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2007年4月のひとこと書評(掲示板に書いた文章の転載。評価は★5つが最高)

 4月のひとこと書評の再録です。掲示板そのままでは芸がないので、評点をつけます。★5つが最高。評価基準の詳細は、2001年11月書評のページをご参照ください。

 ただし、今月掲載分はいつもの書評ではなく、昔に読んだ本の抜書きノートが出てきたので、そこから転載しました。「抜書き」だけで全く「書評」してません。


(570) 『見た・揺れた・笑われた』(著:開高健。角川文庫)

「見た」
P16 「おそらく、その頃、私は盲いた一滴の液だったのだろうと思う」
 「宿酔いのことをアメリカの俗語で”青い廃墟”と呼んでいる」

P29 「この頃、もっとも根強く彼の薄暗くて熱い頭のなかにすわりこんでうごかなかった言葉は『・・・人生の醜悪の果てを見たいなァ』という望みであった」

P32 「何頭かの、背の二つある動物のいとなみを見たこともあった」

「笑われた」
P62 「毎日、毎日、皮膚のしたをすばやい奔流となって流れ去ってゆく言葉のなかから、なにかひとつこれ以上はどう解釈しようもない、究極の固さを持つものを拾いあげようと思っていた」

P63 「いちばん手ごたえのありそうな『木』とか〜いったものでも、ためしにそれを口のなかで十回ぐらいくりかえしくりかえしつぶやいてみると、たちまち正体がさらけ出される」

P71 「それぞれの瞬間に女の耳の穴に向かって吹きこんだ言葉の数かずを男は思い出すうちに、なにやら胸が熱くなり、それに気づいて、はげしくくちびるをかんだ」

P73 「女の最低の要求もかなえてやれないような男の世界なんて、そんなのでたらめだわよ。衰弱してる」

P75 「いま”妻”が”母”に変わるとわかった瞬間に女はまるで二十年も”母”であったようなそぶりで、自信にみちみちてオムツを作るのにふけっている」

P88 「男のために生まれもつかぬ不具に体をゆがめられた何人もの女たち」

P89 「体のなかに血をにじませつつ、ただどこが痛いのかわからないと言いたげに主人を見上げる犬の眼であった」

「太った」
P144 「どうやら人はどこの国でも責任のない相手にたいしてだけ慈悲と友情を寛容に提供するものであるらしい」

「出会った」
P222 「知性を介在しないものはみんな美しいな」


★★★☆


(571) 『憂鬱なる党派』(著:高橋和巳。河出書房新社)

P21 「あなたは昔から反省癖の塊みたいな顔をして、いちばん失礼なことには気づかない人だった」

P26 「女が血まみれになって子供を産まねばならぬということは、馬鹿げたことだと、今になって菊は思う」

P50 「善意な、善意であるがゆえに何一つ力を持たず、また人の心の真の苦しみをてんから理解できぬ家禽のような男たち」

P95 「今のおれに、もし友があるとすれば、それは共に滅んでくれる人間だけなのだから」

P177 「お前のいいように、何でもいいからって、そんな無責任な、一見優しそうに見えて、そんな残酷な言葉があるかしら」

P196 「殺人を伴う手段は、そのこと自体によって目的を瓦解させます。目的は手段の集積であり、手段のあり方を離れて自立する目的などあり得ないからです」

P220 「彼は賢明でありすぎ、人間の一生が青春だけで終わるものではないことを不幸にして夙くから知っていたからだった」

P223 「人は言うべくして言わなかったことによって自立し、そして言うべくして言わなかったことによって誤解される」

P224 「何もしなかった人間だけが、何に関してでも、難くせをつけることができる」

P226 「一たん骨抜きにされた組合は企業家よりも冷酷になる」

P239 「どんな状態にあっても、女性というものは、何か可愛いものを見つけると、それを弄ぶことに自分を忘れることができるものだろうか」

P244 「見られてる通りの存在でしか、人間はありえない」

P246 「人間、前途にぱっとした希望のあるときよりは、自分よりくだらん奴がまだ下にいると思う時の法が本当はうれしいもんだ」

P268 「見送られ、編隊を組んで一たん飛び立った以上、人間にはその隊列をくずすことが、なぜか不可能なのだ」

P285 「本当に悲しい者を慰めてくれ、病気をなおしてくれ、何のとり柄もないもんでも、この地獄から拾いあげてくれる神さんがいるんやろか」

P287 「神さんがいないんなら〜公平に裁いてくれるものはないのやね」

P326 「女というのは不思議なものだ。不幸の内容が何であろうと、男が打ちのめされていると不意に優しくなる」

P334 「舎利弗は、自分の身を苦しめても貧しい人にそれを与えることが菩提心だと思ってしたのに、それを眼の前で唾棄されて〜小乗の道に身を転じたという」

P339 「頼まれねば何もせず、感謝が予定されていねば腰をあげない悪賢さの仮面が私の誠実だった」

P371 「女というものは不思議なものだ。あんなに幼くとも、頼られれば急にけなげになり、寛大で優しくなる」


★★★★


(572) 『堕落論』(著:坂口安吾。新潮文庫)

「日本文化私観」
P9 「我々にたいせつなのは『生活の必要』だけで、古代文化が全滅しても、生活は亡びず、生活自体が亡びないかぎり、我々の独自性は健康なのである」

P23 「実際において糞カキベラは糞カキベラでしかないという当たり前さには、禅的な約束以上の説得力がある」

P28 「伏見稲荷の赤い鳥居はてんで美しくないのだが、人の悲願と結びつくときまっとうに胸を打つ」

P29 「叱る母もなく、怒る女房もいないけれど家に帰ると、叱られてしまう」

「青春論」
P67 「知恵のある者は一から二へ変化する。ところが知恵のない者は、一は常に一だと思い込んでいるから、智者が一から二へ変化すると嘘だと言い、約束が違ったと言って怒る」

P80 「負けた人のいつまでも釈然としない顔つきというものは、眺めて決して悪い感じのものではない」

「教祖の文学」
P208 「文学とは生きることだよ。見ることではないのだ」

★★★☆

 


(573) 『白痴』(著:ドストエフスキー。新潮文庫)

P40 「いちばん強い痛みというものは〜三十秒たったら〜もう二度と人間ではなくなるんだということを、確実に知る気持ちのなかにある」

P150 「こういう美しさは力ですわ」

P158 「知っていながら、やっぱり保証がほしいんですよ。あの人は信用でそれを実行することができないんです」

P164 「ガーニャは、一度悪態をついて、しかもなんの抵抗も受けなかったので、ある種の人たちによく見うけられるように、しだいに自制心を失っていった」

P198 「人間というものは憤激がある程度まで達すると、その憤激がかえって愉快になって、もうどうなろうとかまわないという気持ちからしだいにつのっていく快感を楽しみながら、すこしも抑制することなく、その憤懣の情に溺れてしまう」

P198 「虚栄心の強い人間にとって何より恐ろしい拷問・・・自分の身内に対する羞恥の苦情・・・」

P233 「現代の人間にとって、お前はきわだったところもなければ〜きわめて平凡な人間だと言われるほど侮辱的なことはありませんからね」

P234 「金というものが何より醜悪でいまわしいのは、それが人間に才能まで与えてくれるからなんですよ」

P272 「人間てやつは、頼まれもしないのに、自分のさもしい行いを話して有頂天になるほど満足を感じるものだ」

P331 「日本じゃ恥辱を受けた者が恥辱を与えた者のところに行って『きさまは俺に恥をかかした。だから俺はきさまの眼の前で腹を切ってみせる』と言うそうじゃありませんか」

P386 「あの女を《恋で愛しているのじゃなくて、あわれみで愛している》んだからね」

P411 「はじめて赤ちゃんの笑顔を見た母親の喜びっていうものは、罪びとが心の底からお祈りをするのを天上からごらんになった神様の喜びと全く同じことなんでして」

P466 「なぜあのように美しい真摯な感情と、あのような見るからに明らかな毒々しい嘲笑とをいっしょにすることができたのだろうか」



★★★☆

 


(574) 『嘔吐』(著:サルトル。人文書院)

P20 「午後3時。3時というのは、つねになにをしようと思っても遅すぎる。あるいは早すぎる時刻だ」

P48 「何かは終わるためにはじまる。冒険はつぎ足されることがない。冒険はその死によってのみ意味をもつ」

P81 「四十代に入ると、彼らは、頑固に執着している些細なことや、二、三のことわざを経験の名で呼ぶようになる。そして自動販売機になりはじめる」

P110 「折られたバラ、死んだ理工科学校学生。これ以上に悲しいことがありえようか」

P120 「火曜日 記すことなし。存在した」

P136 「言葉を質問形にするのは癖なのだ。じっさいには断定を下しているのだ」

P145 「書物は何も要求しない。押しつけることもしない。ただ、そこにあるだけだ」


★★★☆

 


 

  書評が再び大量に積み残し。



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