。ざこばさんに聞いたんです。
格子がはまってて、四角い行灯が下がってて、長いのれんが垂れてて。おばさんが手招きしたりするので、行ったら女性が5、6人おったりしてね。
四畳半のお部屋にあがるとゆうと、お膳が出てまして、初対面なのに「お疲れ様でした」ゆうて、おつまみ出してビールを注いでくれたりするそうです。しかし、いつまでも飲んでるわけやのうて、そのうち電球を切ったりして・・・・。詳しいことは知りません。ざこばさんに聞いたんです。
え〜、その松島で、「ああ、ええ目ぇ入れてもろた。男前があがった」とゆわれてえらいモテた男と、拍子の悪いことに、その隣の部屋に、えらい飲み過ぎた男がおったんですな。
ああいうとこでも、よそで飲みすぎてべろべろに酔って来る客はいやがられます。ええ加減なことゆうて寝かしつけられた男が夜中になって、目をさました。
「へえ?えぇ〜ええぇえ〜。(起き抜けにあくびとも何ともつかぬ変な声を出す)」・・・・日本人ですよ。
「あら?おなご、おらんがな。『ちょっとお便所行ってくる』ゆうて。2時間以上経ってるで。下関にあるんか、ここの便所は。
しかし、さっきまで『男前、なったわぁ』とか何とかゆうて、えらい隣はイチャイチャしとったなぁ。
『いや、そんなとこ触ったら、こそばい』とか・・・・・・。俺も触らせぇ〜!
しかし、夕べは会社の連中連れて飲みに行って『今日は無礼講やぁ〜』ゆうたら、みんなわしの悪口ばっか言いよる。
あんまり腹立つから『気に入らん奴は帰れぇ〜!』ゆうたら、皆帰りよった。・・・・・・さっぱりわやや。
・・・・・・・・・・どんな男がもてとんねや?気になるなぁ。
・・・・・・・とても無粋なこととは承知ですが・・・・・酒の酔いもあり・・・・退屈してる私でございますので・・・・(と、こっそり隣の部屋のふすまを開けて中に入り、男の顔をのぞく)
何や、大した男やないがな。目ぇ落ち込んどるし。
あっ、こいつの敵娼(あいかた)、馴染みやな。よぉ気ぃつくわ。酔うたらのどが渇くからゆうて、枕元に大きな湯呑みに水入れて置いたるがな。
そう言や、のどが渇いたなぁ〜。『酔い覚めの水、千両』てなことゆうしなぁ。
へへ、みんな飲んでしもたろ。(と、湯飲みの水を飲んでいく。最初はおいしそうに飲んでいたが、最後の方で)
ん?んん?おおぉ〜!ええ?今のは何や?『水のかたまり』飲んだん初めてやで」
まあ、その日はそのまま帰ってしもたんですが、次の日からお通じがピタッ!・・・・・っとございません。
何日かしますと、もう、おなかが張って、脂汗を流して苦しんでおりますので、奥さんが心配してお医者さんに、
「うちの主人は、どうしたのでございましょう?」
「ああ、これはですな。何かご主人の腹の中にお通じを妨げる物があるんでしょう。
台所の排水口がつまって流れないなぁ、おかしいなぁと思ってると、そこにたわしが落ちていた、という例があるでしょ?
わたくし、伸び縮みする『腹中鏡』というものを持っております。これでのぞきますとゆうと、腹の中で何がつまっておるか見えますで。
ささ、ご主人。こちらへ来て、四つばいになって、そう、モォ〜をしなさい。モォ〜を」
(注 「モォ〜」とは、四つばいになって、お尻をぐ〜っと突き出すこと。幼児語。よく、ちっちゃい子供がうんちをした後お尻を拭いてやる時に「さ、モォ〜しなさい」とか言う)
「おっ、ご主人、尻を出されましたなぁ。・・・・・・しかし、失礼ですが、汚い尻ですなぁ。吹き出物はあるし、毛ぇはもじゃもじゃ。こうゆうのをふケツ(不潔)と・・・・・。いや、冗談です。では、拝見しますよ・・・」
と、先生、腹中鏡を尻に当て、のぞきこもうとして、いきなりギャアァ〜と大声を出して飛びのいた。 奥さんびっくりして、「先生!どうなさいました?」
「何ともかとも・・・。向こうからも誰かがのぞいております」
珍しい噺で、結構でした。まあ、ポジションからいっても当たり前なんだろうが、やはりちょうば、こごろうとは一枚も二枚も(三枚も四枚も・・・・)上だなと感じさせる。
どうも、お退屈さまでした。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
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