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(No254) 立川談春独演会 鑑賞記その4   
          

 平成23年4月30日(土)、京都府立府民ホール アルティで開催された立川談春独演会のメモ。

 



立川 談春 「紺屋高尾」


 あっと言う間に3年て月日がたちまして。

「親方、おはようございます」
「おう、久蔵か。おはよう」
「実は親方にお願いがあって。・・・・・・・・・・今日1日でいいんで、お休み、もらえないでしょうか?」 

 
「お願いってから何だと思ったら、そんなことか。いいよ、いいよ。少し根のつめすぎで身体ぁこわすんじゃねえかと心配してたとこだ。

 3年ぶりの休みってゆうじゃねえか。ゆっくり骨安めしろい。おっかぁに言っとくから、小遣いでももらって・・・・」
「あの・・・・親方に預けてる私の給金はいくらくらいになりましたでしょうか?」

「え?ああ、ちょうどゆんべ、寝付かれなくてな。おっかあと一緒にソロバン入れてみたんだ。驚くな。18両と2分になってたよ。

 あと、1両と2分で20両だ。20両になったら・・・・上下の着物仕立ててやっから、故郷(くに)に帰んな。上総湊(かずさみなと)だったかな?
 赤の他人の千両、万両よりも実の息子の20両だ。親が生きてる間に喜ばせてやれ。

 で・・・・・・・・故郷に腰ぃ落ち着けてもいいが、もし、都会の風吸ったから、江戸に戻るってんなら、どこにも寄るな。一本やりで、うちぃ戻って来い。

 でな、お前にゃあ、嫁さん迎えてやるから夫婦ともども、うちの養子になって、おれとおっかあは少し早いけど、楽隠居に・・・・って、だめか?」

「あの・・・・・その給金の中から15両、貸してください」
「うんうん。何か買うのか?何、買うんだ?」
「・・・・・おいらの給金で何を買っても・・・・・」
「子どもか?何を買ってもグズグズは言わねえよ。

 おめえ、親方は何で親方ってゆうか知ってるか?故郷
(くに)じゃほんとの親がいるけど、江戸(ここ)じゃ、俺が親だ。だから親方ってんだ。
 いいから言ってみろ。

 いやな、欲しい、欲しいと思っても、買ったとたんアレ?って思うものがあるんだよ!」

「”高尾
(たかお)買う”んですよ」

タカを飼う?おめえ、何がしたいの?お前が思ってるほど可愛い鳥じゃねえよ。
 やだよ、家ん中、あんなものが飛び回って、朝になるとこんなこと
(鷹匠が腕にとまらせている仕草)してるなんて。

 え?違う?三浦屋の高尾?あ、ああ・・・・・(と思い当たった様子。次にかみさんに向かって)どうすんだよ!」

「ねぇ〜、そうだよねぇ!3年も思い続けてもらって、高尾も幸せ者・・・」
(慌てて)何、いい話してんだよ!」
「どうすんの?」
「そこだよ!知恵つけたのおめえじゃねえか!」
「会わせてあげたら?」
(逆上気味に)それでいいの?」

(久蔵が不安げに)・・・・・会えるんですよね?」
「あれは・・・・・・・ウソだ」
「あぁ〜・・・・・・・・・・・・やっぱり、そうですよね。・・・・・・・会える訳、ないですもんね・・・・・・・・・」
「そんなに陰にこもるなよ!」

「会わせておやりよ」
(逆上して)どの口が、そうゆうこと言うんだ!

(久蔵に、困ったように)泣くなよ!

(一転して、かみさんを指さし)おめえは笑うな!別れるぞ!

 いや、ああゆう一流の店は格式だの、しきたりだのゆうのがあって、そいつが何段もあるらしいんだが、何をどうしてしきたりをくぐりゃあいいのか・・・・。
 俺は、そうゆうの詳しくねえんだよ。

 誰か、そうゆうしきたりに詳しいやつぁいねえか?

 何?いる?裏の医者?ああ、いるな。薮医者で有名なんだろ?名前、なんての?薮井竹庵?・・・・・すごい名前だね。本当の名前?へぇ〜〜。
 ああ、分かった。おたいこ医者
(註 幇間(たいこもち)みたいな医者という意味か?)だ。そうゆう座敷についてくのが商売(しょうべえ)ってゆう。

 おっと!ちょうど薮井先生、店ん前、通りかかったじゃねえか。おおい!先生!薮井先生!急患!急患!」

「ん、病人が出たというのは、こちらですか?どれ、脈でも診て、薬を・・・・」
「いや、そんな人殺しの真似、しなくてもいいんでさ。実は、この野郎、これこれ、こうゆうわけでして、当人、会いてぇ、会いてぇで恋焦がれて、病人になっちまった。

 薬で治す医者ぁいくらもいるが、女郎買いで治す医者は先生しかいない。名医だ。ひとつよろしくお願いします」

(久蔵が真剣な口調で)一目でいいんです。会えば思いが叶う。会いたいんです。マジなんです・・・」
「じゃ行きましょ」
(親方、やや呆れて)軽いね。いいんですか?病家見舞いとか、いちんち一度は顔見せて診なきゃいけないうちとかは、ねえんですか?」
「いや、人間てなものはね、病で死ぬんじゃない。寿命が尽きたから死ぬ。それを医者が薬を盛って、その寿命を伸ばしたり、縮めたりする、そんなこたぁ医者のするこっちゃねえ。そりゃ、神様のするこった」
「んなこと、医者が言っていいのかね?でえいち、今、寿命を伸ばす・・・・はいいけど、”縮めたり”って言ったよ!」


「ご主人、引き受けたが、少しお願いがある。この若い衆のマゲな、いかにも職人だ。これをちょいと若旦那風にな。
 それと服装
(なり)。ご主人のお召しになってる着物は、ものはいいんだろうけど、ちょいと地味だ。派手目のこしらえで、ひとつ。それでは日の暮れ方に迎えに参りますので・・・・」

 着物?いいとも、貸すさ。持ってっておくれ。何?マゲ?よぉし、任せとけ。腕に”より”掛けて・・・・

 久蔵が普段、皆に親切にしていたからでしょう。それが回りまわって、近所の連中、我が事のようによってたかって、一人の若旦那をこしらえちまった。

(迎えに来た竹庵、感心して)ほぉ〜馬子にも衣装、髪形というが・・・・。

 で、申し訳ないけど、ああゆうとこじゃ、紺屋の職人じゃどうしようもない。野田の醤油問屋の若旦那ってことにしましょう。
 私は家来ですからね。先生・・・・なんて呼んじゃダメですよ。『薮井竹庵!』・・・って呼び捨てでね。

 で、口ぃきくと素性がばれちまうから、何を聞かれても『あい、あい』とうなづきゃいい。こらぁ、重ね言葉って品がいいからね。

 で、指先だ。職人だから藍色に指先が染まってる。そんな指、見られたら、何もかんもこしらえがムダになるから、こう、たもとの中に入れてね。絶対、出しちゃいけないよ。お前さんの”まこと”が通じる場じゃないんだからね」

(親方、心配げに)振られんぞ」 
(雨に降られると間違え)いい天気ですよ」
(親方、一瞬呆れた表情をして、竹庵に)こいつバカなんです。バカだから、3年も必死で働いた。一途にね。
 あっしら、なんか、こいつが自分のことみてぇに・・・。希望
(のぞみ)ってぇか・・・・・。

 お願げぇします。何とか、この野郎に高尾、拝ませてやってください。
(と、頭を下げる)
(竹庵、うなづき、久蔵に)いい親方だな・・・・。じゃあ、出かけようか」
(久蔵、元気に)分かった、竹庵!」
「まだ早いよ!」

 こうして、神田お玉が池、紺屋(こうや)六兵衛のうちから二人連れが吉原へ・・・・・。

 



 どうも、お退屈さまでした。殴り書きのメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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