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(No260) 第四回 さん喬・松喬二人会 鑑賞記 その2   
          

 平成23年7月30日(土)、大阪市立こども文化センターで開催された落語会の鑑賞記。

 



笑福亭 松喬 「三十石」

 松喬は袴姿で登場。
 
  江戸前のすっきりした噺を聴いてもろた後は、大阪のもっちゃりした噺を。
私も、あんなすっきりした江戸っ子弁が使えたらええなぁて思うんですけど、
「ええなぁ」ゆうてるのが、もう、もっちゃりしてる。

 まあ、一番正統な大阪弁つこてたと言われるんのが、私の師匠である六代目松鶴なんですが。
 私は播州の出身なんで、私はこれが正しい言葉や思てました。
 文珍も丹波の出ぇですが、丹波の言葉が標準語やと思っていたそうです。

 


 ですから、師匠にはずいぶん言葉の点では怒られました。
 今、考えると、あら、米朝師匠に言えんことを私に向かって発散してたんやないか、と。
 米朝師匠も姫路ですからね。

 師匠は、あれで、酔うた勢いでも絶対米朝師匠には何も言わはりませんでしたからね。
 あ〜ちゃん
(松鶴師匠のおかみさん)にさえ、言わなかった。

 ゆうことで、ほんま師匠にはよぉ叱られました。
 男同士ゆうのは、最初嫌いな弟子でもいろいろ教えていくうちに段々好きになっていくゆうとこがあると思います。
 ですから、私は、最初のころは、ほんまよぉ師匠から叱られましたが、最後の方では、「あら、お前はやめん思たから叱ったんやで。お前のこと思てや」

 そこいくと、おかみさんとか、女性は、人間で好き嫌いを決めて、ずっと続くような気がします。
 弟子の中で、鶴光、鶴瓶、そして私が「あ〜ちゃん」派。ほんで、仁鶴、福笑が松鶴派でした。
 私とか、鶴瓶が失敗したら、すぐ師匠は「ドアホ!何さらしとんねん!」・・・・・そんな船場言葉
あるんでしょうか?

 私ら、弟子してても便所掃除はいっぺんもしたことありません。
 あ〜ちゃんが、「あんたらは、そのうち外へ売り出していく人やねんから、うちの中で一番汚れてるとこは触らんでよろし。私が掃除します」ゆうて。
 しやけど、これ大変なんでっせ。こぼされへん。あ〜ちゃんが掃除する思たら。
 大なんて、とてもとても。しとなったら、公園とか、よそ行く。

 今日は旅のお噂でして。東の旅、西の旅、北の旅、南の旅。東の旅と言えばお伊勢さんで、その東の旅の最後のとこでして。
 京都は伏見、寺田屋の浜のところで、さかんに大阪行きの客を引いとぉる。

「あんさんがた、おくだりさんや、おまへんか」
(と、客引きの声を、壮年やおばあさんなどいろいろ使い分ける)

「そこの顔色の悪いお方、あんさん、くだらんか?」
「くだるどころか、わい、三日前から便所行ってない」
「何ゆうてんねん?」
「いや、あのばば、わいの顔見てくだらんか、ゆうから・・」
「大阪へ行くことを下るゆうねんがな」
「そうか。ほな、わて、大阪へ戻って、くだります」
「そない、丁寧に言わんでもええ。ほな、あがろか」

 船宿にあがるというと、ようさんの人間が船を出るのを待っとぉる。
退屈なもんやさかい、土産の箱、開けいでもええのに、伏見で買
(こ)うた土ででけた牛の人形、いじくって牛の角、ぼきぃ〜っと折ってしまいよる。
 あわてて、くっつけてますが、そないなもん、くっつく筈がない。
 しかし、それが人間の性分ゆうもんで、皿かて落として割ったって、すぐにほかす人はまあ、いてまへんな。
 必ず、破片を集めて元の形に合わせてみる。
 どこか一つなかったら、必死に探したりして。

 物を食う時も不思議とおのれのかぶり口を見ながら食べるもんでして、
 それではただ今から少しサンプルを・・・。
(と、手拭を焼き芋のような形に折って、食べる所作を。上手いのだが、焼き芋と断ってなかったので、ちょっと観てるがわの気持ちのおさまりが悪い。
 後は、ハナをかんだ後、広げて確認する所作。

 
次に矢立と紙を持って役場に出す船客名簿を書きに来た番頭をからかうくだり。
「鴻池善右衛門」「鴻池の旦さんにはご贔屓願ってますが、もう少し背ぇの高いお人やったか、と」
「長旅でちびたんや」

「拙僧は弘法大師。オンガボギャア ベロシャアノ。そこに真言を二十一ぺん書け」

「わらわは照手姫」「自らは小野小町」「何が自らや。塩辛みたいな顔して」

 
たくさん人名を並べ「これはどなたとどなたでやす?」「茶の子配ろう思うんやが、今でなんぼや?」など。

船宿の女が、「お弁当でおす。高野豆腐、汁が出んように固とぉにしぼっとぉすけど、
わらび縄でさげられるようにしておす」
とか、祝儀をもらった旦那にお愛想を言い、
「お静かに、おぉ〜くだりぃや〜〜すぅ」
と声をかける。
「清やん、あれ何ゆうとんねん?」
「ああ、あら祝儀もろたさかい、べんちゃらゆうとんねんがな」
「ああ、そうか。さぁ〜よぉおおなぁ〜〜らぁ〜〜」
「真似せんかてええがな」

 
船に乗り込もうとする客に最後のセールス。
「おみや
(土産)どうどす?おちりにあんぽんたんはよろしおすか?あら、あんた、あんぽんたん?」
「何やと!」
「何怒ってんねん?」
「せやかて、このおなご、わいの顔見るなりあんぽんたん、て」
「いや、かき餅のぷ〜っとふくれたんに砂糖の衣かかった菓子を東山あんぽんたんてゆうねや」
「ふ〜ん。ほな、おちりて?」
「京の言葉はていねいやさかい、ちり紙におぉつけて、おちりてゆうねがな」
「へえ。ほな、京の人間は、おちりで・・・おちり拭くのん?
「しょうもないことゆうな」

(売り子に)「いらんわい!!」
「まあ、いっかい
(大きな)お声」
「何がいかい声じゃ。大きい声て言え。京の人間は何かっちゅうと、えばりくさって。
京の何が偉いんじゃい」
「京は王城の地ぃどっせ」
「往生の地ぃじゃ」
「京の御所の砂をおつかみてみ。どんな瘧
(おこり)でもおちるえ」
「それがどうした。大阪の造幣局の札束おつかみてみ」
「瘧が落ちるんどすか?」
「首が落ちるわい」

「お客さんよぉ〜、そんなとこに寝てもろたら、どもならんのぉ。
起きんかいよぉ〜」
(と、頭を張る)
「どつかんかて、ええやないか!」
「わしゃあ、どつきゃあせんで。
ちょっと突いたら、おまはんの頭が鳴ったんじゃ」
「な、何ぃ!どついたやないか!」
(ニヤニヤしながら)「どつきゃあせん、ゆうちょります」

(先輩格の船頭が)「お客さんよぉ。そいつは、まだ新米やけぇ、こらえまいよ(勘弁してやってくれ)
「おお、船頭さん、ああたみたいに事わけてゆうてくれたら、分かるんやが、
このがきゃ、人どついといて、どつかんてゆうから・・・」
「そやから、お客さん、こらえまいよぉって」
「そやねん。ああたみたいにゆうてくれたらよぉ分かるんやが、仮にも金払
(はろ)たら、こっちゃあ客やろ?それを・・・」
「おう!おう!お客さんよぉ!この船ぁせぎょう船
(宗教上の奉仕の意味で、無料で乗せる船)じゃないで、銭ぁいただきますがのぉ、
 俺がこれだけ、こらえまいよ、こらえまいよゆうてるだに、我、どうでもこらえられんとぬかすか?
 なら、俺が我のどたま、かちまく・・・」
「おお怖。仲裁の人間の方が怖いがな」
「お前があかんがな。船頭、馬方ゆうたら、言葉の荒いもんじゃ。
 馬追う時も長い面さらしくさって、すねぶし、いがんどんがな、とかゆうけど、あんな無茶ないで。
 馬の丸顔って見たことあるか?
 すねぶしって曲がってるさかい歩けんねん。あんなもんまっすぐやったら、突っ張って歩かれへん。
 あんなんも荒い言葉やさかい、馬が進むねん。
 あれ、京都の言葉でゆうてみ?
 まあ、長いお顔どすなぁ。すねぶし、いがんでおすえ〜なんてゆうたら、馬、そうどすか?ゆうて寝てまいよる。
 なあ、船頭?」
「じゃかましわい!!」
「わいまで、怒られたやないか」

「お客さんよぉ、あと、お女中
(いわゆる女中さんではなく、女性一般の呼称)、一人乗んなさるで、ちょっとつめとくなさるかのぉ」
「ええ?船頭、無理や、無理、無理。寿司でもこんだけ詰められへんで」
「そこ、お女中のこっちゃで・・・」
「なことゆうたかて・・・」
「可哀想だっさかい、乗したげまひょや」
「・・・あんさんも妙なこと、おっしゃるなぁ。
乗せたるて、どこに乗せまんねん?」
「いや、わいの膝の上に乗せたげます、ゆうてまんねん。

 お女中も、帰りたいさかいね、そうでっか、すいまへんゆうて、膝の上、来まんがな。
 危ないさかい、こう膝割って、こう抱き合うように、そっちやおまへん。こっち向き
(と、向かい合って抱き合う格好)。
 船が揺れてきまっしゃろ。そうしたら、こう・・・
(と抱き合ったまま、身体を前後に揺らす)
 ねむとなったら、ここへ、頭、乗せなはれ。
 いえ、そんなことしたら、あんさんの着物が髪の油で汚れます。
 ほな、ここに手拭、乗しときまっさかい、大丈夫です。
その代わり、わいかて、ぬむとなったら、あんさんのこのあたりに頭乗せて、休ましてもらいまっせ。
 ゆうて、二人は抱き合
(お)うたまんま、大坂へ・・・」
「えらい、あんた、うまいこといきまんなぁ」
「大坂に着いたら、お女中が、えらいお世話になりました。どこまでお帰りで・・・ゆうさかい、家をゆうたら、
 ほな、わてとことほん近いさかい、一緒に帰りましょ。どないして帰りなはる、ゆうさかい、
 ほな、車
(人力車)で帰りまひょか?ゆうたら、そうしまひょ、そうしまひょゆうて、
 ちょっと、車屋は〜ん、相乗り車一丁、ゆうて。
 相乗り、ほろ掛け、テケレッツノパ〜〜」
「・・・・・」
「車がゴーロゴーロとお女中の家に着く」
「まだ、しゃべってんの?」
「女子衆
(おなごし。いわゆる下女)が出てきて、
 こらご主人さん、よぉお戻りゆうて、そしたら、
 そのお女中が、女子衆に、ゆんべはもう少しで船に乗り遅れるとこ、この親切なお方にえらい世話になって。あんたからも、お礼言っとぉ
(言いなさい)
 そしたら、女子衆が、このたびは、うちの主人が大変お世話になりました。ぜひ、おあがりください。
 いえ、私はこれで。
 いえ、そんなこと言わずにぜひ!
 そうでっかぁ?ほな、ちょっとだけ。
 上がらしてもらうとゆうと、女子衆が、甘いお菓子と渋い茶ぁを出す」
「あんた、よぉしゃべるなぁ」
「それをよばれてるっちゅうと、お女中が女子衆に目で合図する。
 そしたら、女子衆が奥に入ったか思たら杯洗持ってきてちゃぷりん、ちりん、どぶん」
「何でんねん、それ」
「さいな、杯洗に杯が浮かんでちゃぷりん、杯洗の縁に当たって、ちりん。中に沈んでどぶん」
「・・・・」
「杯をやったぁとったぁ
(やり取り)してるうちに、わいが、えらいよばれました。ほな、この辺で失礼させていただきます、ゆうと、
 ええ?まだ、よろしいやおまへんか。それとも何でっか?うちに角の生えた方がいたはるんでっか?
 いえ、そんなもん、いてまへん。角の生えたんゆうたら、カタツムリくらい・・
 ほな、よろしおますがな。もっとゆっくりしていきはったら。
 ええ?そしたら、いっそのこと、今晩は泊めてもらおかしらん。ああぁ〜ん」
「あんさん、何をゆうてなはんねん?」
「いや、ちょっと大坂まで行った時の心づもりを」

「おお〜いい、お客さんよぉ、こりゃ、お女中の荷物じゃ」
「あっ、それはわいの係になってまっさかい、誰にも渡さんと、こっち、おくんなはれ。
 これが大坂帰って一杯呑む手付けになりまんねんから。

 どうです?けなるいことおまへんか?うらやましいこと、おまへんかっちゅうてまんねんがな。
 あんたらにもね、頭の上、いただかしてあげまっさ。
(と、荷物を周りの人間の頭の上でぐるぐる回す)
 ほな、これは邪魔にならんよう、この上に吊るしてってと」

(おばあさんが来て)「はい、はい、親切なお方はどこですかな」
(他の客が皮肉っぽく)「お女中、来(き)はりましたで」
(当てが外れ)「船頭!おばんやないかい!」
(平然と)「おばんでも、お女中じゃ」
(さらに、からかい)「膝の上、乗せたげなはれ」
「あんなもん、どこぞのすまんた
(すみっこ)にでも、ほかしたらええがな」

「はい、はい、すんませんが、私の荷物、取ってくださいませんかな」
「ああ、お婆さんの荷物やったら、この人が親切に吊るしてくれたはるで。
 で、お婆さん、この荷物、何やねん?」
「はい、はい、うちの家主さん、親切なお方。
年寄り、船でしし
(小便)したら危ない、ゆうて、ほうらくに砂入れて・・・」
「ええ?これ、おばんのおまるかい?
 けっ、そんなもん、いただかせやがって。
 おい、おばん、これ、さら
(新品)やろな?」
「最前、いっぺんだけ・・・」
「使
(つこ)たんかい!」
(吊っている紐を解こうとして)
ぱちん!「あっ!割れた!」

 二丁の櫓
(ろ)には、必ず四人の船頭がついたそうでございまして。
(中腰になって、櫓をこぐ格好をしながら、船頭唄を唄う。
 途中で楽屋の別の噺家が、唄を合わせてくる。
 そして、最後、声を揃えて掛け声。

 船頭は、別の船頭と、馴染みの女の話をする)
「え?300?えっらい高いのぉ。俺ぁ、そんだけの銭がありゃあ、米、買うだ」
「女郎買いと、米買いが一緒になるかよ」
「だども、さっきのおなご、目と鼻、置く所が間違うとるぞ。
あら、町中じゃからええども、山ん中、のそのそしてたら猟師が鉄砲で撃つ・・・」
「そったらこと、言うもんでねぇ。
第一、おなごは顔やない、ここじゃ」
(と、胸のあたりをたたく)
「胃の丈夫な奴か?
 まあ、昔からよぉゆうでのぉ。
 立って食う寿司も、寿司寿司・・・」
「何じゃ、それは?」
「いや、巻いた寿司もありゃあ、立って食う寿司もある。
 人の好みは様々だっちゅうこっちゃあ」
「馬鹿こくでねぇ。それもゆうなら、
タデ食う虫も・・・・・虫、虫」

(場面転換のたびに船頭唄が入る。今回は楽屋で先に唄い出し、松喬が
それに合わせていく。
 今度は船頭と客との対話)
「何ぃ?茶ぁくれ?こら、おめえらに飲まそうと沸かした茶でねえだ。
 川の水でも飲んで、どざえもんにでもなれ」

(唄)

「何?ばりはじく
(小便する)かよ?船べりにばり、かかると船神さんが怒るだで、なるたけ、外に尻、突き出して。  え?何も恥ずかしがるこたぁねえ。
 みんな、寝とるだ。そう、ぐ〜っと突き出すだよ。
(船頭がぐ〜っと身を乗り出し、感にたえかねたような声で)
白いケツじゃのぉ〜」
(と、前のめりにこけて)
どぼ〜ん!
「お〜い!船頭、一人川にはまったぞぉ!引き上げたれ、引き上げたれ」

 枚方過ぎれば白河夜船、三十石は夢の通い路の一席でございます。

 

 


 

 どうも、お退屈さまでした。殴り書きのメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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