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(No67) 「日本の話芸」 TV鑑賞記  

 NHKで放映されている「日本の話芸」というのは、東京の噺家さんも放映されるのでなかなか貴重。

 


(1) 桂三枝 「誕生日」

 
2007年10月20日放映。
    こないだ東京で仕事がありまして、午後何時の新幹線に乗って大阪に帰らんとあかんかったんですが、途中で車が混みましてね。

 東京駅に着いたんですが、ホームまで遠くて。

 マネージャーが必死に「もっと急いでください!急げないんですか!」とかゆうんです。

 こっちも必死に急いでる・・・・ゆうねん。気持ちはあるんですが、身体がついてこんのです。

 そしたら、私の横を、そうですねえ、私より年上や思うんですが、年配のおばちゃんが階段をさっ!さっ!さっ!っと駆け上がっていくんです。抜かれてしもて。

 おばちゃんは元気やなぁ思て見送ったんですが、その後で、ああ、間に合わんかったなあ思てホームに上ったら、新幹線が発車せんとまだホームにおるんです。

 何でかな?思たら、さっき抜いていったおばちゃんが、新幹線の扉のとこ立ちふさがって、「○○さん、はよ!はよ!新幹線待ってくれてる

 何も待ってへん。そのおばちゃんが無理やり止めてるんです。

 駅員も慌てましてね。「あの、それは・・・」って注意しに行ったんですが、「待ったりぃ〜〜な!!
(待ってあげなさいよ)
 「待ったりぃ〜〜な!!」でっせぇ。私、イタリア語か思いました。

 まあ、そのおばちゃんのお陰で私もその新幹線に乗れましてね。
 それで新大阪着いて、歩いてたら、「ちょっと、ちょっと!」と呼び止められまして。ふと、振り返ったらさっきのおばちゃんですねん。何せ新幹線止めるくらいのおばちゃんやから、三枝呼び止めるくらい何でもあれへん

「あんた、三枝さんちゃうの?」
「は、はあ・・・。そうですけど」
「せやろなあ。そういやぁ、よぉ似てるわ」・・・・・・。

 サインして。色紙もってへんから、この紙に・・・・・ゆうて、ボールペン渡されましてね。はい、わかりましたゆうて、サインして渡したんですが、何か難しい顔して眺めてはってねぇ。
 これ、桂三枝?どないやって読むのん?て言わはって。いや、ここ、「かつら」って平仮名で書いて、あと、三枝って、こうサインの字ぃで・・・って説明したんでっけど、後でわからんようになったらあかんから、ちょっと横に普通の字ぃで「桂三枝」って書いてくれへん?って言わはりまして。

 しゃあないから、自分のサインの横に普通の字ぃで、「桂三枝」て書きました。何ぞの申し込み書みたいやなあって思いましたけど。

 で、そのおばちゃんが言わんでもええのに、連れの人に声かけまんねんなぁ。
「なあ、○○さん、あんたも三枝さんにサインもろたらどう?」って。ほっといたらええのに。
 で、言われた方も適当に合わせりゃええのに、
「え?私、いらん」・・・・・。
 そうゆうてんねんから、そこで「あ、そう」ってゆうたらええのに、「そんなん言わんと。せっかくやのに」て追い討ちかける。
 で、また言われた方も
「いらんて!ハンカチ王子やったら、もらうけど」。

 ここまでで傷付いてまんねんけど、その後の言葉で私、がく〜っとなりましてん。
「ぜいたく言いな。三枝で辛抱しとき


 ちょっとボケ始めた父親の米寿祝い。パーティーの主催者である長男真一郎は既に還暦である。
 父親はパーティー控え室で妻と、この頃息子や孫の名前が覚えられないという会話をしている。

「長男が・・・・」
「真一郎ですやないか」
「あ、ああ。あの頼んない・・・」
「そんなこと言うもんやおませんで。今日の祝いかて、みんな真一郎が段取りしてくれたんでっせ。ほんで、次男が・・・」
「竹次郎。あいつは惜しいことしたなあ。事故で亡くなってしもて・・・。男らしい、ほんまええやつやった。・・・・真一郎と代わってくれたらよかったのに・・・」
「何てこと言わはるんですか!ほんで、三男があんたのお気に入りの・・・」
「周平!今日は来てくれるんかなぁ?」
「周平はロスでっさかいなぁ」
「え?周平は留守?」
「ロス。ロスアンゼルスにいてますから、無理でしょう」
「そうかぁ。会いたいなぁ。孫がいてたなぁ。ハーフで。くるみとミルク」
「よぉ、覚えてはりますなあ」
「嫁さんも外人やのに、名前は大阪弁やったなあ。あんじょうやったりぃな
(うまいこと、やってあげなさいよ)って」
「アンジェリーナですがな。さあ、お父さん。みんなが記念写真撮ろうゆうてましたから、行きましょう」
「ええ?面倒くさいわ」
「そんなこと言わんと」
「えらい勧めるなあ。あぁ?わしの葬式の写真に使おう思てるなあ?」
「それはもう撮ってます」
「・・・・・・・・・・何や、せわしない
(慌しく落ち着かない)なぁ」


「あ、お父さん。お待たせしました。ほな、会場に行きましょう。ビンゴ大会の準備も整っているんです」
「あ・・・竹次郎。え?誰が貧乏大会やねん?」
「貧乏やのうてビンゴ大会です。それと、僕は真一郎ですよ。さ、行きましょう」
「竹次郎。わし、疲れたから、もう帰るわ」
「そやから、僕は真一郎ですって。何ゆうてはるんです。みんな待ってるんですよ。はよ行きましょう」
「せやけど、もうしんどいし・・・」
「お父さん」
「あっ!周平!よぉ来たな」
「ええ。お父さん、今日のパーティーはいろいろ真一郎兄さんが準備に苦労したんですよ。さあ、行きましょうよ」
「・・・せやなぁ」

 
 何とかパーティーは無事終わり、老夫婦は帰宅した。パーティー会場のホテルのバーで、長男を中心に子供たちが打ち上げの二次会をしている。

「やあ、みんな今日はお疲れさんやったな。しかし、周平。お前、俺がローソクは8本でええんやないか、ゆうてんのにせっかくやから88本立てましょうゆうたけど、あら失敗やで」
「何でですか、真一郎兄さん」
「そやかて、親父、必死に全部消そう思て吹いたから、入れ歯が飛んでケーキわや
(駄目)になったやないか。お前だけはうまい、うまいゆうて食うてたけど。

・・・・・・・・・・しかしなあ、俺は、どうも納得がいかんねや」
「何がですか?」
「何がって、せやないか。俺のこと、親父はいっつも竹次郎、竹次郎ゆうて名前間違えんねや。
 せやのに、たまにしか会わん周平のことは、1回も名前を間違わんかった。俺がゆうてもきかんのに、周平がゆうたら、すぐ従うし。

 親父は、俺よりよっぽど周平のことが可愛いんやと思う。
 ひょっと、親父が遺言に遺産は全部周平に譲る・・・てなことを書いてるんやないかと思うんや。
 おい、邦子。お前、いま、親父と一緒に暮らしてるんやから、ちゃんと、親父が普段ゆうてること、ちゃんと書き留めといてくれよ。もう、親父はボケてしもてるんやさかい」
「・・・・・・・・・兄さん。そら間違ごうてる。親父はボケてるんやない。悟りの境地に入ったんや。

 兄さん、自分ばっかり名前が間違えられてるゆうけど、僕かて、最初は、よお名前を間違えられてたんや。でも、僕は、間違ごうて呼ばれても、ハイ、ゆうて返事してた。そしたら、親父はちゃんとわかって直すねん。
 それを兄さんみたいに、違う、違うゆうて、そのたんびに訂正するから、親父はプレッシャーがかかって、逆によけい間違ごうてしまうねん。

 だいたい、もともと親父がつけた名前やないか。そんなん、親父の好きなように呼ばしたったら、ええやないか。

 遺産かて、親父に遺産なんかないやろけど、もし仮に僕に全部譲るって書いてあっても、僕はそんなん要らん。みんなで分けてくれたらええから、どうか、親父を大切にしたってくれよ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・これは、俺がわるかった。・・・・・・・今日はみんなありがとう。これからも親を大切にして、兄弟もみんな仲良くしよう。ほな、乾杯や!」

 パーティーの後、父親の家を訪ねた長男、真一郎。

「こんにちは」
「おっ、竹次郎やないか?」
「・・・・・・・はい」
「い、いや、真一郎、どないしたんや?」
「いえ、何でもお父さんが、家に呼んでるて聞いたから」
「ああ、せや、せや。こないだは楽しかったな。あの後、周平が来てな。あのパーティーでは、だいぶ真一郎兄さんがお金出してはります、てゆうてたんや。
 せやから、ちょっと、これを受け取ってくれ」
「え?お父さん、これ何ですのん?」
「いや、せやから、わしの気持ちや」
「え?お父さん、そんなん、受け取られへん」
「遠慮すな。昨日老人会でもろた饅頭や」
「・・・・・・・・・・」
「冗談や、冗談。これ取っといてくれ、50万」
「え?50万も?」
「50万に47万足らんねん」
「ええ?」
「いや、感謝の気持ちや。ほな、竹次郎」
「・・・・・・・はい」
「あ、いや真一郎。受け取ったら、帰りや」



(奥さんが)「お父さん、真一郎には渡してもらえましたか?」
「ああ、渡した。50万や、47万足らんけど、ゆうて」
「そんな、いらんことを」
「せやけど、真一郎、あいつ若いのに、もうボケとるなぁ」
「何でです?」
「そやかて、あいつ・・・・・・・・自分の名前、覚えとらへん」


 ホテルのラウンジでの兄弟による二次会のシーンでは、バックにピアノ演奏が流されていた。なかなか、しゃれた演出。

 桂三枝の「新作落語」は、将来の古典落語になる可能性を秘めていると思う。



 

  



 

 どうも、お退屈さまでした。録画はしてますが、何度も確かめてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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