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(No75) 「豆腐屋寄席」 鑑賞記 その5 仲良くさせていただいているぐんままさんが、近所のお豆腐屋さんが落語会をするのだが、行く気はないか?と尋ねてくださった・・・・・・・の完結編・・・・・・の完結編。
(3) 笑福亭松喬 「崇徳院」
(若旦那の病気は「恋患い」と分かったが、相手が分からない。
倅の余命を心配した旦那が、食事の時間も惜しんで探せと熊五郎の身体におひつをくくりつけ、沢庵を丸のまま渡し、草鞋を腰の周りに吊り下げ、「はよぉ、探してこい!」と送り出した・・・・・・・)
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「えらい格好、させられた・・・・・・・・。こんなんで、どこ行けんねん・・・・。まあ、いっぺん家、帰ろ。
・・・・・・・・・かか、今、戻った」
「ああ、おかえ・・・・・・。あんた、何ちゅう格好してんねん?荒物屋の化けもんか?ほんで、ご本家へ行ったんか?え?へえ・・・・若旦さんが・・・・?子供や思てたら・・・。はぁ、あの借金、気になっててん。・・・へえ、別に一時のお礼?
けっこうな話やないか。さあ、行っといなはれ。
え?わからん?わからんゆうても日本人でっしゃろ?大阪でわからなんだら、神戸、神戸でわからなんだら姫路、岡山、広島・・・。今は日本中、縦横十文字に道がついたぁる。草鞋?五足なんかで足りるかいな。もう十足吊ったげる。さあ、行っといで!」
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追い立てられて出ていったもんの、探しあてられる筈もありません。
「・・・・・・かか、今、帰った」
「熊は戻ったか?って何べんもお使いが来てたで。はよ、母屋行っといで!」
「一服もさしよらんな。
へえ、熊五郎でおます」
「おお、熊はんか。最前はすまなんだ。子供のこととなると、つい言葉が荒(あろ)ぉなってもて。
さ、奥に通っておくれ。
(店の者に)おい!風呂、沸かしや。酒の5、6本も燗して。うなぎもゆうてやって。
こら、証文じゃ。まあ、こんなもん、最初からもらわんでよかったんやが、とりあえずこら返しとこ。
それで暦見たんやが、あさってがまことに日ぃがええ。結納だけでも納めようと思うんやが、どちらのお宅なんや?」
「(横を向いて)もご、もご、もご・・・・」
「何をゆうてんのや?え?わからん?わからんのに何で帰ってきたんや!何で証文をふところにしまうんや?
え?風呂?抜いてまえ。うなぎもいらん。酒、もう燗がついた?そこらへまいとけ!
倅は五日もたん言われてんねんで。こないなったら、下手人はおまはんじゃ。
礼が気に入らんのか?わかった。裏の倉付きの五軒の長屋。あれ、すっくりおまはんにあげよ。それと別に300円じゃ!」
「え?倉付きの五軒の長屋と300円?・・・・わかりました。こないなったら、欲と二人連れ、死ぬ気で探します。けど、大阪ゆうても広ぉおますから、三日だけ時間、おくなはれ!」
それから、大阪中をぐるぐるぐるぐる・・・・・・・・・・・・(と、扇子をぐるぐる回す)、ぐるぐるぐるぐるぐる・・・・・・・・・(と、さらに大きく扇子を回す)
二日目の晩には欲も徳も抜け果てて、ぼけ上がってしもた。
「・・・・・・かか・・・・今、帰った・・・・・・。こら、若旦那より、わいの方が早そうや・・・・・・・」
「お帰り。お疲れさん。あんたがそんなに頑張ったのに見つからんて、若旦那も縁がなかったんや。
考えたら、わたいらみたいなもんが、家主になれる筈がないわ。しゃあないやないの。
ところで、あんた、どないゆうて探したんや?」
「どないゆうた・・・・かて・・・・・・ただ、黙って・・・・」
「ええ?今まで二日間、黙って歩いてたぁ〜?そんなんで分かる筈ないやないか?
せっかく崇徳院さんの『瀬を早み』ゆう手づるがあんねんから、この歌、大きな声で歌(うと)ぉて歩いたら、ひょっと手がかりがつかめんもんでもないのに・・・・・。こんな頼んない人や思てなかった。この人が探し出せんようでは末に出世の見込みもなし・・・。わたい、丹波の親元に去(い)ぬし!」
「・・・・・ちょっと待ってくれ。よその嫁はん探して、うちが夫婦別れしてどないすんねん。
まあ、明日また探すさかい、今日は寝かしてくれや」
「寝んの?あ、そう。ほな、寝なはれ。寝た?寝た?起きなはれ!」
できるだけ人寄り場所、選(よ)って、たんねて歩くんやで!」
「・・・・・・・口の達者な嫁はんやなあ・・・・・。
瀬を・・・・・・。あらためて道の真ん中で声出すて恥ずかしいもんやなあ。
そんなんゆうてられへん。
瀬を〜〜早みぃ〜〜〜!」
「ちょっと、いわし屋はん〜」
「・・・・・あほ言え。瀬を早みたら、いわしがあるかい。
あっ、こんちわ〜〜
知り合いと会うと、よけい恥ずかしいなあ。
瀬を〜〜早ぁみぃ〜〜〜
(周りを見て)ぎょうさん、子供がついてきよったなぁ。」
「おっさん、チラシくれ」
「あらへん!痛っ!石ほりよった。悪いガッキゃなあ。
(床屋をのぞいて)空(す)いてまっか?」
「へえ!すいてまっせ!すぐ、やらしてもらいま!」
「さいなら〜」
「え?じきでっせぇ?」
「こっちは空いてたら、あかんのじゃ。
ごめん」
「あ、大将。鈍なこって、今、四、五人つかえてまんねけど」
「そんで結構です。
(煙草をゆっくり一服つけて、やにわに)瀬ぇをぉ〜〜早ゃあみぃ〜〜〜!」
「(隣の客が)ああ、びっくりした!何だんねん、急に大きな声出して。心臓に悪い。しかし、あれでんな。あんた、崇徳院さんの歌、よっぽどお好きとみえますな?」
「いや、どっちかゆうと、嫌いな方でんねんけど。
しかし、あんさん。ちょっと聞いただけで崇徳院さんの歌てわかるやなんて、お詳しいですな?」
「いや、負うた子に教えられ、ゆうか。うちの娘が近頃よぉそんなことゆうてまっさかい」
「高津さんには行かはりますか?」
「近所でっさかい、年中行ってまっせ」
「ところで、お宅の娘さんはべっぴんでっか?」
「いや、親がゆうのも何でっけど、近所の方はとんびが鷹産んだとか・・・」
「・・・・・・・・こら、間違いないわ。お宅とこの娘さん、年の頃なら十七、八・・・・・」
「いや、今年で六つでっけど」
「(泣きそうになって)瀬を〜〜早ぁみ〜〜〜」
それから床屋30軒、風呂屋42軒回りまして・・・・・
「ご〜め〜んぅぅ〜」
「へい、お越し・・・・・・お宅、今日いっぺん来てはりまへんか?」
「来たかもしれまへん・・・・・・」
「もう刈るとこ、おまへんで」
「・・・・ほたら、植えて・・・」
「植えられまっかいな。まあ、一服しなはれ」
「へい・・・・・・・・・。瀬を〜〜早ゃみぃ〜〜〜」
「(店の主人がほかの客に)あの人、朝から来て、あないなことばっかりゆうたはりまんねん。(頭をさして)だいぶ、ここに来たはりまんねん」
そこへ飛び込んできたのが、棟梁風の男。
「う〜ん、つかえてるなぁ。ヒゲだけやねんけどなぁ。先、やってもらわれへんかなぁ。本家の用事で、急いでんねん。
○○はん、すまんけど、先やらしてくれへんかな。ああ、△△はん、急(せ)いてんねん。ちょっと代わってくれへんか。
あ、そこの人、知らんお方にこんなこと頼んで悪いねんけど、ちょっとヒゲだけ、先やらせてもらえまへんやろか?」
「・・・・・ああ、何ぼでもどうぞ」
(床屋の親父が)「そう言や、本家のお嬢さん、どんな具合や?」
「さあ、それや。何でも、14、5日前、お茶の会の帰りに、お供のもんがせき立てて高津さんにお参りしたそうや。絵馬堂の茶店で一服したら、先に休んではったんが、役者にもないようなきれいな若旦那やったそうな。
後から来て先に立たんならんことになったんやが、やっぱ気ぃが残ってたんやろなぁ。何でも緋塩瀬の茶袱紗たらちゅうもんを忘れたんやと。
そしたら、その若旦那が親切に、これ、あんさんのと違いますか、ゆうて手ぇから手ぇへ渡してくれはった時には、ぶるっと震えがきて、三日ほど止まらんかったそうや。
あんまり名残惜しいさかい、料紙に崇徳院さんの歌の上の句ぅ書いて渡したそうやが、戻って床就いたなり、頭が上がらん。
寝込んでしもてお医者さんに診せたところ、こら気病いやと。ところが、その訳を旦さんが訊いても言わん、奥さんが訊いても言わん。河内の狭山の乳母(おんば)どんを呼んできて、なだめたりすかしたりしてると耳元までぽ〜っと赤(あこ)しはって、初めてここで様子が知れた。
旦那、一粒種の娘を殺したら大変や、ゆうて出入りのもん、みんな呼んできて、探すてなことに。
よっさん、気の毒にカムチャッカに行てるねん。
わいもこれから和歌山行って、和歌山で知れんかったら、紀州に出て鯨に訊かんならんことになってんねや」
(その会話を聴いていた熊五郎、興奮して声も出ず、身体をわなわなと震わせながら、棟梁につかみかかる)
「こら!おのれに会おぅとて艱難辛苦(かんなんしんく)は、いかばかり、盲亀(もうき)の浮木(ふぼく)優曇華(うどんげ)の、花待ちえたる今日(こんにち)ただいま、いざ尋常に勝負、勝負!」
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棟梁と熊五郎が、うちの母屋に来い、お前こそ本家に来いと引っ張り合い、結局、めでたく一対の夫婦が出来た・・・・・・・という噺。
高座をおりる時、松喬師匠はにやっと笑って「1時間10分もしゃべってしもた」といたずらっぽい表情を浮かべた。
実に貴重な経験をさせていただいた。この落語会のことを教えていただき、チケットを譲ってくださったぐんままさんにあらためて感謝いたします。
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どうも、お退屈さまでした。いつものことですが録音等はしてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
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