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(No176) 大阪市立美術館 没後150年歌川国芳展・記念講演会 聴講記 その4


 平成23年5月14日(土)に大阪市立美術館に「没後150年 歌川国芳展」を観に行った時の記念講演会のメモ(完結)。

 

 


「国芳の画想」  岩切友里子(浮世絵研究家/本展監修者)


(画像の表示)
  国芳の弟子の芳年は、「月百姿」という月が出てくるシリーズ物を描いていますが、そこで大石主税(おおいしちから)を扱っています。

 これは主税が祇園一力茶屋へ父大石内蔵之助を訪ねに忍んで来た場を描いています。
(画像はなし)
 でも、全然忍んでなくて、堂々としています。 

 この姿は、山東京伝の『骨董集』に描かれた江戸時代慶安期の若衆の絵を参考にして力弥に応用しています。

 特徴があるのは、蝙蝠羽織という丈の短い羽織です。袴の模様もほぼ『骨董集』に描かれた模様を写しています。

 主税の羽織の袖に三角のギザギザ模様が描かれているので一瞬「新撰組か!」と思った。でも、時代が違うから。真似するとしたら新撰組の方が真似したんだよな。

 弟子の芳年もそうですが、国芳もニューホフ著の『東西海陸紀行』など西洋絵画を参考にしています。

76 誠忠義士肖像 潮田政之丞高教

 は、ニューホフの銅版画挿絵を参考にしています。 

 これは、国芳の

264 忠臣蔵十一段目夜討之図

 です。


 これはニューホフのこの絵を参考にしています。

注 上下を見比べてもらうと分かるように、椰子の木を松の木に変えたりしていますが、ほぼ忠実に写していることが分かる。

 


【質疑応答】

Q 現代なら国芳らが行っているのはパクリで大問題になると思いますが、その当時は大丈夫だったのでしょうか?
A 当時は、入れ木といって、一部だけ版木を差し替え、他は既存の版木を流用するといったことがよく行われていました。

 また、粉本(ふんぽん)といって、師匠の絵を真似することが当たり前でした。さすがに他流派の粉本は真似することは許されませんでした。
 当時は、著作権などという概念はありません。

 

Q 3枚連作の大判錦絵で、一部分だけ色が極端に違うものがありましたが、これはなぜなんでしょうか?
A 3枚連作で3枚とも同じ刷師が刷るとは限りません。分業制をとることも多かったのです。

 「ぼかし」などは刷師が刷る段階で施すテクニックですから、3枚連作で色調が変わることは珍しいことではありません。

 

Q いろいろご紹介いただいた勝川春亭のことは全く知りませんでした。現代では有名ではないと思いますが、同時代的にはどうだったのでしょうか?
A 国貞も春亭の影響を受けています。また広重も春亭の影響を受けている絵が3例ほど見つかっています。
 春亭は作画量が多いのですが、これは人気が高いことを表しています。
 春亭の当時の人気番付は、上から2、3番でした。

 国芳は、現代ではあまりポピュラーではありませんが、当時の人気番付では広重より上でした。
 広重は名所絵、国貞は美人画と方向を変えました。日本では、最近ではむしろ外国の研究家による評価で人気が左右される傾向があります。
 現代の評価と、当時の評価にはかなり隔たりがあります。


Q 私は浮世絵をコレクションしているのですが、先生のおすすめを紹介してもらえませんか?
 例えば、国芳門下で、今は無名だが、「これから来る」という絵師は?
A 貞秀という絵師もおりますが、少し分野も違いますし・・・。

 浮世絵はジャンルが非常に広い芸術です。絵師でなく、描かれている題材でコレクションしている人もいます。

 浮世絵は、まだまだ価格的に求めやすい、自分のものにできる芸術です。美術館の壁でしか見られない絵ではありません。

 どうぞ、あまり他人の意見に左右されず、自分の好みに合う絵をお探しください。

 

Q 浮世絵師には、絵だけでなくいろいろな教養が必要だと思いますが、国芳はどのような修業をしたのでしょうか?
A 確かに教養も必要ですが、浮世絵師はいくら「これを描きたい」と思っても、版元が出版してくれないとダメです。

 つまり大衆のニーズをつかむことが何より大事なのです。

 単に絵を描くだけでなく、絵のデザインや趣向を凝らすことが大事です。見立て、二重の構造、茶化し、やつしなどを取り入れました。

 国芳には梅屋鶴子(うめがやつるこ、かくし)という狂歌師の、長年にわたる協力者がいました。彼が国芳に趣向のアイデアを提供していたという記録が残っています。

 

 最後、先生は相国寺承天閣美術館での「ハンブルグ浮世絵コレクション展」のことをPRされた。

 ああ、久しぶりだけど、やっぱ講演会っていいなぁ。いろいろ勉強になりました。岩切先生、ありがとうございました。


 お疲れ様でした。

 
 
  

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