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(No92) 東西落語特選 ビデオ鑑賞記 その2   

 いつのビデオ収録かも分からない。とにかくめちゃめちゃ昔なのは間違いない・・・・・・の続き。
 


(4) 三遊亭円楽 「宮戸川」

 
外国の方に日本女性の魅力を尋ねてみると着物とおっしゃいますね。考えてみると着物ぐらい、日本人の欠陥をカバーしてくれるものはないんです。
 日本人は米食ですから、腸が長くなる。そうすると、その長い腸を収めるため胴長短足は仕方ない。

 女性の着物ってのは胸高に帯を締めるでしょ?男はへその下。男の胸高ってのは与太郎みたいで締まりません。

 で、女性の胸高の帯で、外国人は帯から下が足だと思うんですね。実際ははるか下まで胴なんですが。中にはくるぶしまで胴の人もいる・・・・ってこれは冗談ですが。

 風が吹いてちらっ!てのもいいですね。ばさっ!と見えたら、色っぽくも何ともない。チラリズムってやつです。

「あら、半ちゃんじゃない?」
「あっ、お花ちゃん、どうしたの?」
「私・・・・締め出し、食べちゃったの」
「え?」
「お友達の家に遊びに行ったんだけどね、道中双六なんかがおもしろくて、すっかり遅くなっちゃって。
 そしたら、お母さんが嫁入り前の娘がこんな夜更かしするなんて先が思いやられる・・・・て。で、締め出し食べちゃった」
「お花ちゃん、それは『食っちゃった』って言わないと」
「そりゃ、半ちゃんは男だから食っちゃったって言えるけど、私は女だもん。で、小笠原流で。
 半ちゃんこそ、こんな時間にどうしたの?」
「相模屋さんに集金に行ったんだけど、あそこのご主人、碁が好きだから、もう一局、もう一局て引き止められて。そしたら、碁・将棋に狂うやつぁ親の死に目にも会えないから出てけって言われて・・・。で、これから東洋町のおじさんとこへ行こうと思って」
「あら、いいわねぇ。私もおばさんはいるんだけど」
「どこに?」
「肥後熊本。ねえ、半ちゃん。私もそのおじさんとこに連れて行ってよ」
「バカ言っちゃいけない。つもりにしても考えてごらんなさい」
「あら、あのおじさん、気さくないい方じゃない」
「そりゃ、いい人ですよ。でも悪いとこが一つある。人にしゃべらせないんだ。何も言うな。みんな、わかってる。男のおしゃべりはみっともない。・・・・談志がいい例だ。万事、任せとけってね。
 おじさんが変に思うでしょう!熊本にお行きなさい。たもと、引っ張っちゃいけない!
(と、払う)

 こうなったら、私は走るからね。昔から足は早いと言われてるんだ。
(と、駆け出す。しかし、横を抜き去られ)
 私より早いね・・・・・。

 おじさんのうちに着いちゃったよ。後ろに回んなさい!

 どんどん!
(戸を叩く)半七です!夜分遅くにすいません!(お花に「熊本に行きなさい!」と言って)
 おじさん!熊本に・・・・、間違っちゃった。半七です!」

「あいよ〜。・・・・わかってるよ、ドンドン叩かなくても。また、碁でしくじったってんだろ?たまにゃ女でしくじれってんだ。
 俺なんか若い頃は、女が邪魔で、外、歩く時は一尺くらいの女はらい棒で、『どいて、やめて』なんて言ったもんだ。

 今、開けて・・・・・・あっ!だらしねえや、今開けようとしたら腰がぎくっ!となっちまった。ばあさん起こさなきゃいけねえが、この頃、だしぬけに起こすと『ご先祖様が・・・』か何ぞ言って駆け出すからな。
 よく寝てらぁ。鼻からちょうちん出したり、引っ込めたり。あっ!ちょうちんが割れたかと思うと中からロウが出てきやがった。汚ねえなぁ。

 歯ぎしりしてるけど、歯がねぇもんだから、土手ぎしりになってらぁ。

 腰巻から黒い足を出して・・・・赤い風呂敷からごぼうがのぞいてるみてぇだなぁ。

・・・・・・・・・・・ばあさんばかりが年取ったんじゃねえや。俺もだ。おい、ばあさん!半七だよ!」

「うわっ!ご先祖様!」
「ああ、案の定だ。おい、半七だよ」
「ああ、半七かい。わたしゃ、半鐘かと思って、こら火事だと・・・。
 いけない、しばらく見ない間に年を取って・・・・・・」
「寝ぼけちゃダメだ。半七は、まだ外だよ。

 おぅ、半公!早く入れ!」
(お花がたもとを引くので、払って)やだよ!」
「・・・・・・お前、やっとの思いで開けてやったのに、やだとは何だよ」
(お花に)熊本に行きゃいい!」
「お前ね、起きて寝ぼけちゃいけないよ。ばあさんが寝ぼけて、俺が怒ってちゃ、話が進まないだろ。
 お前・・・・おじと甥の間でも礼儀は守んなきゃいけないよ。後ぐらい閉めろ・・・・・・・・
(と、半七の後ろのお花に気付き)・・・・ハハハハ。早く、そう言え、この野郎!
 何にもゆうな!みんな、のみこんだ!言い訳すんじゃねえ。

(お花に)あっ、表は毒ですから、どうぞ入ってください」
「・・・・・あの・・・・半ちゃんにご無理を・・・」
「いえ!かまやしねぇんですよぉ。
 おい!半公!二階への梯子は『えて梯子』ってんで急なんだ。こないだ猿が落ちたんだ。上から手を取って差し上げねぇか!
 なに?ちゃんとお世話しねぇえんなら、おじさんがもらっちまうぞぉ!
 おい、何、ばあさん、ふくれてるんだい?冗談だよ」

 
 東洋町のおじさんは、心得顔で二階に半七とお花を上げてしまった。

「おい、ばあさん。おい!ばあさん!」
「・・・・・・・いやですよ。いい年して」
「・・・・・・・・・・・バカ!お前、耳が遠いから、そばに来いって言ってるんだよ。
 何、誤解してるんだ。目が輝いてるよ。

 あのさ、半公の連れてきた女の子は、どこの娘さんだろうね?」
「あら、おじいさん、気付いてないんですか?私は一目見た時からわかってましたよ。
 船宿の娘のお花ちゃんじゃないですか」
「えっ?あのお花坊?へぇ〜、あの小娘があんなに大きく・・・・・・・。
 俺たちが年取ったのも無理ねぇなぁ・・・・・・・」

「私たちだって、若い時分は、所帯もったらどうしようか、とか子供は何人ほしいな、とかいろいろ話し合ったじゃないですか。

 あんまり遅くなるから、私がもう帰るって言ったら、まだいいじゃないかって引き止めて。

 そんな・・・明日、また会えるじゃないですかって言ったら、明日は今日じゃないなんて言って・・・・。

 あなたは、私のひざをなでなでして・・・・・・・たまに、あっ!手がすべったなんて言って・・・・・・・。あんたは、その頃からすけべだった」
「居たたまれねぇなあ。旧悪露見だよ!」

 年がいもなくおじさん夫婦がいちゃいちゃしている一方、二階に上げられた半七とお花は・・・・・・。

「だからいやだと言ったんですよ。あの人はのみ込み屋だ。明日になったら、うちに来て、所帯持たせてやれとか何とか言いに来ますよ。
 だから、あっちに行ってくださいよ!」
「だって、雷がゴロゴロいってるじゃない。私、雷、怖いの。ねえ、半ちゃん。そば寄っちゃいけない?」

 わずか六畳一間、半七のやつ、照れくさいもんで逃げ回ってたが、追い詰められ、いっそ下におりようとひょい!と下をのぞくと、気をきかせたつもりか、おじさんがはしごを外しちゃってた。

 雷もゴロゴロいってるうちは、まだいいが、カリカリカリっていいだすと怖ろしい。何しろカリ
(借り)くらい怖ろしいものはない。
 そのうち、カリカリカリ、ピシャピシャ!ドッカ〜ン!近くに落雷しちゃあ、もう恥も外聞もない。お花は「半ちゃん!」といって抱きついた。
 びんのおくれ毛が、半七の頬にかかる。びんつけとおしろいのにおいが半七の鼻をくすぐるってぇと、木石ならぬ身。
 ふと目をやると、燃え立つような緋縮緬の裾が乱れ、キリマンジェロの万年雪もかくやと思わせるような真っ白な足がのぞいて・・・・・・・・・・あとは本が破れて、読めない。

 お花、半七、なれそめの一席でございます。


 どうも、談志・円楽共演のTV番組だったらしく、この噺で「談志が・・・」なんて台詞もあったし、この後で、ひなびた温泉宿の二階で酒を酌み交わす二人なんて設定で、灘康次(モダンカンカンというコミックバンドのリーダーだが、そのコントでは三味線かかえた流しという設定だった)をからかう一幕もあった。



(5) 桂春蝶 「猫の忠信」

 
何かセットが組まれて、春蝶主演で一本番組が録られたようである。かなり珍しい事態ではないだろうか。

 「皮下脂肪がないんで、スタミナが・・・・。本日は滋賀出身の女優さんをお招きしています」という紹介の後、出てきたのは松居一代。
 今では、船越栄一郎を尻に敷く猛烈かあちゃん。「松居棒」を駆使して、前夫との間の借金も完済したお掃除おばちゃん・・・・てな印象も強いが、この番組では、まだ「おすまし」バージョンで、春蝶自身も「戦後すぐ買(こ)うたおひなさん」と表現していた。
 美しくないことはないが、感覚的には古い・・・・そんな感じなのだろう。大阪の厚生年金会館中ホールでの録画。

 今日の噺は、若干スタミナが要求される噺でして。
 ご覧の通り体力には自信がございません。
 うまく出来るか、どうかより、ただただ完走できるか、どうかでございます。沿道の皆さんのご声援をよろしくお願いいたします。

「次郎貴(じろき)、どこ行くねん?稽古か?」
「あ、六さん。いや、ちょっと今度の会の打ち合わせに」
「ああ、会な。ちょっと聞いてんねん。で、今度の会は、立てか、みどりか?」
「いや、みどりゆうたら、いっつも一緒やろ。せやさかい、今度は千本の立てでいこか、て」
「え?千本桜の通し?そうかぁ・・・・すると、つらいなぁ」
「何が?」
「いや、千本の立てとなると、いやでもわいが”寿司屋”ゆうことになるやろ。一時間の長丁場となると・・・」
「いや、寿司屋は、常やんがやんねん」
「え?常丸が?・・・・・・まあ、あいつは声がええさかいな。ほな、年寄り役で渡海屋
(とかいや)か?」
「渡海屋は、片岡はんや」
「四
(し)の切りは?」
「伊勢屋の三郎兵衛はん」
「山は?」
「掛け合いで行こか、ゆうてんねん」
「ほな、わいはどこを語んねん?」
「せやから、わいもお師匠はんに、ほな、六さんはどこ語りはりますねん、て聞いたんや」
「聞いてくれたんか」
「ほたら、そうでんなぁ、六さんには、椎の木の小揚げでも語ってもらいまひょかって」
「何ぃ?バカにすなよ。わいは向こでも一番の古手、連名頭
(れんめいがしら)やぞ。
 お前にゆうてもわからんやろけど、わいの浄瑠璃には人情を語り分ける機微・・・・そぉ、色ゆうものがあるねや」
「あ、お師匠はんもゆうてた。六さんの浄瑠璃には五色の色があるて」
「五色?」
「素人
うと)のくせに玄人うと)ぶって、い顔して色い声出して、前からやめとけ言われてぅなる」
「・・・・・・・・そこまで言われたら本望じゃ。すっぱりやめたるわい。
 お前らもなぁ、ほんまに浄瑠璃上手になりたけりゃあ、男の師匠につけぇ。お前ら、どうせ”あわよか連”やろぉ」
「何や、その”あわよか連”て?」
「お師匠のお静はんがべっぴんやさかい、あわよくば、いてこましたろゆう下心で通ってる連中のことを”あわよか連”てゆうのや」
「ははは、当たってる、当たってる」
「当たるな、バカ。お前らなんぼゆうてもあかんわい。お静はんには、ええコレ
(親指を立てて)があんのや」
「そうそう。わいや」
「お前みたいなバカに誰が惚れる?」
「ちゃんと証拠があんねんで。
 こないだ稽古終って、五、六人でお師匠はん囲んで炬燵入って、しょうもないこと話してたんや。
 ほたら、お師匠はん、すっ!と立ちはったさかい、どないしはったんでっか?て聞いたら、ちょっとお手水場ぁへって言わはる。
 『ここのお手水場ぁは、暗
(くろ)ぉて危ないさかい、わたい、ついて行ったげますわ』ゆうたら、皆、わいが行く、わいが行くゆうて手ぇ上げて、立ち上がって。
 ほな、お静はん、『皆、座っとぉ』ゆうて、座らしたうえで見回して、『次郎はん、あんた、ついてきとくんなはるか?』ゆうて、わいをご指名や」
「手水場のお供ゆうてもうて嬉しいんか?」
「手水場の前まで案内して『どうぞ、ごゆっくり』ゆうて待ってたけど、わい、感心も得心もしたな」
「何が?」
「お静はんのおしっこの音の上品なこと!」
「情けないことゆうな」
「出てきて、下がってる手拭いで手ぇ拭こうとしはるさかい、それ濡れてて気色悪いでっしゃろ、これ使
(つこ)ぉておくんなはれゆうて、懐から手拭いだして渡してん。
 ええ?もったいない。これサラやおまへんか、ゆわはるから、何のもったいないことがおますかいな、お師匠はんに使
(つこ)ぉてもらや思てこそ用意した手拭いでおます・・・・ゆうたら、お師匠はん、返す時、手拭いごしにわいの手ぇぎゅうっと握ってくれはった。

 わい、そん時、目の前がぽ〜っと熱ぅなってな、耳がジャンジャンジャン、胸がド〜キド〜キド〜キ。それから三日寝た」
「命がけやな。そこまで思うてもあかん。はっきりゆうたるけど、そのええ男ゆうのは常丸じゃ。
 今この目で見てきたんや。久しぶりに稽古屋行ったら、中でボソボソ話し声がする。障子の破れから中覗いてみたら、常と師匠が一杯飲んでるのや」
「酒ぐらい、わいかて飲むで」
「差し向かいやったらわかるで。肩と肩を、しなだれかかるような格好で。お前、温
(ぬく)い刺身て知ってるか?」
「刺身て、造りのこっちゃろ?造りみたいなもん、冷やしてこさえるもんやで」
「それを温い刺身を製造して食とんねん。
 醤油にわさびを溶いて、そこに刺身をつけて、常丸が口ぃ入れてレロレロレロレロ・・・・しよんねん。
 ほんで、それを師匠の口へ口移し。師匠は目ぇ細めて『・・・・ああ、おいしかった』。

 わいはもうあんなとこへは行かんさかいな!」
「おい、六さん、ちょっと待ちぃな。ちょっと・・・・・・・。

(歩きながら)・・・んなアホなことないなぁ。常やんとお師匠はんやなんて。六さんも、あっちの悪口、こっちでゆうて・・・・ってそんなんばっかやってんねん。

(歩きながら) あ、稽古屋着いたがな。あれ?ほんに中から話し声がするで。
(のぞいて)・・・・・一杯呑んでる。おっ!おっ!温い刺身つくってる!
 わいとゆうもんがありながら・・・・ってゆうても、わたいは独りもんやのに何しようと勝手やおへんか!ってゆわれたら・・・・・こらお楽しみ、さいなら、ご免・・・てゆわなあかんしなぁ。
(歩きながら)しかし、むかつくなぁ。何ぞ常やんをぎゃふんとゆわす手立てはないかしらん?・・・・・・ある!(ぽん!と手を打って)あこの嫁はん、おとわはん。あんな悋気(りんき)しぃ(=焼餅焼き)いてへん。台所の皿や丼、茶碗や皆割ってまいよんで。うちの兄貴、こないだから瀬戸物屋、始めよったんや。兄貴儲けさしたらな、気ぃが済まん。

 あ、家に着いた。・・・・・・おとわはん、縫いもん、しとぉる。
 おとわはん!」
「あっ、次郎はん?びっくりするやないか?」
「いや、あんまり一生懸命やさかい、びっくりさしたろ思て。
 何?会の当日、その着物、後ろから掛けてびっくりさせたるて?
・・・・・・・ほんまにええ嫁やなぁ。それに引き換え・・・・・・・・・むにゃむにゃ・・・」
「え?何だんねん?」
「いや、何でもない。・・・・・・・・しかしなぁ・・・・・・可哀想に・・・・」
「何だす?ちょっと教えとくんなはれ。わたい一人の胸におさめて、誰にも言いまへんさかい。
 みんな知ってんのに、わたいだけ知らへんかったら、どこでどんな恥かかんともしれまへんやろ?」
「困ったなぁ。わい、しゃべりやないさかい・・・・。ゆうつもりはなかったんやで。せやけど、おとわはん、あんたがあんまり気の毒やさかい。
 おとわはん、あんた気ぃつけんと、放り出されてしまうで」
「え?ほたら何ぞあるんでっか?」
「でっか?でっか・・・・・では手遅れやがな。相手は稽古屋の師匠のお静はんや。二人は温い刺身の仲なんやで」
「ええ?そんなことしてんの?もう!わたい、こんな着物引き裂いてしまう!」
「破ってしまい!それだけでは気ぃおさまらん。台所行って、皿や丼、茶碗や皆、割ってしまい!」
「割らいでかいな!
(割らずにおくものですか) しやけど、それ、ほんまでっしゃろな?」
「当たり前やがな。いんまの今、この目ぇで見てきたんや。こんな確かなことあれへん」
(呆れたようにため息をつき)「うちの人、今、奥で昼寝してま」
「・・・・・・偉い!今までのあんたやったら悋気で大騒ぎしてたとこや。そこ、うちらの恥を外に出さんように、昼寝してるやなんて・・・・ええ嫁や!」
「大きい声出さんといて。うちの人が目ぇさます・・・」
「さませる目ぇやったらさましてもらおか!」

 
 奥の部屋から常やんが起きてきた。
 春蝶は、ここで羽織を脱いだ。
 常やんは、「おとわ!茶ぁくれ!」と命じ、ちょいとベロを出して舌なめずりし、片腕の袖をまくり、ぼりぼりと掻いて・・・・・


「よし、ほんまにせやったにせぇ
(もし、本当にそうだったとしても)、本人のおらん間に、かか、たきつけに来るんが友達のすることか?陰で諌めてくれるのが友達とちゃうんか?

 だいたい、お前、こんなこと言いに来れた義理か?去年の暮れ、人に言えんような病気なりやがって、医者にもかかれん、年も越せんゆう時、助けたったんとちゃうんか?」
「ちょっと待って。そんなことまでゆわんかて、ええがな。悪気があって、したことやない・・・」
「満更ええ気ぃでもないと思うがな。
 まあ、ええ。その代わり、これから道で会
(お)うても友達てな顔、してくれなよ。うちの敷居、二度とまたがんといてくれ!」
「・・・・・・・・常やん、すまんけど、おとわはん、しばらく貸してくれへんか」
「人のかか、どないすんねん?」
「いや、ほんまに稽古屋に常やんに似た人間がおったんや。おとわはんに見てもろて、ああ、これやったら次郎はんが見間違えるのも無理ない思てくれたら、今回のことは堪忍してくれへんかな?」
「・・・・・おとわ、ちょっと行ったれ。いや、こいつ、立つ機会
(しお)のうて、こんなことゆうとんねん。表、出たら逃げよるやろ思うけど、あとは追うな。・・・・・・・・・・(次郎吉に)暇なかかや。ゆっくり使(つこ)て」


「つらいなぁ・・・・・
(歩きながら、おとわに)すんまへんなぁ」
「仲のええ夫婦
(めおと)揉まして、何がおもろいねん?・・・・・・・・今、逃げな、逃げる機会(しお)おまへんで」
「そんなん、しまへんがな。

・・・・・・・あ、着いた。
(穴をのぞきこみ)早いなぁ〜!もう来てる!」
「何ゆうてんの。あんた、どこぞおかしなとこにおしっこしたんちゃうか?
(穴をのぞきこみ)うちの人や!」
「せやろ、せやろぉ〜」
「せやけど、うちの人、家に居てた」
「そこ、わいも考えてたんやけど、こないだ、常やんと講釈聴いたんや。難波戦記、真田の抜け穴。
 一人の真田幸村が五人も六人にも見えんねん。どっかでぶわぁ〜っと出たか思たら、抜け穴でしゅっ!と別のとこへ。あれ、常やん真剣に聴いてたから、抜け穴掘ったんやわ」
「そんなん高
(たこ)つくんとちゃうの?」
「そら地べたに穴掘るんやさかい、こない高
(たこ)つくもんあれへん」
「ああ、悔しい!わたい、着物引き裂くわ」
「おぉ、破け、破け。それだけでは腹の虫がおさまらんから、台所で皿や丼鉢、茶碗や皆割ってしまい!」
「・・・・・何で、瀬戸物にかかってんねん?
 せやけど、もう次郎はんだけが頼りやわ。どないしたら、ええやろ?」
「家帰って、畳、上げよ。そしたら大きい穴が空いてる筈や。
 いかき
(ザル)持って、その穴のふちで待ってて、頭、見えたらぱっ!と」
「イタチやがな、それやったら」


(常吉の家に着き)よぉ〜っと!(と、戸を開けて)早いなぁ〜!」
「あんたゆう人はぁ〜!」

「おとわ、お前が見てもわしに見えたか・・・・・・・・。こら、狐狸妖怪の類やな」
「常やん、何や、その氷の羊羹て?」
「次郎貴、ほな、これから稽古屋行こか」
「え?何しぃに?」
「わしを見ぃにや」
「次郎はん、すまんけど一緒に行ったって。この人、立つ機会のうて、こんなことゆうてんねん。表出たら、逃げるからあと追わんように・・・」
「おんなじようにゆうな!」

「わい、何思てこんなこと始めたんやろ。最前から稽古屋と常やんの家、行たり来たりぃ〜、行たり来たりぃ〜」
「もと言や、お前から出た話や」

(穴をのぞき)早いなぁ!もう中入って・・・。(横を見て常吉がいるので)うわぁ!」
(代わって穴をのぞき)ははぁ〜ん。こない似てると俺があいつか、あいつが俺か・・・・・」
「心細いことゆわんといてぇな」
「お前、中で酒を呑め。ご返杯ゆう時、あいつの手ぇの先を見るんや。指が五本に分かれてりゃあよし、もし丸かったら・・・・・
(と、腰に手挟んでいた鉄扇を渡して)これでどつけ」
「いや!いや!そんな怖いこと、ようせん」
「何?やるの、やらんのぬかしたら・・・・」
「やる、やる!内らも怖いが外も怖いわ。すぐに入ってきてや」

「あ、次郎はん!ちょうどよかった。いま、ちょうど会の打ち合わせしてたとこですねん。
 常丸さん、何してるん?次郎吉さんやおまへんか。一杯注いどぉ
(注いであげてください)
「次郎貴か。一杯いこか」
(杯を受けながら)馬のしょんべんやないやろな・・・」
(お静さんは、酒をけなされたので)まぁ!
 玉子の菜種
(なたね。スクランブルエッグ)食べとぉ」
「色がねぇ・・・・・・・・。まあ何でもええわ」
 酒や肴を警戒していた次郎吉だが、やけになって食べ始める。
 杯のやり取りで手の先が丸いと気付く。
 中に入った(本物の)常吉は「お前何もんじゃ!」と(化けた常吉を)押さえつけ、「言わんかぁ・・・・?こう!こう!」と鉄扇で打ち据える。

 たまらず、化け猫の正体を明かす常吉(猫)。

「あ〜、びっくりした。何や、猫かいな。
 せやけど、常やん。これで今度の会は、すっくり行くで。役割が決まったがな。
 何で?て、常やん、あんたが吉野屋の常吉で義経。
 わいが駿河屋の次郎吉で駿河二郎。
 この猫は、常やんの身体を借りてここでタダ酒を呑んどったんやさかい、狐忠信ならぬ、猫のただ呑むちゅうのはどないや」
「なるほど、できたな。いや、肝心の静御前は?」
「お師匠はんがいてるやないか。名前もお静でぴったりやし」
「何の、わたいみたいなお多福、静御前に似合いますかいな」
「いや、似合いまっせ」
 もめてるところに、猫が顔を上げて「ニャウ
(似合う)」。

 高座が終って、再び書割のセットに戻り、春蝶と松居一代が対談を始める。


春「いやですね。
(自分の高座のビデオを観てると)ムカムカしますね。下手なんで」
松「そんな、猫のような目で見ないで。
 でも、あの噺みたいな分身がいたら便利でしょうね。浮気がばれない・・・・・なんて思いますでしょ?歌の題名じゃないけど」
春「女性でこの噺聴いて、まず分身が欲しいって思いはるゆうのは、私より悪人でんな」
松「悪女かしら?」
春「自分のつつましい家庭の幸せゆうのは、しっかり守ってねぇ」
松「そう、完全犯罪」

春「二つ身体があったら、どこへ行きます?一つは麻雀屋。もう一つはパチンコ屋・・・・なんてゆうたら情けないけどねぇ」
松「どこへ行きましょう」

春「今の噺で、私、おとわはん、あの焼餅焼く女が好きでんねん」
松「私もああいうタイプの女性になりたい。
 昔の女性ってストレートでしょ?駆け引きも。恋愛ってすべて駆け引きだと思うんですけど」
春「この頃は駆け引きもよじれて、裁判所てな色気のないもんがからんできたりしますからね」

松「あの常吉さんて、色男なんでしょうね」
春「今日は時間がなかったんでやらなんだんですが、米朝師匠なんかは、『次郎貴・・・』ゆう前に間
(ま)ぁを取るんですわ。
 煙だけぷ〜〜っと吹いて、また、タバコ詰めてね。二服くらい吸う。
 こら、枝雀さんに教えてもろたんですけどね。それから皮肉をゆう」
松「嘘じゃないから皮肉を言えるんですよね。男性は正直だから。
 春蝶さんなんか本音がチョロチョロ出るんじゃないかしら」
春「そういう点では女性の方が数段上ですかねぇ?
 松居さんみたいな女性なら、だまされてみたい」

 みごとなくらい噛みあっていない対談だった。
 やたら「すべて心得た大人のいい女」を気取ってる感じの松居。
 粋な会話をしようとしてるみたいなんだが、結局照れ屋でぶきっちょな春蝶。

 ちょっと聴いていて恥ずかしかった。

 本編の噺の方だが、本人も冒頭で言ってるように、ややスタミナ不足って感じがした。
 加えて時間が短くて、本人が後の対談で言ってるみたいに、ぐっと間を取るところをあっさり展開したりしている。
 冒頭の「五色の色」の「素人のくせに・・・」という所もやたら早口だった。

 全体的に粘りとゆうかパワーが足りないように感じられた。





  どうも、お退屈さまでした。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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