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(No68) 「互助寄席」 鑑賞記 その1  

 ある団体が大阪府下在住の人を対象に、11月7日に寄席に招待する・・・という催しがあった。幸い抽選に当たったので聴きに行った。何せタダなので、それほど期待していなかったのだが、何とバリバリの米朝一門会だった。
 


(1) 桂佐ん吉 「いらち俥」

 
高座に登場して名前を名乗ると会場から盛大な拍手。「いやぁ、嬉しい!もう、いつ死んでもいい!」と大喜び。
   私も最近各地でお仕事をさせていただくようになりまして、もう北は北海道から、南はナンバまで。

 そら冗談ですが、私の家から新大阪
(新幹線の駅名)まで30分くらいかかるんです。今、新幹線やったら2時間半くらいで東京に行けますので、大体片道で3時間。往復6時間かけて東京行って・・・・・・・仕事は15分。ちょっと不条理なものを感じます。

 さて、昔の交通手段といいますと人力車ということになります。人間が引っ張りますので、何や遅いように思えますが、あれで大きな車輪がついてますんで、加速がつくとなかなか速かったそうで。

 明治時代には、速い人力車やと市電を5台抜いたてな話があったそうです。停電の時の話やそうですが・・・・・。


「もう・・・かなんなぁ。急
(せ)いてる時に限って俥が見つからんのやからなぁ。え〜と・・・。あっ、おったけど、居眠りしとる。しかし、ほかにおらんしなぁ。しゃあない。
 おい!梅田のステンショ
(駅のこと)、頼むわ」
(寝ぼけて)「へ?頼む・・・と言いますと?」
「いや、梅田の駅まで行きたいねんがな」
「は?は、はぁ。それやったら、この道をま〜っすぐ行って・・・・・」
「・・・・・・・・せやないがな。おまはんの俥に乗せてもろて梅田のステンショに行きたいねんがな」
「何や、それやったらそうと早よゆうてくれたら・・・・」
「ゆうてるがな、最初から」

「何ぼで行きまひょ?」
「何ぼて、そんなもん、そっちからゆうもんやろ?」
「そっちからって、あんた、わたいの言い値では、よぉ乗らんやろ?」
「何?ゆうてみぃ」
「ほな、10万円」
「あほゆうな。相場でええやろ?10銭でどや?」
「あんた、うそでもこっちが10万円でゆうてるのに、なんぼ相場や、ゆうたかて10銭て・・・・・行きまひょか」

 「梶棒を上げる時がよほど危険ですので」と注意する車夫。
 客が乗り込んだが、人力車は後ろにそっくり返り、客の顔は天井を向く。車夫は片手を必死に伸ばし、つま先立ち。
 客にぐ〜っと前に傾いてもらって、ようやく走り出す。「危なおまっせ」と言いながら俥を引いているが、そのおぼつかない足取りに「お前の方が危ないがな」と混ぜ返される。

「うだうだ言いなはんな。まっすぐ歩いてるだけマシなんでっせぇ。こないだまで、わたい、おんなじとこグルグル回ってたんやから」
「そやかて、遅すぎるがな。ほれ見ぃ。若い奴の俥が抜いていったがな」
「若いもんには花、持たせまひょ」
「若いもんだけやないで。年寄
(とっしょ)りも抜いていったで」
「年寄りにも花持たせまひょ」
「そら、花持たせすぎやで」
「花が多い方が葬式は賑やかな」

 よくある演出では「花が多い方が葬礼(そうれん)は賑(にっぎゃ)っかな」という古い言い回しを使うが、ここでは、はっきり「葬式」と言っていた。

「わたい、こないだまで入院してましてん。お医者はんから、あんたは心臓が悪いねんから俥引いて走るなんて大胆なことしたらあかん言われてまんねん」
「ええ?それにしても、あんた、そんな身体でよう俥引いて歩くだけでも歩けんなぁ」
「いや、わたい俥引いてるさかい、歩けまんねん。俥がなかったら支えがのぉて・・・・」
「・・・・・・もぉええわ。ここで降りる。5銭でええやろ?」
「そやかて、10銭の応対
(約束)・・・」
「しゃあけど、なんぼも走ってへんで。ほれ、乗ったとこ、まだ見えたぁるがな。いったい、梅田のステンショまで、どのくらいかかんねん?」
「まあ、4日もみてもろたら・・・・」
「・・・・・・・わかった。10銭払うよって、堪忍してくれ」
「おおきに。わたい、あこの柳の下に出てますよって、また、ごひいきに」


「誰が二度と乗るかい。えらい目におうた。どこぞに足の達者な俥屋はおらんかいな?」
「へえ!大将!俥、どうでやす?」
「おぉ、元気ええな。おまはん、声は達者なが、足は達者なか?
(声は元気だが、足は速いのか?)」
「何ぃ?韋駄天の寅、ゆうのはわいのこっちゃ。こないだも急行と勝負して、高槻で抜いた・・・」
「ほんまかいな?」

「えええええええ〜!」と声を上げながら突っ走る俥屋。
 客はのけぞって、振動で頭をガクンガクンさせる。
「止めてくれ〜」と叫ぶ客に「気ぃつけんと、こないだも客が舌かんで死んだ」。

「向こうから市電が来てる〜!止まれ〜」と客は絶叫するのだが、俥屋は、なおも叫びながら疾走をやめない。
「市電が早いか、わいが早いか、・・・ちょうど、合うか」
「合(お)うたらあかんがな。あああああ」

「あんた、運がよろしい。たいがい後ろだけいかれまんねん」

 あっと言う間に箕面まで行ってしまった俥屋。帰りにも市電と勝負する。


 なかなかおもしろかった。


 

 


(1) 桂歌之助 「阿弥陀池」

 
本ネタとうまく関連付ける、巧みなマクラであった。
    唐突ですが、私、双子でして。それも一卵性。限りなくクローンに近いんです。

 弟は東京で音楽関係の仕事してまして。まあ言えば、二人とも芸能関係の仕事をしてるんですが、その他にも共通点がありまして。
・・・・・・・二人揃って、くすぶってるんです。

 事情があって、中学、高校、予備校・・・・・と別の学校に行ってたんですが、高校にあがった時、別の学校から来た、同じクラスの三国君ゆう子ぉに妙な感情を抱きましてね。妙な感情ゆうても、変な意味ちゃいまっせ。

 親近感ゆうんでっか?ちょっと話をしてたら、弟と同じ学校で、隣のクラスにいてたらしいんですな。それだけやのうて、何や雰囲気が似てましてね。

 ほんで、家帰って、弟に「お前、三国君、ゆう子ぉ知ってるか?」て聞いたら、向こうの方が先に「ああ、知ってる。お前にそっくりや」・・・・・・・。人をからかおうとして、反対に足すくわれるゆうのは、よぉあるこってす
(ことです)が。


 本編は基本的に以前聴いた噺とそれほど変わった点はない。

 以前聴いたこごろうが省略していた
「こんな話、聞いたか?」「おお、今、お前に聞いた」と言われ、「効かん(聞かん)筈や。糠に首(釘)や」というオチが言えないギャグもきっちり入れていた。

 自分も誰かを騙してやれ、と友達の家を訪ねる。

「お前、米屋に盗人入ったん知らんの?ほんまに知らん?いやな、夕べ、へへへ、東の辻の米屋に、ふふ、盗人が入って・・・」
「どうでもええけど、何でそない嬉しそうやねん?」
「盗人、まっぱだかで入りよってな。抜き身ぶら下げて」
「そら、刀の抜き身ちゃうんか?おやっさん、驚いたやろな?」
「何の。おやっさん、腕ボロボロやねん」
「・・・それ、ひょっとして腕に覚えがある、か?」
「若い頃、十三
(じゅうそう。大阪の歓楽街の地名)で修行して、柔らかい餅食うて、腹とおしてる(下痢してる。全体の元ネタは「柔術の修行をして、柔(やわら)の心得がある」)
「・・・・・お前のゆうこと、わからん」
「昔からゆうやろ。生麦、生米、生卵・・・・・。ちゃうな。生びょうたんは青びょうたんのもと、て」
「それもゆうなら、生兵法は大怪我のもと」
「そのもと!そのもと!
 おやっさん、盗人が飛びかかってきたとこ、ぱぁ〜っと西の宮
(兵庫県の地名)をかわした」
「西の宮?」
「西の宮ちゃう。西の宮で有名なもんは?」
「恵比寿さんか?」
「えべっさんは、かわしにくい。えべっさんが持ってるもんは何や?」
「魚釣竿か?」
「竿の先」
「てぐす
(釣り糸)
「その先」
「浮きか?」
「浮きの先や」
「針」
「その先!」
「エサ」
「どつくで!白髪増えるわ。エサに食らいついとる魚」
「そら、鯛やろ」
「鯛?そうそう!体
(たい)をかわしたぁ〜〜!」
「・・・・・こっちがどつきたいわ」
「ほんで、おやっさん、夜這いに行った」
「落ち着け。それやったら、どっちかゆうと、おやっさんの方が怖い」
「いや、四つん這いになったんや。そしたら、盗人がかねて用意のがま口を出して・・・・?ちゃうな。出口・・・入り口。薄口、濃い口・・・・・・・ああ、匕首
(あいくち)、匕首!
 それで、下からおやっさんの心ネコをぐさっ!」
「心ネコ?」
「いや、心イヌ・・・心ブタ・・・・。長いもんやねんけどな。心にしきへび・・・・・。ちゃう、ちゃう。鼻の長いもんて何や?」
「天狗か?」
「心天狗・・・・・・ちゃうがな。わからんかな?ぱお〜ん、ゆうやつ」
「象かい?」
「そう、心臓、心臓。・・・ああ、しんぞう
(しんどぉ。疲れたという意味)」 


 結局、そこでは騙せず、次のカモを物色しているうちにかなり遠くへ。

 東の辻には米屋がなく、裏の米屋に盗賊が入ったことにしたが、親父さんは高齢、息子は幼少ということで、被害者をそこの若い店員に設定。ところが、彼はその家の奥さんの弟だったので、大騒ぎに・・・・というのは通例とおり。

 気が付いた点としては、
(1) 最初に騙される時の会話で、
「『誰が行けとゆうたんや』『阿弥陀が行け(池)と言いました』・・・って、よおできてるやろ、このシャレは」と表現。
 これ、通常は「この仁輪加(ニワカ)」と表現する。ニワカというのは、伝統的なショートコントのようなものをさし、いまだに博多ニワカなどもあるが、段々わかりにくくなってるので、「シャレ」と置き換えたのであろう。
(2) 次に「糠に首や」と騙される場面では、騙す男が「う〜ん。味わい深い!」と自分で感心するところがおもしろかった。
(3) 騙す相手を探すうちにだいぶ遠くに行ってしまうという場面で「知らん人の家に行くわけいかんしなぁ。え〜っと、ここは、知らん。この家も知らん。・・・・ここも知らん。わい、友達少ないなぁ・・・」と慨嘆するところが面白かったし、遠くまで行ってしまうことも説明できて良いと思った。


 歌之助はなかなか良いのだが、何か少し型にはまったようなところがあるので、どこか突き抜けるとずっとおもしろくなると思う。


 

 

  



 

 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが録音等はしてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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