移動メニューにジャンプ

(No94) 講演「修ニ会を学ぶ」聴講記 その3 

 2007年2月3日(土)、息子の学校の父母会行事で講演会があったので聴きに行った・・・・の続き。

(なお、いつものことなのでつい断り書きを省略しがちなのだが、たいてい録音は禁止されているし、たとえ許されていても逐一テープ起こししていたら時間がいくらあっても足りない。よって、いつでも聴講記は、簡単なメモとおぼろげな記憶を頼りに「適当に」セリフを再構成している。
 「話し言葉」なので、「録音してるんでしょ!」とお叱りの言葉をたまにいただくので、そうではないということをお断りするとともに、内容については聞き間違い等が多々あることを前もってお詫びさせていただく) 

 


【 4.練行衆 】
【 (4) 参籠衆 】
【 ア 三役 】

 11人の練行衆のほか総勢で39人くらい籠もります。
 三役とは、小綱
(しょうこう)堂童子(どうどうじ)駈士(くし)をいいます。
 三役は、半僧半俗で、普段は別の職業とされています。僧侶になるには家柄は問いませんが、この三役には代々決まった家の方がなられます。小観音が寺に入った時についていた人の子孫が三役になっていると聞きます。

 三役は湯屋におります。

【 イ その他 】

 練行衆11人と三役3人を合わせた14人には、それぞれ1人ずつ童子
(どうじ)がつきます。
 また、仲間
(ちゅうげん)は、僧と童子の間を取り持つ役です。部屋の布団ひきや掃除をします。2月20日から3月15日までのボランティアとなりますが、うちの学校の卒業生で大学に行っている学生も参加したりします。
 多分、おぼっちゃんで、家では家事などほとんどしてない子だと思われるんで、大丈夫かな、童子さんなんかにいびられないか心配なんですが、まあ、鍛えられて立派になっていきます。たまに途中で「帰る」と言い出す子もいてますが。
(会場笑い)
 あと、湯炊きの方は大炊
(おおい)さんといいます。みんな男です。
 また、院士
(いんじ)さん、小院士さんという方もいますが、これは料理長です。修二会の献立は、食糧難だった昭和22年頃のメニューを踏襲しているので内容は質素です。

(※ 石野注)
 「修ニ会には、ほかに堂童子、小綱、駈士、加供奉行(かくぶぎょう)、仲間、童子といった、練行衆を補佐する者も多くいて、この法会に直接携わる者は総勢30数名に達する」(東大寺パンフ)




【 5.前行 】
【 (1) 準備期間 】
 12月16日に配役が発表されると、先ほど言ったほら貝を吹く練習もしますが、あと、声明
(しょうみょう)の稽古に早速入ります。何せ暗記しなければならない量が多いんです。

 六時といって、一日を六つに分けます。
 日中
(にっちゅう)日没(にちもつ)初夜(しょや)半夜(はんや)後夜(ごや)晨朝(じんじょう)という六つですが、声明はそれぞれリズムが異なるので、それを覚えるのが大変です。

(※ 石野注)
 「六時のそれぞれにおいて唱誦される声明は、時によって長短、緩急があって、実に変化に富むばかりでなく、鈴や法螺貝などの音も加わって、一種の仏教音楽をなしているといえる」(東大寺パンフ)

 そうした練習が順調に進んでいるか監督するため、2月中旬には習礼(しゅらい)という公開練習もあります。

 




【 (2) 試別火 】

 別火
(べっか)というのは、娑婆の火とは別の火で生活するということです。
 刑務所を出所すると、よく「ああ、やっぱりシャバはいいなあ」なんて言いますね。私が言うわけではないですが。
(会場笑い)

 別火坊は昔は千手堂の庫裏にあったようです。
 以前は勧学院戒壇院の2箇所にありましたが、今は戒壇院だけです。

(※ 石野注)
 「修ニ会は1ヶ月近くに及ぶ長期の行事であるが、おおまかには2月20日から28日までの前行と、3月1日から14日までの本行とに分かれる。
 前行は別火と呼ばれ、戒壇院内に臨時に設けられた別火坊に参籠する。
 別火とは、練行衆がふだんの生活を断ち切って精進潔斎し、しだいに心身を浄(きよ)めていく期間のことである」(東大寺パンフ)

 新入(しんにゅう)というのは、その年初めて籠もる人をいいます。今年も新入さんがいます。今年の新入さんは30歳の人です。そして彼をサポートする権処世界さんは10回以上のベテランです。

 新入は2月15日から別火に入ります。同じように初めて大導師になる方も15日から別火に入ります。それ以外の者は、2月20日から別火に入ります。
 別火のうち、前半部分を試別火
(ころべっか)といいます。

 別火は、神道で使う用語です。能の世界でも、特定の演目を演じる時に別火するということがあるようです。

 手向山八幡宮の方に来ていただいて、お祓いをして、火打石でつけた火を以後使います。暖房も、この火でおこした火鉢だけです。石油ストーブなんかは使えません。

 2月20日の午後7時に集合することになっています。そして衣をかえます。東大寺の近くにある佐保川の上流に蛭子川
(えびすがわ)という川があります。蛭子神社の前の川の水でお祓いをします。

 牛玉櫃ですと、中の箱を三つ出して互い違いに積み重ね、全部一緒にお祓いを受けます。

(※ 石野注)
 「20日の夕刻、練行衆は三々五々戒壇院に集まり、まず入浴して身体を、ついで運び入れた持ち物一切を、佐保川の上流、蛭子川から汲んだ水で祓い浄(きよ)める。これには隈笹(くまざさ)の一枝が用いられる。
 それから小さな厨子に入った厨子に入った自身の守り本尊をまえに、祝詞様(のりとよう)の御祓文を称えながらこれも小さな御幣で祓いをし、みずからの体内から三毒が吹き払われるようにと祈念する。これで別火入りとなる」(東大寺パンフ)

 試別火の時に花ごしらえをします。
 開山堂の椿を「のりこぼし」といいます。赤い花の上に白い糊をこぼしたような花です。この椿を模した造花を作ります。

 深い山の中で「行い」という民族行事がありますが、それに似ています。
(※ 石野注)
 「行い」というのは意味不明。山村などで花を飾る宗教的、民俗的行事がある、という風に受け取った。

 薬師寺の花会式(はなえしき)では、いろいろな花を供えます。修ニ会に関する昔の日記には、椿のほか、水仙、南天の生花や造花を飾れとあります。いつ頃からか生花を使うことはなくなりました。

 タラの木、私どもはタロといいますが、タロの木で芯を作ります。枝に刺せるように、千枚通しで穴を開けます。
 タロの真ん中に、「ニオイ」という黄色い部分を巻きます。

 赤い紙は、京都の吉岡幸雄さんが紅花で染めたものを寄進していただいています。

 2月20日から25日まで、こうして試別火をおくり、25日には暇乞い
(いとまごい)をします。

 また、25日と26日を捨火
(すてび)といいます。もともと捨火とは、別火として使った後捨てた火をいいます。
 もし管長や長老が別火坊を訪ねてくださっても、別火を使わせるわけにはいかないので、捨火を使わせるということになっています。

 25日と26日の捨火は、その時だけ娑婆の人と同じ物を食べてよいとされています。いわば、休憩、骨休めの日です。

 いずれにせよ、試別火の間は境内のうちなら歩けるし、間食もできます。 



【 (3) 総別火 】

 26日からは前行の後半部分、総別火に入ります。
(※ 石野注)
 図録「お水取り」(奈良国立博物館)では「惣」別火とあり、東大寺HPでも「惣」別火となっている。
 しかし、今回会場で配布された東大寺のパンフには「総」別火とあるので、今回は総別火としておく。



 総別火に入ると紙衣を着ます。
 また、総別火に入ると、足の裏以外を地面に付けてはいけないとされていますし、テシマという茣蓙の上以外、膝を付けてもならないとされています。
 私語も禁じられます。
 部屋には結界が張られ、隣の部屋に行くにも白い鼻緒の草履を履いて行きます。
(左写真が、多分、その白い鼻緒の草履だと思う)

 ともかく、足の裏以外を地面に付けてはいけないという決まりがあり、その禁に触れると「塵」(ちり)になるとされています。

 「塵になる」というのは、僧侶でいうと「追放される」というような意味でしょう。

 総別火の時に、花ごしらえで用意した椿の造花を枝に差すのですが、差しそこなって落とした椿も「塵になる」といわれます。落とした花は、もう使わないんです。
 皆さん、この塵になった椿を欲しがられます。おもしろい話があって、以前、この椿の花付けが取材されたことがあって、その時、何のはずみか、練行衆の一人がうっかりお堂から落ちてしまったんですね。けっこうお堂の壇から廊下まで、高さがあるんですよ。
 ところが、その時、近くで撮影していたカメラマンの人は、落っこちてきた練行衆はほっといて、椿を拾いにいったんです。
(会場笑い)
 この椿は練行衆より大事にされるんです。
(会場笑い)

 決められた食事の時以外、水も飲んだらあかんということになってます。仮に口をゆすいだとしても、その水をゴクリと飲んだら、「塵になる」んです。
 それなら薬をのむ時なんかはどうするのか、というと、湯屋小袖
(ゆやこそで)という着物を着て、テシマゴザの上に座ってなら薬がのめるとされてるそうですが、私はそうゆう人は見たことがありません。薬をのまなくてもいいくらいの健康な人ということなんでしょう。

 総別火の最終日、午後3時過ぎに追い出し茶を飲んで、いよいよ堂に向かって出発します。 

 


 


 ここで一度切ります。どうもお疲れ様でした。

 
  

inserted by FC2 system