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(No21) 米朝一門会 鑑賞記その1 

 平成18年8月12日(土)午後2時よりヒルトン大阪(桜の間)にて開催された米朝一門会の鑑賞記その1。

 ご存知かもしれないが、先日米朝師匠が骨折で入院され、取りあえず8月中の落語会は休演となる・・・・・という報道があった。よって、急きょ代演ということになったのである。

 昼の部は小米朝、夜の部は雀々が代演する。


 



(1) 桂 歌々志 「狸の賽」


 
開口一番は歌々志。
 桂歌之助の弟子。以前は「平の陰」という噺を聴いた。

 噺はお馴染みの、狸が、ある博打打ちに助けられた恩返しをするというもの。サイコロに化けて、胴元になった男が言う目を出せば儲かる。数字を口に出すと、その目が出る。不審がった周りの者から「数を口に出すな」と言われ、困る男。

「なになに。五が空き目か。五が出たら、全部わいのもんやな。え?わかってる。数を口にせなんだらええんやろ。
 そんなもん、口にせんかって(しなくても)わいと”た〜ちゃん”(狸の愛称)では、ちゃあんと符丁が決めたある・・・・っと、待てよ。五の符丁決めるのん忘れてたがな。
 化け方、聞いといたらよかったなあ。目玉二つに尻(けつ)の穴・・・・ゆうてもわからんやろなあ。(上を向いて目玉を見せるのが”二”の目。逆立ちして尻の穴を見せるのが”一”の目の化け方だった)」

 困ったあげくに、梅鉢のご紋、天神さん、天神さん!と念じながらつぼを開けると、狸が冠かぶって、笏(しゃく)持って、天神さん(菅原道真公)の格好をしていたというオチ。

・・・・・・というのは、実は前回のメモ。まあ、前回と大きく変わったところはない。

 開口一番ということを意識しているのか、マクラも「飲む打つ買う」から、すぐサイコロばくちの話となり、狐と狸が「賭場に行きたいなあ」「しかし、ああいう所は誰でも行けるゆうもんやのうて、素性の知れたもんしか入れてくれへんで。せや、ああいうとこは、すった奴が途中で帰ることがあるからそいつに化けたらええ」ということで、狐はうまく紛れ込む。
 狸は、別の男が出てきたので「ここや!」と思って、ガラッ!と戸ぉ開けるなり「わいも帰ろう思たけど、くやしいよって、今日はとことんやるわ!」とゆうたんですが、「あっ!狸が来よった!」ゆうて散々どつかれた。おかしいなぁ、なんでばれたんやろ思てよお考えたら、あんまり慌てて化けるのん忘れてたぁゆうて、何や狸ゆうと、のんびりしてますなあ・・・というおなじみのくすぐりから、すぐ恩返しに来た狸との会話になる。

 顔の表情などがはっきりしているというか、メリハリをつけるよう意識しているのではないか。なかなかうまいとは思うが、若々しさよりはちょっと「大げさ」、「わざとらしさ」みたいなものも感じさせる。
 




(2) 桂 宗助 「禍は下」

 宗助はなかなか艶のある噺家だなという感じがした。
 「近頃の女性は強い・・・なんてこと申しますが、あれは間違いですよ」というからフェミニスト的なことを言うのかと思ったら、「女性の方が強いのんは、むかぁし(昔)からでございます」と笑わせる。

 今まで聴いたことのない噺で題名がわからなかった。(会の終了後、演目が書いて貼りだしてあった)

 家で『上方落語 桂米朝コレクション』8巻美味礼賛(ちくま文庫)を読んでいると、この噺が収録されていた。
 米朝師匠の解説でも「これで結構むつかしい噺です。私も勉強会、研究会的なところ以外ではやっていません」とあった。

 「悋気の独楽」という噺に少し似ている。

 商家の旦那さんが、夜更けにいきなり、仲間内で網打ちをするので羽織・袴を出せとお内儀さんに申しつけ、お供の丁稚の定吉に提灯と風呂敷を持たせて出かける。

 定吉が「わい池田の山手で育ちましたさかい、網打ちてな、初めてです」「え?天満橋行くんやったらこっちでっせ」とか言うが、旦那は、あっさり、網打ちは嘘じゃ、お孝のとこに行くのじゃとばらす。

 「急にお前の酌で一杯やりとなって(飲りたくなって)な」と囲いもののお孝さんのところで腰をすえる。定吉が一走りして、近所の仕出屋で酒の肴を買ってくる。
「あ、しもた。お前の虫養い(ちょっとした間食)に茶碗蒸しでも一緒にゆうてやったらよかったな」という旦那に「そうゆうてもらえるか思て、巻き寿司があったんでちょっと切ってもらいました。ついでに茶碗蒸しも」とちゃっかりした定吉。

 銚子の3本も空こうかという時分にお孝さんが「旦さん、羽織や袴、脱ぎはったらどうでやす?それと、今晩は、お帰りになりますのん?」と声をかける。
「酒がまわってきたら、何や帰んのも邪魔くそなってきたなあ」
「そやったら、もうちょっとはよう(早く)ゆうたげはったら(言ってあげれば)。定吉どん、最前からこっくり、こっくりしたはりまっせ」

 旦さんは、定吉に羽織と袴を風呂敷に包んで持ち帰るよう言いつけ、お内儀さんへの言い訳を教える。
「あのな、船に乗って投網を打って遊んで、そん時、羽織、袴を脱いだので持って帰ってきましたと。
 旦さんは、これから獲った魚を網彦(料亭の名前)で料理させて、お仲間の方とお酒を飲みはります。夜明かしになるやろとゆうので、私は先に帰って参りましたと、ええか、こうゆうのでやで。

 ここに金が1円ある。川筋に行たら遅うまで開いてる魚屋があるさかい、何でもええ、網でとれた魚を買(こ)うて、これはお土産じゃちゅうて持って帰んなはれ」
「あのぉ、旦さん。これ1円、みな、お魚買わな、あきまへんか」
「そら、みつくろいで、つりはお前の小遣いにしたらええがな」
「そうですが。ほたら、20銭ばかり魚買うて、あとの80銭は小遣いに・・・」
「あほ言いな。その反対くらいにしときなはれ。そやけど、心配やな。昔から、禍(「わざわい)は下(しも)からってゆうからな」

 要するに、下々の者がつい口を滑らせるから、ことが露見し禍になる。せやから、芝居でも大事を知った下郎を斬ったりしてるやろ、と言う旦那に「他のもんは知りまへんけど、この定吉はおつりの分はしっかりやります」と胸をはる。

 店に戻って、お内儀さんに報告する定吉。土産を見たお内儀さんに「この魚はどないしましてん」と聴かれ、
「へえ、それ目刺し言いまんねん。仲のええ魚で、5匹顔をこう、ぺちゃ〜と並べて泳いでたとこ、旦さん網でぴや〜っとすくいはりましてん。
 え?これはちりめんじゃこゆうもんです。こう、ちっちゃいのが群れをなして泳いでるとこ、やっぱ旦さん、ぴや〜っと網で。
 へえ?あ、それでっか。そいつ、ぶさぁ〜いくな魚でんねん。カマボコゆいまんねんけどね。魚のくせによお泳ぎませんねん。いつも、こう、板につかまって。で、流れてきたところを旦さんが網で」

 山手育ちの定吉は魚の名前も何も知らない。魚屋に行ったものの、「網でとれたもんやったら、何でもええねん。これ何ちゅうの」「こら目刺しやがな」「網でとれたんか」「・・・まあ、元は、網でとれたもんやで」と言われ、あとは値段だけでみつくろってきたのだ。

 何でなまのお魚やないの!とお内儀さんに詰め寄られ、「もう、わたい、ゆうてしまいますわあ」と定吉。早くもばれるか?と思ったら、
「生の魚持ってたんですけど、野良犬が来て、取られてしもたんです。
 せやけど、旦さんのお土産なくしてしもて、そしたら、川筋でまだ開いてる魚屋があったんで、わい、ちょっと小遣い持ってましたさかい、それで買うてきたんです。すんまへん」
「まあ、せやったんか。せやったら、何で最初から正直に言いまへんねん。せやけど、自分の小遣いで?そらすまんことしましたなあ」と逆にお内儀さんからはポイントが上がる。ナイス!定吉って感じ。

 すっかり安心して部屋に戻ろうとした定吉だが、お内儀さんに再び呼び戻される。

「定吉。これは旦さんの羽織と袴やな。誰がたたんだんや?」
「わたいです」
「この羽織はわかるで。不細工にたたんだある。しゃあけど、この袴見てみ。あんた、こないきれいにたためまんのか?」
「・・・・・・・ええ?・・・・も、もう、ゆうてしまいますわあ」
 定吉、再びギブアップか?
「わたいのおかんが、男は袴だけはきっちりたためんとあかんゆうて、それで教えてくれましてん」
「へええ?あんたのお母はんが。へえ、あんたのお母はんって偉いねんなあ」と感心するお内儀さん。

 定吉再び起死回生の逆転打か?と思われたが、お内儀さんは突然、「いぃ〜〜!」とか言いながら、指先を手刀のようにピャッ!ピャッ!とめったやたらに振るい、袴をぐちゃぐちゃにして
「ほれ!たためるんやったら、もういっぺん、これをきれいにたたんでみなはれ!」
「・・・・・やりまっせ。やりまっけど、こない、むちゃくちゃにせんかって・・・・・・。これ、ここの紐を、こう結びまっしゃろ・・・・・ほんで・・・・」
 とうとうバンザイ(お手上げ)してしまう定吉。

「何でお妾(てかけ)はんのこと、わかりましてん?」
「そら、袴のたたみようでやがな」
「旦さんの言わはったとおり、禍は下からや」
  


 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音等してませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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