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青銅器(23)平成16年度美術史ゼミナール「中国の青銅器」第8回(補講)

1 はじめに

 今回の美術史ゼミナールでは、来年1月から2月に開催される常設展「中国の金工」の展示について、企画・立案することになっている。
 第7回のゼミは、開講当初の予定では「工芸品としての金工について」ということであったが、講義は省略し、来年の研究発表に向け、2品の青銅器を各自選んで研究することになった。
 第7回のゼミが始まる前に、受講生のMさんらが持ってきてくださった鏡や銅鐸を撮影させてもらった。それをご紹介したのが、前回のレポート。

 その後、別室で20点ほどの青銅器が順不同に並べられ、O先生が「さあ、時代順に並べ替えてください」とおっしゃった。
 ああでもない、こうでもないと言いながら並べ替え、その後で、私たち10人の受講生が担当する青銅器を2つずつ選んでいくことになった。
 だいたい選び終わったところで第7回のゼミは終わってしまったのである。

 12月のゼミでは、もう1月の展示会に向け作品や解説文を並べていかなくてはいけないのだが、受講生一同とても11月のゼミ1回で解説文を完成させる自信がない。
 そこで先生にご無理を言って、1回、特別ゼミというか、補講をしていただくことになった。

 だいたいこの11月6日の補講と、11月27日の正規ゼミの2回で、選んだ2品について調査カード(A4版の厚紙に、口径等の諸元やスケッチその他気付いたことを書き込む)と展示会用の説明文を作成することになる。

 私が選んだのは、大ぶりの簋(き)と、小さな怪獣の水滴。
 


2 竊曲文簋(せっきょくもん き)

 とりあえず、まずは、選んだ簋について気付いた点を並べていくが、O先生から誤りを指摘されることもあるだろう。
 その辺は、今後修正していくこととする。

 まず、全体像を見ていただく。

 なかなかゆったりとして、雄渾な感じ。

全体像

 そもそも「簋」とは、「身の深い圏足付き丸鉢」というのが、おおまかな定義。

 サイズは、と言うと口径が約40cmくらいだろうか。きっちりしたサイズがわかれば、また追加表示したい。

 左下写真は、少し傾いた角度から。

斜め上から  内部の錆び具合も、これで、だいたいご推察いただきたい。


 腹部の上方中央に小さめの獣面の犠首がついている。
 その犠首を、少しアップでご覧いただこう。(左下写真)

犠首  けっこう、かわいい顔といえよう。

 『神と獣の紋様学』(著:林巳奈夫。吉川弘文館)P18で「トラのマークの獣面」とされているものに似ている。私には、なんか猫みたいに見えるのだが。

 眼の上に角のマークがある。尖ったところのない「きのこ」のような形。
 前掲書によると、水牛や羊を象徴する尖った角と違い、このような丸っこい「角」は、具体的に「角」を表現しているのではなく、全般的に角を持たない「動物」を象徴しているのではないか、とのことであった。
 

 犠首の両脇にある文様は何であろうか。

 耳の付け根部分のアップが右写真。
竊曲文

 「文様編」のページでご確認いただきたいのだが、この虁に施された文様は一本足の龍である虁(き)龍文や、一本足の鳥である虁鳳文に似ている。
 しかしながら、眼に象徴されるような「生き物」を表わす部分がない。
 
 よって、虁文をより抽象的にデザイン化した竊曲(せっきょく)文と表現することとする。 

圏足
 左写真は、圏足部分の文様のアップ。

 中央に二重丸がある。

 この二重丸も、「目玉」を表わす眼文ととってもいいのだが、とりあえず、単に抽象的な「二重丸」だとしておく。

 そして、その二重丸の両脇にシャープな三角形を組み合わせた形にデザインされた竊曲文が施されている。
 上と同じように、等幅で帯のような形にしてもいいところを、変化をつけて、「広」から「狭」へ尖っていく三角と、逆に広がっていく三角とを組み合わせた形に竊曲文をアレンジするところなんか、なかなかのセンスを感じさせる。

 側面の「耳」を中心に撮ったのが左写真。

 耳の上部には、やはり犠首というか、獣面がある。

 耳全体を鼻に見立てると「象」みたいになるのだが、これはO先生のご賛同が得られなかった。

 写真ではわかりにくいが、この獣面には、2本の角が付いている。
 羊ないし水牛的な角であった。

 次いで、その耳を側面からアップで撮ったのが、右写真。

 上部に「眼」が見える。

 耳の側面に施された曲線模様は、何と表現したらいいのだろうか。

 ただの曲線、と言ってもいいのかもしれないが、私は、「竊曲文」をさらに線描きで抽象化したものと考えたい。

耳のアップ

 内部の底面(陶磁器なら「見込み」と呼ぶところ)にある銘文が、右下写真。

 右から、4文字×3行で12文字。

 さて、どう読むか。

 1文字目、つまり一番右上の「宇宙人」みたいな文字。
 これは、いわゆる図象標識とか(部)族記号などと呼ばれるもので、「おそらく氏族の標識であろう」(『金文の世界』:著白川静。平凡社東洋文庫)と考えられている。

 よって、いわば「○△氏」ってな感じで具体的に呼びようがないので、とりあえず○としておく。
銘文

 右の2文字目は「作」。左右逆転した形だが、ゼミ第3回資料編その1「銘例5」に出ている。

 3文字目は、「白」。これが、単純に「丸に横棒」なら「日」なのだが、涙滴形に横棒なので「白」。(『漢字の世界 1』著:白川静。平凡社ライブラリー P20及びP173参照。また、前掲の「作」は、『漢字の世界 2』P183参照)

 4文字目は「婦」。「女」の部分はなくて、「箒」のところだけ。前掲資料編その1「銘例1 婦好」及び『漢字の世界 2』 P147参照。  

 あとは、決まり文句である。真ん中の行、上から3文字は「寶尊彝」。
 前掲資料編その1「銘例5 牆作父乙寶尊彝」及び『漢字の世界 2』P133、P131、P91参照。

 真ん中の行の4文字目。「子」の右下に小さく「二」とあるが、これは「繰り返し」で「子々」。
 左の行、1文字目は「孫」に「二」で「孫々」。
 左の2文字目は「永」。3文字目は同じく「寶(宝)」。最後4文字目は「用」。
 以上は資料編その3「金文長文例1」及び『漢字の世界 1』P119、P21、P208参照。

 よって、「○作白婦宝尊彝 子々孫々永宝用」。ざっとした意味は、○が白婦のためにこの宝尊彝を作る。子々孫々永く宝用せよってとこだろうか。 


 あと、この簋の時代であるが、本器のように簋に耳が付くのが一般化するのが西周時代以降。
 銘文も殷代は、ほとんど銘がないか、あってもせいぜい図象標識や父祖の名号くらいなのだが、これはけっこう長い。

 よって殷代ではなく、西周時代は間違いなかろう。
 本器は蓋がない。西周後半期以降は蓋付きが一般化した、とある。また、同じく西周後半期以降は、口が内傾し、蓋が付くのが標準形式・・・とあった。(ゼミ「殷周時代の青銅器 器形・名称・用途」 参照) 
 すると、西周の比較的早い時期なのか?と思われる。
 しかし、デザイン的には、けっこう進んだ洗練された感じを受けるので、もう少し時代は下るようにも思える。
 結局のところ、西周時代の作ぐらいとしか言えないのだが、直感的に後半期に近いのでは?と言っておく。


 「辟邪水滴」については、また次回に。


 

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