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(No26) 京都国立博物館 「大絵巻展」展 鑑賞記 

 京都国立博物館で、4月22日(土)から6月4日(日)まで「大絵巻展」が開催されている。

 5月6日に土曜講座と題して「源氏物語絵巻と紫式部日記絵巻」という佐野みどり学習院大学教授による講演会があった。これまで特に源氏物語に関心があったわけでも、佐野教授を知っていたわけでもないのだが、ただ特別展を観るだけでなく、ついでにこれを聴きに行こうと思った。
 もっとも、GW真っ最中なので混むかな?とは心配していた。
 結論から言うと、午前中の用事が思ったより長引き、会場に着いたのが12時45分。(講演開始は1時30分)
 しかし、会場入り口で既に「本日の土曜講座は満員となりました」という看板が出ていた。
 「帰ろかな?」と思わないでもなかったのだが、せっかくここまで来たのだから、と思い、特別展会場に足を運んだ。


1.会場での感想

 とりあえず、これだけは言いたい。「鳥獣戯画」でウサギが川に飛び込む時、鼻を押さえて後ろ向きに飛びこんでる。
 これって、明らかにスキューバダイビングのバックロールエントリーやん!

 

 いろいろ言いたいこともあるが、今日、「鳥獣戯画」をじっくり観る機会があり、ウサギのバックロールエントエリーが、12世紀の絵巻物に描かれていることを知ったのは収穫であった。

 



2.会場での感想(源氏物語絵巻)

 GW中ということで、会場内はとにかく混んでいた。

 行列ができていたのが3ヶ所。一つは源氏物語絵巻。(ほかにも展示ケース前で観たいなら並ぶ。区切りの後ろから見るなら自由に観てもいい、となっていた)

 「源氏物語絵巻」のとこでは、「遠見でよければ自由に入ってください」との会場案内がなかったので、列に並んだ。
 絵巻の前に着くまでに20分から30分ほど。

 右のチラシ掲載写真は、国宝 源氏物語絵巻 宿木(三)(部分) 平安時代後期 徳川美術館蔵であるが、展示は5月9日〜21日。

 今日並んでいたのは、蓬生(よもぎう)であった。
 荒れ果てた末摘花の屋敷に足を踏み入れる・・・・・というシーンであったが、画面の色彩が乏しいので寂しい印象だった。

 「源氏物語絵巻」は画面も小さく、あっと言う間に終わってしまった。しかも、別に並ばなくても、私たちの列の後ろから観放題だ。(仕切りがあるので展示ケースの真ん前には行けないのだが)
 何だ、これなら別に並ばなくても良かったな、と思ったが、この列はそのまま「鳥獣戯画」への列に続いた。

 そして、国宝 鳥獣戯画 甲巻 平安時代後期 高山寺蔵 の5mほどの展示コーナーの所でその列は3重(逆S字型)に折れ曲がった。こうなると、列の後ろからではとても画面は見えない。「並んでて良かったあ」と思った。

 で、じっくりと観たおかげで、左のようなごくポピュラーな場面だけではなくて、冒頭に書いた「ウサギのバックロールエントリー」を発見することができたのであった。
 

 ただなあ、あないに並ばんとあかんもんやろか。やっぱ、十重二十重になって、収拾つかんようになるかなあ?



3.会場での感想(信貴山縁起絵巻)

 「源氏物語絵巻」と「鳥獣戯画」のコーナーを過ぎ、「ああ、これで後は並ばんでもええかなあ」と思ったのだが、次の国宝 信貴山縁起絵巻 飛倉巻 平安時代後期 朝護孫子寺蔵 の所でいきなり、また行列に。
 「飛倉巻」が展示されているのは5月7日まで。でも、一番アタリではなかっただろうか。

 「飛倉」という名前だけは知っていたし、断片的には見たような記憶があるが、通しで観ると実におもしろい絵巻だった。

 内容をご存知の方も多いと思うが、簡単に紹介する。

 信貴山の朝護孫子寺を中興した僧命蓮は、法力で鉢を飛ばし、それで托鉢していた。(そんな無精なことでは、托鉢の修行にならないと思うが)

 ある日、山崎長者の所に鉢を飛ばしたのだが、長者はその鉢を倉の中に放置していた。そのため、長者の倉は、鉢とともに信貴山まで飛んでいってしまったのだ。 

 上写真は、鉢の法力で倉がガタガタ動き出し、鉢が中から飛び出してきたところ。
 見えにくいだろうが、倉の扉の前で縦になって転がっているのが、命蓮の「鉢」である。
 赤い着物の女がびっくりして後ずさっている。

 

 右写真は、ついに倉が鉢の法力で長者の屋敷から浮かび上がったところ。

 飛び去った倉を、屋敷の者や僧侶たちが夢中で追いかけているところだ。
 真ん中の女がさっきの女だと思う。
 その女にせよ、その左上の老婆、さらにその右上の男。そして、手前の僧侶まで、やたら嬉しそう、楽しそうに見えるのは私だけだろうか。
 金持ちの財産が飛んでいってしまうことが、どこか気味がいいって感じもあるのだろうか。(別に、手のひらを返したようにホリエモンバッシングしてる連中と一緒にするつもりはないが)

 さて、縁起の続き。長者は命蓮を尋ねあて、倉の返還を交渉。命蓮が鉢の上に米俵を一つ乗せると、倉の中から俵が続いて出てきて、鉢を先頭に俵の行列が空を飛んでいく。

 山の峠のところで、鹿が6頭いて、「あれは何じゃろう?」て感じで、空の上の俵の行列を見上げている雰囲気が何ともいえずおもしろい。


4.その他の感想

 下の写真は、会場で配布していたリーフレットに掲載されていた国宝 華厳宗祖師絵伝 義湘絵 巻三 鎌倉時代 高山寺蔵 の一場面。 

 ただ、何せ会場が混雑していて私は行列の後ろから観ていたせいか、この場面は記憶にない。この絵巻では一番インパクトのある場面と思うのだが。
 なお、このお話なのだが、入唐した僧義湘に惚れた善妙という娘が積極的に「一夜の契りを・・・」と告るが、結局振られてしまう。ここまでは、有名な「安珍清姫」の話とだいたい同じなのだが、善妙は義湘の航海の無事を祈って海に身を投げる。この船を守護している龍は、善妙が姿を変えているものなのだ。

 同じ爬虫類系でも、大蛇に変身し、鐘の中に逃げた安珍を焼き殺した清姫とはえらい違いである。


 あと、会場に展示されていた場面が図録に収録されていなかったことが残念だった。

 たとえば、
重文 十二類絵巻 室町時代 個人蔵。(チラシ裏面に小さく掲載されているのでご参照を)
 これは十二支の動物が歌合せをするという奇想天外な絵巻。何か歌を詠んで優劣を競うのだろうが、画面右端の鹿は、その判者(優劣の審判)らしい。場面は歌合のあとの酒宴。いわば打ち上げってとこ。動物が着物を着てるんだが、蛇(巳)が細い首を出してるとこなんざ、おもしろい。(袖は、どうなるんだか)

 絵のところにセリフが書き込んである。読めないので解説を参照したが、蛇が「酒は飲んだから、もう衣を脱いでくつろぎたい」といって、早くも着物をぐずぐずに脱ぎかけている。まあ、「肩」がないから着くずれはしやすいだろうが、まさに「脱皮」って感じ。
 あと、各自が、持ってきた酒の肴を説明している。鶏は鶏冠(とさか)海苔。馬は「枝豆はまぐさまめともいうんですよ」と言っている。猪が山芋を(牙を使って)「掘ってきました」と言っているし、犬は「片野のきじでございます」と差し出している。まあ、犬と猿がいるんだから、後はきじだよな、確かに。

 で、その猿なんだが、すっかりお酒がまわったのか
赤い顔をして、踊っている。「春は花が散らざる。秋は月が曇らざる。思う人には離れざる。辛い目にはあわざる。いやあ、なんといっても猿が一番」なんて、「見ざる、聞かざる、言わざる」みたいな洒落をいいながら。

 その酒宴の場の左では、狸が囲まれて殴られている。解説によると、狸が「今度は、(鹿に代わって)私が判者になりたい」と立候補したところ、「おめえなんぞに、そんな大役ができるか!」「調子こいてんじゃねえぞ、テメエ!」とボコボコにされているところらしい。

 さらに、その左では、狸が、他の動物と車座になって、何か話をしている。解説によると、自分と同じように十二支から外れている動物達を糾合して、復讐の相談をもちかけている場面らしい。ああ、そう言や、狐もいたなあとか思ったので、さて、図録でほかにどんな動物がいたか確かめようと思ったのだが、図録には殴られてるシーンも、相談のシーンもなく、いきなり甲冑をつけての本格的な合戦のシーンが載っていた。(ただの殴り込みではなく、十二支軍と非・十二支軍の戦争にまで発展したらしい)


 ほかにも 重文 後三年合戦絵巻 惟久筆 三巻のうち巻中 南北朝時代 東京国立博物館蔵 などもそう。会場では、一騎打ちで首がちょん斬られ、血潮が噴き出したりしていたが、そこは図録には載っていなかった。

 逆に図録には載っているが会場では展示されてない場面(酒伝童子絵巻 狩野元信筆 三巻のうち巻s下 室町時代 サントリー美術館蔵 で、酒伝童子が首なし状態になっている場面など)は、ああ、巻き替えで今日は展示されてなかったんだろうなあ、図録で観れてよかったなあと納得するのだが。

 




 どうもお疲れ様でした。

 
  

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