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2007年11月のひとこと書評(掲示板に書いた文章の転載。評価は★5つが最高)

 11月のひとこと書評の再録です。掲示板そのままでは芸がないので、評点をつけます。★5つが最高。評価基準の詳細は、2001年11月書評のページをご参照ください。




(607) 『水滸伝』12巻(著:北方謙三。集英社文庫)

 燕青の魅力横溢の巻。これまで盧俊義との男色関係が否定されていなかったので、ちょっと燕青は敬遠していた。
 しかし、この巻で実態が判明する。また、燕青が行政官である裴宣に理解を示したり、阮小二に船に関するヒントを与えたり、命がけで盧俊義を救出したりしている。社交界デビューのようだ。
 闇塩の道を青蓮寺に嗅ぎつけられ、盧俊義は沈機という男の拷問にあう。
「沈機を思い出すと、不思議に懐かしいような感情が入り混じってくるのだ。
責める側と、責められる側に、なにか通じ合ったものはあった。ほんとうの拷問とは、そんなものなのだろうか」。

 何か深いSMの世界の話のように感じるのだが。



★★★☆


(608) 『水滸伝』 13巻(著:北方謙三。集英社文庫)

 前巻を「燕青の魅力横溢の巻」と表現したが、この巻は「呉用のやな所全開の巻」。
「はじめて宣賛の顔を見た時、呉用は眼をそむけようとする自分を、抑えきれなかった。宣賛の人格を左右するものではない、と頭ではわかっていたが、むごたらしい醜さに抱いてしまう嫌悪感はどうにもならなかった。
 宋江も盧俊義も、そして呼延灼や穆弘も、気にしているようではなかった。柴進だけが、自分と同じ反応を示したような気がする」。
 9巻で「そういうのを聞いて、揚林ははっきりと柴進を嫌いになった」とあった。このまま、呉用と柴進は嫌われキャラになるのか?

「朱武が、そばに立った。
『宣賛は、なかなかのものだろうと思います、呉用殿』
『私も、そう思っている。話すかぎりでは、私などより深く軍学をきわめているな』
 実戦ではわからない、という意味をこめたつもりだったが、朱武は大きく頷いた」。
 ここも、呉用の人間としての器の小ささがバレバレ。

「『呉用殿の言い草は、水軍の戦なら任せておけ、という感じではないか。船の動かし方も知らんくせに』
 吐き捨てるように、李俊が言った」。

「呉用という男を、実は秦明は好きになれずにいた。晁蓋が持っていた大らかさがない。宋江の、茫洋とした魅力もない。魯達の飄々とした風情もない。
 そして、すべてを自分で把握していなければ、気が済まないというところがある。兵站を担当している柴進も、細かいことは任せてくれと、声を荒げていた」。おお、柴進以下か。

「『そうか、孔明が戦死か』
 報告を終えると、黙って腕を組んでいた宋江が言った。
『見事に死んだと思います』
『これで、敵の水軍の増強はかなり押さえられたことになりますな』
 呉用が言った。いまは孔明の話をしているのだと思ったが、童猛は黙っていた」。
 呉用はKYのNo1て感じ。

 韓滔という男がいた。「〜じゃのう」というような喋り方をした。登場当初は、この喋り方がわざとらしい感じがした。塚本青史の関西弁をしゃべる登場人物みたいに口調で個性をつけるのか?と思った。そりゃ、ちと安易じゃないの、とも思った。
 前の巻で韓滔が戦死した。彭玘という男が、韓滔のことを語り合う時に口調を真似したりしていたが、この巻では完全に口ぶりが乗り移っていた。
「彭玘は韓滔とは長年の友で、その友の語り口をそのまま受け継いだということらしい。そうやって、人の死を受け入れるやり方もあるのだろう」。なるほど、こうすれば、あの口調も活きてくるな。

 聞煥章らは、邪魔になる身内の高官を梁山泊の手のように見せかけて暗殺した。これは青蓮寺の反対派の勢力を削ぐことでもあったし、梁山泊の脅威を示威し対策の必要性をアピールすることにもつながった。
「『おう、聞煥章。無事だったか』
『無事とは?』
『梁山泊致死軍が、ついに開封府でも動きはじめた。高官が三名、ほとんど同時に暗殺されたのだ』
 李富にも、測り難いところと、凡庸なところがある。凡庸なのは、友を疑おうとしないことだ。それが美徳だとは、聞かん章は思わなかった」。
 しかし、そこが聞煥章より李富が敵ながら魅力を持つ由縁であろう。

★★★☆


(609) 『水滸伝』14巻(著:北方謙三。集英社文庫)

「酔うと裴宣は饒舌になる。〜
『おまえは時々、淋しそうに笑う。〜女をどう扱えばいいのか、よくわからないのだな、私は』
『抱いてくださればいいんですよ』
『〜張青が死んで、一年以上も経つのだから、おまえがいい相手でも見つけてくれれば、と何度か思ったこともあった。〜私が、いい相手かどうかは別としてだが』
『〜あたしは、ひと晩抱かれたぐらいで、つべこべ言うような女じゃありません』
『〜酒の勢いで抱いたなどと、自分に言い訳をしたくない』
〜裴宣は、酔いに落ちていく自分を、踏み留まらせた。〜
『あたしは抱かれるつもりで、お酒などを持ってきましたが、しらふの男に、じっと眼を見て口説かれたいといま思い直しました〜』
〜裴宣は盃を呷った。孫二娘が腰をあげる。待てと言いかかっている自分を、裴宣は抑えた」

 裴宣は、宋江に、任務をおろそかにしたつもりはないが、ともに任務についていた孫二娘と男と女になってしまった、罰を受けたいと報告に来た。

「『それでは、結婚を認めていただけるのですか?』
『当たり前のことを言うな。〜おまえという男がいてくれて、よかった』
 座れと言っても座らない裴宣に、宋江は立ち上がって歩み寄った。肩を抱き寄せる。
『慈しんでやれよ。男とは、そうするものだ。女を慈しむことで、男はさらに充実して生きられる。おめでとう』」

 梁山泊の自治都市化している斉州に青蓮寺が手を回し闇の金貸しや妓楼をつくった。
 その妓楼にあがった史進と鄒淵が襲われるが、撃退する。

「『どうも、俺たちは査問を受けるらしい』
『けっ、女を買っただけだろう』
『素っ裸で暴れた』
 杜興が言い、史進の胸を棒で突いた。
『上だけ裸なら、まだわかる。なにも着ていなかったとはな。自分の姿を想像してみろ、史進。棒と一緒に、玉まで振り回しくさって。わしは話を聞いた時、これがわれらの隊長かと、恥ずかしさで身が縮んだぞ』
〜聚義庁の会議室に入った。
 宋江をはじめ、盧俊義がいて呉用がいて、ほかに公孫勝、林冲、宣賛が並んでいた。〜
 史進はともかく、自分が列(つら)なるような席ではない、と鄒淵は思った。座り心地も悪く、早く罰を下して欲しいと思った」

 作戦会議が始まった。

「『〜宋江殿、私はこれで』
 公孫勝がそう言い、立ちあがった。
『ここに残れないのは残念だがな、史進』
 公孫勝が出ていく。言い残したことの意味を鄒淵は考えた。〜
『さてと、残れなくて残念だ、と公孫勝が言った話題に移りますか』
 林冲が、卓に上体を乗り出して言った。〜
『おい、史進』
 林冲が、掌で卓を叩いた。鄒淵の方が、ぴくりと躰を動かした。
『お前が、素っ裸で棒を振り回したという話は、ほんとうなのか?』
『俺が、説明します。一緒にいたんですから』
〜鄒淵は、ひとつひとつなぞるように説明していった。〜
『それで、飛び出すまでに、なぜ時がかかったのだ』
『おれの声が、聞こえなかったのかもしれません』
『いま、聞こえていた、と史進は言ったぞ、鄒淵。いいか、これは大事な問題だ。なぜ、時がかかったのだ』
『それは』
 どこが大事な問題か、鄒淵にはよくわからなかった。しかしもう、言葉を挟める雰囲気ではなかった。」

 そして、史進はその理由を説明した。(放送コードにひっかかってはいけないので、詳細は省略する。よければ各自で14巻P210をお読みいただきたい)

「『俺の勝ちだ、盧俊義殿』
 『らしいな』
 盧俊義も、低い笑い声をあげた。
『俺は、盧俊義殿と賭けをしたのだ。〜女に着物を隠され、着るに着られなかったのだろう、と盧俊義殿は言った。俺の方が付き合いが長いからな。
おまえがどれだけ馬鹿かは、よく知っているのだ』」

 官軍が大兵力を差し向けだした。

★★★☆

 


 

 まだまだ書評が大量に積み残し。



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