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(No93) 東西落語特選 ビデオ鑑賞記 その3   

 いつのビデオ収録かも分からない。とにかくめちゃめちゃ昔なのは間違いない・・・・・・の続きで、収録はここまで。

 ここから先は、NHK「演芸指定席」という番組の第1回放送らしく、「粋な小朝といなせな小三治 二人会」というサブタイトルがついていた。
 ビデオには「東西落語特選」と私が手書きでタイトルをつけていたが、これが冒頭の「志ん朝・米朝」放映時の番組タイトルだったのか、私が後で勝手に名付けたのか、今ではわからない。
 前回書いたように、その後の「談志・円楽」も独立した番組で、春蝶は単独で一本の番組だったようである。

 さて、この番組は、上野鈴本演芸場の前で待っている小朝のところに、フルフェイスのヘルメットをかぶり、ライダースーツに身を包み、ナナハンか何かでかいバイクを押して小三治がやってくる場面でスタートした。
 


(6) 春風亭小朝 「湯屋番」

 
上野鈴本というのは大変広い場所なんですが、目の前には悪夢のような光景が広がっております。
(意味不明。年寄りばかりがいるという意か?)
 NHKの2時間ドラマに出していただいたりしたんですが、喜怒哀楽の中で何が難しいかと言うと、やはり泣くことですね。
 目薬で泣いてんじゃないか、と思われる方もいらっしゃるんですが、目薬だとすぐ涙が出てしまってうまくない。
 それで、わざとあくびをしてみたりとかね、いろいろな方法をとられます。
 中には、ある女優さんの場合、マネージャーが靴脱いでスタジオの隅で待ってるなんてことがございまして。
 それで、その女優さんの頭を靴で殴りつけるんですね。
 じわ〜っとあふれてくる涙をこぼさないよう本番にのぞむ、というわけで。
 しかし、意地悪な先輩女優が、わざとエヘン!なんかやってNGにするんですね。
 撮り直し・・・てんで、またポカリ!

 それを何度も繰り返して、とうとう収録後に救急車で運ばれて行ったなんて話がありまして。

 私なんざ根が利口だから、玉ねぎをおろしたやつをゆうべのうちからポットに入れましてな、これを目の下に塗ろうと。いいでしょ?
 ところが、玉ねぎってやつ、一晩置くと、辛いのが飛んじゃうんですね。無駄に臭いだけで。

 で、ハッカ棒というやつを用いました。このクリスタルな棒を目の下に塗っとくと30秒くらいで涙が出るようになってまして。
 ある真面目な俳優さんが、仕事に間違いがあっちゃいけないってんで、下だけじゃなく、上下両方に塗ったんですな。本番ん時、目が開かなかったとゆう話が。

 私がやってみたいのは歌舞伎の若旦那役ですね。ゾロッとした服装
(なり)で、女の子を連れましてね。
 まあ、落語の方の若旦那ってぇと、道楽もんで、道楽が過ぎて親に追ん出されて出入りの職人の家の二階に厄介になってる・・・なんてのが多いようでして。

「若旦那。いつまでもブラブラされてるってのも結構なんですが、どうでしょう、ちっと働いてみては?うちのこれ
(と、小指を突き出す)がうるさいんですよ」
「え?小指が?」
「違いやすよ。これが
(と、両手で顔を少しゆがめてみせる)
「ああ、これ?
(と、思い切り顔をゆがめてみせる)
「そんなにしなくても・・・。いや、うちのお多福がうるさいんですよ」
「お多福?そりゃ、えらいことを言ったねぇ。お多福ってのは福が多いって書くんですよ。あら、どう見てもお多貧乏だ」
「そりゃどうでもいいんすが、働いてるふりだけでもしてくれると、ありがたいんっすがなぁ」
「おぃらぁ、働きたいよ。ウズウズしてんだ」
「あっしの知り合いで奴湯ってぇ銭湯で、いい若
(わけ)ぇ衆がいねぇかって言われてるんっすが」
「銭湯?そこ女湯ある?あるの?行きます!行かせて」
「そうすか。じゃあ話は万事つけてるんで、どうぞ、行ってらっしゃい」


(歩きながら)「へっへっへっ。奉公するようになるとは、思わなかったね。
 しかし熊さんってのは、いい人だね。でも、おかみさんが良くないよ。のべつ小言だ。
 こないだも、『若旦那!あんたって人は全く、横のもの、縦にもしませんね!』ってゆうから、『じゃあ、そこの長火鉢、おっ立てましょうか?』ってったら、えらく怒ってたね。

 おっ、奴湯。ここだな。入り口が二つあるね。男湯と女湯。ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・て・ん・じ・ん
(天神)さ・ま・の・ゆ・う・と・お・り・・・(と、指を振る。が、最後、止まってから無理矢理ひとこと付け加えて女湯へ)
「ちょっと!ちょっと!ダメだ、そっちゃぁ女湯だよ!」
「へへへ。女湯が好きだから。大工
(でぇく)の熊五郎の紹介で来たんですが」
「ああ、あんたかい。話にゃ聞いてるんだ。名代の道楽もんだてぇが、奉公は大丈夫ですか?」
「好きなんです。女湯が・・・・」
「そりゃ、好きだろうけど。どうです。まずは外回りなんぞ」
「あ、あれ駄目ですよ。虚弱体質だから」
「困ったな。じゃあ煙突掃除」
「だんだんひどくなるな。高いとこ苦手ですからね」
「となると仕事がないな」
「・・・あるでしょ?番台が。いろいろ、もう・・・・・とぼけて。このスケベ」
「何言ってるん・・・。あれはなかなか難しいんですよ。客のげそ
(下足)みたり。
 じゃあ、こうしましょう。あっしゃぁ、これから昼飯食うから、おまんま食ってる間だけ」
「わかりました!」
「ちょ、ちょっと、何すんだい。私がおりなきゃ、あがれないんだよ!」
「ああ、そうですか。番台にゃあ助手席はない?

 じゃあ、行ってらっしゃい。ごゆっくり。さようなら〜。もう戻ってこなくていいですからね。

 ようし!念願の番台だ。さて、問題の女湯は・・・・っと
(目の上に手をかざす)肝心の女が一人も・・・・・・・あ、一人いたよ、おばあさんが。洗濯板に干し葡萄ってやつだね。あ、ひどい。仰向けんなって、自分のアバラで洗濯してるよ。ラッコの梅さんて、あの人だね。

 男湯は・・・わっ、ずいぶんけつに毛が生えてるね。ふけつ
(不潔)ってやつだね。銭湯だからいいけど、山ん中なら鉄砲で撃たれるよ。
 あ、けつ石鹸で洗ってやがら。無駄だよ。あの、もし・・・・そこのお尻の汚い人!塩酸か硫酸でお洗いなさい!

 男湯はやだね。仕切りなくして、全部女湯にしちまおぅ。
 そうなると、おいらを見初める人が出てくるよ。この辺は玉町
(たまちょう)だから、おめかけさん、お二号がいいかな。

 なり
(服装)が違うよ。粋な着物で、ぬか袋、糸切り歯にはさんでさ、いい下駄履いてるから音が違う。カラコロカラコロ。
 女中を連れてるね。こっちゃぁ地べたに鼻緒すげたような下駄履いてるからギックリバッタリギックリバッタリ。

『新参の番頭でございます』っておいらが挨拶するってぇと、女中を呼んでさ、『お清や。今度の番頭さん、ずいぶんいい男じゃないかい?でも、どこかケンがあるね』・・・・・なぁんて言われないようベンチャラしておこう。
『これはお近づきのしるしに、ぬか袋です』『あら、これはどうもありがとう。今度、休みの日にでも、遊
(あす)びに来て下さい』なんてんで、お家を横領しちゃう。・・・・・・・ぬか袋一つで横領しちゃあいけねえか。

 偶然前を通りかかったようなふりをして行くと、女中が驚くよ。
『お新造さん!お湯
(ぶぅ)屋のお兄さんが来られましたよ!』ってね。
 そうするってぇと、普段から恋焦がれてるお湯屋の兄さんが来たってぇんで、奥から畳泳ぐようにして出てくるよ。
『まあ、わざわざ来てくださったんですか。どうぞ上がっておくんなさい』
『いや、今日はたまたま前を通りかかっただけですから。お家が分かりましたんで、またこの次に』
『いえ、そんなことおっしゃらずに、どうぞお上がりを・・・どうぞお上がり・・・・』」


「おい、ちょっと番台見てみろよ。今度の若(わけ)ぇ衆、てめえでてめえの手ぇ引っ張って、『お上がり、お上がり』って言ってるぜ」


「ほどなく酒肴の膳が並ぶよ。ここが難しいな。あんまり調子に乗って呑むってぇと、のん兵衛って思われるからね。呑み過ぎは・・・・・弱った、弱った
(頭をかいて「弱った・・・」と言うが、当時、そんなCMでもあったのだろうか)

 まあ、口を湿すくらいにしておこう。
 それで四方山の話、してると『お兄さん、お杯
(さかずき)が進んでませんよ』とか言われて。
 杯洗
(はいせん。杯のやり取りをする時に杯をすすぐ水を入れたもの)ですすいでご返杯、ご返杯てんで、やったり取ったりしてるうちに、目の下ほんのり桜色にしてさ。ドキン!とするようなことを言うよ。
『お兄さん。今の杯・・・・・ゆすがなかったの・・・・・・ご承知?』

 色っぽいねぇ。
 男の長っ尻
(ちり)は野暮だから、『じゃあ、この辺で』と言うと、相手は引き止めようとするね。居続けの言い訳がいるな。雨なんかがいいね。遣らずの雨ってやつだ。
『お兄さん、雨が降ってきましたよ。通り雨で、しばらくしたらやむと思いますから、もうしばらく雨宿りしてらしたら』ってね。
 しかし、やむどころか、本降りだよ。ザザ〜〜!!」
(と、両手を広げて雨が降ってるさま)


「おいっ!番台で雨、降らしてるよ」


「都都逸
(どどいつ)でも、うなろうかね。♪ 私の心は 火事場の纏(まとい) 振られぇ〜ながぁら〜も 熱ぅく〜なぁる〜〜♪

 そのうち雷が鳴り始める。最初は子どもの雷。コロコロコロ。次は親父の雷だ。ガラガラガラ!おっかさんの雷は色っぽいよ。ゴロゴロゴロン・・・ってね」


「今度は、雷だ」


「蚊帳の中から手招きだ。でも、その手にゃ乗らないよ。

 ゴロゴロ言ってるうちはいいけど、カリカリって言い出す。カリ
(借り)は怖いよ。返さなきゃいけないからね。
 カリカリカリカリ!ビッシィ〜〜!!」


「おっ、あいつ落っこちちゃったよ。また、登っていってらぁ、気丈なやつだね。

 あっ、あんた、どうしたんです?顔、血だらけですよ」
「あいつがあんまり馬鹿なことばかりするもんだから、軽石で顔、こすっちまったんだ」

 



(7) 柳家小三治 「小言念仏」

 寄席ってぇところは、他にない雰囲気がございますね。芝居とも違うし・・・・・・歌舞伎ほど豪華でもないしね。映画のようにスペクタクルってわけでもないし。

 自分でやってても、こんな生活送ってていいのかしら・・・・って思いますが、いっぺんあらためて考え直さないといけないなって。
 まあ、皆さんも寄席でホッとして、表のまっとうな人間に立ち返って歩き出す・・・・・そうゆうのがいいんじゃねえか、と。

 物事には陰陽ってものがあります。何にでもね。
 色でゆうと、赤なんてのが陽ですね。紺だの紫なんてのが、陰です。

 男が陽、女が陰。これも女性の方が派手だし、男性はむくつけきとこがありますから、女が陽で男が陰でも良さそうなもんだけど、昔からそう決まってます。

 季節で言うと春から夏が陽で、秋から冬が陰ですね。
 あれも不思議なもんで、春と秋は、気温も湿度も似たようなもんなんですが、春はこれから暖かくなると思うと何となく陽気な感じがしますね。逆に秋は、これから寒い冬が来るかと思うと、ちょっと気分が下向くところがある。

 昼が陽で、夜が陰。そりゃそうですね。お日様は太陽ですし、夜の月は陰暦と言いますし。俺は逆だ、夜が陽で昼が陰だって言う人がいるかもしれませんが、世の中はそうじゃない。

 仕事中が陰で、仕事が終ったら別人のように元気になるって人がいますね。まあ、たいていそうでしょうが。

 何でも陰陽のバランスが大事でして。
 手で言うと手の平を上に向けるのが陽、下に向けるってぇと陰です。

 幽霊はこうでしょ。
(と、手の甲を前に)
 これじゃ締まらない
(手の平を前に)

 喧嘩ってぇのは、陽のもんですからね。これを収めるには陰の手でなきゃいけない。
『まあまあ・・・・いや、わかるけども・・・・・まあまあ、ここは一つ、私に任せて』
(と、手の平を下に向けて抑える)

 これが陽の手じゃ収まらない。
(手の平を上に向けて、煽り立てるように)
『おい・・・・・よせよ・・・・・・やめろよ・・・・・・・・・・・・やっちゃえ』

 宗教、信心で陰気と言いますと、南無阿弥陀仏・・・・・お念仏でしょうか。
 ただお念仏はお得がいきます。顔が下向きますから落ちてるものが拾えます。
 お念仏を唱えながら、下を向いてると何かに気付く。
 念仏を唱えながら、周りの様子を伺い、こそっと拾い上げ「ありがたい!珊瑚(さんご)の五分珠(ごぶだま)だ」と思ったら梅干の種だった・・・・・

 陽気と言えば、法華宗ですかね。太鼓をドンツク ドンドンドンツクって。
 「ナンミョーホーレンゲキョー」(南無妙法蓮華経)の合間合間に「女の子がいるけど、どこの子だ?」「え?小間物屋のみーちゃん?あの青っぱな垂らしてた子が?」「そろそろお嫁に行くのかい?なに?一人娘だから婿をもらう?」という台詞をはさむ。

 思うに、この部分は要るのだろうか?結局、後の「小言念仏」の部分と全く同工異曲で、本編のおもしろさを薄める効果しかないように思える。


 信心深い人なんかは、毎朝神棚に手を合わせないと腹の収まりが悪いなんて言いますね。

 ただ、始めた頃は本当の信心なんでしょうが、長年続けていくと、いわゆる気の抜けた信心ってぇか、念仏唱えながら小言を言ったりしだします。

(扇子を右手に持ち、木魚を叩くように高座の床をトントントンとリズミカルに叩き続ける。左手は数珠を持って祈ってるような格好)
「ムアミダブ ナムアミダァ
 (上目遣いで視線を走らせ)おばあさん、お仏壇ん中、蜘蛛の巣が張ってるじゃねぇか・・・
ムアミダブ ナムアミダァ・・・・・お花、取っ替えなさいよ せめて水だけも替えると花保ちがずいぶん違うん・・・・・

ムアミダブ ナムアミダァ・・・・線香曲げて立てんじゃないっていつも言ってるだろ?周り、灰だらけじゃ・・・・・
ムアミダブ ナムアミダァ・・・・たまにゃ灰を掃除しなさい。線香よりマッチ棒の方が多いじゃねぇ・・・・・

ムアミダブ ナムアミダァ・・・・お供え物、下げたね。みんな生き仏が食っちまうんだから・・・・・
ムアミダブ ナムアミダァ・・・・あら、いい方の餅菓子だったんだよ。俺だって楽しみにしてたんだ。一つくらい残しておいたらいいじゃ・・・・・

ムアミダブ ナムアミダァ・・・・子ども起こして学校んやんないと遅くなるぞ・・・・・

ムアミダブ ナムアミダァ・・・・鉄瓶の湯がたぎってるよ。蓋がパックンパックンゆってる・・・・・

ムアミダブ ナムアミダァ・・・・飯ぁ〜焦げくせえよ!・・・・・

ムアミダブ ナムアミダァ・・・・は〜〜 は〜〜
(と、ため息)・・・・・
ムアミダブ ナムアミダァ・・・・
(横を見て)赤ん坊が這って来たよ。赤ん坊連れてけよ。お念仏の邪魔んなる・・・・・
ムアミダブ ナムアミダァ・・・・ばぁ〜 ばぁ〜
(と、子どもにおもしろい顔を見せてあやす)・・・・・

ムアミダブ ナムアミダァ・・・・赤ん坊、何か考えてるから気ぃつけろ!あっ、やっちまった。拭けよ・・・・・
ムアミダブ ナムアミダァ・・・・いや、鉄瓶の湯ぅ、直接
(じか)にこぼして拭くんだよ、畳の目なりに・・・・・
ムアミダブ ナムアミダァ・・・・何?おつけ
(味噌汁)の実ぃ何にしましょうかぁ?んなこたぁ、ゆんべのうちに考えておきなよ。表、どじょう屋が来てるから呼びな。・・・・・
ムアミダブ ナムアミダァ・・・・大きな声出さなきゃ聞こえないよ。早く呼ばないと・・・どじょう屋ぁ〜!

ムアミダブ ナムアミダァ・・・・どじょう屋ぁ〜!

ナムアミダァ〜!! 
どじょう屋ぁどじょう屋ぁ・・・・・・あっ!あべこべになっちゃった」




  どうも、お退屈さまでした。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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