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(No212) 立川談志 MD 鑑賞記 その2 
          

 ずっと昔に撮ったMD。

 



立川 談志 「芝浜」(2)


「ちょっと、ちょっと!勝っつぁん!」
「火事か!」
「ちょっ、あ、商い、行っとくれよ!
(妙に慌てた、おたついた調子。ウソをついてるから動揺してるのか)か、釜の蓋が開かないよ!」
「釜の蓋、釜の蓋って。いいよ、あれでよぉ」
「何だい?どうしたの?」
「だからよぉ、いいじゃねえか」
「何?寝呆けてるの?はっきり言っとくれ!」
「あの・・・42両で開けとけよ!」
「42両?何?知らないよ!」
「おめえ、しゃれがきついよ。少しならいいけど、そっくりはきついよ。
 あれだ!ゆんべ河岸で拾った42両だよ!」
「え?そんな夢、見たの?しっかりしとくれよ!貧乏はしたくないねぇ。いつ?河岸なんざ行ってないじゃないか。
 うなされたり、寝言言ったりしてたかと思ったら、そんな夢見てたのかい!」

「手拭い、あるじゃねえか」

「そうだよ。忘れたとは言わさないよ!あんた、昼に起きたかと思ったら、湯ぅ行ってくるって。
 帰ってきたかと思ったら、みんな連れてきて。あんた笑いずめだった。で、うなぎや天麩羅誂えろって。あたし、友だちの前で恥かかせちゃいけないと思って!」
「ぽんぽん、ぽんぽんゆうねぃ!」
「よしとくれよ!拾った?せめて稼いだ夢を見とくれよ!
 鐘の音?うちにいたって、聞こえるんだよ!夢ん中で犬に吠えられて、起きたら犬が吠えてたってことがあるだろ!

・・・・・じゃ、何かい?42両拾った?拾ったでいいよ。じゃあ、私が猫ばばしたって?」
「んなこと言ってるわけじゃない。

 犬に吠えられ・・・・夢か。夢か。そうか、そうだ、夢だ。

 おっかぁ、どうしよぉ。・・・・・死のうか?」

「死のうか」
「やだよ!助けてくれ!どんなことでもするから!」
「助けるも助けないもないよ。百日もあれば浮くわ」
「働く!しょうげぇ
(生涯)酒は呑まねぇ。おめえに言ってんじゃねえ。俺に言ってるんだ。
 お、今から行ってくらぁ。あ、ダメだ。飯台が」
「漏りゃあしないよ」
「包丁は?」
「大丈夫」
「わらじ?」
「出てます」
「・・・・・夢ん中にも、こんなとこが・・・・。
 ん、たばこ。ん、銭。ありがとよぉ」
「喧嘩しないでよ!」

 人間ががらっと変わってね。昔の人間は単純だったんだろうね。

 腕ぁ悪くねえから。ちょいと早く河岸ぃ出て。ちょいと親切な商売をすりゃあ、耳から口から、この舌で確かめて。

「おう、この頃、勝公、目の色が変わってきたな」
「おう、奴の魚ぁうめえからな」
「おっ、おめえ、あの違い分かる?分かるだろ?嬉しいね。おっ、勝っつぁん。噂してたんだ。悪口じゃねえよ。誉めてたんだ。
 いや、うるせえじじいがいるんだよ。勝っつぁんの魚食わせて、ぐうの音も出ねえようにしてほしいんだよ」
「おう、勝っつぁん、夕河岸の帰りにも寄っとくれよ!」なんてね。

 こりゃ、商人
(あきんど)も芸人(げえにん)も同じことでね。違いを分かってくれるお客さんに育ててもらう。そうゆうもんだと思ってます。

 先々の時計になれや、小商人
(こあきゅうど)ってね。これは一日、二日じゃ無理だけど。

 その年が過ぎて、二年、三年目には裏長屋の棒手振りから表通りに狭いながらも一軒の店ぇ出してね。若い衆の二人も使って。三年目の大晦日。

「遅かったわね」
「ああ、一年のあか、落とそうってんで。芋洗うようだ。
 隠居、72なんだけど、これっぱかしもぼけてねぇ。話、長くなって。

(若い衆に)ぞんざいに飯台、扱うんじゃねえ!できねえとひっぱたくぞ。だから、おめえはトロ公って言われるんだ!
 何、蛍の灯ぃみたいな火ぃ焚いてやがる。ばか!掛取りぁ、寒いところから来るんだぞ。火が一番のご馳走じゃねえか!」
「あっ、それはいいの。もう済んじまった。取りに行くとこは二つ、三つ残ってんだけど。いいでしょ?」
「いいよ。向こうだって都合があって持ってこねえんだから。

 おう!縁起悪いから火は起こしとけ」
「あ、そばの台は重ねといて。代は上に乗ってるだろ。持っていってくれたら、釣りは取っといてくれたらいいから。やだねぇ、取りっこしてら。小遣いはちゃんと渡してるだろ」
「畳、替えたか?いい匂いしてらぁ。よく言うだろ。畳と女房は新しい方が・・・・いや、女房は古いほうが・・」
「およしよ」
「何?福茶?飲んだことねえや。
(一口、含んで)分かりゃあいいよ。

 いいもんだな、取りに来る奴がいないって。初めてだよ。いい気持ちなもんだ。ありがてぇと思ってた。

・・・・・・・いいなぁ。除夜の鐘。百八つ」
「うん、百八つ」
「・・・・・百八つな」
「百八つ」
「ん?雪か?」
「違うの。お飾りの笹が触れ合ってるの」
「ああ、雪が降るわきゃねえや。帰る時、降るように星が出てた。三が日は、いい正月だよ。呑める奴ぁ楽しいだろうねぇ」
「呑みたい?」
「いきがるわけじゃねえが、三、四日。十日、二十日は、な。よく、酒屋の前、鼻つまんで目ぇつぶって走り抜けてどぶぅ落っこちたって話があるけど、俺ぁ落っこちゃあしなかったけど、分かるねぇ。

 いや、今は茶の方がいいよ。飯の後の焙じ茶なんざぁたまんねぇ。おう!羊羹切ってくれ」
「・・・・何だか変だねぇ。

 あの・・・・ちょっと聞いてほしいこと、見てほしいものがあるの」
「ええ?春の着物だろ?いいよ。おめえのやるこたぁ間違いがねえ」
「おしまいまで聞いてもらいたい。見てもらいたいの」
「え?この財布?へそくりだろ?へそくるぐらいの器量が・・・、え?見ろってんなら見るけどよぉ。

 おい、こんなにやられちゃあいけねぇなぁ。女はこえぇなあ。(数えて)う〜ん。どうなってやんでぇ。42両あるぜ。貯めたとは言わせねえぞ」
「あんた、革の財布に42両に見覚えはないかい?」
「見覚え?ある?ああ、芝の浜で42両入った革ぜえふを拾った夢をみた・・」
「夢じゃなかったんだよぉ!」
「ゆ、夢じゃなかったぁ?てめ、この野郎!」
「最後まで聞いてくれるって言ったじゃないか!」
「おお!聞いてやらぁ!言っちみろ!」
「嬉しかったよぉ!貧乏のどん底だったんだもん!
 でもそんなわけにいかないだろ。大家さんに相談したら、寝てるが助けだ、夢にしちまえって。夢だ、夢だって言ったら、お前さん、人がいいから夢んなちゃって。
 それから、あんた、おっかあ、すまねえ、おっかあ、すまねえ。
 おっかあ、俺が悪かったってばかり。雪の降る朝なんか・・・・・。

 ずっと前にお下げ渡し、あったんだよ。だけど、それを渡して元の木阿弥になったらどうしようって。どうしたらいいのか分かんないから、そのまま。
 でも、あんた、働かないといけないって言ってくれただろ?それでいい、何にも要らないと思って。

・・・・お前さんのお金だよ。どう使ってもいいんだよ。

 腹が立つだろうね。自分の女房にウソつかれて、貧乏して働かされて。
 ぶったっていい。蹴ってもいい。だけど・・・・・お前さん、出さないで!あたし、出さないで。あんたのこと、好きなんだもん!」
「・・・・ちょっと待っつくれ。おっかあ、おめえ、えれえ。俺よりよっぽど、頭がいいな。貧乏人が分からねえ筈がねえ。十両盗れば首が飛ぶ。ま、盗んだわけじゃないけど、打ち首、遠島。良くて寄せ場送り。ムシロかぶって、震えてたとこだった。ありがとうよ」
「え?勘弁してくれるの?」
「勘弁も何も、俺がお前に謝ってんだよ」
「あたし、お前さんによっぽど怒られると思って、機嫌直しに呑んでもらおうと思って支度してたの」
「え?そうだろうな。畳だけの匂いじゃねえなって思ってたんだ。ん?うに、いくら、このわた・・・・。俺の好み、覚えてやんな!
 いいかな。今まで呑まなかったんだ。おめえが呑めってゆうから呑むんだぜ。いいの?そうかい。酔うぞ」
「酔ってよぉ!ベロベロになっちゃえ!」
「おう!中にこぼす分はいくらこぼしてもいいからな。外にゃひとったらしだってこぼしやがったら承知しねえぞ。
(杯に)元気だったか?(かみさんに)いいのか?今でもやめられるよ。ん、ありがとよ。呑むよ。・・・・・・よそう」
「どうしたの?」
「また夢になるといけねえ」
 


 どうも、お退屈さまでした。殴り書きのメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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