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(No96) あべの寄席 鑑賞記  その1    

 平成20年2月17日にあべのアポロホールにて開催された「あべの寄席」。木戸銭は当日1000円だが、私は前売り券を買ったのでわずか800円なり。
 


(1) 桂雀太 「天狗さし」

 
本日、開口一番は雀太。  相変わらず眉毛が太いなあ。

 
冒頭に、携帯電話は電源を切るか、マナーモードに、オチがわかっても先に言ったり「ゆうと思たわ」などと言わんといてくださいというお願いから入る。

 落語の世界は、我々同様と申しますか、ちょっと見ぃはアホかいな、じんわり見たら足らんかいな、つき合
(お)うてみたら抜けとったてな人間ばかりが出てまいりますが・・・

「今日はちょっと相談したいことがあって。考えたら世の中にはムダが多いな、思て」
「ほぉ、何がムダやゆうねん?」
「餅屋の前、通ってましてんけどな。餅つくのに杵ふりおろすのはええけど、あれ、また振り上げなあきまへんやろ?
 せやから、上にも臼置いといたら、上でもつける」
「・・・・で、上の臼の餅、どないして押さえとくねん?そのままやったら落ちてしまうで」
「さあ、それを相談に来た
「お前はいつでも、そんなんや。こないだかて、銭もうけ思いついたゆうて来たか思たら、10円札9円で仕入れて、11円で売ったらえらい儲かるゆうたやろ?

 どこの世界に10円札を11円で買うアホがおんねん?て聞いたら、額面の10円で売っても1円儲かるゆうた。
 ほな、どこで10円札9円で仕入れるねん?ちゅうたら、それを相談に来た、て。
  そんなもん、どこ行ったかて10円札が9円で手に入るわけないゆうたら、ぎょうさん買
(こ)うたら安なりまへんか、て。よう、そんなこと考えつくなぁ」

「いや、今度はそんなんやのうて、食べもん商売しよう思てまんねん」
「ほぉ、そら、だいぶ話がまともやな。しかし、食べもん商売ゆうと場所が肝心やで」
「そら心得てま。堺筋の八幡筋、ちょっと西に入った北っぺら。もう手金
(てきん。手付金)打ってまっさかいに」
「えらい手回しがええな。で、何やんねん?」
「世間にない食べもん屋やろう思てまんねん。すき焼き屋をね」
「すき焼き屋?牛肉か、かしわ
(鶏肉)か?」
「そんなん珍しいことおませんがな。わいのやろう思てるんは天すき屋」
「天すき?」
「大きな声出しなはんな。誰ぞに聞かれて真似されたら元も子もない。
大天狗とか、烏天狗ておますやろ?店、二間半間口
(にけんはんまぐち)でんねん。そこ一間ほど鳥小屋こさえて、そこに烏天狗放して、すき焼きにしまんねん。こら珍しいゆうて、流行る」
「・・・・・・・そら珍しいわなぁ。で、その烏天狗、どこで仕入れるねん?」
「さあ、それを相談に来た
「知らんがな、そんなもん」
「ええ?知らんて今さら。3日たったら大工が造作
(ぞうさく。建築工事)に入んのに。無責任すぎる」
「無責任て、そんなもん請け合
(お)うた覚えないで。だいたい、天狗てなもん、天満の市場におるかえ?」
「見たことおまへんなあ。でも、昔からよぉ話は聞きまっせ。絵ぇとか、面
(めん)とかにもなってるし。
 昔はおったんかもしれまへんなぁ。だいたい天狗の本場ゆうたら、どこだんねん?」
「本場ゆうのも変やが、京都の鞍馬山が一番有名やわなぁ。
 奥深い山で、夜中に木剣の打ち合う音がしたら、天狗さんが稽古してんねや、とかゆうたなぁ」
「ほたら、鞍馬山行ったら、烏天狗の10羽や20羽、捕まりまっしゃろか?」
「知らんちゅうのに」

 
 アホは本気で天狗を捕まえるつもりで真夜中の鞍馬山へ。「鳥刺し」の要領で太い青竹の先に鳥もちを付けて、これで捕獲する算段。

 タイミングの悪いことに、奥の院で修行をしていたお坊さんが宿坊に帰ろうと山の階段を降りようとしたところに、このアホが出くわした。
 お坊さんの燃え立つような緋の衣を見て「偉い天狗は羽が赤いのんかいな」などと訳の分からぬことを言いながら、お坊さんの足をすくった!


「取ったぁ!」
「痛い!痛い!何をなさる?」
「よぉしゃべるなぁ。しかし、こないあっさりと取れるとはなぁ。
 天狗のエサて、何やったらええんやろ?生かしとかなあかんさかいなぁ」

 ぶつぶつ言いながら、ぐるぐる巻きにくくったお坊さんを青竹に差してかついで山を降りる。
 ぼちぼち夜も明けて、それを見た町の人が
「もし、見てみなはれ。奥の院のお坊さん、気の毒にぐるぐる巻きにされてかつがれてまっせ」
「ほんまでんなぁ。何したんでっしゃろ?」

 そんな声を耳にしたアホは
「何が坊さんじゃ。わいの天狗、取ろう思とるな。そうは行くか。

・・・・・・・・・ええ?坊さんや、坊さんやゆうて、ようけ人が集まってきたでぇ。
あら?さっきまで暗いところでわからんかったが、こら確かに、わいのかついでんの坊さんやがな。

 もし、お坊さん。こんな所で何してまんねん?」
「何してんねんて、あんたが連れてきたんやがな。何やわいを食べもん屋に出すとかゆうて。天ぷらにでもするつもりか!」
「ははぁ、そら坊さんは天ぷらにしやすい。はな
(最初)から衣ついてまんがな」
 とりあえず高座では初めて聴く噺なので、珍しくて良かった。

 何かオチは「坊さんの天ぷら:衣がついてる」って、訳の分からんものだった。

 正統的なサゲは、アホが青竹を担いで歩いていると、向こうから青竹を十本もまとめて担いで歩いてる男がやって来た。
 アホは、自分の「天狗さし」のアイデアが早くもパクられたと思い、こちらは1本なのに向こうは大量に竹を持っているので根こそぎ天狗を掻っ攫っていくのかとあせって「お前も鞍馬の天狗さしか?」と尋ねたら「いや、わしゃ五条の念仏尺(ざし)じゃ」と答えた・・・・・・・。

 こら、わかりにくい。
 京都の五条の辺りでは物差しが名物だった。で、その物差しは、京都の西本願寺あたりで採れた竹で作ったので「念仏尺(ざし)」と呼ばれた。西本願寺は浄土真宗なんで「南無阿弥陀仏」のお念仏を唱える。お念仏の本場で採れた竹でつくった物差しだから念仏尺。五条で売られてたんで「五条の念仏尺(ざし)」・・・・・・・・って、こない解説せんと分からないオチなんで、「天ぷら」としたんだろう。出来は良くないけど。


 


(2) 桂しん吉 「初天神」

 
続いてはしん吉。今年10周年を迎えたそうだ。
 一般の学歴社会と違って、噺家の世界は低学歴でも早(は)ょ入った方が得なんです。大卒より高卒の方が上(うえ)んなる。

 まあ、私なんか、あんな社会人にならんように、ゆうことを教えようとしてはるんか、学校で講義をやってくれなんてことを頼まれたりします。

 チャイムからチャイムまでの50分間を任されたりいたしまして、最後、「時うどん」をやったりしたんですが。
 先日、その学校から「生徒に感想を書かせたので送ります」ゆうていただきました。まあ中二ゆうたら反抗期で、素直に笑う気にはならん、どっちかゆうと異性が気になる年頃や思うんですが、いろいろ書いてくれてました。

 中にあったんが「桂師匠みたいになってください」。・・・・・・・・・・誰や?
 さっき出た雀太も、人間国宝の米朝師匠も桂なんです。

 こんなんもありました。「うどんを食べる仕草、がんばってお稽古してください」。
 ・・・・・・・・中学生にダメ出しされました。

 私、こんなん多いんですわ。落語会終った後でおばちゃんから「あんた、けっこう上手やん。早
(は)よプロになったらええのに」・・・・・・・・・。


「おい、嬶
(かか)、あれ出してくれ、わいの羽織」
「まあ、いややの。ちょっと一枚、羽織がでけたと思たら、何じゃちゅうたら羽織出せぇ、羽織出せぇて。
 風呂行くんでも羽織出せ。こないだやみな、便所行くのに羽織出せゆうたやないか。
 今日はまた羽織着てどこ行きなはんねん?」
「『どこ行きなはんね』んて、今日は、何日
(いっか)や思とんねん。
一月の二十五日、初天神やないか」
「へえぇ?ついぞ神信心
(かみしんじん)なんぞしはらへんのに。まあ、よろし。神信心は止めたもんに罰(ばち)が当たる言(ゆ)いまっさかいな。行(い)といなはれ(お行きなさい)
 せやけど、あんたの天神さん、お白粉ぬって、紅
(べに)さしてるんちゃうか」
「あほなことゆうな」
「あ、せや。もうじき、寅ちゃんが学校から帰って来るさかい、寅ちゃんも一緒に連れて行っとくんなはれ」
「あかん、あかん。あんなやつ連れてってみぃ、『あれ買え、これ買え』てうるさいさかい、あんなん連れていかん」
「ええ?そんなこと言わんと連れとくんなはれ。それとも何か?寅ちゃんがついて行ったら困るような天神さんだすんか?」

 夫婦(みょうと)がもめてるとこへ帰ってまいりましたのがここの小倅(こせがれ)の寅こ。

「お宅ら、よぉもめますなぁ。中に立った柱で、つらいつらい」
(と、胸を押さえる仕草)
「死んだおかん
(母親)と同じことゆうとる」
「あ、おとっつぁん、羽織着てるな。また、便所行くんか?」
「腹立つこと言いやがって。便所になんぞ行かんわい」
「ほなどこ行くねん?」
「やいと
(お灸)すえに行くのや」
「へぇ〜。僕もすえに行こかな。こないだから疝気が突っ張って、去年の暮れから四十肩で」
「親、なぶってくさるな。天神さんにお参りに行くけど、お前は連れていかん」
「ええ?そんなん言わんと連れてってぇなあ!なあ!なあ!なあ!」
「お前のなあ!なあ!聞いてたら頭痛
(あたまいと)なってくるわ。連れていかんゆうたら連れていかんのじゃ!」
「連れてってやぁ!なあ!なあ!それとも何か?その天神さんは、わいを連れてったら具合の悪い天神さんなんか?お白粉ぬって、紅さした・・・」
(女房に向かって)お前、こいつに何ぞ教えてるやろ?」


「なあ、なあ、なあ!どうしても、あかんのぉ?どうしても?
 ほたら、わい、ゆいたない
(言いたくない)ことの一つもゆわんならん(言わなければならない)
 わぁぁ、向かいのおっさんやぁ。ええんかなぁ?おとっつぁん、おもて、歩きにくなるでぇ」
「おっ、親、脅してけつかる。おとっつぁんには、聞かれて困るような話なんかあらへんわい。何でもゆえ!」

「ええんかなぁ、ほんまに、それで。

 でや、おっちゃん、おもろい話、聞きたないか?」
「おっ、聞かしたってぇな
(と、身を乗り出し)
 おっちゃん、寅ちゃんの話、好っきゃぁ。いつも手に汗握るさかいな」

「こないだの晩の話やねんけどな。おかあはん、いつもやったら、学校の宿題したんか、とか訊くねんけど、
その日に限って、寅ちゃん、はよ寝んねしなはれゆうて、寝かそう、寝かそうとすんねん。
 で、わい、寝間
(ねま。ふとん)に入ってんけどな。そのうち、お酒呑みに出てたおとっつぁん、帰ってきてん。

 おとっつぁん、酔うて帰ってきたら、わいにおっきな声でおんなじこと、何べんもゆうたりすんねん。
 せやから、わい、ああ、今日も悲しい夜になんのかいなぁ?て思てたら、おとっつぁん、その日は、大きな声出さんと、帰るなり、おかあはんに『でや、寅こ、もう寝たか?』て、たんねてん
(尋ねてる)ねん」

「それは、ちょっと、おもしろそうなことになってきたなぁ」
「わい、寝たふりしててんけどな。
 ほたら、おかあはんが『ちょっと待ちなはれ。寅ちゃん、まだ起きてるかもしれまへん。
 ちょっと、待ちなはれって。あかん、そんなとこ、手ぇ入れたら、冷たいがな』・・・」

「あんた、ちょっと寅ちゃん、止めなはれ。向かいでえらいこと、ゆうてまっせ」
「寅こ、頼むさかい、帰ってきてくれ。なに?はい、後悔してます」
「ははは、おっちゃん、ごめんな。おとっつぁん、天神さん連れてってくれるゆうてるさかい、帰るわ」
「ええ?ちょっと待ちいな。そんな殺生な。
(寅の袖をつかまえて)おっちゃん、こづかいやるさかい、続き、聞かせて」

「かか、向かいのおっさん、あらアホやで。寅こに頼んでけつかる。

 お〜い、寅こ!ええから、銭だけもろて、黙って帰ってこい!」


 親父はしぶしぶ息子を連れて天神さんへ。
 なお、「天神さん」とは菅原道真公を祀る天満宮(てんまんぐう)のことで、京都は北野天満宮、福岡は大宰府天満宮。大阪だと、「天満の天神さん」とか「大阪天満宮」とかいう。


「おっ、寅こ、今日は、あれ買
(こ)うて、これ買うてってゆわへんな。そない、おとなしいしてたら、おとっつぁんも、どこでも連れてったるねや」
「あ、おとっつぁん、わい、おとなししてるの気ぃついてくれた?
 子供がこんだけ気ぃつこてるんやから、ぼちぼちそっちの方から気ぃきかして、何ぞ買うたろかとゆうてくれても・・・」
「おかしな言い方すな。欲しかったら、欲しいとゆえ。しやけど、何でもちゅうわけにはいかんぞ。まあ、飴か何ぞやったら、買うたってもええな」
「おとっつぁん、買うてくれるか?」
「売ってたらや」
「そこに売ってる!」

「こら、飴屋。こんなとこに店出すな!」
「ええ?わたいとこ、定店
(じょうみせ。屋台ではなく常設の店)でっせ」
「定店でも、今日やみな、休まんかい!
 おお、寅こ。どれがええねん?おとっつぁんが口にほうりこんだる。
(指につばをつけて、飴をつまみ)どや?この赤いのは?
 何、赤いのは甘すぎる?
(再び指をなめて、次の飴をつまみ)ほな、この白いのんは?ん?白いのんはハッカで、スースーするからいやや?
そうゆうことは先にゆえ。
(また、指をしゃぶって)ほな、この黒砂糖のやつは?」

「ちょ、ちょっと、大将。そない、指ねぶって飴さわったら、きたのうて、後、売れまへんがな」
「そやかて、こないせな、くっついて取れへんやないか」
「ゆうてくれはったら、ちゃんとくずすもんがおまんのや。これでっか?
(のみと金づちのようなもので、飴をくずして渡す)


「寅こ、ゆうとくけど、噛んだらあかんぞ。舌の上でロレロレするんや。
 甘い汁がでてきたら、それを吸うて、噛まなんだら三日はもつさかいな」
(飴をなめながら)おろっつぁん、そんなもん三日ももつかいな。え?よられ?
 わいら、あめちゃんねぶって、よられ出すような、そんな素人やあれへん。
 わいら、あめちゃんねぶりながら、うら
(歌)かて、うらえるれ。うろてみよか・・・」
(頭をどついて)生意気ぬかすな!」
「うぇ〜〜ん」
「どないしたんや?」
「おとっつぁんがいきなりどつくさかい、飴ちゃん、落としてもた」
「どんくさいやっちゃなぁ。落としても、すぐ拾て、洗
(あろ)たら食える。どこに落としたんや?」
「のどの穴」
「食てもたんやないか。どもならんで、ほんま」


「おとっつぁん、みたらし
(団子)買うて!」
「うるさいなぁ。売ってたらな!」
「そこに売ってる!」
「最初から目ぇつけとんのやな。おっ、大きいのと小さいのがあるんか。値ぇが倍からするがな。
 はは〜ん。あら、大きいのは今日は売ってへんみたいやぞ。おとっつぁん、団子屋のおっちゃんに聞いてきたる。

(声をひそめて)おい、団子屋。わいがゆうても信用せえへんさかいな。お前の方から大きいのはないと、うまいことゆうてくれ。頼むぞ」

「ああ、ぼん。大きい方にしてもらいなはれ。
 さっき来た子ぉな。そこに水たまりがおますやろ。大きい方買うてくれへんかったら、そこの水たまりで寝るぅ!ゆうて買うてもらいはった。ぼんも、その手、使いなはれ」

(慌てて)こら!団子屋!こいつは、するゆうたら、ほんまにすんねや。(仕方なく大きい団子を買い、団子屋を睨みながら)生涯恨むからな。

(団子を受け取り)うわっ、蜜(みつ)が垂れてきた。(団子の蜜をズルッとすすり)子供の着物が汚れるやないか。

 どうせやったら、つけ焼きにせんかい。
(ズルッ)そしたら、ちょっと家にでも土産に買うて帰れるてなもんやないか。(ズルッ)
 こんなもん、うまいことも何ともない。
(ズルッ)どうせ、みつゆうても葛か何ぞ混ぜたんねやろ?(ズル)
 いっぺん店、掃除せえ!食べもん商売やろ
(ズル)お前もひげ剃れ!ひげを!(団子を上から下まで往復してしゃぶって、息子に突き出して)さぁ、寅こ、食え!」

「ええ〜??おとっつぁん、みたらし、ゆうたら蜜がいっぱい付いたぁって、みたらしやで。これ何や?白いボンボリさんが四つ並んでるだけやないか」
「うるさいやっちゃなあ。おっ?団子屋。その前にあんのん、何の壷や?」
「あ?こら、蜜の壷です」
(いきなり)ちょっと付けさせて!(と、団子を蜜壷に突っ込み、息子に渡す)
「あ!そんな無茶な・・・」


(垂れてくる蜜をすすりながら)こら、おとっつぁんのゆうとおりや。(ズルッ)こない蜜が付いたぁったら、着物汚して、おかあはんに怒られる。(ズル)
 付け焼きにしたらええねん。付け焼きに
(ズルッ)
 ほんまに、いっこも、うもない
(うまくない)・・・・・って、けっこうおいしいな(ズル、ズルと往復してしゃぶりつくし)

 おっちゃん、わいもつけさして!
(と、団子を壷にドボン!)

 


  どうも、お退屈さまでした。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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