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(No88) 平成紅梅亭 TV鑑賞記 その2 平成18年(2006)1月11日放映分・・・・・・の続き。
(3) 笑福亭松之助 「チェイホフ 煙草の害について」
え〜〜・・・・・・・何、ゆうんやったかな?
絵ぇを始めてみたいと思て、本屋行ったら『やさしい水墨画』ゆう本がありまして。
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油絵やったら、何本も絵具いりますやろ?水墨画やったら墨だけでええんやろし。いざとなったら木炭、溶いてもええし。
せっかくやから、半紙、300枚も買い込みましてな。
やってみたら、筆で斜めの線ひけとか、丸を描けとか、いっこも易しない。
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これが『難しい水墨画』やったら最初から始めへんねん。人、だましやがって。
こら誰かに習わないかん思て、直接行くんやのうて、描いた絵ぇを送って朱で直してもらうことになったんでっけど、音沙汰がない。
どうやら送った絵ぇに呆れて、相手にせんとこ思われたんかしらん。
三味線はね、十年やってたけど、こないだやめたんです。三味線と長唄をやってたんですが。三味線だけではあきませんやろ。唄もでけんと拍手はもらえん。
もちろん手ぇだけではあきまへんで。お金ももらえるようにならんと。
そこいくと、落語はよろしいな。
わずかばかりの記憶力と、人さんの前でしゃべれる度胸さえありゃあええんですからな。どうせ、前におんのん素人ばっかりやし。
まあ、こうして忙しい時間を割いて、ここへ出てきてんねんから、感謝してもらわないかん。
「喜ぃさん、どないしたんや?妙な顔して」
「いや、今日は煙草盆が出てまへんな」
「煙草みたいなもん、わいはすいぶん前から吸わんからな」
「へ?昨日ゆうのは、『ずいぶん前』に入るんでっか?」
「何で?」
「何でて、昨日、一緒に煙草吸うてたやないですか」
「わしゃ、そんなん知らんで。
煙草は第一、身体に悪い。
煙草てなもんは、もともと日本のもんやないで。よその国、ポルトガルのもんや。ポルトゆう国から、かった(借りた)国でな。ポルト借る・・・ゆうて。
昔、煙草は煙草とは、ゆわなんだんや。昔は、あらケム〜リってゆうてた。
え?ケム〜リが何でタバコてゆうようになったか、てか?
そら、昔、浜辺に老人が立って、遥か沖合いを眺めてるとやな、唐土(もろこし)の方角からケム〜リが3羽飛んできた。
そのうち、ケム〜リのケぇ〜が、タ〜〜っと飛んできて、浜辺の松へさして、ぽいっ!と止まった。今度、ムぅ〜が、バァ〜〜っと飛んできて、ぽいっ!と止まった。最後、リぃ〜がコぉ〜〜っと飛んできて、ぽいっ!と止まった。それを見ていた老人が、ああ、こらタバコ・・・」
「ええ加減なこと言いな。そら、落語の『つる』やないか」
「煙草は火事の元にもなるさかい、昔は『煙草禁止令』が出たもんや。
ほれ、そこにようけ、焦げ跡があるやろ。そら、全部、あんたや」
「え?怖ろしいこと言わはるなぁ。ほたら何でっか?よそで火事あったら、みなわたいのせいでっか?
見てみなはれ。この焦げ跡なんか、ちゃんと甚兵衛って書いてますやないか」
「煙草ゆうのは、ほんまに身体に悪い。
煙突なんか、すすがたまるさかい、棒の先にたわし付けて掃除するやろ?
しかし、人間の身体ではそんなことでけんから、五臓六腑にすすがたまんねんがな」
「五臓六腑って何でんねん?」
「え?五臓六腑知らんの?困った男やなあ」
「わい動いてまっせ」
「止まった、ゆうてんのと違うがな。困ったってゆうてんねん。
心臓、肺臓、肝臓、腎臓、ひ臓、これが五臓。
胃ぃ!大腸、小腸。ほんで、胆のう、膀胱。あとはさんしょう。こら、みのまたともゆうけどな。これが六腑や。
胆のうゆうのは、肝臓ででけた胆汁ゆうのをためとくところ。かんたん(簡単、肝胆)なこっちゃ」
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「さんしょう」というのは「三焦」と書くようだ。正式な臓器じゃなくて「気」の通り道、てな意味らしい。
この二人が会話してるところに「熊さん」がやって来て、話をしながら、やたらと煙草をふかす。
煙草を吸わない筈の甚兵衛さんは、やたらとその煙を吸い込む。
甚兵衛さんのかみさんは、急に頭から水をぶっかけたり、甚兵衛さんは所帯を持った頃からずっと煙草をやめる、やめると言っているが、これまでやめたためしがない。焦げ跡も全部、甚兵衛さんがつくったものだとばらす。
なおも、熊さんはキセルで煙草をふかし続ける。甚兵衛さんは、その煙を必死に吸い込み続けるので「過呼吸」みたいな変な感じになってる。
そして、熊さんを叱って「お前はしゃべりながら、煙草吸いやがって。パーペラ、パーペラ。お前、吸い方知らんな。貸してみい!」とキセルを取り上げ、深々と吸い込み「あ〜〜。煙草はやっぱり身体に毒や」というのがサゲ。
噺の構成もよぉわからんし、サゲももひとつやし、第一、タイトルの意味がさっぱりわからん。 |
(4) 桂春團治 「祝熨斗」
「おい、嬶(かか。女房)。腹へって帰って来たんやが、飯(まんま)食おか?」
「まあ、この人はおなかがすかんと帰ってこんのかいな。せやさかい、あんたのこと、近所の人が鳩親父ってゆいまんねんで」
「ほぉ〜。ブラブラ遊んでて、餌時分(えさじぶん)になったら帰ってくるさかい、鳩親父?そら、うまいことゆうなぁ。
ほたら、食う、食う(ハトの鳴き声の「ク〜ク〜」)」
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飯を食おうにも金がないので米がない。
しかし、そこはしっかり者の女房。既に向かいの家から20円借りている。
家主の息子が嫁をもらうので、この20円でお祝いの魚を買って届ければ、悪くても50円、うまくいけば100円くらい「祝い返し」をしてくれるだろうから、それで借金を返し残りで米を買おうというのである。
魚屋の店先で、「毎度おおきに」とゆうが、去年の暮れにイワシを買ったきりや、とか、「皆、尾頭付きです」とゆうが、タコはどこが尾ぉで、どこが頭や?などとしょうもないことを言いつつ、一ぱい15円の生貝(なまがい。鮑=あわび)を二はい20円にまけてもらって買ってきた鳩親父。
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「もっと嵩高いもんの方がよろしおましたけども・・・・・。
今日は、あんた、いつものようにアンキョロリ〜ンとしてられまへんねんで。
挨拶をせないけまへん。口移しで教(おせ)たげますわ」
「え〜〜」
「”え〜”は要りまへん」
「ほたら・・・・・・・」
「”ほたら”も要らん」
「こ、こんにちは・・・・結構なお天気さんでございます・・・・・・・・っと」
「そんなとこに”と”ぉは要りまへんで」
「戸ぉが要らなんだら、障子にしよか?」
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はなはだ不安ではあるが、いつまでも練習ばかりしてる訳にはいかない。
「お湯沸かして待ってます。帰ってきたら、おいしぃ〜い湯立(ゆだ)てご飯、炊いたげる。ほな、早よ、行といなはれ(行っておいでなさい)」と送り出す。
湯立てご飯とは、お湯で炊く手法で、水から炊くより早く炊き上がる。腹を減らして帰ってくる旦那に少しでも早く食べさせてやろうという思いやりであろう。 |
「こんちわ〜」
「どなたじゃな?」
「こなたじゃ」
「こなた?ああ、あんたじゃろと思たわ」
「え〜〜・・・・・・・(照れ笑いして)・・・・は要りまへんねん。
ほたら・・・・・・・・・も、要らんぞ。
いや、あのねぇ、あっ、『こんにちわ』ですわ。安心してください」
「誰が心配するかい、アホ」
「ほ、本日は、結構なお天気さんにござりまする」
「こら、また、えらい丁寧やなぁ。はいはい、結構なお天気さんじゃなぁ」
「この分では、きっと明日も結構なお天気さんでございましょう。・・・・・・けど、あさってあたりは危ない」
「天気予報を知らしに来たんか?口上はどないなった?」 「うけたまがり、いや、うけたまがらまり、あのねぇ、うけたがまが・・・・・・。ちょっと、あんた、ゆうてぇなぁ」
「それもゆうなら、『承りますれば』とちゃうのんかい?」
「そう、そう。それすれば」
「承って、どないしてん?」
「うけたがまが、うけたなまが・・・・いや、何です。うけたがまがら・・・・・ったんでんねん。ふ〜〜。ゆえた」
「ゆえてへんがな」
「ほたら、このたび、お宅とこの・・・ごちちょく、いや、あの、お宅とこのごちとく、その・・・早い話が・・・・大将、すんまへんけど、おぶ(お湯、お茶)を一杯」
「大層な人やなぁ。(女中に声をかけ)これ!お松!ちょっと、お茶を出しておくれ」
(お茶を出されて)「あんたがお松?今度から、客が来たら先にお茶を出しなはれ」
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苦労しながら、何とか息子の結婚祝いだというところまでこぎつけ、いよいよ、おかみさんから「ここだけは絶対に強調せよ」と念を押されていた重要ポイントへ。 |
「これは”つなぎ”のほか・・・・もし、大将。よそみしてる場合やない。ここはしっかりと聞いといてもらわんと、”おため”の都合があるさかい・・・・」
「ははは、うちで教(おそ)わったこと、みなゆうてんねんなぁ。
わしゃ、こうゆう人間やさかい、中ちょっと見してもらうで。・・・・・・・・・・・喜ぃさん、こら生貝やなぁ?」
「そうそう、いっぱい15円のとこ、二はいで20円にまけてもろて・・・」
「値ぇのこと、ゆうてんねやない。こら、おかみさんは承知の上か?それとも、おまはんが道で買(こ)うてきたもんかと尋(たん)ねてますのや。
なに?承知?ほたら、それは受け取れまへん。あんたとこのおかみさんゆうたら、町内でも評判のしっかり者や。そこ行くと、あんたは町内の・・・・・・・まあ・・・・アレやろう?
あんたが道で買(こ)うてきたゆうのなら、まあ、どんなもんでも目ぇふさいで頂くけど、おかみさん承知で生貝て。世間でゆうやろ。磯の鮑の片思い。可愛い息子、片思いにはさしてやりとない。
いや、あんたじゃわからん。おかみさんにゆうて、品物(しなもん)を取り替えてきとぉおくれ」
「ええ〜〜?それ、あきまへん。わい、お腹(なか)すいてまんねん」
「あんたのお腹はどうでもよろしぃ」
「そんな、自分とこは嬶もらうけど、人のお腹はどうでもええやなんて。
ほれ、この通り、帰りに買うためにこうして米の袋まで持ってきてまんねん」
「分からん人やなぁ、あんたは。かみさんにゆうて、品物、替えてこい!」
「あっ!ほりやがった(投げ捨てた)なあ!家主、いえぬしってどんだけ偉いんじゃ。家主ゆうたら、家、人に貸してその家賃で飯食うてるんやないか。ゆうたら、俺らお客さんやぞ!
何?家賃たまってる?知るか、そんなもん。家賃と米代は、かかの係じゃ。 ほれ、見てみぃ。ほぉるさかい、二はいの貝が三ばいに」
「目ぇも見えてへんのか。そら、猫のお椀じゃ」
「持って帰ったらええんやろ、持って帰ったら。偉そうにゆうな。・・・・・・・おためだけくれんか?」
「まだゆうとんか!煮え湯浴びせるぞ!」
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「つなぎ」とは町内連名の、いわば全員一律の「つき合い」でのお祝い。これはそうゆう「義理」のものではなく、うちだけが特にお祝いの意味で、うちだけの出費でお祝いしているのですよ!ということを強調したいのだ。
「おため」とは、おつかいに来てくれた子供に渡すちょっとしたお菓子・・・・とかの意味で、ここでは、はっきりと結婚祝いに対する「祝い返し」のこと。
「おための都合」とは、町内一律の義理立て的な祝いと、貧しいながらも特に祝いたいために用意した祝儀とでは、お返しの金額にも違いが出るだろうという意味。
しおしおと家に帰ろうとした喜ぃ公は、友達と会い、家主にやり返す智恵をつけられる。
勢いこんで、家主のところへ戻っていくが・・・。 |
「ああ、拍子の悪い。戸ぉ開けてけつかる。閉めてけつかったら、蹴倒して入ったろぉ思てたのに。
うぉい!ゴジャゴジャなしに受け取らんかい!」
「ははは。おかみさん、怒ってたか?まあ、祝いもんのこっちゃさかい、堪忍して。わざわざ替えてもろて、すまなんだ・・・・・・・・喜ぃさん?うちが縁起が悪いと返した品物、また持ってくるゆうのは、何ぞ意趣遺恨があってしなさんのかい?」
「今度、おのれとこのど息子さんにど嫁さんをもらいなさるやろ!」
「お前、どこの生まれや?」
「どこの生まれぇ?日本人じゃ、バカタレ。
近所、親類から祝いが来るじゃろ」
「うちは、あんたとこと違(ちご)うて付き合いが広い。祝いの品は、ほれ、あの通り、床の間に山の如くじゃ」
「その祝いに付いたぁる熨斗(のし)を貼ったなり(貼ったまま)もらうか、めくって返すか。おい!どっちや!おい!」
「ほほぉ。こら、誰ぞに、おいど、いらわれてるな?」
「そんな、こそぼいとこ、誰にいらわすかい!何?貼ったなりもらう?
ほんまにもらうねんな?
・・・・・・もらうとなれば・・・・・・下駄ぐち(下駄を履いたまま)上がってぇ。
おい!偉そうにぬかして、おのれ、この結構な熨斗のポンポンを知ってんのか?」
「ポンポン?それもゆうなら根本やろ?」
「おお、そのポンポンじゃ。
その熨斗の貝はな、どこで獲るかゆうたら、芝田裏の路ぉ地の奥じゃ。
誰が獲るかゆうたら、海女が獲るんじゃ。海女ゆうたら、絵で描いたら綺麗なが、あら絵空事じゃ。
ほんまゆうたら、潮風においど・・・・・おいどは塩で温(ぬく)めた方がよぉ温(ぬく)もるぞ。
その汚れのないおなごが獲った貝を手桶に入れて番をしてるおなご。こら汚れとるぞ。
おなごには、月に一度の月給日がある。せやさかい、月給日のことを手桶番とは、これいかに?」
「知るか!」
「この鮑を蒸して剥いて、莚(むしろ)の上に広げて、その上に、また莚敷いて、その上で夜通し、こんこん、こんこん、後家(ごけ)でいかず、鰥夫(やもめ)でいかず、まあ、夜通し何なとせえ」
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友達がつけた智恵というのは、片思いで鮑が縁起悪いと家主が言うのは誤り。祝いものにつける「熨斗」というのは、海女が獲った鮑を蒸して薄く剥き、2枚の莚の間でプレスして、さらに、その上で仲のいい夫婦が夜通し交合して(その重みでさらにプレスして)出来上がる。
だから、鮑は逆に縁起がいいんだと言い返せ、というものだった。
「おいど」とは、お尻のこと。「いらわれる」とは「いじられる」。
「おいど、いらわれる」とは「尻(けつ)を掻かれる」と同じで、「悪智恵をつけられる」とか「唆(そそのか)される」といった意味。
獲れるのが「芝田裏」というが、友達が言ったのは志州の志摩浦。芝田といえば、北区の芝田町で裏長屋とか路地裏というイメージで「芝田裏の路地の奥」となったのか?
「月給日」というのは、友達が教えた台詞では「月経日」。
サゲというのは、素に戻って「アホが一人でわ〜わ〜騒いでおります。祝熨斗という馬鹿馬鹿しいお噂でございます」というもの。 |
どうも、お退屈さまでした。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
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