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(No99) 米朝一門会 鑑賞記  その2    

 平成20年3月30日にヴィアーレホールにて開催された米朝一門会・・・・・・・・・の続き。
 


(4) 桂千朝 「貧乏花見」

 
私が千朝師にひそかにつけているあだ名は、「粘りのある噺家」。口調がいかにも粘りがある。文章では表現できないが、一度実際に聴いていただいたら納得してもらえると思う。
 長屋という言葉、最近では使いませんな。今はもっぱらマンションとかハイツ、コーポてな言い方で。

 昔は路ぉ地という言葉もよく使いました。私なんぞ子供の時分、路地で遊んでますとゆうと「こ〜れ!おいたをしてはいけませんよ。おぼっちゃん」・・・・・・・・・と言われるような子供と一緒に遊んでおりました。

 長屋でも「三月裏」、「八月裏」なんて呼ばれる裏長屋がございまして、ひょっと聞いてると何や風流な感じがしますが、三月裏とゆうのは、三月三日、おひなさんの時に出される菱餅のように、こう、家がいがんでる・・・・ということでね。

 同じように八月裏ゆうのは、長屋の連中、皆、真夏みたいに年中裸で暮らしてるから、八月裏と・・・・・・・。

 「釜一つ裏」ゆう言葉もございます。長屋中で、飯炊く釜が一つより
(一つしか)ないので釜一つ裏。
 皆、飯炊くのに順番で借り合って使
(つこ)ぉてます。
「喜ぃさんとこ、今日の朝飯はいつ炊くねん?」
「さあ、四日先の晩くらいかな」なんて・・・・。

 また、「せんち長屋」てな言葉もございました。家の数よりせんち場(雪隠場。便所)の数の方が多いゆう不思議な長屋で。何でそんなことになるか、ゆうと昔は肥料に人糞を使いましたので、トイレの汲み取りに来たらお金を置いていったんですな。
 どうせ家賃は当てにならんから、ふん取りで置いといたろっちゅう、まあウグイスみたいなもんで。

 そんな貧乏長屋の春先のお噂で・・・。

「朝方は雨模様やったが、すっかりええ天気になったな。表やみな、えらい人通りやな」
「そやな。まあ、今時分のこっちゃさかい、花見に行かはんねやな」
「えらい、ええ着物
(べべ)着てはるで」
「さあ、花見ゆうのは花を見に行くといいながら、着物も見せに行くみたいなもんやからな」

「はぁ〜。あない、結構な暮らししたはる人もおんねんなぁ。夢のような世の中やなぁ」
「まあ、ああゆう人らは、さだめし前世でええことしはって、今はええ夢見たはるってなもんやろかい」
「へえ〜。ええ夢見てはんの。ほたら、わいら年中うなされてんの?」

「情けないことゆうな。貧乏暮らししてても、花の咲っきょ
(咲きよう。咲きぶり)は同(おんな)じやないか。
 どや、わいらも花見としゃれこもやないか」
「そやかて、酒とか段取りでけんがな」
「酒の代わりに茶ぁでやったらええがな。茶か盛り
(酒盛り)、茶か盛り。
 こら風流やで。千利休の世界や」
「・・・・・そんな世界、入りとぉないわ。寒空に茶ぁばっか飲んでたら便所ばっか行かなならん」
「お前なぁ。所帯、貧乏してても心まで貧乏すな。『気で気を養う』ゆう言葉があるやないかい。
 今日ら朝、雨やったさかい長屋の連中も仕事出そびれてると思う。皆にも声かけたろ。


 おい!皆!ひとつ、長屋で花見に行こうゆう話が煮えかかってんのやが、皆はどうする?」
「私は山椒です」
「え?」
「いや、同意します、ゆう」
「そら賛成やろ」
「あの人が山椒やったら、うちはワサビで」

「せやけど、花見ゆうたら酒や肴はどないすんねん?」
「さあ、皆で酒の代わりに茶ぁを二斗樽に出し合うねん。
 肴は、夕べの晩菜
(ばんざい)もんでも、今朝のおかずでも、何でもかめへんから一品ずつ持ち寄り散財しよう、ゆうわけや。ほな、皆、頼むで」


「わいは、かまぼこ
(発音がはっきりしない)が2枚」
「え?かまぼこが2枚?もっとハキハキものを言え。かまぼこてな贅沢なもん、結構やないかい。
え?かまぼこ、ざるに入れて持ってきたん?
 どれどれ・・・・・・。?これ、飯の焦げたのんと違うのかい?」
「へえ。せやから釜底が2枚。醤油かけたら、こうばしゅうて、うまい」

「うちは”長いまま”が鉢に一杯」
「”長いまま”?・・・・・・・・こら、”おから”の炊いたん
(煮た物)と違うんか?」
「そうそう。”おから”のこと、”きらず”ってゆうやろ?切らず、やったら長いまま」
「なぞなぞやな」

「わい、気兼ねでよぉ出さん」
「気兼ねせんでええねん。釜底と長いまま、やで。何出したかて恥ずかしいことあるかいな」
「わいとこは、そうめん
(発音がはっきりしない)やねん」
「素麺てなもん、あっさりして結構やないか。・・・・・・・・・ん?こら醤油だけちゃうんか?」
「うん、醤油、飯にかけて食うたら、うまいで。せやけど、醤油は箸では、はそめん
(挟めない)
「ええ〜?はそぉ〜めん、てか?いやぁ、下には下があるもんやなぁ。そっちは?」

「卵の巻焼きや!」
「そら結構なが・・・・・え?それ、こうこ、沢庵と違うのかい?」
「さあ、そこ、気で気を養え」


「茶ぁ、樽に入れたけど、えらい赤黒ぉ〜て、とても酒には見えんで」
「ほな、水まわせ
(水を入れて薄めろ)
「泡立ってきた」
「新酒や思わんかい」

「ほな、毛氈
(もうせん。赤い上品な敷物)持ってきて」
「ここいらに毛氈てなもん・・・」
「梅干、干す時に使
(つこ)たムシロがあるやろがな」

「おぉ、おまっつぁん。裾模様のええ着物ですなぁ。・・・・・・・・・・?しかし、普通裾模様ゆうたら、上が無地で裾んとこに模様があるもんやけど、あんたのは裾が無地で上にごじゃごじゃ模様があって。変わってまんなぁ。
 新しぃこさえはったんですか?」
「あほらしもない。うちら、着物なんか夫婦
(みょうと)で一枚よりありゃしまへん。その一枚、うちの人に着せたさかい、お襦袢でも着よか思たら、拍子の悪い、半襦袢しかおませんの。
 何や下が頼んないでっしゃろ。しゃあないから、下、風呂敷巻いて、間に帯、締めましてん」
「・・・・・・・ええ度胸やで。襦袢と風呂敷で、表、歩こうゆうんやからな」


「あ、寺子屋の先生、やっぱきっちりと黒の五つ紋。そら、羽二重
(はぶたえ)でっか、縮緬(ちりめん)?紬(つむぎ)?」
「いや、”そうし”じゃ」
「へ?”そうし”てな生地おましたかな?」
「いや、子供らが『草紙』を手習いした真っ黒い紙を貼り合わせて・・・・」
「ええ?道理で、そば寄ったらガサガサゆう思た。紋はどないしはりました?」
「白い紙を貼った」
「紐は?」
「紙縒
(こよ)り」
「何でも紙やねんな。火のそばには寄りなはんなや」

「おっ、竹やんはぴっちりと洋装で洒落てるな」
「はは、服に見えるか?」
「え?見えるかって、それ服、ちゃうんか?」
「裸に墨塗ってんねん。鍋かぶって、シルクハットや。ステッキは火吹き竹」
「雨降ったら、つかまるで」


「ほな、月番。酒樽、かたげて
(担いで)
 陽気に踊って出かけようやないか。この辺の長屋で総出で花見行こかてな洒落た長屋、どこにもないんやから。

 あ、それ、♪ こりゃ、こりゃ、こりゃ、こりゃ、楽しゅうて、たまらん こりゃ、こりゃ、こりゃ、こりゃ ♪」

「なあ、みんなの、この格好で、もう十分目立ってるんやさかい、やめとこうや」
「何ゆうてんねん。へ?ほんまに花見かいな、思われるで。
♪ ちょいと、ちょいと、こら、こら〜 ♪・・・・・・・・・・・・・・・・。みんな言わんかい。わい一人だけやったら恥ずかしいがな」
「・・・どうです。皆さん。まあ、あないゆうて陽気に・・ってゆうてるさかい、しゃあないから一緒にゆうたりましょか」
「しゃあないんでんなあ」

「♪ あ、よいと、よいと、こりゃ、こりゃ 花見じゃ 花見じゃ〜 ♪」
(沈んだ調子で)夜逃げじゃ 夜逃げじゃ〜」

 
 何やかやあったが、花見の名所、桜ノ宮に着く。

「おう、おう。ちょっと待ったぁ、待ったぁ。そない急いだら嫁はん連中、遅れてしまうがな。
 せいて
(あせって)、腰巻落ちたら、騒動やで。
 もう着いた。この辺でええねん、この辺で」
「へ?もっと高いとこ行った方が眺めがええで」
「いや、高みはやめとこ。低みの方がええねん。
 何でて?そら、せやないかい。低けりゃ、上の方から、握り飯とか何ぞがころこんでこんとも限らんやないかい。

 さあ、ほたら、ここに陣取って、幔幕(まんまく)張ろう」
「・・・・・・おい、誰か、あいつどつけ。最前から毛氈やの、幔幕やのと。そんなもんがあるわけないやないか」
「なかったら、嫁はん連中の腰巻を張りめぐらしたらええがな」
「ええ?どこまでいくねん?わっ!誰や、わいの鼻先にこんな腰巻投げたん?」
「汚そうに騒ぎな!そのお腰は、まだサラ
(新品)やし」
「サラぁ〜?ほんまか?」
「へえ、去年の夏から、まだいっぺんも水くぐらず」
「おいおい、この風下には座りなや」


「ああ、こら荷物係のお兄さん、えらい重たい目ぇさせましたな」
「ほんまやで。途中で代わるゆうて、結局誰も代わらんかったやないか。
 ああ、喉、渇いた。茶ぁ、一杯汲んで!」
「おいおい、そんな大きな声で茶ぁ言いなや。場が盛り上がらんがな」
「何で、そんな指図されなあかんねん。わいかて、ちゃあんと土瓶に2杯出したぁるねんで」
「わかった、わかった。どや、誰ぞ、うまいこと酒らしいに飲める人はおませんか」


「ほな、わいが。あ、こりゃ、どうも。お、盛り上がったぁる。こぼしたら、もったいないよって、口からお迎えに・・・・・。ん、ん、ん、ん。
 くぁ〜〜。こくがあって。五臓六腑に染み渡りますなぁ〜」
「・・・・・・・・・・
(感心して)いやあ、みごとなもんですなぁ。そない美味そうに飲んでもろたら場ぁもぐっと盛り上がるてなもんですわ。ささ、もう一杯」
「え?別に、お代わりはよろしぃねんけど。さよか、ほないただきます。そない、なみなみと注がんでもよろしいねんで」
(2杯目を飲む)
「いやあ、おみごと。ささ、もう一杯」
「・・・・・・・・あんた、何ぞ私に恨みでもおますんか?」
(渋々受けて、苦しそうに飲み干し)
「どうです?ご気分は?」
「おととしの夏、井戸にはまった時、こんな気分でした」

「おっ、そちらは瓢箪で。しかし、何ですなぁ。瓢箪の口から出るとゆうと、味わいゆうか色が違いますな」
「へえ、それに私は宇治に親戚がおましてな。ええお茶け
(お酒)が手回るんです。どうです、一杯」(と、注ぐ)
(飲み干して)はあ、よろしいな。渋ぅ〜て。何ちゅう銘柄です?」
「玉露正宗」



「さあ、みんな、酒だけやのうて、肴の方もつままんとあかんでぇ」
「え?どうしても食べなあきませんか?」
「ほな、わい、そこのサワラの子ぉもらうわ」
「え?サワラの子みたいなもん、あったか?」
「いや、そのおから、ちょっと見ぃサワラの子ぉに似てるがな」
「ああ、なるほど。どれどれ、あ、このサワラの子ぉ、塩加減がうまいこと、煮
(た)いたぁる。
 どんどん、よばれなはれや
(お食べなさいよ)
「いや、サワラの子ぉは、あんまり食べ過ぎると目ぇが赤なって耳が長
(なご)なるさかいなぁ」


「わいは、ちょっと、そこの卵の巻焼き、取ってもらえるかなぁ?いや、いや、その、尻尾と違う方を」
「卵の巻焼きに尻尾があるかいな」

「ん、バリバリ、ボリボリ、バリボリバリボリ・・・・・。この巻焼き、歯応えが」
「お前なぁ。卵の巻焼き食うのに音させたらあかんがな。周りのもんに知られてしまうがな。ほんまの巻焼きみたいに、音させんと、口ん中でオネオネして、飲み込みぃな」
「ええ?音させたら、あかんのぉ?わい、取ったん一番大きいやつやでぇ。まあ、いっぺんやってみるけどな・・・・。おねおねおね・・・・・・ぐっ!ぐぐぐぐぐっ〜」
(目を白黒させ、胸を叩いてようやくのことで飲み込み)
「ああ、もうちょっとで卵焼きと心中するとこやった」


 
有名な噺だが、あらためて聴いた感じがした。貧しい中のしたたかな工夫って感じ。
 私の小学生時代も家は貧乏であったが、その割りに、家族で近所の源氏の滝というところに遊びに行ったり、叔父さん(母の弟)の車に乗せてもらって琵琶湖紅葉パラダイス(ジャングル温泉)て所にたま〜に行ったりして、それなりに楽しんでいた記憶がある。

 陳腐な例えだが、海苔を巻いただけのお握りでも、家族で食べれば美味しい。



(5) 桂ざこば 「子はかすがい」

 
トリはざこば。
 ざこば師匠というと、マクラが抜群におもしろいんだが、今回は「こないすぐ脱ぐんやったら着てこなんだらええ」といういつものギャグに引き続き、「家の中、うまいこと行ってないんです。・・・・もう別れたい」と言うなり、本編へ。


 で、「子はかすがい」。まあ、何度も聴きました。ちなみにサイト(27)サイト(33)サイト(70)でご紹介してます。

 今日の噺で気づいたとこと言うと、冒頭で熊さんが「愛想(あいそ)もこそも尽き果てたぁ〜?OK!」と言ったとこ。
 え?古典落語で「OK」?・・・・と場内が沸いた。

 
でも、まあ違う噺も聴きたいな。
 



  どうも、お退屈さまでした。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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