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(No262) 第四回 さん喬・松喬二人会 鑑賞記 その4   
          

 平成23年7月30日(土)、大阪市立こども文化センターで開催された落語会の鑑賞記。

 



柳家 さん喬 「佃祭」

 当日のパンフによると、今回の東日本大震災以前から、この演目「佃祭」は決まっていたが、船の転覆という内容なので別の噺にするかギリギリまで迷っていたとのことである。

 やはり今回も、座る前に座布団の位置を少し直した。
 
 間もなく解放されますので。

 「三十石」、これまで円生師匠でしか聴いたことがなかった。今日のが本当の「三十石」なんですね。・・・・・・円生師匠のはウソだったんだ。

 私の師匠は小さんですが、六代目松鶴師匠とは40年近く前にお会いしてます。弟子の仁鶴さんと、豊島区目白の小さん師匠の家まで、今度この仁鶴が東宝名人会に出るんでよろしくとごあいさつにみえられました。

 松鶴師匠の言葉が本当の大阪の言葉なんですね。私ら、つい大阪の言葉と言うと米朝師匠かと思ってましたが、これはちょっと違うんだなと。

 米朝師匠のお言葉・・・・・・”お言葉”ってこたぁない。まあ、正直言って私らにゃあ、大阪も京都も奈良も兵庫も区別がつきません。外国のようなもんで。

 エスカレーター上がるんだって、大阪は左を空けるんでしょ?東京とか大体のとこは左に並んで右を空けるんですが、大阪と・・・・・・確か仙台か、どこかだけが左を空けるらしい。

 京都は・・・・どっちでもいいらしいですね。一番前の人が左に並べば左、右なら右に並ぶらしい。考えてみりゃこれが一番合理的だと思いますが。

 ともかく、あちしらにとっちゃあ、関西に来る、落語をするってぇのは脅威でしてね。何せ、落語の祖なんてものは、たいがい関西でしょ?

 ですから、こうして笑っていただいても、腹から笑ってるのか、わざわざ東京から来たんだからって世辞で笑ってんだか・・・・。

 まあ、こちらの席の方は平等観をお持ちだと思いますけど。

 今日は「佃祭」って噺をやらせてもらいますが、信心のお話です。
 信心でも、こらぁ私の勝手な考えですが、仏教てぇと、自分を高める、修業するって感じがするんですが、神さまってぇと、ひたすらお頼みする、お願いするって感じがします。

 で、神さまにも得意分野がある。
 水天宮さまってぇと産婦人科ですな。巣鴨のトゲ抜き地蔵なんてのは、まあ外科ですか。
 戸隠さまは、歯科です。で、お供え物ってぇのが決まってて梨なんですな。
 お薬師さまは眼科ですか。

 お電話ですよ。(あれだけ事前に注意があったが、場内で携帯の呼び出し音が鳴る。また、そういう人間に限って気がつかないのか、延々と鳴らし続ける)

 東京の三大祭りってぇのが、赤坂山王、深川富岡、あとが神田。大阪の三大祭りは天神さんと住吉大社、そして愛染祭だそうですが。
 住吉大社のみこしってぇのは、「わっしょい!」ってかつがないそうですね。べいら!べいら!ってかつぐそうです。その意味は・・・・・ってぇと、調べる気もない。異議ありませんって感じで。「米良」って書くらしいですけどね。

 大体、最近のみこしは、あまり「わっしょい!わっしょい!」とはかつぎませんね。あらぁ「和一緒」って意味なんでしょうね。
 で、何ていってかつぐかってぇと、てぃや!とかせいや!。引越しの荷物、かついでるみたいです。

 昔はみこしを上から見下ろしたりしたら叱られたもんです。それだけ神聖なもんでした。
 この頃は女性もみこしをかついだりしますが、あまりいい女はかつぎませんね。

 

 

「ちょっと行ってきます」
「え?どちらへ?」
「住吉様、佃祭だよ」
「・・・・・・・・・・どうせ、おしろいつけて待ってるんでしょ」

 この町内でも次郎兵衛さんとこのおかみさんてぇと焼餅焼きで有名で。

 佃島ってぇと佃煮が有名ですが、あらぁ関西が祖らしいです。住吉さまというのもそうでして。

 これも当日のパンフによると、佃島は、徳川家康が江戸開闢(かいびゃく)の折り、現在の大阪市西淀川区佃の地から三十三人の漁師を連れて行き、進んだ漁法を広める足掛かりにした地で、佃煮も住吉大社も大阪の漁民達が江戸(佃島)に移住した名残とのことであった。


 六角みこしというのは、日本でも3基しかないそうで、大きな獅子頭がついております。

 次郎兵衛さん、佃祭を楽しんで船着場から仕舞船(しまいぶね。電車で言えば終電車)に乗ろうとした時に、脇から着物の袖をぐい!とつかまれた。

「あの!もし!旦那さま!あなた様は、昔、吾妻橋のたもとで身投げをしようとした女を五両の金でお救いいただいた旦那さまではございませんか?」
「え?何を言ってるんです?私がそんな大それたことを・・・。離してください。仕舞船なんですよ。これにどうでも乗らなくちゃいけないんです」
「いえ!ですから、吾妻橋のたもとで・・・」
「だから、私はそんなこと知らないって・・・・あっ!船頭さん、ダメですよ。私は、この船に乗るんですから!
 ですから、離してください!この船に乗るって言ってるでしょ!あっ!ああぁ〜!お〜い!船頭さん!ダメだよ!あたしは、この船に乗るって言ってるじゃないか!おい!お〜〜い!!」

 

 結局、仕舞船に乗りそびれた次郎兵衛さん。
 憤然とするが、落ち着いて考えてみると、以前そんなこと(お使いに出たが主家の金をなくしてしまい、会わせる顔がないと娘が吾妻橋から身投げをしようとしたところを5両出してやった)があったのを思い出す。

 女は喜び、ぜひ家に来てくれと誘う。
 次郎兵衛さんは、「ご亭主の留守に上がりこむなんて出来ないし、私の女房は大変な焼餅焼きだから、早く帰らないと大変だ」と断る。

 女は、亭主にも旦那さまから受けたご恩は常々話しているから、お連れしないと逆に叱られる。それに、うちは船宿で、亭主は船頭もしているから帰ってきたら、家まで送らせてもらうからと誘い、次郎兵衛さんも女の家へ。

 しばらく、思い出話をしながら酒を飲んでいたが・・・・・

「それにしても、ずいぶん外が騒々しいねぇ」
「そうですね。喧嘩でもあったんでしょうか。この辺は島国だから、気の荒い人が多くて、何かってぇと切れ物振り回して喧嘩する人が多くて。
 そんな時はそばにも寄れません」
「いや、喧嘩だの、そんなもんじゃないよ、これは・・・」

(と、女の亭主が血相変えて戻ってくる)
「おい!かかあ!てえへんだ!仕舞船が沈んだらしい。大勢が溺れてるってぇから、ちょいと助けに行ってくるからな!」

(返事も聞かずに、そのまま飛び出していく)
「ええ?仕舞船が?・・・・・・そう言や、こべりまで水が来てたよ。あんなに乗せて大丈夫なんだろうかって思った。

 ・・・・・・するってぇと、あなたが私の袖を引っ張ってくれてなかったら・・・・。今度は私が命を救われたね。私は泳ぎを知らないんだよ。住吉様のお導きかねぇ。情けは人のためならずってぇが、まったくだ」

(亭主が戻ってきて)
「かかあ!今、戻った。・・・・だめだ。一人も助からなかった。それどころか、溺れてる人を救いに飛び込んだ奴も、溺れて必死になってる人がいっぱいしがみついてきて、そのまま沈んぢまった奴が何人も・・・・」
「あんた!ちょっと、あたいをほめておくれ!仕舞船待ってる船着場で、いつも言ってるだろ?あの吾妻橋の旦那をお見かけして、ほら!船に乗らずに、うちに来てもらったんだよ!」
「なに?でかした!

(次郎兵衛に向き直り)初めまして。この野郎のつれええ(連れ合い)で新次郎と申しやす。
 いつぞやは、うちのが大変なご恩を受けまして・・・」
「お留守に上がりこんですみません。私は神田お玉が池で小間物屋を営んでおります次郎兵衛と申します」
「ああ、そうでございますか。
 俺ぁいつもうちの奴を叱るんですが、お命を救っていただいたとゆうのに、恥ずかしいやら嬉しいやらで、旦那さまのお名前もおところもお聞きしなかった。それじゃあお礼にも行けないじゃないか、馬鹿野郎って。

 ですから、そこの神棚の大神宮さまの横に、お名前が分からないんで吾妻橋の旦那さまって書いた札を並べてて、毎朝拝ませてもらってたってぇわけで・・・・」
「ええ?大神宮さまの横で拝まれるってぇのも業腹ですが」
「どうです?うちのも積もる話があるでしょうから、今夜は泊まっていただいて・・・」
「いや、それは困る。仕舞船で帰るとうちには言ってるので、心配してるだろうし、それに、お恥ずかしいことなんだが、うちのは人一倍焼餅焼きで、よそんちで泊まったなんて言ったら、なんてことになるか・・・。どうか、送っていただきたいのですが」

「・・・・・・・分かりました。ただ、今、船着場は死げえ
(死骸)の山ですから、そんなところから船を出すってぇわけにはまいりません。
 大恩ある旦那のお言葉ですんで、こっそり船を脇の方へ回していきまして、静かに出りゃあ何とかなりますんで、もうしばらく、うちのと話でもして待ってていただけませんか?」

 

 旦那も仕方ないんで、もうしばらく待つことにした。
 一方、旦那のお店の方では大騒ぎになっておりまして・・・。

「おい、聞いたかい?」
「聞いた、聞いたよ。
 佃祭の仕舞船が沈んで、誰一人助からなかったんだろ。
 でさ、次郎兵衛の旦那も、佃祭におまいりに行ってて仕舞船で帰ることになってたらしいんだよ」
「で、どうする?」
「今月の月番は、誰だ?」
「与太郎だよ」
「ええ?よた?じゃあ仕方ねえ。
 俺らでお店の方に行ってみようじゃねえか。


 ああ、これは旦那のお母さん。どうもこのたびは・・・・」
「まさか、この歳で、さかさ
(逆縁。子どもに先立たれること)を見るとは・・・・(と、泣き崩れる)

 母親とおかみさんは泣きどおしですので、近所の者が「忌中」の札を下げるやら、弔問客の受付をするやら。

「このたびは・・・・・神も仏もないものか・・・。世の中まちがってます!・・・・・こないだ、市場でみたら、これくらいの大根が10文で売ってました。
 世の習いか知りませんが、こんな小さな大根が1本10文だなんて・・・・。世の中まちがってます!・・・さよなら」

「あいつ、くやみ言ってんだか、大根に文句言ってんだか分からねえなぁ」

「あの、このたびは・・・・・次郎兵衛さんみたいに仏様みたいな人が、なぜで仏にならなきゃならねえのか!
 うちのかかあだって、次郎兵衛さんには、ずいぶんお世話になってます。

 こないだも、私、仲間と飲んでてえらく酔っちまって、誘われるまま吉原(なか)行って、泊まっちまった。
 そんな日の次の朝は、家にへぇ〜りづれえ
(入り辛い)
 不貞寝でもしてくれてたら、まだ気が楽なんだが、ずっとぬいもんなんぞしながら待っててくれたみたいで、すぐに朝めしの仕度をしてくれる。

 で、静かに、
『ゆんべはどこにお泊りだったんですか?お敵娼
(あいかた)の人はどんな方でした?』なんて訊きやがる。

『いやあ、それがよ。友達仲間と飲んで、ずいぶん酔っ払っちまってよぉ!さっぱり覚えてやしねえんだ』と言ってやると、
『何て薄情な・・・・
 でも・・・・・もう二度とこんな淋しい思いはさせないで・・・・。
 あたしは、あんたと所帯を持ってから、ゆんべ初めて一人で寝たもんだから、夜中にネズミがカタカタ騒ぐだけで怖くて、怖くて・・・・
 もう、こんなこと、しないでおくれよぉ』って、あっしの太ももをキュ〜〜っと!・・・・・・・さよなら」

「何だ、あいつは!ノロケ言って帰ってやがら。

 あ、与太郎だ。いいよ、無理して何か言わなくて・・・」

「次郎兵衛さん!あんたはあたいのこと、可愛がってくれたね。
 あたいは頭が弱いから一所懸命勉強するんだよって言ってくれて。
 よく、お饅頭を買ってくれた・・・・・・。
 いやだよぉ〜〜!次郎兵衛さんが死んじゃうなんていやだぁ〜〜!!」

「おいおい、与太郎が一番うめえじゃねぇか」
「いやだよ〜!次郎兵衛さんが死んじゃったら明日からお饅頭が食べられない!」
「あ、やっぱりバカだ」


「あの・・・・おかみさん。あっしたちもこんなこと訊きたくねえんだが、あっしらが、佃まで旦那を引き取りに行こうと思うんですが、その・・・・旦那は佃にどんな服装
(なり)で行かれましたか?」
(気丈に涙をこらえながら)「はい・・・・、薩摩の白絣(しろがすり)に紗(しゃ)の羽織り。五分づまりの茶献上の帯に柾目(まさめ)の下駄・・・・・」

「あの・・・・こんなことも訊きたくねえんですが、なんかの加減で服装がなくなって素っ裸ってぇこともあるかも知れません。

 旦那にゃあ、身体のどっかに傷(きず)とか痣(あざ)なんぞ、何か目印になるようなものはございやせんか?」
(ついにこらえきれず、涙を流しながら)
「それでしたら、左の二の腕の内側に・・・」
「はあ、はあ。そりゃ、傷ですか?痣ですか?」
「”たま命”とあたしの名前が彫ってある・・・」

「え?あの旦那が?・・・・・何だい、ノロケられちゃったね」

  そこへ、ご亭主に送ってもらった次郎兵衛さんが何も知らずに帰ってきた。
「え?忌中?誰が亡くなったんだい?ま、まさか、おふくろ様が?」

 家の中から出てきた男、わはははと笑っていたが次郎兵衛さんの姿を見たとたん、
「うっ!うう・・ちちちちち・・・」
「セミだね」

 別の男が出てきて
「何だよ、騒々しいな。ああっ!ちちちちちちちち・・・」
「こっちもセミか」
「どうしたんだよ?あっ、次郎兵衛さん!ナマンダブ、ナマンダブ・・・・ナンミョーホーレンゲキョー・・」
「おい、おい、誰が死んだんだい?」

(次郎兵衛さんを指す指が上下し、それを目で追う顔も上下する。)
「誰って・・・次郎兵衛さん、あぁた、死んだの忘れたんだろ?」
「何を言ってる。
(おかみさんが出てきたのを見つけて)ああ、お前、何とか言ってやって・・・」
「どうぞ、もう焼餅焼かないから、浮かんで
(成仏して)ください」
「何だい、お前まで。ちゃんと足があるだろう?実はこれこれ、こういう訳で・・・」
「え?さんざん心配かけたあげくに、助けた女と酒、呑んでた?」
「お前、つまらない焼餅、焼くもんじゃない

 結局、事情が分かって、一同笑ってお開きとなったんですが、この一部始終をじっと見てた奴がいた。
 与太郎なんですが、どういうわけか、身投げしようとした女を5両出して助けると、自分も命を助けてもらえる・・・・そう思い込んだんですな。
 どこをどうかき集めたのか、5両という銭を用意して、自殺する人間の品定めを始めた。

 5両をふところに、町中をうろうろ、うろうろしてますが、そんな人間が簡単に見つかる筈はない。
 ところが永代橋にさしかかった時に、34、5のおかみさん。ひどく憂鬱そうな顔をして川をのぞき込んでいる。片合掌
(片手で拝む)までしてるから、
「身投げだ!・・・・探してみるもんだなぁ。・・・・・・
(後から組み付き)身投げしちゃいけない!」
「何すんだよ!」
「身投げ・・・」
「そんなものするもんかね!」
「じゃあ何を・・・」
「歯が痛いから、ほっぺた押さえて戸隠さまに行こうと思ってたんだよ!」
「・・・・・ウソ言っちゃいけない。身投げでないなら、何で袖に石を入れてたんだ?」
「あら、石じゃない。お供えする梨だよ」

 

 


 

 どうも、お退屈さまでした。殴り書きのメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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