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青銅器(20)平成16年度美術史ゼミナール「中国の青銅器」第6回その1

1 はじめに

 平成16年度美術史ゼミナール「中国の青銅器」という講座の、備忘録程度の受
講録。で、第6回ゼミの受講録・・・・・なのだが、今回は美術館を飛び出して現地見学会。
 受講生の一人であるYさんが銅鏡や銅鐸の作成現場を見学できる所があるという情報を得てこられ、受講生全員で東大阪にあるというその工場へお邪魔することになった。


 地下鉄高井田駅から徒歩数分で、U合金株式会社に着く。

 まずは、工房チーフのKさんから、銅鐸の分類等についてお話を伺う。
 口角泡を飛ばしての熱弁が続き、「ひょっとして、話を聞くだけで終わっちゃうのでは?」という不安が胸をよぎった頃、いよいよ待望の製作現場見学が始まった。

 まずは、鏡から説明していく。
 右の写真1は、木製の台の上に鏡の母型が置かれているところ。
写真1

 母型の上部は、いわゆる鏡の背面。鈕や文様がついている。

 続いて、右下の写真2へ。

 この母型の周りに、枠を置く。

 この場合は鉄製の枠。後にも出てくるが、枠には木製のものもある。

 続いて、左下の写真3へ。
 その枠の中に柱のようなものを2本置いて、合間に砂を詰め込んでいく。

 この砂は、石を砕いた特別な人工砂だ、とのことであった。
写真2

 いっぱいに詰め込んで、表面をならし、慎重に柱を抜くと右下の写真4のような状態になる。

写真3 写真4

 右上の写真4を、くるっと天地引っ繰り返したのが、右下の写真5の状態。

 真ん中に白く大きな円形のものがある。

 一番最初の写真1に戻っていただきたいのだが、これが板の上に置かれていた母型の裏側の状態なのである。

 この裏側というのが、いわゆる鏡の表面というか、鏡面。
 だから、文様とかは何もない平面である。

 この母型、驚いたことに発泡スチロールで出来ていた。
写真5

 考えれば、この母型は、砂に凹凸を刻めるだけの強度があればいい。湯(熔かした青銅)に触れるわけではないから、耐熱性はいらない。
 加工しやすいというのが母型の一番の要件なのだろう。

 さて、右上の写真5で白く見えていた母型を外すと、右の写真6の状態になる。

 詰め込まれた砂にしっかりと母型の上部の文様が刻み込まれているのがおわかりだろう。
 中央部には、鈕の出っ張りが、窪みとなっている。

 隅にある二つの穴は湯の注ぎ口と、出口である。
写真6

 写真5と6を比較すると、写真6では穴の土手の部分が崩れているのがわかる。
 これは「失敗」なのではなく、職人さんがコテでわざと切り欠いたのである。

 上の写真6でいくと、この枠が天地返って、上から(つまり写真では底になっている方向から)湯が注がれる。
 注がれるのは、写真では左の、少し大きめの穴からである。注がれた湯は、この切り欠かれた二つの道から、肝心の、鏡の文様が刻まれた空間へ流れ込んでいく。

 そして、その空間を満たすと、写真右の穴へ、やはり切り欠かれた道を通って湯が流れ出していく。
 左の穴から湯を注ぎ、右の穴からあふれてきたら(しつこいようだが、写真とは天地が逆になる)「鋳型」の内部は青銅で満たされたということになる。

写真7  

 左の写真7は、もう一つの枠に詰めた砂を固めているところ。
 砂の表面にガスが通りやすいように小さな穴をいくつも開ける。
 手に持っている大きな聴診器のようなものの先からは液化炭酸ガスが出ている。

 液化炭酸ガスをあてると、サラサラだった砂が固まってカチカチの状態になるのである。

 左写真で積み重なっている二つの枠をくるっと引っ繰り返したのが左下の写真8。

 あとは湯を注ぐばかりの状態である。穴(湯の注ぎ口と出口)の間に枕木のようなものが2本置いてある。
 これは木ではなくて「おもり」。熔かした金属というのは上から詰まっていくのではなく、下からじわじわ水位が上昇していくもので、この「上がっていく」力というのはなかなかものすごいそうで、上から押さえつけておかなくてはいけないとのことであった。

写真8  さて、左の写真8の状態でいくと、上段の枠は、写真6の天地逆の状態。つまり、文様などが上にきていて、鏡面となる部分が下を向いている状態。

 そして下段の枠は、写真7の天地逆。
 いわば受け手というか、ベースみたいに砂がびっしり詰まっている状態である。

 鋳型で、鏡の背面が上になっているのも理由があるそうだ。
 先ほども言ったように、熔かした青銅は下から溜まって上へあがっていく。
 だから、青銅内の不純物などは、どうしても、その「上がっていく」力につられて表面に溜まるらしい。 

 顔を映す鏡面はできるだけ滑らかで純粋、均一な状態にしておきたい。そうすると、鏡面を下向きにする方が望ましいということになる。

 ということは、例えば古代の鏡で、鏡面(又は背面)の上部と下部とで組成(不純物の混ざり具合など)に差が大きい場合は、上の写真8のように平置き状態で湯をいれたのではなく、縦置き状態で湯を入れたのでは?なんてことが考えられるそうだ。
 なかなか奥が深いものである。

 さて、いよいよ湯を注ぐ。

 炉では、重油バーナーでがんがん青銅が1200度くらいに熱せられている。

 右写真9のように、職人さんがでかい「るつぼ」の表面を柄杓でかき回し、表面の不純物をすくい出しておられた。

 私もカレーを煮ている鍋をかき回し、「あく」をすくった経験はあるのだが。

 左下の写真10をご覧いただきたい。
 炉には湯の注ぎ口がついている。注ぎ口の下に柄杓を置いて待っているのが写真10の状態。
写真9

 そこでスイッチを押すと、「るつぼ」が手前にゆっくり傾いていく。右上の水平状態と比較すると20度くらい傾いているのがおわかりだろう。
 さらに傾いたのが、右下写真11。
 ついに「るつぼ」からドロドロに熔けた青銅が流れ出してくる。

写真10 写真11

 鋳型に湯を流し込んでいるのが、右下の写真12。

 ただし、右の写真12では、先ほどの鏡の鋳型に流し込んでいるのではない。
 バルブか何かの大き目の工業製品であった。(そちらが、この会社の本業である)

 柄杓ですくった湯を少し大きめのバケツのようなものに移し変え、両側に鉄棒を差し込んで二人で持つ。
 そして、呼吸を合わせて流し込むのである。
 湯の量が1個あたりそれほど必要でない銅鏡や銅鐸などは、柄杓で直接流し込んでいた。 
写真12

 写真11の場面を少し望遠でアップにしたのが、左下の写真13。

写真13  すごい火花が飛び散っているのがわかる。

 少しの気の緩みが大事故につながる、大変な職場である。

 さて、銅鐸の方の鋳型作りや、型から取り出すところなどは、ここまででだいぶ写真が多くなって、表示も重くなっているので、次回まわしといたしたい。

 次回「銅鐸」編をどうぞお楽しみに。

 



 それでは、皆さんごきげんよう♪ 


 

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