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(No56) 上方演芸ホール TV鑑賞記 平成19年9月18日(火)の午前0時20分から放映された番組の鑑賞記。
(1) 桂つく枝 「狸さい」
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最近、桂都丸がよく「上方落語界の将来のためには若年層を開発すること」が大事なので、小学校への落語会をよくやっている・・・・というのをマクラにしている。
つく枝は、最近保育園で落語会をしたらしい。「今日は、その時のネタをやらせてもらいます」と言って、噺に入った。
「狸さい」とは、ご存知のとおり、ある男に助けられた小だぬきが、ばくち好きの男のためにサイコロに化けて恩返ししようとする噺。
最後、男は「五」の目を出してもらいたいのだが、周りの者から「お前が数字を口にすると、その目が出るのが気持ち悪い。数字を言うな」と言われ、どう伝えようか悩む。 |
「五」といえば「梅鉢」、「梅鉢」といえば「天神さん」。そこでサイコロに化けた狸が「五」の目を出すことを期待して「天神さん!天神さん!」と声をかけて壷をあけたら、狸が冠かぶって、笏(しゃく)持って立ってた・・・・というのがオチなのだが、現在では非常にわかりにくいサゲとなっている。
5枚の花弁が特徴的なウメの花 |
ウメの花を図案化した梅鉢紋。
天神さんこと菅原道真公を祀る天満宮の神紋も、この梅鉢紋。 |
冠かぶって笏を持っている菅原道真公。
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要するに、「五」といえば、花弁が5枚のウメの花。ウメの花を図案化したのが梅鉢紋で、それは「天神さん」の紋なので、数字の「五」を期待して「天神さん!天神さん!」と言ったのに、狸はそれを理解できず、天神さんこと菅原道真公の格好をそのまま真似してしまった・・・・・というのだが、これは現在では大人でも理解しにくい。
そこで「冠かぶって、笏持って、天神さんの格好して立っていた」と説明してみたり、柳家小さんのようにホッペタをぷく〜っとふくらませて、表情のおもしろさを狙ったりする演出が多い。
で、今日のつく枝のサゲがどうだったかと言うと、バカつきする男を不審がり、他の男が狸の化けたサイコロを調べようとする。で、顔に近づけてみるとやたら臭い。
「何で、こんなに臭いねん」、「たあちゃん(狸の愛称)が屁ぇこきよったんや」というのがつく枝考案のサゲ。
これはダメです。保育園でやる時に、幼児は「ウンコ」とか「オナラ」が好きだから、このサゲでやるのは別によい。少なくとも、通常のサゲを理解させることは難しいだろうから。
でも、大人相手に同じサゲ使っちゃダメでしょう?
一応、賭場に行く前に男と小狸が打ち合わせをする時、「一の目は何や?え?逆立ちして、尻の穴?何や、におうようやな。おならしやんといてや」という会話をかわす伏線はあるが、サイコロが実際に臭くて、それは狸が本当におならをしたから・・・というのではヒネリも何もないではないか。
せめて「怪しい」という意味の「くさい」とひっかけるなら、少しはましかもしれないが。
ラストのサゲの部分以外(賭場の男が狸のサイコロを調べる時の変な転がり方など)は、クスグリなども一般的なものと変わりがない。特徴的といえば、やたら、男がゲラゲラ陽気なとこぐらいか。
ま、結論として今回のつく枝の「工夫」を私は評価しません。
(2) 笑福亭三喬 「転宅」
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上方では、愛人のことを「お手掛けさん」と申します。
これが関東では「お妾さん」。手ぇを掛けるか、目ぇを掛けるかの違いがございます。言葉てな、おもろいもんですなあ。まあ、することは同じなんですが。
肌が美しゅうて、つい手ぇでも触れとぉなるのがお手掛けさん。まばたきするほど美しいのがおめかけさん。 |
ほんで、さほどきれいやないけど、芝居や映画やとウロウロ出かけるのが「お出かけさん」・・・・・でっしゃろか。
わたくし、愛人に向くかどうかという五箇条を考えてきました。一緒に指を折っていただきたいと思います。私の考えたんは、こうゆう方は愛人に向いてないゆう五箇条でっさかい。
一つ目は、出かける時、常にカバンに飴ちゃんを入れている。待ち合わせの時なんかでも、いつも口を動かしてます。こら肥えますわ。年中、飴食てるんですからな。
二つ目。新聞を取ってきたら、まずスーパーの広告から見てしまう。愛人やったら、旦那と政治経済の話をしていただきたいので、本紙から読んでもらいたい。
三つ目。パジャマの上に1枚羽織っただけで、ごみをほかし(捨て)に行ける。愛人やったら、ちょっと出るんでも、薄化粧の一つもしてほしいとこです。
四つ目。ハミガキがなくなったら、チューブの真ん中を切って、こそげて使う。こら、所帯じみてますなあ。愛人ならパッと、ほってほしい。
五つ目。横山ホットブラザーズを見ただけで、「お前はアホか」と歌ってしまう。まあ愛人なら落語、漫才やのぉうて文楽、歌舞伎を鑑賞していただきたいですな。
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この「五箇条」は毎回やるようだが、他の時は二つ目を「満員電車の中でも、平気で551の豚まんを持って帰る」というので演るらしい。
551(ごぉごぉいち)の豚まん(大阪では「肉」とは牛肉である。よって豚肉が入っているのに、関東のように「肉まん」と呼ぶことは許されず「豚まん」と呼ぶ)は、確かによく匂う。
今回の「愛人やったら旦那と政治経済の話を・・・」というのはやや不自然。おそらく、これはNHKでやるのに「551」という一企業の名前を出すのが憚られて別項目を考えたのだろうが、オリジナルを超えられなかったというところであろう。 |
心斎橋を少し東に入った鰻谷(うなぎだに。大阪市内心斎橋周辺の地名)の粋な長屋の戸ぉが開いたかと思いますと、出てまいりましたのが、五十凸凹(50歳前後)、上品な着物を着た、いかにも旦那と分かる方。
続いて、出てまいりましたのが、年の頃なら三十そこそこ、色っぽい高島礼子風のえぇ女。もちろん、この旦那のおてかけさんですな。
「ほたら旦さん、あした五十円よろしゅうお頼の申します」
「あぁ、分かってる。あした朝一番でかめへんな。
それより、この頃世の中物騒やよって、戸締りだけはキッチリしときや。おまはん、こぉ見えても、締りのないところがあるよってにな」
「へぇ、ことに今日はお金もあるこってっさかい、気ぃ付けます。あっ、旦さん、わてもそこまで送って行きますよってに」・・・・と二人して出て行ったのをごみ箱の横で様子伺ってたのが、この泥棒でして。
「へっへっへ。さて、玄関をこじ開けてっと。(カラコロカラコロ)お、戸ぉ開いたぁる。旦那のゆうこと、さっぱり聞いとらへん。旦那も苦労すんで。
お、えらいお膳の上にご馳走(ごっつぉ)が乗ったぁるやないか。
こら鰻やな。久し振りや。味も忘れてもた。思い出すために、ちょっとよばれよ。・・ん、ん・・・うまい。唄も、うとたなぁ。♪うなぎおいし、かばやき〜♪・・・・・・・・・・ちょっと違ごたなぁ。
お、お膳の下に銚子があんで。(銚子ごと飲む)・・・・ええ酒やなあ。
わっ、あと一本ある。丸っぽ、カンザ(燗冷まし。燗酒を飲み残して冷めてしまったも)に、しぃなや(するなよ)。一本ずつ燗したらええのに。もったいない。
(銚子ごと飲んで)・・・あぁうぅ〜・・・・・うまい!記憶なくなりそう。
このマグロの造りも綺麗ぇなぁ、真っ赤ぃけぇやなぁ。わい、ずッとクロマグロの身ぃは黒いと思てたけど、あら、よぉ考えたら、腐った造り食とぉったんやなあ。
よし!わい、辛いの好きやさかい、ぎょ〜さんワサビ溶いて、よばれたろ。ん、ん。うまい。とろとろや。(わさびが効いてきて)ああ、来た、来た。(鼻をつまみ、上を向いて)うわっ、うわぁ〜っ、うわぁ〜っ・・」
「あんた、誰や?」
「うわぁ〜っ、うわぁ〜っ・・・・・・・・静かにさらせ」
「あんたがやかましいねん。あんた、誰やのん?」
「『誰やのん』て、お前、こないして夜夜中(よるよなか。反対語は昼日中=ひるひなか)に赤の他人のうち、断りもなしに入ってんねから、何の商売か分かるやろ?」
「富山の薬売りか?」
「何で、わい、深夜営業せなあかんねん。盗っ人じゃ」
「嘘言いなはれ。あっ、わかった。うっとこの旦さんに『あいつは何ぼ言ぅても戸締りしよらんさかいに、誰ぞ盗人役になってあいつとこ押し入ったってくれ』て頼まれたんでっしゃろ?
あんた、旦那のひいきの太鼓持ちか?あっ、法善寺の寄席に出てた噺家やろ?
そのボ〜ッとした顔見たら、あんた桂やない、笑福亭やな」
「そんなしょうもない噺家と一緒にすな。わいは、盗人やっちゅうねん」
「ホンマに盗人屋はん?何や、同商売かいな。あんた、わたいの顔知らんか?」
「同商売ゆうと、姐さんも泥棒・・・」
「素人くさい言いようやな。あんた、盗人なって、まだ日ぃ浅いな?」
「(敬礼して)はい!、去年の秋に開業したところであります」
「あてなぁ、三年前に足洗ろて今の旦那と一緒になったんやし。
名前教(おせ)たげるわ。有名な夜嵐のお絹の妹分で『隙間風のお杉』ゆうねんし」
「え?それはご挨拶が遅れました。自分は、鼠小僧次郎吉の流れをくむ二十日鼠一門の、はんぱのチュー太郎(芝居「瞼の母」の番場の忠太郎のもじり)と申します」
「まぁ名前みたいなもんどっちゃでもえぇわ。ちょっと相談乗って欲しぃことあんねんけど。
実はな、あて、あの旦那と別れよと思てんねやわ。いぃえな、根っからえぇお人なんやけど、商売人やろ?何かとソロバンはじきはる。お金に細かいねん。
で、手切れ話もトントンとうまいこと進んでな、今日五十円、あした朝一番で五十円、都合百円といぅ手切れ金が入んのん。
そこへあんたがこぉ
して入って来てくれたといぅことは、何や神様のお導きのよぉな気がしてんねやわ。」
「はぁ、神様のお導き・・・・と申しますと?」
「分からんのかいな。あてもいつまで
も一人で暮らすっちゅうわけにはいかへんやろ?どこぞにえぇ人があったら縁付きたいと思てたんやわぁ。
けど、わたし若い時分から、男はんは、こぉでなかったらいかん、といぅ決め、好みがあんねんわ。
あて、男前かなんねんわ。
少々不っ細工な男の方が浮気の心配がのぉてえぇよってに」
「はぁ、なるほど。おなごはんちゅうのは、いろんなこと考えまんねんなぁ」
「それと、あてボチボチ元の商売に戻ろと思てんのん。せやから、旦那も盗っ人やないとあかんねん。そら、せやろ?あてが盗人してんのに、旦那が刑事て、そら具合が悪いやないか。
それに、夫婦同商売の方が晩ご飯の時の話もはずみまっしゃろ」
「なるほどねぇ。といぅことは、姐さんの好みといぅのは『不っ細工な盗人』と、こぉゆうことになりまんなぁ」
「けど、この世の中そんな人、おいそれと右から左に居てへんし」
「あのぉ〜、お言葉ではございますがねぇ、割りと手近な
ところに居てるよぉな気もしまんねんけどねぇ。いえ、ここ・・・・。
わて、小
さい時分から『福笑いの忠太郎』言われてました。分かります?『お前、目ぇと鼻と口の置き場所間違
ごぉてる』ちゅうて。
で、新米といぅても(敬礼して)盗人の端くれ。姐さんさえよかったら」
「そら、あんた
と一緒になれたら、こんな嬉しぃことないけど……、あんた、うち帰ったら嬶(かか)とか女房とかいぅ人が居てんのんと違うん?
ほんま? ほんま、嘘ついてない? 言ぃまっしゃろ、『嘘つきは泥棒の始まり』て。あんた、もぉ始まってるなぁ」
「ほたらなぁ、姐さん……」
「わてとあんた、いんまの今、夫婦(めおと)になったんや
し、我が女房つかまえて、姐さんてなこと言ぅ人おますかいな。『お杉』と呼んで
」
「は、はい。ホンマに呼ばしてもろてよろしぃんでっか?……、ハァハァハァハァ」
「あんた、犬か?」
「ハァ、ハァ……、 おすぅぐぃ〜」
「どっか漏れてまんのんか?はっきり呼んで」
「お、お杉」
「はぁい。あんた・・・」 「嬉しぃ〜(と、腕で目をごしごしして号泣)。今まで真面目に生きてきて、よかったぁ〜。ほな、わい今晩、ここへ泊まっていこ」
「あっ、ちょっと待って。いぃえな、あの旦那、用心深いお人でっしゃろ。おなごの一人暮らしは物騒や、ゆうて、二階に柔道と空手の師範、下宿さしてんねん」
「それをなんで先にゆうて・・・」
「いや、旦那が来てるあいだは絶対出かけるっちゅう約束で安う貸してんねん。けど、もぉ半時もしたら風呂から帰って来るさかい、こんなとこ見付かったら、腕や足の一本や二本、首の骨までボキボキッと……」
「嫌やで、そんなん。ほたらどないしょ?」
「今日はいっぺん帰って、明日の昼前に来てくれるか?朝一番に旦那が五十円持って来てくれて、手切れ金の百円が揃うやろ。
この百円握って、手に手を取ってどこぞ誰も知らんよぉなとこ、駆け落ちしょぉやないか」
「嬉しぃ〜、嬉しぃ〜。今日まで真面目に働いてきて良かったぁ〜(と、また号泣)。ほんならわい、今晩これで帰るわ」
「そぉしてくれる?あ・・、あんた今日なにも仕事
してないやろ?何ぼか小遣渡しとこか?」
「おぅ、おぅ、おぅ、
おぅ、おぅ……。バカにしてもらッちゃあ困りますぜい」
「おっ、兄さん、江戸っ子かい?」
「当ったりめぇよぉ。あっしだって持つもんぐらいは、ちゃあ〜んと(ふところから財布を取り出し)、持ってまんにぃやわ」
「ベタベタの大阪やないの。 面白いことも、ゆうねんね。
まぁ、えらいぎょおさん(沢山)持ってるやないの。分かった。あてと別れたその足で新町(しんまち。花街)のコレとえぇことしょ〜ちゅうねんな、この浮気もん!」
「そんなことせぇへんがな」
「する、する」
「せぇへんて」
「ほんま?・・・せえへんねやったら、これは、あてが預かっとこ。
言ぃまっしゃろ、亭主のものは女房のもん、女房のもんは・・女房のもんて」
「ほたら、わいのもん、あれへんがな」
「細かいこと、言ぃなや。ゆぅてまっしゃろ?算盤はじかはる人嫌い、て。せっかく好きになったのに、嫌いになってまうし。
ほな、明日、
昼前に。あて、三味線のお稽古してるよってに、これが、旦那が帰って、用心棒が仕事に行ったっちゅう合図やから。そのかわり、三味線が鳴ってなかっ
たら、どっちかがいてるゆうこっちゃから、絶対入って来たらあかんし。ほな、気ぃつけて」
ポ〜ンと背中を叩かれて表へ出ます。
「・・・・・今晩、わいぐらい幸せな男、いてへんやろなぁ。
・・・・お杉さん、いくつくらいやろ? のっけ(最初)に見た時は二十七、八かいなぁと思たけどなぁ。内らで見たら
三十一、二・・・・・・・・。明かりの下で見たら、三十七、八
てとこか?
けど、ちょっと厚化粧やったさかいなぁ、化粧落としたら、うちのお母(か)んより年が上・・・・・・・・って、ぅんなアホなことはないわなぁ・・・」
ひとりで喜んで、その晩はもぉ寝たか寝んや分かりまへん。明くる朝早よぉに起き出しますと、昼になんのん待ちかねて、きのうの長屋へやって来よった。
「えぇ〜ッと、確かここらや。
あれっ?三味線の音色してへんなぁ。けどおかしぃなぁ、雨戸まで閉まったぁる。雨戸閉めて真っ暗ん中で三味線の稽古もでけんやろしなぁ。
おっ、ちょうど向かい、タバコ屋やな。ゆんべは、よる夜中やさかい、わからへんかったんや。あ、ちょっと、すんまへん」
「へい、何
しまひょ?」
「いや、別にタバコ買いに来たわけやおまへんねけど、向かいのうち、確かあれ、お杉のうちでしたなぁ?」
「へぇへぇ、あんさん『お杉』て、
呼び捨てにしはるとこみたら、お身内の方ですか?」
「・・・へ、へえ。まあ、最近、身内てなことに」
「といぅことは、やっぱり夕べ(ゆんべ)の一件でお越しになった?え?あんさんご存じない?まぁまぁ、
立ち話も何でっさかい、どぉぞ、そこの上り框(あがりかまち)に掛けとぉくれやす。
いや、実は、ゆんべのゆんべ(二日前の夕べ・・・ではない。本当に、まさに昨日の晩、ということ)ですわ、わたいが寝てたら、表の戸ぉ、だん!だん!だん!て叩かはる人がいてて。
何事かいな思たら、お杉さんが真っ青な顔して、話聞ぃたら、泥棒が入りましたんやて。
で、この泥棒がアホだんねん。
何ぼ、度胸のある、舞台慣れしてるお杉さんかて、泥棒に入られるてなこと初めてでっしゃろ?すっかりウロ来てもて(気が動転して)「わても盗人だす」てな無茶苦茶なこと、ゆうたそうですわ。
普通、考えたらわかりまっしゃろぉ?そんな白々しい嘘。それを、その泥棒、うかうかと信じ込んで、お杉さんと夫婦約束(みょうとやくそく)までしたっちゅうから、笑いまっしゃろ?あんたも笑んなはれ」
「(ひきつった表情で)ぅんへぇっへぇっへぇ」
「あんた、ヤギみたいな笑いよう、やな。
それだけやおまへんねん。調子ん乗った盗人が、泊まっていくてなこと言い出したから、慌てたお杉さんがとっさに、用心のため二階に柔道と空手の師範下宿さしてるゆうたら、慌てて尻尾巻いて帰ったそうでっけど、その盗人も盗人に入んねやったら、ちったぁ(少しは)調べてから入れっちゅいまんねや。
向かいの長屋、見てみなはれ、あんた。平屋でっせ」
「えっ!! (目が点になった泥棒。今度は真横に向き直り、向かいの長屋を上から下から何度も眺め回す)・・・平屋には二階はおまへんか?」
「当り前でんがな。それだけやおまへん。お杉さん、去(い)にしな(去り際)にその盗人の財布まで巻き上げたっちゅうから、お杉さんも立派やけど、その盗人もアホの塊りやなぁゆうて。
中臣鎌足(なかとみのかまたり)ゆう人も有名やけど、アホの塊も歴史の本に載し
てもらいたい。『日本のアホ』っちゅう百科事典がでけたら、表紙飾んのはこの男やっちゅうて、もぉ町内、大盛り上がりに盛り上がってまんねん。
あっ、ここだけの話、よそで言ぃなはんなや。何でも昼前にね、その盗人がこの長屋へ来よるらしぃんだぁ。
こっからではちょっと分かりにく
いですけど、この板塀の・・・節穴という節穴、取り合いになってまんねん。あんた、もし時間があんねんやったら、わたいと一緒にこっから見て笑いまひょ」
「あはははは(うつろな笑い)」
「今、笑わんかて。けど、わたい思いまんねんけど、その盗人も、お杉さんに夫婦約束持ちかけられた時、おのれの顔と相談せぇっちゅうんだ。とてもお杉さん
と釣り合うよぉな顔やなかったっちゅいまっせ。
なんでも、眉毛がやたら太ぉて、角刈りで、熊みたいな顔して・・・・(キセルでタバコを吸いつつ、泥棒の顔を見ながら、やや不審げに)・・・別にそない気にしはらんでもよろしぃ、どこんでもある顔でんがな。
・・・・・・どないしはりました?えらい落ち込んで?」
「えぇ、ほんでお杉も、家ん中から様子、伺(うこ)ごぉてまんのんか?」
「いや、さすがに会うのは気色悪いゆうて、今朝早よぉに荷物まとめて転宅しはりました」
「洗濯?」
「いや、転宅。宿替え、引越し、しはりました」
「どこへ?」
「そら、個人情報保護法でゆえまへん。・・・・・・・・・・・冗談です。わたいらも知りまへんねん。まあ、あんさんお身内やったら、そのうち知らせが来まっしゃろ」
「(泣きながら小声で)来まへん、来まへん。あのぉ・・・・もう一つだけ尋(たん)ねさしてもろてよろしいやろか?あのお杉ゆうのは、何もんだんねん?」
「あんさん、ご存じないでっか?お杉さんゆうたら、この辺でも有名な太(ふと。太棹)の三味線ひき。浄瑠璃の三味線ひきだ」
「ああ、道理で、うまいこと調子合わせていきよった」
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三喬と言えば「泥棒」ネタとゆうのがだいぶ定着してきたようだ。今回の「転宅」も達者なお杉さんに手玉にとられる泥棒をみごとに演じていた。
「あんた桂やない。笑福亭やな」とゆう所と「平屋でっせぇ」と言われて長屋を眺め直す所が特に面白かった。
なお、大化の改新の藤原鎌足を「ふじわらのかたまり」とボケるのは私の学生時代にもやっていたので、何か懐かしかった。
オチは転宅と洗濯をかけて「それで表にタライが置いたったぁんか」てなオチもあるそうだが、このオチの方がいいと思う。 |
どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録画はしましたが何度も聴きなおしてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
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