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青銅器(5)平成16年度美術史ゼミナール「中国の青銅器」第2回

1 はじめに

 標題の平成16年度美術史ゼミナール「中国の青銅器」という講座の募集があったので、応募した。

 自分の備忘録程度ではあるが、受講録を掲載していきたい・・・の第2回目。

 しかし、実は嫁さんが急に入院したこともあり、2回目のゼミは欠席したのである。今回のは、同じ受講生で、リンクもさせてもらってるなつのなかさんにいただいた資料とメモでとりあえず、受講録(受講してないけど)をでっちあげてみたい。


2 本日のテーマ

 今日のテーマは「青銅器についての概説」。
 内容は、
1.作品の名称
2.「青銅」とは
3.製作法
4.装飾法
5.出土、伝世・・・・・の5項目。うち、「3.製作法」は次回まわしとなったので、残る4項目の概要を紹介していく。



3 講座内容の概要

3−(1) 作品の名称:命名法

 青銅器の命名には、一定のルールがある。すなわち、
「材質」、「技法」、「文様」、「器名」の順に並べていく。
 この場合、4項目すべてが揃っているものもあるし、どこかの項目が欠けている名称も多い。
 まあ、最低、最初の材質と最後の器名は備わっているようだ。まあ、確かに器名がないと、どんな器物かわからない。

 O先生から、たくさんの実例をあげた資料をいただいた。ただ、技法(装飾法)や文様、器名の具体内容を知らないと中身がわからないので、4パターンだけを抜粋することとする。

  材質 技法 文様 器名
青銅鬲 青銅     鬲(れき)
青銅饕餮文爵 青銅   饕餮文(とうてつもん) 爵(しゃく)
青銅鍍金耳杯 青銅 鍍金(ときん)   耳杯(じはい)
青銅金錯渦文帯鉤 青銅 金錯(きんさく) 渦文(かもん) 帯鉤(たいこう)



3−(2) 「青銅」とは

A 「青銅」の組成

 青銅(Bronze)とは、銅と錫(スズ)の合金である。
 銅に錫を加えることによって硬度が増す。また、融点が低くなるので溶かして加工しやすくなる。

 先生の資料によると、
「  銅(Cu) 融点 1083.0℃ 通常は赤色、
  錫(Sn) 融点  231.9℃ 通常は白色。
錫を20%混ぜると、融点は875℃まで下がる」とある。

 また、『周礼・考工記』(戦国時代)には
「金有六斉。
 六分其金而錫居一、謂之鐘鼎之斉。
 五分其金而錫居一、謂之斧斤之斉。
 四分其金而錫居一、謂之戈戟之斉。
 参分其金而錫居一、謂之大刃之斉。
 五分其金而錫居二、謂之削殺矢之斉。
 金錫半、謂之鑒燧之斉。」とあるそうだ。
 なお、ここでいう金とは青銅のことで、金色をしていたので、青銅のことを吉金(きっきん)、又は単に金とも呼んだようである。

 『始皇帝陵と兵馬俑』(著:鶴間和幸。講談社学術文庫)にちょうど参考になる記述があったので、長いが引用する。

「銅に加えた錫の割合が少なければ赤みが強く、多くなれば白く輝く。
 『周礼(しゅらい)』考工記によれば、金(青銅)は器物の用途によって六種類の成分に分けられている。
 鐘(しょう。楽器)や鼎(かなえ。祭器)の錫の割合は六分の一、軟らかくてもかまわないので、銅の金色の輝きを求めた。
 武器の場合は光沢よりも硬度を選んだので、錫の割合は五分の一(斧斤。ふきん)、四分の一(戈戟。かげき)、三分の一(大刃)、五分の二(矢)というように、20から40パーセントとした。
 実際の化学分析でも、出土した剣に含まれていた錫の割合は18から21パーセント、また鉛も0.17〜2.18パーセントの割合で含まれていた。鉄に比べて青銅製武器の硬度も劣るものではない。鉛は溶解した青銅を型に流しやすくする役割がある。
 鑑(かがみ)の場合はさらに二分の一、50パーセントまで錫を増やし、白色の光沢を重んじた。姿を映したり、太陽光線から火をおこす役割が求められた」。


B 「青銅」の名の由来

 先生の資料では「清(い)銅、精(精製、精錬した)銅」とあった。

 また、前掲の『始皇帝陵〜』では、もっと簡単に「青銅というのは銅と錫の合金で、錆の緑青(ろくしょう)の色からつけられた名称である。私たちが博物館で見る殷周時代の青銅器は、緑色に錆びているが、本来は金色に輝いていた」とある。  

C さまざまな銹(銅化合物)

 先生の資料には例えば「酸化第一銅(Cu2O)/赤銅鉱 Cuprite・赤色)」といった具合に、化合物の種類が9種類ほども挙げられていた。
 講義での説明を直接聞いていないし、もし聞いていたところであまり理解できないだろうから、列挙するのはやめておく。

 前掲『始皇帝陵〜』には「銅の錆は、内部を腐食させるのではなく、むしろ内部を腐食から保護する役割をもっている。殷周青銅器が現在でも本来の形を保持しているのは、表面の錆が内部を保護しているからだ」とあった。 





3−(3) 装飾法
名称 説明 材料その他
鋳出文 鋳型によって、凹凸で文様を表現する。  
象嵌(錯) 別材質のものをはめこんで、文様とする。 金、銀、銅、緑松石(トルコ石)、玻璃(ガラス)
メッキ(鍍金・鎏金) メッキ(滅金・鍍金)とは金属の表面に金属の薄い皮膜をかぶせる技術をいう。 金、銀、錫
「水銀アマルガム」水銀=沸点356.6℃
包金銀/貼金銀 金銀などで包み込んだり、直接貼り付けたりする。  
刻文 青銅器の表面に直接文様等を刻み込む。 たがね
彩画/塗漆 表面に顔料等で色や文様をつけたり、漆を塗ったりする。  

 O先生の資料では、上記表のうち、名称と材料の項目だけだった。当日の講義では内容の説明もあったのだろうが、それは聞いていないので「説明」という項目は私の文章である。

 前掲『始皇帝陵〜』には「金メッキする場合は、水銀に金を溶かして(注 これが上記資料にいう「水銀アマルガム」であろう)器物に塗布してから加熱し、水銀だけを蒸発させて分離する〜いわゆる鍍金という方法」とあった。

 佐和鍍金工業(株)のHPによると、「滅金」は、アマルガムで金が水銀中に消えてしまうから「滅」金。「めっき」は、この「滅金」に由来するとあった。

 これで「鍍金」、「滅金」はわかったが、「鎏金」とは何なのかがわからない
 唐代に、ペルシャから伝えられた金銀加工の技術を応用して作られた北京故宮博物院所蔵の「鎏金鏨花卉高足銀酒杯」(りゅうきんぜんかかきこうそくぎんしゅはい)という文物がある。(写真は『故宮』(NHK出版)第2巻所収)
 ここでいう「鎏金」とは何なんだろう。
 
 先ほどのHPでは、「めっき」とはPLATINGであって、他の金属を重ねて圧延して張り合わせるCLADとは区別されるとあった。CLADは、むしろ「包金銀」や「貼金銀」のことをさすのではないだろうか。

 また、同HPでは「古代のめっきはアマルガムを塗って水銀を蒸発させる方法や、箔を熱で固着させる金めっき法に限られていた」とある。後者が鎏金なのだろうか?

 ためしに「鎏金」をgoogleしたが日本語サイトはほとんどヒットしない。中国語のサイトは多いようだが、意味がわからない。
 ちなみに「仏教在線」というサイトで関係しそうな部分を抜き出してみる。

「鎏金的原理系先将黄金溶解在汞水中,然后涂抹在器物表面上,加热烘烤去汞而在器物表面留下黄金的薄层。」

 どうもアマルガムを塗って水銀を蒸発させる「鍍金」との違いはなさそうに思える。



3−(4) 出土:伝世

 O先生の資料には「墓葬、鋳造遺跡、伝世、(窖蔵(こうぞう)・・・唐代、宋代銀器)」とあった。

 伝世とは「世に伝わる」であるから、古い時代に発掘されて使われてきた(又は美術品として伝えられてきた)ことをさす。

 O先生は、「青銅器、陶磁器など中国の文物の多くは墓から出土したものが多い。
 上海博物館は青銅器の名品をたくさん所蔵しているが、上海自体が歴史の浅いまちであるから、近辺で発掘したのではなく、購入したものである。
 伝世品というと、どうしても信憑性に疑いのあるものも多い」とおっしゃっていたので、そのような説明が講義当日はなされたのではないかと思う。

 なお、窖蔵の「窖」とは「あなぐら」のこと。




 資料やメモをくださったなつのなかさんに感謝しつつ、今回の受講録についてはこれぐらいで勘弁していただきたい。 


 

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