移動メニューにジャンプ


中国美術展(23) 「東アジア中世海道 〜海商・港・沈没船〜」鑑賞記

1 概要

 大阪歴史博物館で平成17年7月6日から9月5日まで「特別展 東アジア中世海道 〜海商・港・沈没船〜」が開催されている。
 記念講演会として、7月23日(土)に琉球大学池田榮史(よしふみ)教授の「中世東アジアの中の琉球」も開催されたので、その聴講も兼ねて観に行った。



 私がこの展覧会に興味を覚えたのは、新安沈没船の引き揚げ品が出展されると聞いたからである。私は以前「中国の陶磁器ゼミナール」で、ある青磁茶碗の研究解説を担当したのだが、担当の守屋先生から、この碗は、新安沈没船の引き揚げ品に類品がみられると教えていただいた。(陶磁器ゼミ(8)=龍泉窯青磁及び陶磁器ゼミ(9)新安沖沈没船引き揚げ品参照)

 会場では、最初に各種沈没船の引き揚げ品が展示してあった。
 おっ、似ているなと思った青磁蓮弁文碗があったのだが、それは日本近海、加太友ヶ島沖のものだった。
 ここで引き揚げられる陶磁器の主体は龍泉窯系青磁とのことで、色合いなどは私が担当した碗に似ている。しかし、器形は、口縁近くで一度絞られる束頸碗でない、ごく普通のものだった。

新安引き揚げ品
 左写真にあるのが、チラシ裏側に載せられた韓国 新安沈没船引き揚げ陶磁器の数々。

 画面左上の褐釉四耳壷、中央上部の青磁牡丹唐草文大花瓶、右上の蓋付きの青磁牡丹唐草文酒海瓶などが目につく。

 褐釉壷の前には、青磁八卦文香炉白磁馬上杯。その前には青磁袴腰香炉。そのさらに右には黒い天目茶碗が二つ。
 中央上部の大花瓶の左には青白磁瓶、前に青磁鳳凰耳花生、右には青磁牡丹唐草文双耳瓶
 鳳凰耳花生の左に青白磁鉄斑文硯滴(せいはくじてっぱんもんけんてき)。その前に青磁梅月文碗、その右が青磁唐草文碗
 双耳瓶の右前に青磁貼花龍文大盤
(これらは、あくまで写真上の並び順で、会場ではこう展示されていたわけではない)

 新安引き揚げ品のごく一部のみであるらしく、私が探していた類品は出展されていなかった。

 上掲は美品ばかりだが、沈没船から引き揚げられたものであるから、出展品には割れたもの、貝殻が付着したものが多い。

 目を転じると、世界地図などが展示されている。
 しかし、複製品のパネルが多い。
 チラシ表側オルテリウスのアジア図が載せられているが、チラシでは大分トリミングされているのでわかりにくいと思う。

 坤輿万国全図は、複製品のパネル。

 村上水軍の旗なども展示されているが、これも複製品。


  緑がきつい三彩の器も並んでいる。

 右写真(チラシ裏側)は、華南三彩盤

 「鏡に映った対馬」と題されたガラスケースでは、対馬に伝世した鏡が展示されていた。
 火災にあったとかで、損傷がひどい。中国銭が融着した鏡もあった。
華南三彩盤

 左下(チラシ裏側)は、朝鮮が大内教弘に与えた銅印「朝鮮国通信符」

朝鮮国通信符

 これは印の右半分。左半分は朝鮮で保管され、二つ合わせると一つの印影になる。

 大阪歴史博物館のHPで、リンク切れになるまでは、本展示会の主な出展作品ということで、新安引き揚げ品、後掲の後漢書、本印そして南蛮人来朝図屏風の画像があるので参照されたい。

 

 


 「酒飯論絵巻」という絵があったので見てみたが、服の所などに「チャ」とか「アサキ」といった文字が小さく書き込まれている。
 よく版画の下刷りなどで「色指定」が書き込まれているものがあるが、そんな感じだなあと思っていると、大阪で展示されているのは「白描本」といわれるもので、他会場ではきちんと色をつけたものが展示されているようである。

 右写真は、チラシ裏側や前掲のHPにも載っている、国宝の『後漢書』。南宋時代のものだそうだ。
 国宝というくらいだから歴史的価値は高いのだろうが、いかんせん画でも書でもないので、もうひとつインパクトが弱い。

 今回の展示会で、不満に感じたことがいくつかあった。
後漢書

(1) 損傷品が多い。
 沈没船の引き揚げ品など、当然損傷しているものが多いのはわかっている。
 出土品にしても美品ばかりではない、破損したものを継ぐのも当たり前・・・・・とはわかっているのだが、鑑賞していて、何か瓦礫(がれき)の山を見ているような、荒涼とした気分になってしまうようなものもあった。

(2) 複製品が多い。
 どうも表面がつるっとしているので側面を見ると、白い発泡スチロールのパネルの表面に印刷物が貼られているパネル仕立てのものが多かった。
 会場で配布されていた出展リストをお持ちの方は見ていただければわかると思うが、作品名の後に「パネル」とか「複製」との語がついたものがいかに多いことか。

(3) 当該(大阪)会場で展示されていない品が多い。
 図録で見て、あれ?こんなの展示されてたかな、と思って出展リストを見ると、大阪会場では展示されていないというケースがいくつかあった。

 もっとも、会場では、出光美術館や国立歴史民俗博物館、山口県立萩美術館などから青磁袴腰香炉青磁花生天目茶碗澱青釉紅斑文杯青花瓶法花蓮華文洗など優品も多数展示されている。
 例えば、チラシ表側には、その中の青磁象嵌菊花文四耳壷が載せられている。

 しかし、どうもそれまで不満を感じていたものだから、そうした優品を観ても「取って付けたような感じだなあ」という罰当たりというか逆恨みのような感想を抱いてしまった。


 2時から、池田教授の講演があった。

 安直ではあるが、レジュメを転載して、終わりとしたい。

中世東アジアの中の琉球

1.はじめに
 琉球列島の位置
 考古学的文化圏の設定
 琉球・沖縄の歴史区分

2.中世の琉球列島
 グスク時代
 琉球王国の成立

3.琉球王国の繁栄と衰退
 中国における明王朝の成立と政策
 ヨーロッパ人のアジア進出
 明王朝の衰退と倭寇の活動
 アジア各地への日本人の進出

4.中世から近世への琉球列島
 島津藩による琉球王国への侵攻




 それでは、皆さん、お疲れ様でした。

 

inserted by FC2 system