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(No22) 米朝一門会 鑑賞記その2 

 平成18年8月12日(土)午後2時よりヒルトン大阪(桜の間)にて開催された米朝一門会の鑑賞記その2。

 ご存知かもしれないが、先日米朝師匠が骨折で入院され、取りあえず8月中の落語会は休演となる・・・・・という報道があった。よって、急きょ代演ということになったのである。

 昼の部は小米朝、夜の部は雀々が代演する。




(3) 桂 小米朝 「七段目」

 にこやかに高座にあがるなり、「代演の小米朝でございます」と強調して笑いをとる。

「米朝抜きの米朝一門会にかくもたくさんお越しくださいまして、ありがとうございます。

 とても代わりはできませんが、せめて米朝の近況報告をさせていただきます」とのことだったので、記憶している限りで、皆さんにもお伝えしよう。
「皆さん、新聞などでご存知や思いますが、米朝が今入院いたしております。スポーツ紙なんかは寝ぼけて骨折と書いてましたが、まあそうゆうことでございます。

 あれは、8日未明のことでございました。
 師匠の家(うち)には私ども弟子が順番で泊まったりするのですが、酒のつきあいすんのんがかなんゆうこともありまして、ちょいちょい、師匠ちょっとすいまへん、今日は・・・てなことになっております。

 ちょうどその日も、弟子はおらず、母親だけでございました」。

「母親ゆうのもパーキンソン病でございまして、24時間ヘルパーさんについてもろてます。

 ちょうど6時頃やったそうですが、米朝の断末魔の叫びを聞いたんは、そのヘルパーさんだけやったんです。まさに、『家政婦は見た』っちゅうやつですな。

 要は、米朝は寝茣蓙(ねござ)が好きでして、夏になると布団に寝茣蓙敷くんですが、どうもその上で足を滑らせたようなんです。

 私らは最初ただの打ち身や思てたんですが、お医者さんの診たてでは第12胸椎圧迫骨折。
 ちょっと話が学問的になりますが(と、扇子を背骨に見立てて縦に持つ)、人間ゆうのは頚椎(けいつい)が7つ。胸椎(きょうつい)が12。腰椎(ようつい)が5つ。計24の骨で脊椎(せきつい)ゆうのが出来てるそうです。

 この胸椎の12番目が圧迫骨折。圧迫骨折というのは、これもお医者さんによると生卵のからに無数のひびがはいっている状態だそうです。無数にひびは入っているのですが、割れてはおらん。わかりやすいたとえでしょ。

 私と弟と近所に住んでる吉の丞(吉朝の弟子)とでとりあえず師匠の家、行ったんですが、
『師匠!どないしました?』
『・・・ああ、小米朝か?』
『何かどうしても言いたいことは?』
『・・・桃が食べたい』
『聞いたか?桃やあ!』と、こうすぐに用意いたしますと、汁だらけになって食べはりまして。

『あと、他には?』
『・・・羊かんが食べたい』

「まあ、師匠の家にいてますと、断末魔の叫びも慣れっこになってまいります。
『ぎゃああああ』ゆうので、だあ〜っと走っていって、
『師匠、どないしました!?』
『茶ぁ、こぼした』

・・・・・ゆうたら、断末魔も狼少年状態になってます。

 しかし、こないだ、水虫の薬を目にさしはった時は驚きました。
(少し押さえた米朝師匠の口調を真似て)『これが水虫の薬やな』ゆいながら、フタあけて(上向いて、目を片手でこじあけて)目にさそうとしてるんですが、そういう時は不思議と声が出まへんな。
ああ、あああぁと、心では思うんですが声が出ない。で、ぎゃあああ・・・・・断末魔の叫びですわ。
 まあ目医者行って治ったんですが」

「落ち着いたら病院行ったらええわ思てたんですが、動けんとゆうので、こら救急車で搬送してもらわなしゃあないかな思って、『ええ、本人、桃食て、羊かん食て、至って大丈夫なんですが、動けんゆうてるので』ゆうて救急車に来てもらいまして。
 隊員さんが3人、来てくれはりました。

 米朝は2階で寝てまして、この階段が、こう結構曲がりくねっておりまして、それあがって2階へ来てもろて、運ぼかとなりました。

 で、出しはったんがタンカやのうて、オレンジ色の袋なんですな。まあ、はっきりゆうたら雪山で遭難しはった遺体を運ぶ時使うやつですわ。・・・・・これも、わかりやすいでっしゃろ。

 隊員さんが『米朝さん、運ぶ時手ぇ外に出してるとぶつかったらあかんから、こう、当たらんように中へ』ゆうて(両手の指を組んで胸の前で合わせ)、ぐるぐる巻きにして運び出そうゆうとき、ちょうど、柱時計が『ち〜ん!』

 で、袋の前と後ろを持って、こう持ち上げたんですが、どうしても腰のとこで折れる感じになるから『痛い!痛い!』ゆうことでやっぱ、戸板や!ゆうことになりました。

 体の下へ戸板を差し込みまして、その階段、ちょっとそっちを上に、今度は下へ、ゆうて、ちょうど引越しの時たんす運ぶような要領で、何とか病院に連れて行ってもらいまして、病院着いて、師匠に『どうですか?師匠?』て聞いたら『桃が食べたい』・・・・・・・・。ほんま桃が好きなんです」

「えらいもんで、いわゆる五大紙、ずらっと社会面に米朝骨折ゆう記事が出ました。で、国際面を見ると米朝(アメリカと北朝鮮)に亀裂・・・・・どうも米朝は緊張関係にあるようです」と爆笑のうちに近況報告は終わった。

 噺は芝居好きの道楽息子の若旦那が店の2階で、丁稚相手に忠臣蔵の七段目を演るというもの。

 小米朝は、芸事はいろいろやっているので、歌舞伎の声色などもうまい。

 2階に上がる階段を八百屋お七がのぼるはしご段に見立てて、人形振り(役者が演じるのだが、浄瑠璃の人形のような、ぎこちない、現代風に言えばロボットダンス的な動き)であがるところなど、実にうまい。かなりオーバーに演じているが、きっちりした基礎があるのか安心して笑える。

 若旦那が芝居の声色を始めると、小米朝の目がちょっとファナティックな、大げさに言えば狂気の光りみたいなものを一瞬宿す。
 それだけに、若旦那の狂気が盛り上がった後の、『あいつは何やっとんねん』という親旦那のほとほと呆れたような、至って「現実的な」ぼやき声でぶわっ!と笑いが巻き起こるのである。枝雀言うところの「緊張と緩和」であろうか。




(4) 桂 南光 「皿屋敷」

 南光のマクラも米朝父子に関すること。

「なんとゆうても、人間国宝の噺家ゆうのは、今は師匠ひとりだけでっさかいな。もうこれ以上はないんです。

 もともと米朝ゆうのはそない大きな名前やなかったんで。米団治とか米紫とか。それを師匠一人であないな大看板にしはった。

 米朝父子ゆうのはおもろい関係で、師弟であって、親子ですからな。
 普通やったら、米朝の名前は、一番弟子とか、まあ、ざこば兄さんとかがね、継ぐとこなんでしょうけど、やはり子供ですからね。
 なんちゅうか、どうしても権利がございますでしょ。株ゆうんか。
 こないだ小米朝と飲んでたら、『南光兄さん、米朝の名前欲しないですか?』
『欲しないかって、そら、欲しないことはないけどもやな』
 そしたら、小米朝、酒の勢いで『どうです、米朝の名前、200万で売りまっせ』」
 
「そやさかい、その後、師匠に会(お)うた時ゆうたったんです。
『師匠、小米朝が米朝の名前200万で売るゆうてましたで』 
『なにぃ?小米朝がそんなことゆうてたか?・・・・・・・どや、わいやったら100万でええで』

 ・・・・・・・直(ちょく)の方が安い」

 まあ、名前のくすぐりはよく聴くマクラだが。
「幽霊ゆうと、四谷怪談のお岩さんも、牡丹灯篭のお露さんも、皿屋敷のお菊さんも、元は皆べっぴん(美人)です。
 しゃあけど、これは統計的にも、おかしいでしょ。よお聞いたら、べっぴんの女子(おなご)が恨みをのんで死ぬと、こう、幽霊になるんやそうです。
 で、そうでないお女中が死ぬとどうなるかっちゅうと、幽霊やのうて、化けもんになるそうですな」 

 空に浮かんだ三日月を描写するのに(両手できゅっ!と半円を描き)「・・・と、鎌を研いだような月」という演出がおもしろい。

 噺の方は、物知りのおやっさんに、近所の古い屋敷が皿屋敷で、今でも丑三つ刻にお菊が井戸から出てきて、皿の数を数える。「九枚・・・・」という声を聞くと、震えついて死んでしまう。昔、大阪相撲で十両まで張った緋縅(ひおどし)ゆう相撲取りが、そんなバカな話があるかと試してみたが、九枚という声聞くなり、震えついて三日三晩、わけのわからんことゆうて、死んでしもたんやと教えてもらう。
 ある一人が「ほたら、九枚とよむ前に、七枚くらいで逃げてきたら、どもない(何ともない)んちゃうか」
「そらええとこに気がついたな。そら、九枚ゆうとこに恨みがこもってるんやさかい、七枚やったらどもないやろう」
「よっしゃ、せやったらさっそく今晩にでも、お菊さん見に行こう」
「わいはやめとくわ」
「ええ?お前おやっさんの話聞いてへんかったんか」
「お前こそ、おやっさんの話聞いてへんのか。そら、四ま〜い・・・・・五ま〜い・・・・て、こないな風に数、よんでくれたらええで。ひょっと、根性(こんじょ)の悪いよみよう(数え方)、されたら」
「何や、根性の悪いよみようって?」
「そら、五ま〜い・・・・・六ま〜い・・・・・(思い切り早口で)七枚、八枚、九枚!」

 ともかく、見物に行った若い衆たちは、何とか無事に帰ってきた。こうなると、お菊さんはべっぴんやし、命をかけたスリルが何ともいえんということで連日連夜、大評判となってきた。
 ある興行師がお菊と特別交渉して、専属契約を結び、「お菊ホラーショー」と銘打ち、入場料を取ることになった。屋敷も建て替え、切符は半年先までソールドアウト。

 この日も押すな押すなの大賑わい。「風邪をひいた」とせきこむお菊さん、何と十八枚まで数えてしまった。

 客が怒って
「お前、ちょっと人気ある思て増長しくさってるんちゃうか。高い銭取りやがって!九枚の恨みで化けて出てるん違うんか!」
「ぽんぽん、ぽんぽん言いなはんな!」
「あっ、口答えしやがった。女の悪いとこ出しよった。ほたら、何で十八枚までよんだんじゃい!」
「知れたこと。二日分よんで、明日の晩、休みまんねん」



 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音等してませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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