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(No72) 「豆腐屋寄席」 鑑賞記 その2  

 仲良くさせていただいているぐんままさんが、近所のお豆腐屋さんが落語会をするのだが、行く気はないか?と尋ねてくださった・・・・・・・の二回目。

 


(2) 笑福亭遊喬 「道具屋」

 
なかなか体格のいい噺家さんである。

 (客席を見て)おひなさんみたいですな。
 
(メクリを振り返り)こうして戒名も書いていただきまして。(どない読むのん?と聞かれ)あ、遊喬(ゆうきょう)・・・と読みます。橘家右近さんの字でしてね。
   私の着物ですが、ゆうたら悪いけど、さっきの右喬君は前座ですからね、化繊です。そこいくと、私は最高級の素材使(つこ)てます。ポリエステル、ゆうてねぇ。

 
(桂)春團治師匠と言いますと、羽織を脱ぐだけで拍手が来たりします。しゅっ!と脱ぎはりますからね。あら、絹を着てはるからですねん。ツルツルの上に、ツルツルを着てはって、なで肩やさかい、ちょっと袖口を引っ張るだけで、しゅっ!と脱げる。

 私ら、そんなんやったら、静電気がパチパチパチ〜!ゆうて。

 せやからいつも静電気防止スプレー、「エレガード」ゆうんですか。あれを楽屋でしゅ〜っとかけてまして。
 今日、何やおかしいな、思たら殺虫剤かけてまして。いや、そんでええんです。これでキンチョウ
(緊張、「金鳥」という殺虫剤メーカー)をほぐします・・・・・・・・。

 私、舞鶴の出身でして。今、NHKでやってる「ちりとてちん」は小浜で、まあ近所です。私の親父は舞鶴の海自(海上自衛隊)でホルン吹いてました。音楽隊でね。親父は自衛隊でラッパ吹いて、息子は高座でほらを吹いてる・・・・・・ゆうことで。
 私も自衛隊入らへんか言われて受験したんですが落ちたんです。よっぽど学校の成績が悪かったんでしょう。しゃあないから大阪でぶらぶらしてたら、紺の背広きた人に肩を叩かれましてね。「兄ちゃん、ええ身体してるな。自衛隊入らへんか」。落ちたっちゅうねん・・・・・・・・・・・・。

 落語の世界入る前に少し仕事してまして。仕事ゆうても回転焼き、まあ、テキ屋です。よぉ居てまっしゃろ?スーパーの駐車場のすみっこなんかで。
 ただ、たこ焼きとかね、いわゆる「コナモン」は、本職の方
(かた)が多いんです。
 ある日ね、回転焼き焼いてると、黒いベンツがやってまいりまして。黒いベンツ。ほんで窓まで真っ黒けなんです。何でああなんでっしゃろな?ナンバープレートみたら「8・9・3」・・・・・・・・。そっから、オストリッチのかばん持った人が降りて来たんです。
「あああ。何言われるんやろ〜?」思いながら、焼いてましたら、その人、私の前に近づいてくるなり「兄ちゃん!」
「・・・・・・あ、はい・・・・・」「白あんが三つ、黒あんが・・・・・・」

 ただの甘いもん好きのおっさんやったんです。

 こうゆう仕事してますと、いろんなとこへ行かせてもらいます。こら、北海道に行った時の話なんですが、酪農のとこに行きまして。おじさんが牛の乳搾りをしてはりました。ちょうど、腕時計を忘れてもたんで、ちょっと時間を訊いたんです。そしたら、そのおじさん、牛のおっぱいを少し持ち上げて「3時半」て言わはったんです。
 後で確かめたら、合
(お)うてますねん。
 1時間後にもういっぺん時間尋ねたら、また、ちょっと牛のおっぱいを持ち上げはって「4時半」。
 私、感心してしまいましてね。
「やっぱ、北海道ゆうたら偉いもんでんなぁ。長いこと乳搾りしてはったら、ちょっと牛のおっぱい触っただけで、その温
(ぬく)さとか硬さとかで時間がわかるんでっか?」
「いや、おっぱい持ち上げたら、向こうの時計が見えますねん」・・・・・・・・・・・。


「また、仕事もせんと遊んでんねんてなぁ。お母
(か)ん泣いてたで」
「わいも女泣かせるようになったか」
「あほなことゆうてんねやないで。何ぞ商売せんと」
「さあ、それでわたいも伝書鳩売りゆう商売考えた」
「どないすんねん?」
「伝書鳩売りまんねがな。売っても、相手が放したらわたいとこ帰ってきまっしゃろ?そしたら別のもんに売りまんねん」
「うまいこと行ったか?」
「いや、わい買
(こ)うてきて放したら、売る前に鳥屋に帰ってしまいよった」
「わいがやってる古道具屋手伝
(てつど)ぉてくれたら小遣い稼ぎになんで」
「古道具、売りまんの?そののこぎりは?」
「火事場で拾
(ひろ)てきたんやが、さびを落として油を塗って、焦げた柄ぇをすげ替えたんや。こんなもんでも並べておいたら、どこぞのアホが買(こ)うて帰りよるかわからん。
 この壷はどてっ腹に穴があいとるさかい、客の方に穴を向けたらあかんで。
 その電気スタンドは、元は3本足なんやが、足が1本取れて立たんさかい、後ろの壁にもたれさせとくように。
 その刀、ぱっと見ぃは立派やが、芝居用のニセもん、木刀や。抜かれへん。その代わり、そこのおひなさんは首が抜けるさかい気ぃつけや」
「その巻物、見せてもろてよろしか?え?掛け軸ゆいまんの?どれどれ?へぇ、変わった絵ぇでんなあ。ボラが尾ぉで立って、そうめん食てる」
「そんなけったいな絵ぇがあるかいな。そら、鯉の滝のぼりや」
「鯉て、滝のぼりまっか?あっ、わたい、ええ商売考えた。橋の上立って、バケツで川へ水をだぁ〜っと流して『滝やぞ〜』って声かけまんねん。そしたら鯉が滝と間違
(まちご)うてあがってきて、バケツん中へ」
「・・・・・・・・・考えんのやめたら?
 まあ、向こう行たら、本屋の善さんゆう人がいてるさかい、万事その人に聞いたらええさかいに」



「いやあ、ほんま親切な人やなあ。ちょっとブラブラしてたら、こないして仕事世話してくらはんねん。
 おっ、ここら辺やな。あの〜、本屋の善さんゆう人は?」
「え?善さんか?ああ、あこで話、してる後ろ向きの、そうそう、頭の後ろがはげてんのが善さんや」
「へえ、おおきに。

 すんまへん。お宅、本屋の善さんでやすか?」
「はあ、本屋の善兵衛とは手前ですが」
「ええ?あんた、ほんまに本屋の善さん?すんまへんけど、ちょっと後ろ向いてもらえまへんか。・・・・・・あっ!善さん!」
「失礼な人やな。
 ああ、甚兵衛さんの知り合いの。はあはあ。そやけど、もうちょっと早
(はよ)来てもらわんと場所割り、終ってしまいましたがな。もう、公衆便所の横しか空いてへんさかい、そこでやんなはれ。値打ちもんは自分の周りに置いといて盗られんようにしまんねんで。
 ああ、その壷、穴あいてまんがな。え?売りもん?ええ度胸してまんなあ。
 これこれ、スタンド寝かしてどないしまんねん。立てときなはれ。え?一人では立たん?それも売りまんの?初めてやのに大胆やな。
 ほな、きばんなはれ
(がんばりなさい)

(隣の人に)お宅、何売ってはりまんの?下駄屋?ひまそうやな」
「ほっときなはれ」
「しかし何やな。人は通るが、いっこうに寄ってこんな。呼び込みでもするか。ええ、道具屋でっせぇ。出来立ての道具屋!ほやほやの道具屋!」
「お宅、古道具屋でっしゃろ?」


「おい、道具屋」
「へえ、どうぞお入り」
「え?入り口もないが」
「まあ、おかけ」
「椅子もないが」
「まあ、おしゃがみ」
「ちょっと、のこ見せてくれ」
「・・・・・・・へえ、らっしゃい!」
「ちゃうがな。のこ見せぇゆうてんねん」
「何しまひょ?」
「聞いてんのか?そこののこぎりを見せぇゆうてんねがな」
「何や、のこぎりでっか。のこぎりやったら、のこぎりて言いなはれ。それをのこやなんて。人間義理を欠いたらあかん」
「何ゆうてんねん。う〜ん。こら、ちょっと甘いのんとちゃうか?」
「ええ?そうでっかぁ?
(と、のこぎりを取り返し、なめてみて)ぺぺっ!甘(あも)おまへんで。冷たいでんがな」
「お前、藤四郎
(とうしろう。素人のこと)やな?」
「いや、わたい、源五郎でっけど」
「・・・・・・・いや、焼きが甘いんちゃうかゆうてんねん」
「そんなこと、おまへんやろ。それ火事の焼け跡で拾てきたんでっせ。さび落として柄ぇすげ替えたら、どこぞのアホが買うて帰るやろって。あんた、買うか?」
「誰が買うか!」

(隣の下駄屋が)「そんなことゆうたら、誰が買いまんねん。いきなり、しょんべんされてんねがな」
「え?ほんま?早いことしよったな」
「買わんと、ひやかしで行ってまうのをしょんべん、ちゅいまんねん。符丁や、覚えときなはれ」
「はあ。ほな、売れたら、うんこ?」

「これ、道具屋さん。そこの掛け軸見せてくれるかな。
 どれどれ。・・・・・・・・・文晁
(ぶんちょう。有名な画家の谷文晁)・・・?はて、文晁は、こんな絵は描かんと思うが。は、はぁん。こら、道具屋さん、偽物(ぎぶつ)でしょ?」
「ぎぶつ?・・・・・・へぇへえへえ。そうです。それ偽物に間違いないです。正真正銘、どこに出しても恥ずかしない偽物です」
「偽物請け負われたらどもならんな。はは、また来ます」
(隣の下駄屋が)「あんた、わかってゆうてなはんのか?偽物(ぎぶつ)ゆうたらにせもんのこってっせ(ことですよ)
「え?ほうでしたんか。何や、偽物てな英語使うから」


「おい、道具屋」
「へい、いらっしゃい」
「お前とこ、珍
(ちん)なるものはあるか?」
「へ?ちんなるもの?ま、ないことおまへんけど」
「珍なるもの、あるんかい?」
「・・・・・・ささやかながら。で、どないしたいんです?」
「見してもらおか?」
「えっ!?どないやって?」
「そやな。手の上にでも乗してもろて」
「・・・・・・・・・ほな、横手の便所にでも行きまひょか?」
「あほ。珍しいもんはないか、ゆうてんねん。あ、そこの刀、見してくれ。銘は?」
「姪
(めい)はおまへんけど、天下茶屋におばはんが」
「無銘か。おっ、こら固いな。おい、ちょっと、そっち持ってくれ」
「ああ、これ抜けまへんで」
「いやいや、えてして、抜けんぐらいのやつほど、掘り出しもんてなことがあるんや。
(抜こうとして気張って)しかし、抜けんなぁ〜?」
(一緒に支えて、気張りながら)抜けまへんやろぉ〜」
「何で抜けんのやぁ〜?」
「木刀ですぅ〜」
「そんなもん木刀が抜けるわけ、あらへんがな」
「せやから、最初から抜けへんゆうてまんがな。それやのに、あんたが抜く、言いはるから。わたいも、ひょっと木刀が抜けたら、中からどないなもんが出てくんのか、思て」
「何ぞ抜けるもんはないんか?」
「おひなさんの首やったら抜けまっせ」
「また来るわ!」

(隣の下駄屋が)「あんたおったら、自分の商売、暇でも退屈せえへんわ。明日から甚兵衛さんの代わりに毎日来てくれへんか?」

「しかし、これでは商売にならんな。せや。やっぱりゆうべきことはゆわんと。これから、最初にばしっ!と『しょんべんできまへんで』と断ったろ」
「おう、道具屋。そこのぱっち
(股引き)、見せてくれ」
「へい。せやけど、そのぱっち、しょんべんできまへんで」
「ええ?そんなこと、ないやろぉ?ちゃんと前に穴あいて、いかにもしょんべんできそうに見えるでぇ?」
「いや、いくらしょんべんできそうでも、してもろたら困ります。したら、わいどつきまっせ」
「ええ?ぱっち買
(こ)うて、しょんべんして、どつかれてたらたまらんなぁ。また来るわ」
「えええ?違う、違う。・・・・・・・・・・・・ああ、もう!何で、こないテレコテレコ
(逆、逆。物事がうまくいかず、食い違うこと)になるんやろなぁ。
 あほらしい。売れもせんのに。もう片付けて去
(い)んでもうたろ」

「おい、道具屋。そこの笛、見せてくれ」
「笛?しょうもない」
「ええ?口の悪い道具屋やな。・・・・・・・どんならんな
(どうにも仕方ないな)。客に出すもんやで。ちったぁ掃除せな。埃だらけやがな。わかってんのか?(と、自分で手拭いを笛の中に突っ込み掃除してる内に指がはまって、抜けなくなる)
 あれ?」
「どないしたんでっか?」
「指が抜けん」
「指が抜けんて、あんた。わたい、もう片付けて帰るとこですねんで。はよ、抜いてもらわんと。そうでんなぁ。抜けんねんやったら、買
(こ)うてもらわんと」
「・・・・・・・・しゃあない。買うわ」
「え?あんた、それ買
(こ)うてくれまんの?
 ちょっと待っとくれやっしゃあ
(待ってくださいね)。今、元値の帳簿見まっさかい。・・・・5円?やっすい笛やなあ。せっかく買(こ)うてくれんやから、この際、まとめていてしもたろ。
 帰り、ちょっと
(酒を)一杯飲みたいしなぁ。お母(か)んにも、たまにはええもん、食わしてやりたいしなあ。ああ、せや。家賃、三月たまってた。いや、いっそのこと、家一軒買おか?」
「おいおい、いったい何ぼになるねん?」
「へい、ほな、2000万!」
「何ぃ?お前、人の足元見やがって!」
「いいえ、手元を見ております」


 「道具屋」もオチが何種類かある。

 鉄砲の値段を訊き
「その鉄砲はなんぼだ?」
「いや、一丁しかありません」
「金は?」
「金(金属)は鉄です」
「いや、代を訊いているんだ」
「台は樫の木で」
「値は?」
「音(ね)はズド〜ン!」というのは古い型。

 中学生の頃買った『古典落語(上)』(編:興津要。講談社文庫)では、客が「持ち合わせがないから家まで一緒に来てくれ」ということでついて帰る。と、今度は道具屋の方が客の家の窓格子に首がはまって取れなくなる。「お前の首とわしの指で差し引きにしておけ」というのがオチ。

 最近よく聞く「いっそのこと、家一軒・・・・・・・・あ、いてへん。逃げよった!お〜い!」
「大きな声出して、どないしたんです」
「家一軒、盗まれた」・・・・というオチは『桂枝雀爆笑コレクション4』(ちくま文庫)によると、枝雀師匠のオリジナルらしい。

 遊喬は、まずまず良かったが、途中からやや息切れしてるような感じだった。それと、しゃべりながら自分で笑ってしまうところが多すぎると思う。ごくたまに、自分でやや照れ気味に笑うところが混じるのはおもしろいものだが、多すぎるとネタばれのような感じで聴いていてしらけてしまう。

 







 

 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが録音等はしてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。