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(No71) 「豆腐屋寄席」 鑑賞記 その1  

 仲良くさせていただいているぐんままさんが、近所のお豆腐屋さんが落語会をするのだが、行く気はないか?と尋ねてくださった。
 ぐんままさんというと明日香村にほど近い、はっきり言ってしまうと奈良の相当田舎にお住まいである。そのぐんままさんの家のご近所のお豆腐屋さんが、自分の店の中で落語会をやるという。
 自分の店で豆腐を買った時に発行するポイントが一定以上たまっているのが条件というから、完全に「お得意先限定」である。

 まあ、お蕎麦屋さんやお風呂屋さんが落語会をやることはけっこうある。で、誰が来るんだろう?と聞いてびっくりした。笑福亭松喬師匠だという。これは落語をあまり聴かれない方にとって、米朝、ざこば、三枝、南光、文珍、鶴瓶などに比べ知名度は低いかもしれないが、めちゃめちゃ実力派のビッグネームなのである。
 私が今上方落語界で無理矢理一人だけ選べと言われたら、吉朝なき今では私は松喬師匠を選ぶぐらい凄い人なのだ。

 豆腐屋寄席と松喬。どうしても頭の中でイメージが結べない。しかしながら、ぐんままさんにご無理を言ってチケットを譲っていただき、橿原市まで足を伸ばしたのであった。

 店に向かう途中で小高い・・・というか小低い山があった。

 これがどうして、世に名高い大和三山の一つ、耳成山(みみなしやま)なのである。

 大和三山については、例えばここのサイトで。

 ぐんままさんからご親切に詳細な地図をいただいていた。しかし初めての土地は不安なものである。何せ繁華街と違って目印になるものが少ない。
 こっちかな?と思って歩いてると無事、目指す豆腐屋さんの看板が見えた。ここでええんやろか?と恐る恐る中に入る。いかにも実直そうなおじさんが陣頭指揮して、まだ客席の最終仕上げ中であった。

 豆腐をつくる水槽みたいなとこに、畳を巧みに組み合わせ、ひな壇状の客席をこしらえておられた。

 高座は右上写真のようにステンレスの台の上にビールケースを置いてこさえたもの。いやあ、めっちゃ手作り。高座左手の一室が「楽屋」らしく、ちゃんと左上写真のような暖簾がかかっていた。

 さて、会場はどうやら私一人を除いてはみんな顔見知りのようだ。そりゃみんな、ここの豆腐屋さんで、絹ごしや木綿を買っちゃあポイント貯めてる人ばかりですから。
 「○○さん、最近体調どう?」「△△さん、子供さん今年受験やったっけ?」とか親密な会話が繰り広げられている。
 はっきり言って、サッカーで言うと完全アウェイ状態。
 


(1) 笑福亭右喬 「犬の目」

 
今日の落語会はプログラムも何もないので、誰が出演するのかさっぱりわからない。
 でも一人目はメクリで表示されていたので、最初からわかった。左写真をご覧いただきたい。

 この瞬間湯沸し機が据えられた洗い場、その前のビールケースの上のメクリには堂々と「笑福亭右喬」と書かれている。

 出てきた噺家さんは、漫才シャンプーハットの小出水に似た顔をしていた。 

 (盛大な拍手)ああ、前座でっさかい、拍手はほどほどで。高座でね、前に座ってはるきれいな人と目ぇが合(お)うたりしたらドキドキして後の噺がやりにくなったりするんですが、その点、今日はやりやすいです。 
 
   言葉ゆうのは大阪と東京はだいぶ違いますな。私どもは船場言葉などを使いますが、大阪弁ゆうのは、とにかく短く、短く無駄を省きます。
 東京弁ゆうのは長いです。
 落としたハンカチ拾てゆうたげるのでも「このハンケチはあなたのものじゃないですか?」「いえ、そのハンケチは私のものじゃありません」てね。

 その点、大阪弁は短いです。
「これ、あんたのんとちゃう?」
「・・・・・ちゃう」
 こんで、しまいですからな。

 これが、中国からチャウチャウという犬がやって来てからややこしなったんです。
「あれ、チャウチャウちゃう?」
「チャウチャウちゃうんちゃう?」
「え?チャウチャウちゃう?」
「チャウチャウちゃうちゃうちゃう・・・・・・・・」
 どっからどこまでが犬の名前かわからへん。

 私、今日ちょっと風邪気味なんでご迷惑かけるかも知れまへん。
 これ、ここだけの話です。熱下げるのに、ええ方法があるんです。布団かぶってオナラする。そしたら、平熱
(屁ぇ熱)になる・・・・・。よそ行って、言いなはんなや。

 病院ゆうたら、おもしろい話がよぉけあります。おばあさんがオシッコの検査しましょ言われて、一升びんにいっぱい持ってきはった。お医者さんも困ったんやけど、まあ大は小を兼ねるゆうことなんで、とりあえず検査をした。

「おばあさん、安心してください。検査の結果は健康です。何も問題はありませんよ」
「あっ、そうですか。あのぉ、家のもんが心配してる思うんで、ちょっと電話させてもろてええでしょうか?」
「ああ、いいですよ」
「もしもし、○子さん?オシッコの検査してもろてん。ああ、安心して。私もあんたも、犬も元気やて」

 私ら、最初は刑務所とか老人ホームの慰問に行くんです。その次に公民館とか。それで、最後、私ら松竹系やから浪花座とか角座に出
(だ)さしてもらうゆうことなります。

 公民館なんかでは、ずいぶん面白い話があります。ある公民館行った時、えらい雨漏りがしてるんです。それで地元の人に「いつも雨漏りするんですか?」て訊いたら「いえ、雨の時だけです」・・・・・。そら、そうやろ。

「右喬さん、あんた若手やから色々大変やろ?どや、うちでご飯食べていったら?」てゆうてくれはる人がいてたんで、行かせてもらいました。
 そしたら、そこはおじいさんとおばあさんの二人暮らしなんですが、食べてんの私とおじいさんだけですねん。おばあさんゆうたら、ず〜っと給仕したはる。私、「おばあさん、今はそんな時代ちゃうよ。三人で一緒に食べた方がおいしいですよ」ゆうたら、「そやないねん」て。
 そこ、入れ歯が一つしかないんですって。これ、ほんまの話でっせ。おじいさんがかぱっ!って入れ歯外す。それをおばあさんがはめて、ご飯食べはるんです。
 まあ、こんな話を集めると落語になるんですが。

 昔の童話なんかも落語になります。例えば「花咲かじじい」。ここ掘れわん!わん!で宝が出てきた。悪い爺さんがそのポチを連れてきて掘ったら生ごみばっかが出てきた。じいさん怒ってしもて、ポチの尻尾を持ってぐるぐる振り回しよった。ポチも怒って「放さんか!
(花咲か)じじい!」・・・・・・・・・。 

 「鶴の恩返し」。
 助けられた鶴が家にやって来た。絶対に見ないで・・・・そうゆうて一室に閉じこもった。ゆうとおりに部屋を開けんと待ってたけど、翌朝になっても物音がせん。おかしいなぁ思て、恐る恐る部屋を開けたら、家財道具と一緒にもぬけの殻になってた。
 ああ、鶴やのぉて鷺
(サギ。詐欺)やった・・・・・・・・・・・・。

(客席から盛大な拍手)いやぁ、ここ笑(わろ)てもろたことはありますが、拍手までいただいたんは初めてです。今日のお客さん、最高!

 一方で、一番つらいんが学校の落語ですねん。

(先生がマイク持って、生徒に注意している格好)「おい!お前ら!今日の行事は落語や。1時間半、これが辛抱できんようでは将来ものの役に立たんぞ。
 お前らも辛いやろけど、俺らも辛いんや。
 では、落語家さん、どうぞ」・・・・・・・って言われても、やりにくい。

「おい!お前ら!今年の行事も・・・・落語や。お前ら!これだけはゆうとく!去年のような真似だけはすな!では、落語家さん、どうぞ」・・・・・って、去年、何があったんや?気になって、やられへん。

 一番かなんかったんが、これです。
「おい!お前ら!今年の行事は・・・・落語や。落語家さんが4人と、三味線の方1人。学校は5人で300万円も出してるんや。ちゃんと聴かんとあかんぞ!」

 まあ、生徒さんと私らの溝なんて噺してるうちにすぐ埋まるんですが、その日はマネージャーと私らとの間に大きな溝ができました。

  なかなか盛り上がったとこで、「犬の目」に入る。
 アホが横町(よこまち)の甚兵衛(じんべえ)さんに目の不調を訴えている。

「ほんで、医者には診せたんか?」
「いいえ、友達に診てもうたんですが」
「ほぉ、ほな、その友達は医術の心得があるのやな。どないゆうてた?」
「ええ、こら”雨”やと」
「雨?そら、どうゆうこっちゃ?」
「えらい曇ってるて」
「そら、なぶられてんねがな。どれ、私が診てやろう。ん?こら”雨”やない、”天気”やで」
「”天気”て何ですねん?」
「星が出たぁる」
「甚兵衛はんまでなぶってどないしまんねん。どこぞにええお医者はいてまへんか?」

 甚兵衛さんから、「診たての方法は変わってるが、辛抱できるか?」と念を押された上で紹介された赤壁周庵(あかかべしゅうあん)先生のところを訪ねる。

「おお、こらずいぶん目の玉が汚れとぉる。洗いましょう」
「はぁ、目薬か何かで?」
「ん?甚兵衛さんから聞いておられませんか?うちはよそと、ちょっと診たての方法が違うと。

 おい、周達
(弟子の名前)!のみと金づち、それとざるを持ってきておくれ。 
 ちょっと、このざるを顔のところで持っていてくださるかな。うっかり落として傷でもついたら、後で使い物にならんからな。
 それではいきますぞ、ぽん!ぽん!
(と、金づちに見立てた扇子をぽん!ぽん!と左手の握り拳に当てる。その拍子に、顔の前に広げた扇子(ざる)に目の玉が落ちる)

 一度参考のために見てみますか?」
「先生、無茶言いなはんな。そんなもん、見えまっかいな」
「ほぉ、そうか。おかしいな。目の玉の方は、あんたのこと見てますが」
「気色悪いこと言いなはんな」

「これ、周達。それでは、この目の玉、井戸水できれいに洗
(あろ)て、日当たりのええとこで干しとくように」



「・・・・・・・恐れ入ります、先生。・・・・・・実は、干してた目ぇをうちの犬が食うてしまいました」
「何?!どないすんねん。何か代わりになるようなもんはないか?」
「ラムネの玉が」
「そんなもん、あっかいな。・・・・・・う〜ん、仕方ない。目には目を、という言葉もある。その犬の目を代わりに使おう。犬、連れておいで。しっかりつかまえとくんやで。ぽん!ぽん!
(と、犬の目を取る)
 周達。もういっぺん井戸水で洗て、干しとき。ええか。もし、また盗られるようなことがあったら責任上、あんたの目の玉使わしてもらうで、しっかり見張っとくんやで」


「先生、ようやく干せました」
「そうか。
 こら、えらいお待たせしました。ほな、はめてみます。きゅきゅきゅう!
(と、指でねじこむ)
 ちょっと頭を前後左右に振ってみなはれ。きつくて頭が痛いとか、ころころ動いてるとかおまへんか?
 ない?へえ〜〜。
(弟子を振り返り)(かた)が、よぉ合(お)うてたんやなぁ・

 ほたら、ゆ〜っくり目を開けてみなはれ。どうです。ちゃんと見えますか?」
「先生、何も見えまへん」
「え?おかしいな。・・・・・あっ!裏向きや。やり直します。今度はどうです。頭振って、からからからとか変な音しまへんか。ほな、ゆ〜っくり目ぇ開けて」
「ああ!先生!よぉ見えます!!」
「そうですか」
「お代の方は、どのくらい払わしてもろたら・・・」
「いや、明日、もう一度来なさい。それでどこも不都合のぉて治っておればお代をいただきますので、今日はこれでお引取りを」

「こんにちは!」
「あっ!こら、昨日の犬の目ぇ・・・・・・・いや、いや。どうです、お加減は?」
「へえ、そらよぉ見えて。昨日の晩、停電になったんやけど、その暗闇の中で新聞が読めまんねん。こないよぉ見えるようにしてもろて、ありがたい。」
「どうです。ちょっと頭振ってもろて、どこぞおかしなとこは?ほぉ、ない?
 わかりました。ほたら、そのほかには何ぞ変わったことおませんか?」
「変わったこと、て言われて思い出しました。
 ゆんべから、小便の時、片足上げとぉなりますねん」

 つかみのマクラの辺は好調だったが、本編の途中辺りからちょっと噛んだり(言い損なう)、動揺気味というか、やや落ち着きに欠けた。




  



 

 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが録音等はしてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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