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(No60) 京都ミューズ落語会 米朝落語会 鑑賞記その1   

 平成19年10月17日(水)、午後6時30分から京都府立文化芸術会館で開催された米朝落語会の鑑賞記。

 


(1) 桂吉の丞 「時うどん」

 
会場配布のリーフレットによると、昭和57年生まれで、平成14年に故・桂吉朝に入門したそうだ。
   冒頭、「米朝の弟子の吉朝の弟子の吉の丞」というのを2回繰り返し、「さあ、皆さんもご一緒に」と言って3回目を。

 ここのところ、米朝一門会では最初に登場する前座が携帯電話の電源を切ってくれと注意することが多いが、今日も一緒だった。
  

 会場でアナウンスもしぃ、こうして前座が注意させていただいても、まだ携帯を鳴らす方がいらっしゃるわけで。

 それだけやのうて、中にはその電話に出る人までいはります。

プルルル プルルル・・・「もしもし。ああ。今、何してるか、って?落語、聴いてんねん。
 おもろいかってぇ?おもんない!」
 がくっ!と来まっせぇ。まあ、私の時ならよろしいんですが、後で米朝の時に鳴りますとゆうと、人間国宝侮辱罪に問われまっさかい、気ぃつけていただくようお願いします。


 担ぎのうどん屋の建前、売り声で「そぉ〜〜〜や〜うぅぅ〜〜〜〜」

「うぅ〜〜、さぶぅ〜。一杯もらおか。でや、景気の方は?」
「あきまへん」
「そうかぁ。まあ、商売ゆうのは波があるさかいな。
 商売
(あきない)ゆうさかい、飽きんとやるこっちゃで。

 おまはんとこ、屋号は?え?提灯に描いてございます?なになに・・・ああ、的にずば〜っと矢ぁが当たって、当たり屋かぁ。
 わい、今からちょっとこんなこと
(サイコロ博打の壷を振る手真似)しよか、悪さしよか思てるとこやねん。そこに当たり屋やなんて、ゲン(縁起)がええがな。

 ええ?もうでけたん?しゃべってる間にでけたな。わい職人や。気ぃ短いねん。こない早よこさえてくれたら嬉しいで。

 おっ、おまはんとこ割箸か?この頃ちょいちょい割ったぁる箸使
(つこ)てるとこあるやろ。誰が使たかわからん箸より割箸やったら気持ちがええ。(箸を口にくわえて、手で引っ張るようにして割って)
 おっ、ええ丼鉢使てるな。え?みんな揃い?やっぱ、食べもんは器で食わすゆうとこあるさかいな。

(汁をすすり込んで)ん!ええだしや。かつぶし張り込んだな。わかりますかぁ?わからいでか。
(うどんをすすり)おっ、うどんに腰がある。うどんはこうでないとあかん。煮すぎて柔(や)らかいのは、どんならん。
 おお、おまはんとこ、カマボコ分厚ぅに切ったぁるなぁ。これでやって行けんの?中には薄ぅて痛々しいようなカマボコ使てるとこあるからな。
 ひどいとこやと麩ぅ使いよる。こっちゃぁ病人やないっちゅうねん。

 ん〜ん、う〜ぅん
(と、食べながら、うなる)あ〜、うまかった。もう一杯!ていいたいとこやねんけど、今日はこれで堪忍して。
 勘定、なんぼや?16文?銭、細かいねん。ちょっと手ぇ出してくれるか。一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ。おい、今、何時
(なんどき)や?」
「へえ、確か八つで」
「九つ、十
(とぉ)、十一、十二、十三、十四、十五、十六」
「へえ、確かに」

 そのまま、ブシュ〜っ!!と行ってしまいよった。
 「ブシュ〜っ!!と」というところでは、片手を勢い良く突き出していた。

 あと、「十(とぉ)」という声がやたら大きかった。あれでは不自然でバレてしまうだろう。

 照明が暑いのか、手拭いで盛んに顔の汗を拭う。「寒い時分のお噂にもかかわりませず・・・」と、ちょっと照れていた。

 この様子を物陰から見てましたのが、世の中をついでに生きているような男。

「何や、あいつ、せんど、うどん屋にべんちゃらばっかり言いよるさかい、食い逃げでもしよるんかいな、思て見てたらちゃんと勘定払
(はろ)ていきよったがな。
 せやけど、おかしなとこで、時、尋
(たん)ねよったな。あんなとこで訊いたら勘定間違うで。

 六つ、七つ・・・・今、何時や?へえ、八つです。・・・九つ、十・・・・・。あれ?何や胸にモワモワしたもんが残るで。

 六つ、七つ。何時や?八つです。九つ、十・・・・・・・・・・・・・・・あ、あ〜!!あぁ、あのガキ、やりよった!
 うどん屋、何も知らんと、そのまま商売しとるがな。・・・・・・・・しかし、こら、ええ手ぇやな。わいも今からやったろかしらん。・・・・・あ、あかんわ。今日は細かいのんがない。
 よぉ〜し、明日から一文ずつ儲けて、家、建てたるねん!!
(と、「ガンバロー!!」って感じで腕を前に突き出す)


 次の日、時間も合わせりゃよかったんですが、何せ気分が盛り上がっておりますので、夕方のうちからうどん屋を探しております。

「うどん屋!今日は冷えるなぁ」
「・・・今日は、ぬくおまっせぇ」
「・・・・・・・・・確かにな。ゆんべはめっちゃ寒かった。景気はどないや?」
「へえ、おかげさんで、よぉ儲かってます。商売
(あきない)ゆうさかい、飽きんとやってま」
「・・・・よぉ心得てるなあ。おまはんとこ、店の屋号は?提灯に書いたぁる?
 どれどれ・・・・・え?絵ぇちゃうのん?字ぃか?・・・・・かたぎ屋?
 わい、これから悪さ、しに行こう思てんのに、かたぎ屋?真面目にやれてか?皮肉か?

 まあ、ええ。こうしてしゃべってる間にでけて・・・・・・・・・・・・・・・・まだか?」
「すんまへん。湯ぅがちょっとさめてまして」
「まあ、ええわ。わい職人でも、気ぃの長い職人やねん。お?でけた?

 この頃、割れてる箸使う店があるけど・・・・・・・・・・・割れてるなぁ。まあ、ええわ。こうする
(歯にはさんで割る仕草)手間、省けて。
 箸の先、濡れてるでぇ。何?洗
(あろ)てる?洗てりゃ、けっこうや。・・・・・・・・ネギがついてる!
 もうええ、こないして拭いとく!
(箸の先を着物の胸元に擦り付けて拭く)

 せやけど、何やで。食いもんてな器で食わすてなことゆうて・・・・・
(と、丼鉢を手に取って、つくづく眺め)汚すぎるなあ。ふち、ギザギザやで。まあええわ。これやったら、丼鉢にも使えるし、ノコギリにも使える。

(何度か、ふちに口をつけて汁を飲もうとしては、ためらって、少し鉢を回し)まんべんのぉギザギザやさかいなぁ。どっから飲んでええか、迷うなあ。

(意を決したように汁をすすり)かっらぁ〜。辛いなぁ。ちょっとうめて。いや、ダシやない。湯ぅや。こら、うめたら2人前のダシんなるで。う〜ん。勉強してんなぁ。

 大阪弁で「勉強する」とは、「勘定をまける(安くする)」とか、「おまけの商品を付ける」とか、ともかく商売人がサービスすることを指す。
 ここでは、汁があまりに辛いので、通常の倍くらい醤油を入れていることを「勉強してる」と表現している。

 まあ、汁よりうどんや。中にはゆですぎの・・・・・・・・ベチャベチャやぁ。消化にはええけどな。
(箸ですくおうとして)ブツブツちぎれるで。どないして食たら、ええねん?

(ちぎれたうどんをすすり込み)茶漬け、食てるみたいやな。

 カマボコは?え?入ってます?・・・・ほんま?・・・・・・・・・・・・あっ、あった!わからん筈や。丼の端にぺちゃ〜〜と
(身体を斜めにするような仕草)貼り付いてる。何や”忍びの者”みたいなカマボコやな。
 これ、カンナで削るん?え?包丁で?名人やな。
(カマボコを箸でつまみ上げ、月にかざし)見てみぃ、月が透けて見えるで。・・・・・なぜ、その技術を味に活かさん?

(カマボコを口にして)ホンマもんの麩!(腕を目にごしごし擦り付けて泣きながら)ええねん、わい病人やから。

(汁を飲み)まだ、辛いわ。(さらに汁を飲むが、うっ!と胸を押さえ)絶対、身体、悪するわ。

(何とか食べ終え)銭が細かいねん。ちょっと手ぇ出してくれるか。ええか?うどん屋、行くで。ブブ・・・(これから相手が騙されるかと思うと、思わず吹きだしてしまい)
「何がおもろおまんねん?」
「ええか、行くで。一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ・・・。うどん屋、今、何時や?」
「へえ、確か五つです」
「六つ、七つ、八つ・・・・・」
 三文損しよった。

 前座らしい元気で素直な噺であった。

 ただ、以前にも書いたが、東京の「時蕎麦」では、今日の噺のように一人で見ていた与太郎が、真似しようとたくらむ。

 一方、上方の「時うどん」では、8文しか持っていないアホが、7文しか持っていない兄貴分に16文の屋台のうどんを半分こしようと誘われる。
 そこで15文で16文のうどんを食べるカラクリが明かされる・・・という演出が多い。

 横で見てるだけで、このカラクリを看破してしまう冴えている男が、むざむざ損をするところがどうも東京風演出はしっくり来ないのだが、今日もその点はやや不満が残った。


 



(2) 桂歌之助 「うなぎや」

 続いては歌之助。

 昭和46年生まれ。平成9年に故・歌之助(二代目)に入門。

 今年、三代目を襲名した。

 急(せ)いてる時に限って、電車て、遅れまんなぁ。
 で、その遅れてる電車の扉が、ようやく閉まりきるぞぉ〜ゆうとこで、ぶしゅ〜っとまた開く。イライラしまんなぁ。

 駆け込み乗車ゆうやつですわ。私もこないだ目の前で見てましたんですが、大阪のおばちゃん。びや〜っとホームを走ってきてね。もう間に合わんのに、持ってる日傘をぴやっ!と差し込むんでんな。

 9割9分、身体は外なんでっせぇ。傘の先だけが中でんねん。ほっとくわけにもいかんから、車掌さんも扉を開けはるんですが、そこは車掌も考えて、何も全部開けることはないと、扉、半分だけ開けまんねんな。

 そしたら、おばちゃんは、傘の先を抜くかぁゆうと、そうはせんと、半分だけ開いたら、そこに身体を半分ねじこむんですな。
 こら、そのまま行く訳にもいきまへん。・・・・・・ま、私は、行ってもいいんじゃないかな・・・・と思うんですが、仕方ないから扉を全部開けます。

 すると、おばちゃんはどうするか、ゆうたら、身体は半分残したまま、「北村さぁ〜〜ん」って、連れを呼ぶんです。
 北村さんは、まだ階段の下のところです。

「北村さん!はよ(早く)!はよ!待っててくれたはる」・・・・・・って、待ってへん!あんたが待たしてんねん。

 大阪のおばちゃんは無敵ですからな。趣味は?って訊いたら、「ダイエットと食べ歩きぃ!」って矛盾したこと平気で言いますからなぁ。

 まあ、食べ歩きゆうのはなかなか楽しいもんです。おいしい店ももちろんですが、変わったお店ゆうのも、なかなか人気があるもんでして・・・・・・・。



「何してんねん?」
「へへ、立ってんねん」
「立ってんのは見たらわかるがな。立って何してんねんて、尋
(たん)ねてんねがな」
「いや・・・・・立って・・・・・・立ってんねん」
「立って立ってんねんやて、おかしな言いようしぃなや。どや、一杯飲ましたろか?
  ちゅうのはな、この先にうなぎやがあんねけど、ここの親父
(おやっ)さんが、えらいへんくつでな。
 こないだも板場
(板前の職人)が親父さんと喧嘩して出ていってまいよったんや。新しい板場を雇たらええてなもんやけど、親父さんもへんくつやさかい、自分で料理する!言い出しよってな。

 自分がさばいてるとこ客に見られとないもんやさかい、親父さん、下がすいてても、じっきに『どうぞ、お二階へ』って言いよんねん。
 せやから、今日は下に陣取って、親父さんが苦労してうなぎさばくのん見てニタニタ笑いながら飲もかって、こんなんどないや?」
「どないや?って、そんなん、人が難儀してんのん見ながら一杯飲むやなんて・・・・・・・わい、好っきゃ」
「好きやったら、ええがな。ついといで。



 あ、ここや。でや?店構えはええやろ?

 お、邪魔するで」
「え〜、らっしゃい!どうぞお二階へ!どうぞお二階へ!」
「な?

 ああ、親父
(おやっ)さん、わいら、今日は下がええねん」
「いえ、お二階の方が見晴らしがよろし」
「わいら、別に景色見ぃに来たわけやあらへん。
 いや、わいら二人とも癇症病み
(かんしょうやみ。神経質。いろいろとこだわり、気にするタイプ)でな。
 目の前でさばいたやつやないと、食うた気がせんねん」
「そうでっかぁ・・・。ほな、うなぎはどうゆう風に?」
「どうゆう風にって、まあ、蒲焼やな。まず、銚子2本と小鉢もんを二つ、三つ持ってきて。ほんで蒲焼を早幕
(はやまく。大急ぎで)で」
「へい、わかりました。

 かか!お客さんに銚子2本と、小鉢もん、二つ、三つ、みつくろってお出しせえ。それと、蒲焼、わいが最前
(さいぜん。さっき)こさえたやつ・・・・」
「親父さん、わいらの話、聞いてたんか?
 わいら癇症病みやから、目の前でさばいたやつやないと、食べた気がせんゆうてるやろ!」
「いや、これ、ほんまさっきこさえたとこ。ヌクヌクでんねん」
「ヌクヌクか、何か知らんけど、わいら疑り深い人間やから、ほんま、これから目の前でさばいた奴やないとあかんねん」
「どうしても、これからさばいた奴やないと、あきまへんのか?・・・・・・・・・どうぞお二階へ」
「親父さん、何ゆうてんねん。うなぎみたいなもん、こ〜ん!と頭にキリ打って、しゅっしゅっ〜〜っと裂いて、骨取って、ぴゃっぴゃっと串ぃ差して、ぱっぱっあ〜と焼いてタレつけて、ほいっと出したらそんでしまい、やないか」
「あんた、そら口ではしゅっしゅっ、ぱっぱっ〜って言わはるけど、そんな簡単なもんやおまへんで。

 ほな、お客さん。どれにしまひょ?」
「えっ?客がこれ!ってゆうたやつ、さばいてくれんの?

・・・・・・・・・しかし、何やな。こうして見たら、うなぎて、ちょっとずつ色が違うもんやねんな」
「こら、偉いこと言わはった。ぱっと見ただけで色の違いに気ぃつくやなんて、あんさん通ですな。
 獲れた浜によって、色がちゃいまんねん」
「地ぃの色ゆうやっちゃな。

 ほたら、そこの青みががったやつは?」
「ああ、あら紺屋の浜でとれたやつで、ああゆうのを青バイて言いますねん」
「ほな、あこの赤みがかったやつは?」
「あら、赤バイゆうて、紅屋の浜でとれまんねん」
「ほな、そこの黒みがかったやつは?」
「黒バイゆうて、炭屋の浜で」
「ほたら、その白みがかったやつは、警察の浜でとれたんか?・・・・・・・・・・白バイゆうて」
「そんな浜おまっかいな。ええ?白みがかったうなぎみたいなもん、いてまっかぁ?」
「おるやないかい。そこのすまんだ
(隅)に」
「すまんだ?・・・・・・・・あら、腹、上向けてまんねがな。死にかけてまんねん。

・・・・・・・ほな、白バイ、いきまひょか?」
「いややで、そんなん。あ、これこれ。これやってくれ」
「どれでっかぁ?・・・・・・・・・・これ?
(胸の前で手を交差して自分を抱きしめるような格好をして、がくっ!と後ろにのけぞる)こいつ、開店当時からいてまんねん。

 いっぺんね、つかまえて、キリで打とうとしたんでっけど、逃げられましてん。
 ひたいにキズおまっしゃろ?その時のキズですわ。
 それ以来、わたいに対する目つきが違う。・・・・・・・・・・・わたいがお二階へ」

「うなぎやの親父さんが、うなぎ怖がってどないすんねん」
「わかりました。
 おい、かか!ぬか箱持ってきて!」
「ぬか箱みたいなもん、どないすんねん?」
「いや、このぬかでうなぎのヌルヌルを取りまんねん」
「あほかいな。うなぎてなもん、あのヌルヌルがうまいのに、それを取ってもてどないすんねん」
「へえへえ、わかりました!かか!ぬか箱しもて
(片付けて)(小声で)うるさい客やなぁ。

 へえ!ほな、いきまっせぇ!」

 腕まくりをして、そろそろと両手を生け簀の中に入れる。
 うなぎをつかまえようとするが、逃げられ、手を引き上げて、ぴゃっ!ぴゃっ!と指先を振って水気をとばし、照れ隠しでにや〜っと笑う。
 これを3回繰り返す。

「何がおもろいねん?笑(わろ)て、ごまかそうとしてんのんちゃうか?」
「むずかしいんですわ。
 ちょっと、てっとうて
(手伝って)もらえまっか?

 わたい、つかまえたら、まな板の上、乗せますわ。そしたら、指の間から頭、出しよりまっさかい、合図したら、キリで頭をこ〜ん!と。

 ほれ!今や!

 
(指先を押さえて)痛ったぁ〜〜!!!
 
(客の方を向いて、驚きと怒りの表情で)かすった!かすった!
 
(今度は、まな板の方を見て)うなぎは・・・・・・・・・・・逃げてるがな!」

「教えたるわ。親父さんみたいに両手、突っ込んでたら、うなぎが暴れる。
 指は2本でええねん。中指と人差し指。

 こう、知らん顔してたら、うなぎも静かになるやろ?
 そこで、この2本指で、頭からしっぽにかけて、すぅ〜〜っとなでたったら、ほれ見ぃ。おとなしなるやろ?
 ああ、マッサージしてくれたはんのかなあぁ・・・てなもんや。

 そこで、今度は同じ2本でも、親指と人差し指。
 知ら〜ん顔して、
(よそ見をしながら、突然うなぎの方へ向き直り)きゅっ!といったら・・・・・・・・・・・・・・・・逃げるやろ」
「もうよろし。わたいのやり方でやりま。


・・・・・・・・・・よ!つかまえた!」

 握りこぶしを上下に重ねる。そして、上のこぶしの親指をぐ〜っと伸ばして、こぶし全体をくねらせる。
 この伸ばした親指の先が、逃げようと身をくねらせているうなぎの頭を表現している。
 下のこぶしを、ぱっ!と離して、上のこぶしの親指を包むような感じで素早く握り締める。その瞬間に、そのかぶせたこぶしの親指をぐ〜っと上に伸ばす。

 くねるうなぎをつかまえようと上へ上へ握り替えていく感じ。

「すんまへん!はしご掛けてもらえまっか?」
「下に向けんかいな!」 

 今度は、下へ下へと、身をくねらせていく。

 
「穴、掘ってもらえます?」
「前に向けなはれ!」


「・・・・・・店番、頼んまっせぇ!


 あ、お向かいの
(人)。ちょっと、上らせてもらいまっせぇ!」
「上
(あが)んのはええけど、下駄ぐらい脱ぎなはれ」
「そんな余裕がおませんねん。

 お膳、どけてや!踏み割るで!

 赤ちゃん、のけて!

・・・・・・・・裏の木戸、開けてぇ!!」




「おこしやす」
「あ、おかみさんかいな。えらいこっちゃで。お宅とこの大将、うなぎつかんで向かいの家、行ったきり帰ってこんで」
「またですか?」
「また?」
「へえ。今日も和歌山から帰ってきたとこだんねん」
「ええ?ちょいちょいあるんかいな?

 あっ、向かいの家の裏手、通って、戻ってきた。

 大将!大将!こっちでっせぇ〜!
(と、手を振って呼ぶ)

・・・・・・・・・・通り過ぎてもたがな。大将〜!どこ行きまんねん?」
「わいでは、わからん。

 前ぇ回って、うなぎに聞いておくれ」

 枝雀師匠で以前聴いた「うなぎや」は、アホが徳さんという別の男に「道頓堀で一杯飲まそ」と誘われ、大阪中を、その男の用事で連れまわされ、ようやく用事も済み、道頓堀に来たかと思うと「酒とは言うてない。河の水を飲め」と言われた。だから「一杯飲ませよか」には懲りてる・・・・・・という演出だった。

 これは初代春團治の演出にならったものらしい。

 しかし、ちょっと長すぎてダレるし、別に徳さんの用事につき合いたくはないが、それを断って「一杯飲まそ」がなしになってもいかん、とついていく小市民的なアホをだますとこも後味が悪かった。

 そこを省いた歌之助の演出は、いいと思う。


 


 



 

 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音などをしてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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