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(No62) 京都ミューズ落語会 米朝落語会 鑑賞記その3 平成19年10月17日(水)、午後6時30分から京都府立文化芸術会館で開催された米朝落語会の鑑賞記・・・・の続き(完結編)。
(5) 桂小米朝 「掛取り」
会場配布のリーフレットによると、昭和33年生まれで、昭和53年に父・米朝に入門。
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来年秋に、父米朝の師匠であった米團治の襲名予定。五代目となる。
先日、堺で聴いた時は、芝居の真似で借金取りを追い返すところで、歌に堺の地名を織り込んでいた。
今日は、京都らしい「掛取り」にするのか?と思っていたら、案の定、そうであった。
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先日、横浜のにぎわい座というところに出さしていただいたんですが、関東は関西と笑いの感覚が違いますね。ただ、おもしろおかしいだけでなく、知的な笑いが入ってないと笑いません。
それと金銭感覚も全く違います。東京は、高いもんの方が値打ちがあると考えてます。名古屋も、そうゆうとこがありますね。
京都はどうでしょう?京都は、どっちかとゆうと、大阪をバカにしてるとこがありますからね。ですから、大阪みたいに「安い方がいい!」とは言わんけど・・・・・やっぱ関西ですからねぇ。高い方が・・・とは思ってないと思います。
大阪は「これ、100均(100円均一ショップ)で買うてん!」「めっちゃ、ええやん!」・・・・・て、こうですからね。
(人差し指を立てて、両側に手を正反対に伸ばしていく)全然、方向が違うでしょう?
大阪の人間は、海外に行っても「まけといて!」ですからな。
ほんで、まけたから払うか、ゆうと、そうやないですから。
「つけといて」・・・・・「その内に」・・・・・・・・「もう、あかん。自己破産やぁ」って。
まあ、日本全体が自己破産みたいなもんですからな。その元凶は関西人やと、東京の人は思てる。
支払いが、そうです。大阪人以外は、みんな銀行振り込みですからね。自分で買(こ)うたもんの代金やから・・・・ゆうて、自分で銀行行って、いろいろボタン押したり、手続して・・・・・ほんで手数料まで取られるんですが、それでも疑問を覚えない。
そこいくと、大阪人は請求書来ても、クシャクシャ〜丸めて捨てますからな。どうしても直接取りに行かな、ならん。ですから五・十日(ごとび。毎月5日、10日、15日・・・・と5日おきにまとめて勘定を取りにいく制度)に大阪では車が混むんです。
東京の人に「五・十日」とゆうても、わかりませんからな。
まあ、そんな関西人であっても、1年のアカはその年のうちに・・・・と考えますので、大晦日の晩の攻防は大変なことに・・・・・。
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最初の、友達のところを回る話、去年の死んだ振りをして「あん時は盛り上がったなあ」と振り返る話、クラシック好きな洋服屋を作曲家づくしで追い返す話、喧嘩好きな酒屋を「ヤワな店や。うちみたいな目腐れ金が欲しいんか?」と挑発し「いらんわい!」とタンカをきらせるとこまでは、ほぼ同じ。
芝居好きな醤油屋を芝居仕立てで迎えるところは同じ。
言い訳はこの扇面に・・・・というとこも同じだが、歌の文句が前回と違っていた。
「雪晴るる 賀茂の河原の夕間暮れ・・・・・」で「山城の京都の歌じゃな」と返すところから始まる。
前回、「晦日が北花田(堺の地名)」というところは「晦日が北大路(きたおうじ。京都の地名。来た・・・という意味)といった調子。 |
「〜声を烏丸で(からすまで。京都の地名。枯らすまで)。
御池(おいけ。京都の地名)にはまって、さあ大変。
汗深泥(みどろ。ジュンサイの名産地で有名なのが京都の深泥池(みぞろがいけ)という場所)のこの私。
近衛(このえ。吉田近衛町などの地名)のとおり、顔を伏見(地名)に伏し拝み。
〜 御前(おんまえ。地名)も百万遍(ひゃくまんべん。地名)も言い訳の山科(やましな。地名)。
〜 これもお前の嵯峨(さが。性)なりや。
〜 私の心は河原町(かわらまち。変わらない)。
〜 鞍馬の闇(くらまのやみ。鞍馬は地名。暗闇)に一条(いちじょう。地名)の光。
〜 大金持って、三条(さんじょう。地名。参上)する・・・・・・・・・・・賀茂(かも。地名)?
四条(しじょう。私情)をはさまず、九条(くじょう。苦情)を言わず。
今日はひとまず松ヶ崎(まつがさき。待つが先)」
(6) 桂雀松 「片棒」
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普通のおっさんのような感じの雀松。
昭和31年生まれ。昭和50年に故・桂枝雀に入門。
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それでは、わたくしの方とも、お付き合い願うのですが・・・。
まぁ、これも毎回ゆうておりますが、お付き合い願いたいと申しましても、結婚を前提にお付き合いいただきたいと申しているのではございませんので、ご安心ください。
まあ、冷静に考えてみますと落語てなもんは、おかしなもんですな。
誰もおらんのに「こんにちは!」てなこと、ゆうんですな。
それだけでもおかしいのに、また、それに「おっ、どないしたんや?まぁ、こっちぃお上り」・・・・なんてこと、ゆうんです。
一人でゆうて、一人で返事する・・・・・・。まともな神経ではできないのでございます。
まあ、こうした落語の形(かた。スタイル)がおわかりでない方がいらっしゃいますと、いろいろ苦労をいたします。
以前、ある所で落語をさせていただいた時のことなんですが、「こんにちは!」ゆうたら、前のおばあちゃんが、深々とおじぎをしはるんです。
で、「まぁ、こっちぃお上がり」てゆうたら、舞台に上ってきはって・・・・・・。おばあちゃんと二人では、やりとぉないなぁて思たんで、お引取り願ったんですが。
高齢化社会ゆうのが進みまして、日本ゆうのは世界一の長寿大国だそうです。
何でも100歳以上の方が日本全国で32259人いたはるそうです。まあ、何せ100歳以上の方でっさかい、こうゆうてる間でも一人や二人は減ってるかもしれまへんけど・・・・。
私どもの世界は、大変な高齢化社会でございまして、何せ定年退職という制度がございません。
上の方がくたばらん・・・いや、いや、おくたばりになられんので上がつっかえましてね。
まあ、あそこから(と、楽屋口を見て)、ここまで(高座を見る)歩ける体力がありゃあ良くて、この辺だけ(と、口の周りを扇子で指す)動けばええんですからね。
東京の噺家さんなんかの中には「あたしゃあ、高座で死ねたら本望だよ!」なんておっしゃる方がいてますが、周りのもんのことを全く考えてません。
こんなとこで死なれたら、いやでしょう?
まあ、お客さんの方は「ああ、珍しいもんが見れた」っておっしゃるかもしれませんが。
第一、誰がこの遺体を運ぶんですか?楽屋でジャンケンせな、いかん。
私どもで高齢といいますと、まあ、うちの師匠(米朝)と、明石家さんまさんの師匠の笑福亭松之助師匠のお二人でして、大正14年生まれです。
ほんま、二人とも元気ですわ。どっか、おかしいんちゃうかなぁ?て思うくらい。 松之助師匠なんてスイミングスクール通ってますからね。何kmも泳ぐそうです。バタフライのできる82歳って考えられまっか?
こないだも何やシニアの水泳大会で優勝しはったそうです。けど、何人出場したんですか?って聞いたら、「・・・・・二人や」ってゆうたはりました。・・・・・・・そら、優勝しやすい。
ここだけの話でっせぇ。うちの師匠なんて、高座から下りるなり、楽屋でもぉ、お酒飲んだはるんです。
最近、師匠は時々弱った振りをしはるんですね。そうでないと、周りのもんが大事にせんから。
お孫さんが7人、いたはります。まあ、小米朝が一人ぐらい隠しとるかもしれませんが。
一番上のお孫さんが、あまねちゃんてゆうんですが、近所に住んでまして。
5つ、6つの頃とゆうと、女の子でもイタズラ盛りですが、やはり師匠のお孫さんですから、叱りにくい。
そうしたら、師匠が「団朝!」、あ、団朝ゆうのが、その当時内弟子に入ってたんですが、「団朝!怒れ」。
団朝もびっくりして「え?師匠。怒らせてもろて、よろしぃの?」
「かめへん。躾けや」て言わはるから、団朝が叱ったら、あまねちゃんがうわ〜ん、て泣き出しはった。
そしたら、師匠がどぉ言わはった、思います?手招きして、
「あまねちゃん。怖いお兄ちゃんやなぁ。おじいちゃんとこ、おいで」。
・・・・・・・・・まあ、師匠やから、何してもよろしいけどなぁ。弟子使(つこ)て、自分が孫に好かれようとするんでっからなぁ。やっぱ、人間国宝ともなりますと、やりはることが違いますわぁ。
人間、周りのもんが亡くなりますと、自分が、後どのくらい生きられるのんかとか、自分が死んだ時、どんな扱いをされるのか、てなことが気になり出すと申します。
「これ、幸太郎、作次郎、徳三郎。今日は、お前さん方のお腹(なか)ん中を確かめておきたい。
私も世間から因業(いんごう)とか、ケチ
とか言われながら、この家の身代を築いてきましたが、
どぉ考えても、わたしの方が先に目ぇつぶる。そぉなったときに、兄弟三人でもめてもらうと世間体も悪いし、またわたしの後生にも障る。
そこでな、わたしの目の黒いうちにこの家を誰に譲るかはっきりさしとこと思いましてな。
わたしが死んだら、どんな葬式を出すつもりか聞かしてもろお。
まず幸太郎。お前さん長男じゃ、本来ならお前さんが継ぐもんやが、お前さんも弟二人
と同じ条件やで」
「お父っつぁん、どうぞ、そんなゲン(縁起)の悪
いことおっしゃいませんよぉに」
「いやいや、そぉ願いたい
けど、こればっかりはどぉすることもでけんし、お迎えは断っても来ますでな。
まぁ 気にせんとお前さんから何なと言ぅてみなはれ」
「そしたら、伊勢屋幸兵衛と申しますと、大阪でも、ちっちゃな子どもでも知ってる有名な金持ちでございますんで、遺徳を偲ぶためにも、しめやかな中にも盛大にやらしてもらいたいと思います。
わたしも前々から考えんことはなかったんです。
まあ、亡くなった晩はお通夜、翌日は親族だけで密葬と、これは決まっておりますが、一月後くらいに本葬ということで、これに総力を結集いたします。
まず四天王寺さんと本願寺さんからお寺さんをお呼びいたしまして、天満の天神さんと住吉っさんから神主っさん、島之内の教会から神父さんお呼びいたしまして、あと天理教とPL教団、金光教、ビリケンさんにもちょっ
と声をかけまして……」
「そないぎょ〜さん呼ぶんか?」
「いぃえぇ、こんな
ん、済んでから、しもた、あの神さんにお願いすんのん忘れてた、てなこと言ぅて間に合いませんから。
本葬の会場は広い方がよろしい。扇町公園なんか借りて、一般市民も呼びまひょう。
え?集まります、集まります。記念品と弁当配って、抽選会やったら、何ぼでも集まり
ます。
高いとこにお父っつぁんが金歯見せて笑ろてる写真を飾りま
して、知事や市長、
市会議員も呼びます。いぃえぇ、議員なんか、人が集まる場所やったらとなったら見境なしに来よります。
各界著名人、財界代表の挨拶なんかが済みますと、いよいよ除幕式です」 「除幕式?」
「銅像ですがな。左手に帳面持ちまして、右手にわし掴みにした算盤を、高々と差し上げまして。そばに、あぁ懐かしの渋ちん(しぶちん。けちん坊)の像、と。
そぉですなぁ、薬師寺の管長あたりに引導渡してもらいましょか。
次に、神父さんが『みぃなさぁ〜ん、こぉの哀れぇな子羊にお祈りを〜(外人のカタコト口調で)。祈れ、サタンの心を持った、このけがれた罪人のために』」
「やかましい。アホ。とうとう、ひとを罪人にしてしまいやがった。お前が長男やと思うと、涙も出んわ。
つぎ、作次郎、お前さんはどぉ思てなさる?」
「お父っつぁん、兄貴は、おかしぃのんとちゃいますか?」
「おかしぃと分かっ ただけでも、お前は偉い」
「だいたい、葬式てなもんは、遺徳を偲ぶより、あとに残ったもんのことを考えないかん、思います」
「なるほど、そうかも知れんなぁ」
「何ぼ立派な銅像立てても、お父っつぁんはお喜びやないと思います」
「当たり前や、懐かしの渋ちんの像やて、世間に恥広げてるよぉなもんや」
「わては、そんな無駄なことは一切(いっせつ)やめまして、お通夜も簡単に済まします」
「おぉ、無駄は省かないかん」
「ただ、場所だけは借りときまひょか。まぁ、大阪らしぃとこで、中座でもねぇ」
「中座か?わしの葬式、芝居小屋ですんの?」 「あそこは、せり上がりもあるし、宙乗りもでける」
「わいは、猿之助やないで」
「始まるまでにお父っつぁんの写真をロビーに貼っときます。
お父っつぁんが銭勘定してるとこやとか、因業な顔して借金取り立ててるところやとか、仲間内で談合してるところとかね、賞味期限のラベルを貼り変えてるとことかねえ。
そぉこぉしてる内に幕が開きます」
「幕?」
「女の子の甲高い声で、♪ そぉしき踊りは、よ〜いやさぁ ♪っちゅうと、
チョ〜ンと柝(き)が入る。それをきっかけにキタとミナミの綺麗どころが首から数珠を下げて狂喜乱舞するとゆう、これがまず第一部」
「第一部?」
「次の幕は、我々兄弟三人が古風に口上。幕が開きますとゆうと、花道から当代の名優が。団十郎はじめ、そうそうたる顔ぶれ。
『あッ、今日〜は、いかなる吉日(きちじつ)にて……』」
「何が吉日、や!」
「まぁまぁまぁ。次は、楽屋の鳴りもんにのりまして、中央の大セリからお父っつぁんの棺桶が。
これより伊勢屋幸兵衛君、名残のひと踊り〜とゆうなり、文楽の吉田簑助さんにお願いしまして、お父っつぁんの死骸を人形代わりにして、中座の舞台を所狭しと踊りまわる。 こんな形で踊ったり(と、妙にだらっとした感じで手を前後に振ったりしてみせる)、最後に首がギュッと伸びたりして、そら、凄惨な舞台です。
次に漫才の大木こだま、ひびきを呼んできて『往生しまっせぇ』って。チッチキチィ・・・・・・ゆうてね。
今度は宝塚とOSK(大阪松竹歌劇団。宝塚のバッタモンみたいな感じ・・・。失礼ご容赦!)合同でラインダンスか何かやって、いよいよ出棺。
霊柩車の出棺は、面白いことおまへんなぁ。祭りやし」 「祭りか?」
「えら(えらく、とっても、当然)祭りでっしゃないか、伊勢屋祭り、ケチ祭り。
そぉでんなぁ、京都の祇園から長刀鉾(なぎなたぼこ)でも借り
まひょか。
鉾の一番上には、お父っつぁんそっくりの張りぼてでできたゼンマイ仕掛けのカラクリ人形。お父っつぁんが算盤入れてるとこの。
これから道頓堀から大阪の街中練って歩きまひょ。(ばん!と舞台を叩いて)死に花、咲かせなはれ!こんなときだけや、
銭使うのん。
祇園囃子は、よろしぃでぇ、コンコンチキチン・コンチキチ〜ン♪(と、算盤を入れてる感じのロボットダンス風の人形振り)
チキチキチキチキチキチキ……」
「何してんねん?」
「お父っつぁんの人形、鉾の上で電線に引っかかったとこ」
「しょ〜もないことしてんねやないで。芸ぇが細かいなぁ」
「難波(なにわ)橋の南詰まで来ますと、こっから船です。こらいかにも大阪らしぃ、だんじり船。 ♪チキチン チキチン チキチン コンコン♪ チキチン チキチン チキチン コンコン♪
(と、男が、このお囃子を口真似)」
「うるさい男やな!」
「天神橋くぐって天満橋まで参りますとゆうと、今度は仕掛花火。パン!パン!パン!パパパパパ〜ン!
祝!伊勢屋幸兵衛君ご葬儀!おめでとう!幸ちゃん!・・・・・・・・・・・・・金鳥の夏。
最後にお父っつぁんの棺桶、大きな花火とともに大阪の夜空に打ち上げます。パパパパパ〜ン!
見てた見物人が『よぉよぉよぉ、上がった上がっ
たぁ〜、伊ぃ〜勢屋ぁ〜、ばんざ〜い!!』」
「ドアホ!とうとう、親の棺桶、打ち上げてしまいよった。次、徳三郎。お前さんだけが頼りじゃで」
「はい、お父様。わたくし先ほどからお兄様方の話を聞ぃとりまして、思わず落涙いたしました。そもそも葬儀とは、いかに死者の遺骸を処理するかに尽きるのでございます」
「そうそう。お前さん、上の学校へやってるだけあって、ゆうことに漢字が多い」
「わたくしは、節約を旨に、やらしていただきたいと思います」
「そら、ええ。どうゆう風にやりますなぁ?」
「わたくし以前、ものの本で読んだことがございますが、遠くヒマラヤ、チベットの山岳地帯へまいりますと、鳥葬と申しまして、死者の亡き骸を山の頂きに放り投げますと、ハゲタカでございますとか、ワシ、カラスといった獰猛な鳥が飛んでまいりまして、あっと言う間に始末をしてくれるそうでございます。 ですから、お父様の屍をうちの大屋根の上へ乗せまして・・・」
「ちょ、ちょっと待っとくなされ。カラスに目玉つつかれるっちゅうのは、なぁ・・・・・・・・・・」
「いえ、お父様。その時は既に痛みをお感じにはなりません」
「そらそぉやが、ご近所がうるさいやろし、第一、保健所も許さんよぉに思うで」
「なるほど、その意見にも一理ございますので、葬儀だけは行うことといたしましょう」
「お願いします(と、お辞儀をする)」
「まあ、お父様を古新聞に包むだけでもよろしいし、何でございましたらビニールの袋に詰めまして生ゴミの日ぃに出しても・・・・・・・・・。お父様、これはあくまでも
冗談です」
「お前さんの顔見てると、ひょっとやりかねんから恐いわ」
「棺桶も、葬儀屋に頼みますと、どぉしても言ぃ値で買わなければなりません。『高いと思たら、よそで買ぉてくれ』と言われましても、吊るし(既製品、大量生産品)の棺桶を町に買いに走るてなわけにもまいりません。
そこで、ここは発想を転換しまして棺桶を既存の別のもので代用する、とゆうことにいたします。そうなると、家の裏に何ぼでも転がってる漬けもんの桶を使うとゆうことで・・・」 「しかし、あれはちょっと臭(にお)いが・・・・」
「お父様、あなたは、もう臭気をお感じにはなりません」
「ちょっと小さいのんちゃうか?」
「なら、手足の二、三本もポキポキ折って・・・」
「お前さん、えらい嬉しそぉやなぁ」
「それから、霊柩車で出棺ゆうのも無駄でございますし、焼場へ持って行ってわざわざ焼くとゆうのも費用の面でも随分と無駄やと・・・・」
「ちょっと待ちぃな、何ぼ無駄やっちゅうたかて焼かんわけにいかんし、それこそ保健所でゴジャゴジャゆうてくんのと違うかい?」
「はい、世間ではちょくちょく火事といぅものがございます。ご近所で火事がございましたら、お父様の棺桶を担いで火事場へ急行いたしま
して、火の中へ投じます。
鎮火の頃に受け取りに行きますと、その頃までにはコ〜ンガリと焼き上がってると・・・」
「なるほど。お前さん、よぉそこまで考えなさった。偉い」
「あっ!えらいこといたしました。担いで行くのはよろしゅうございますが、担ぎ手がどぉしても
前と後ろ二ぁ人要ります。
前棒はわたしが担がしていただくとして、後を担ぐ者が、兄さん連中は手伝(てっと)ぉてくれんやろぉと思われますので、こら棺桶の担ぎ手の人足を一人雇わんならんちゅうことに・・・」
「めっそぉもない。そんなことすんねやったら、わしが出て担ぐがな」
どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音などをしてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
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