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(No57) 堺市民寄席 桂米朝一門会 鑑賞記その1   

 平成19年10月4日(木)の一門会の鑑賞記。

 


(1) 桂二乗 「家ほめ」

 
緞帳が上り、緋毛氈におおわれた高座が見えた。先日の京都での一門会と違い、高座はそこそこの高さがあった。
   まず出てきたのは二乗。初めて聴く。緊張しているのか、口をきゅっと結んでの登場。 

  その緊張が伝わったか、拍手がやや寂しかった。と、「今世紀最大の拍手をありがとうございます」とやったものだから、場内がどっと沸き、二乗も波に乗ったようだ。まあ、アドリブではなく、最初からの決め台詞かもしれないが。

 なお、二乗は桂米二の弟子。

 わたくし、桂二乗と申しまして、京都の二条に住んでおります。名前と住所がみごとにマッチしてるわけでございまして。
 本日、こちらに寄せていただくのに、京都から電車とバスを乗り継ぎまして、1時間半ほどかかりました。往復で3時間ですな。で、わたくしの持ち時間が15分・・・・・。大変労働時間が短いのでございます。

 と、軽いマクラから本題へ。
 「牛ほめ」だが、牛までいかずに終えたので、「家ほめ」としておく。

 若手らしい、真面目で素直な高座で好感が持てた。

 おもしろかったのは、
(1) 池田のおっさん(叔父さん)が、アホの顔を見て(以前、長い時間かけて家を建てても、火事で焼けるのは一晩やなどと縁起の悪いことを言われたので)「今日は堪忍してや(あんなことは言うのは勘弁してくれよ)」と言ったところ、
「ああ、こないだは、えらいすんまへんでした。つい、口が滑って。・・・・けど、こないだのこと、よぉ考えたら、あら、ほんまでっせぇ」と言って、
「いきなり念押すな!」と怒られるところ。

(2) 掛け軸を褒めても、どうせおっさんは「お前らに、この掛け軸の良さがわかるかぁ!」 と馬鹿にするから、そしたら「馬鹿にしなはんなや!」と怒鳴ったれと智恵をつけられていたアホ。
 こうしゃべれと教えられた内容を紙に書いてふところに忍ばせ、それをのぞきながらしゃべるものだから、「馬鹿にしなはんなや!」と自分のふところに向かって絶叫するところ。

 このほか、台詞を教えてもらって紙に書き留める時、「と、奥まで進んでゆく」といった、いわゆる「ト書き」まで書き込み「そこは書かんでええねん」「・・ここは書かんでええねん・・・っと」「いや、違うがな」「・・いや、違うがなっと」と、逐一書き留めるシーンや、
歌を読み上げ「〜合(お)うてますかぁ?」とか「大阪の丼池(どぶいけ。大阪市街中心部の地名)で30円で買(こ)うたんやけど、今時分のこっちゃさかい、50円で買うたんですかとゆうたら、おっさん、喜ぶ・・・かぁ?」と尋ねてしまうシーンもよく笑いを取っていた。 

 あと、演出でいいな、と思ったのは
(1) 台詞を書き留める時、硯と墨、筆はあるが水はない。それで・・・・というとこで非常に汚いクスグリがある。(知りたい人は→ 「水がないなら・・・かぁ〜ぺっ!」「汚いな。硯につばなんか吐きなや」「つばちゃいます。タンでおすわ」  というやり取り)
 確か、前に聴いた松喬も福矢も、このギャグを入れていたが、今日はすっぱり省略していた。

(2) 「坪の内」というのはわかりにくいので、予め「坪の内ゆうてもわからんやろうけど、前栽(せんざい。植え込みのある中庭)のことや」と説明する演出が多いが、今では前栽と言ってもわからない。
 で、今回は叔父さんの方が「坪の内、庭のこっちゃな」と念を押している。この方が自然だろう。

「こら、負うた子に教えられ、ゆうやつやな。こら、無料(ただ)では去(い)なせんな(帰らせられないな)
「ただでは去なんぞ」
「お〜い、おさよ」
「おさよ!」
「紙入れ
(財布)持ってきてくれるか」
「おお、ようさん金入ってる紙入れをな」
「ほな、2円取っときなはれ。・・・・・・え?何、ぶつぶつゆうてんねん?ええ?大阪では、3円が相場や?そんな相場あるかいな。まあ、ええわ。3円やってこまそ」
「ほな、もろてこまそ」
「しかし、お前、こないだはムチャクチャやったけど、今日はえらいしっかりしてたな。よお、あんだけのことが頭に入ったな」
「いや、頭の中やないねん。ふところん中入れてきた」
 よくあるパターンで、最初の若手噺家が二人以降のお茶子の仕事で、座布団を裏返したり、見台(けんだい)・膝隠しの仕度・片付けをしたり、「めくり」を返したりする。

 しかし、二乗は、すぐに次の都んぼのための仕事をしなければ・・・・と思ったのだろうが、まだ自分への拍手が盛んにならされている最中に座布団を片付けたりするのはやや失礼な感じがした。



(2) 桂都んぼ 「替わり目」

 満面の笑みをたたえて登場した都んぼ。

 しかし、高座の上で右に傾いたり、左に傾いたり、やたら落ちつかない。

 酔っ払いに関するマクラというか、小話で入る。
 酔っ払いはわけのわからんことを言ってるということで、二人の男がすっかり酔っ払って店を出てきたところ。
 片目をつぶってしかめっ面をしたり、げっぷをしたり、身体を傾け千鳥足でよろめいたり、酔っ払いぶりの表現が派手なので、そこそこ会場は笑っている。

 空に出ているのが月か太陽かで、言い合いになる。
 と、後ろから二人の間を割って出てきた男が「ほな、前から来る人に聞いてみよ」と提案する。

 
 え?酔っ払い3人になってるやん?と目が点になる。
 前から来た男の酔っ払いぶりがまた派手で、会場は笑いに包まれたので何となく流れてしまったが、明らかな演出ミス。すぐ後の所と混同したのだろう。

 これまで聴いた噺では、どちらかが代表して尋ねる演出が多かったが、今回は二人が「あれはお月さんでんなあ?」「いや、お日ぃさんでっしゃろ?」とそれぞれ前から来た男に言い募る。
 で、その男が両者を割って出るようにして「いや、わたい、この辺のもんやないんで・・・・」

 前から来た男が両者を仲裁する形で積極的に関与してしまっては、前から来た男が思いもよらぬマヌケな回答をする・・・という落差が活かせないと思う。

 本編は酔っ払いと車屋(人力車車夫)との絡みで始まる。

「すんまへん。車、乗ってもらえまへんやろか」
「・・・なに?私に車屋さんの車に乗らなならん義務でもあるの?」
「いやぁ、今日は、一人のお客さんものうて。どうか人、一人の命を助ける思て」
「ええ〜?人、一人の命助ける思て、ってゆわれるとつらいなあ。どこでもゆくんか?
 ああ、ほたら、こないだから叔母さんが病気んなって、いっぺん見舞いに行かんならん
(行かねばならない)思てたんや。ほな、叔母さんとこ行ってくれるか?」
「へえ、どちらでしょう?」
「北海道」
「・・・・・北海道は、よぉ行きませんので」
「お前、最前
(さいぜん。さっき)どこでも行けるゆうたやないか」
「どうでっしゃろ。おうちまで送らせてもらうゆうことでは」
「おっ、そうしてもうたら助かるな。けど、その前に・・・・・・ここは、どこ?え?新町?そう言えば、見覚えがあるな。よっしゃ、乗ったで。・・・止まれぇ!!
(と、膝立ちで両手を大きく広げる)
 ちょっと梶棒おろせ。ほんで、左っかわの奥から二件目の家、叩いて起こしてくれ」
「ええ?お友達の家かなんかですかぁ?大丈夫かいな?あっ、奥さん出てきはった。どちらさんでっか?って聞かれても・・・・・大将、代わっとくんなはれ」
「お母ちゃん、堪忍」
「ええ?ここ、大将のおうちでっかぁ?」
「私のうちなら・・・ご不満?」
 膝立ちで、車屋がとととんとずっこけてみせたり、とにかく派手だ。

「車代・・・とゆわれるとつらい。どっから乗った?ゆわれても、そこの電信柱から、ここのごみ箱まで。車輪、ふた回り半ほどしか、してまへんねん」と遠慮する車屋に、無理にいくばくかのお金を渡し、「すんまへんでした」と手を振って見送り、だいぶ遠くなっても口だけで「おおきに、さいなら」などと愛想を振りまいてる姿をみせるおかみさん。
 ああ、もう車屋さん行ってしもたなぁ・・・と思われる頃にいきなり近くの親父に向き直り「はよ入んなはれ!」と怒鳴りつける。 

「♪ 目っからぁ〜〜火の出ぇ〜〜ぇるぅ〜 ♪」
「そんな大きな声で歌、うとて今何時や思てなはんねん!ご近所の皆さん、やかましいゆうてぼやいたはるえ!」「えっ?しもたぁ、えらいことしたぁ・・・。ご近所をぼやかしたら、あかん。・・・・・・それでは今から謝罪に・・・」
「何ゆうたはんねん。ほれ、奥に床、取ったぁるさかい、はよ寝なはれ!寝なはれ!」
「そうか、ほな、おやす・・・・・まない!
(膝立ちで両手を広げる)
 お前は酒飲みのこころゆうもんがわからんねえ。酒飲みゆうのは、なんぼ外で飲んでも、
(がくっと身体を傾け、くいっと猪口を口にする格好をして)ちょっと・・・欲しいねん。
 そやから、『なんぼ外で飲みはっても、外は外、うちはうちゆうことがおます。ええお酒もおまへんけど、ちょっと寝る前にどうですか?』てなことゆうてみぃ。ああ、遅ぉまで世話かけてすまんなぁゆうことで『いやぁ、今日はもう寝るわ』って、こないなるねやないか。そこ、お前みたいに『はよ、寝ぇ!はよ寝え!』ゆうてみい。意地でも『いや!どうでも飲む!』と、こないなんねや」
「そうでっかぁ。ほな、外は外、うちはうちゆうことがおますさかい、寝る前にちょっとどうでっか?」
「・・・頼まれたら、しゃあないなあ。もらおか」
「もう!」
「燗してや」
「それが、もう火種落としてしまいましてん」
「そら、あかんがな。わい冷やは嫌いやねん。・・・・でや、ご近所に火種を借りてきたら、いいんじゃなぁい?」
「何ゆうたはりまんの。今、何時や思たはりますねん。ご近所の皆さん、もう寝たはります。今時分、夜の夢でっせ」
「ええ?寝てはる?・・・そら、おかしいねえ?
 せやろ、さっきまで、ご近所の皆さんは、わたいの歌がうるさいゆうてぼやいたはったんと違うの?
 それが、火種借りに行こ思たら、寝てはんの?ほたら、なに?ご近所の皆さんは、わたいが歌をうとたらやかましいゆうて、ぼやいて、火種借りに行ったら寝はるの?都合のええご近所はんやねえ。
 もう冷やでええわ。わいの愛用の湯呑も忘れんようにな。あの、魚の字ぃがようけ書いたぁるやつ。

 あっ!お前が注ぐな!
(瓶をひったくるようにして、自分で注いで)お前が注いだら盛りが悪い。湯呑の上、ちょっとすかされるほど、けったくそ悪いことないねん(湯呑いっぱいに注がずに上のほう、少し注ぎ残り分が残されるぐらい、腹の立つことはない)
 あっ!ちょっと見て!見て!
(と、嫁さんを手招きして)ほら、上手に注げた。盛り上がったぁる。これ、なんちゅうか(何と言うか)知ってるか?表面張力ゆうねん。
 こら、こっちから迎えに行かな、ならん。
(湯呑を置いたまま、口を近づけて飲み)
 何ぞつまみはないか?あ、せや。漬けもんがあったやろ?」
「ああ、漬物でっか?あら、食てしもた」
「食てしもたぁ?それ、おなごの言葉ですかぁ?せめて、いただきました、ぐらいのことが言えませんかぁ?」
「あ、そら、すんまへん。いただきました」
「そんでええねや。ほな、佃煮があったやろ?」
「ああ、それもいただきました」
「ほたら、らっきょがあったやろ?」
「ああ、それもいただきました。おいしおました」
「ほたら・・・」
「いただきました」
「おい!”ほたら”までいただいて。よぉいただくねぇ?どんな味?
 何ぞ水屋開けたら、あるやろ?」
「冷やご飯やったら、おまっせぇ。よぉ冷えてます」
「・・・・・あんた、けんか売ってらっしゃるのぉ?何ぞ、つまむもんは無いか?っちゅうてんねん」
「ちゃびんのふたやったら、おまっせぇ」
(どた〜っと横に倒れて)・・・・悔しい!でも、面白い!・・・・・ほたら、何か?わい、ちゃびんのふた、ちょっとつまんじゃあ、酒飲んで、酒を飲んじゃあ、ちゃびんのふたをつまんで・・・・・・・・・って、そんなこと、でけるかい!!
 帰ってくる途中、その先でおでん屋が屋台出してた。もう、提灯の灯ぃは落としてるかもしれんけど、人はおると思う。ちょと行ってきて、二、三品、買うてきて。頼んます。お願い。ね、・・・・・・。行ってこい!!

 あははは、行きよった。
 ・・・・・・・あれと所帯持って、もう・・・・・十八年か。この十八年、毎晩、飲んでんねん。
 ・・・・・・・帯の一本も買
(こ)うてやったこと、ないなぁ・・・・。
 今、ひょっと、あいつに愛想尽かされて、出ていかれたら、困るのは・・・・・・・私です。家のどこに何があんのか、さっぱりわからへん。

 まあ、わいに、この後、あんだけのおなごは嫁いでもらえまへんわ。・・・・・・・・・まあ、もろてくれる男もおらんやろけど。
 いつも心ん中ではすまんなあ、思てるし、また、それをちゃんと口に出さんとあかんなぁとも思てるんやけど・・・・顔見たら、アホ、ボケてゆうてまう。
(手を合わせて)いつも心ん中では、ありがとう・・・・いつも、すみません。ごめんね。あなたがおらんと、僕はやっていけません。これからも、どうぞ、よろしくお願いします・・・・・・って、まだ、出んとおったんかい!明日からやりにくい」

 
 ともかく、もう少し落ちついて語ってほしい。

 「替わり目」というと、私は、古今亭志ん生の、ごく短い録音を聴いたことがあって、それがベースとなっている。

 先日、三遊亭好楽の「替わり目」をTVで聴いた。
 酔っ払いが、客(結局何も注文しないので客ではないのだが)という立場をかさにきて弱者のうどん屋をいじめる性格の悪さばかりが目立つ演出だった。(録画したが、価値がないなと思って消してしまった)

 で、それに比べると、(都んぼ自体の落ち着きのなさは目立つが)歌ではぼやき、火種を借りに行くと寝ているというおかみさんの矛盾をつく理屈っぽさや、おかみさんに感謝するところの「しみじみ感」などがなかなか印象的だなあと感心した。

 これは都んぼの創作か、と思ったのだが、どうも枝雀師匠が、ここまで「替わり目」を磨き上げていて、それを受け継いでいるようである。私自身は枝雀師匠の「替わり目」を直接聴いたことがない。それを残念に思った。  



 



 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音などをしてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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