『桂米朝コレクション 7』 |
小米朝 |
吉弥、よね吉 |
旦那が番頭に息子のことを愚痴る。
「何であんな子供がうちにできたんじゃろなあ」
「ほんまに何でまたあんな若旦さんが」
「あら、いったいどうゆう了見じゃろ」
「さあ、どういうご了見でっしゃろなぁ」
「何になるつもりじゃろな」
「何になるおつもりで・・・・」 |
おうむ返しの会話の後、旦那が
「あんた、自分の考え、ないんか?」 |
旦那が番頭に息子のことを愚痴る。(内容は異なる)
(1) 行くなとは言わんが行き過ぎだ。「月に二日は・・・・・休む、てゆうてた。役者より、出入りしとんねん」
(2) 珍しく店番をすると言った。拍子の悪いことに巡礼の親子が来て、息子が子供に里を訊いた。「大和の郡山」と答えたが、「そんな筈ない。阿波の鳴門やろ」と子供を殴った。
あんたがそこに居ると小言の切っ先が鈍ると言って、番頭を遠ざける。
|
「わしかて芝居は嫌いやない」が、息子は度が過ぎていると嘆く。 |
「わしかて芝居は嫌いやないが、せがれは行き過ぎや。何ぼほど行ってんねんて訊いたら、月に三日は・・・・休みます、ゆうてた。役者より出入りしてんねがな」 |
(なし) |
番頭が、若旦那の芝居狂いは「ご先祖さんが旅役者でも絞め殺したとか・・・」と崇り説を提唱。 |
(なし) |
(なし) |
|
|
息子が、向こうの辻から六方を踏んで店に帰ってくる。 |
旦那が息子が遅いとなじると
「ははあ。遅なはりしは拙者、重々の誤り。御前に出(い)づるも間のあることと、お次に控えおりました」と息子が返す。 |
同左 |
同左 |
あきれ果てて涙も出んと言うと、
「さ、そのお嘆きはごもっともなれど、常が常なら梶原も、贋首取っちゃぁ帰りますまい」 |
「情けのうて涙も出んわ」
「お痛わしや、親父どん。
そのお嘆きはご無用、ご無用。常が常なら、この梶原が、贋首取って・・・・」 |
「情けのうて涙も出んわ」
「そりゃ、わらわとて同じこと(女形口調で)」
「お前か、今、変な声出したん?わしにもしものことがあったら、お前がこの家継がなあかんのやで」
「枝振り悪しき桜木は 切って継ぎ木をいたさねば 太宰の家が立ち難しぃ〜(女形口調)」
「太宰の家やのうて、この家が危ないわ。こんなことでは死んだ婆さんに会わす顔がない」
「お痛わしや〜」以下は小米朝と同じ。 |
|
「そりゃ、私じゃとて」
「まだ、ゆうてんのか!」と、額を叩く。
素で「何もどつかんかて・・・」とぼやくが、額の血を見て、ぷ〜っ!と息を吐き、
「しゃっ!こりゃ男の生き面を〜」
「どついたが、どうした」
「どこのどなたか、知らねぇが」
「目の色変わりよったで」
「その料簡が・・・・」
殴り返そうとする息子を番頭が止める。
「誰かと思えば、この家(や)の番頭。
せっかくおめえが止めるから、今宵のところは辛抱するが・・・
やい、親父!晦日に月の出ぬ里も闇があるから、覚えてろぃ!」 |
ここで殴る。
素で「いったぁ〜」とぼやき、額の血に気付き、ぷ〜っと息を吐く。
親父は「猫か」と突っ込む。
後は小米朝と同じ。 |
客が来るから二階に上がって下りて来るなと命じられ「すりゃ、私を座敷牢・・・・」と嘆く。 |
(ここでは座敷牢とは言わない) |
「生涯降りてくな」と言われる。 |
早く上がれと言われ「しからば、ごめん。後刻対面、致すでござろう」。
その後、口で「ど〜ん、ど〜ん。チャンチャンチャンチャン」と芝居振り。 |
同左 |
番頭がとりあえずこの場はとりなす。
番頭と若旦那が二人になる。
番頭は若旦那をたしなめ、若旦那はわびるが、「おもろかったな」(よね吉演出は「盛り上がったな」とガッツポーズ) |
息子は二階への梯子段を見て「八百屋お七」を思い出し、真似をする。
三味線の口真似をし、途中で滑り落ちるところも真似をする。 |
「こんな梯子段見たら、こないだ見た芝居、思い出すなあ。八百屋お七、火の見櫓の場ぁや。わい、人形振り、好っきゃあ」と言う。
無実の罪で牢に入れられてる吉三の元へ証文を届けに行こうとして、天下の大罪火付けをして木戸の開いたとこ、髪振り乱して通ろうとするとこ・・・と場面の説明をする。
「この鐘(太鼓?)の打たるる時は 町々の木戸も開き 吉祥寺へも行かるるとのこと 打てば答える櫓の太鼓 はあっ!トチチリ トチチリ トチチリ・・・」と何か葛籠(つづら)でも担いでいるような格好で首をガクンガクンと前後させる。
そして梯子段を昇る格好をして「途中でずり落ちんねん」と言って「トチトチトチトチ・・・」と言いつつズルズル・・・っと滑り落ちる。
旦那に二階にも満足に上がれんのか!と怒られる。 |
八百屋お七を思い出すというのは、若旦那の独白でなく、番頭に言っている。
人形振りについては、特に強調しない。 |
外へ行きたいが屋根伝いにも行けぬ、飛んで行けたらなあと嘆き「翼が欲しい、羽根が欲しい」 |
二階に上がって「座敷牢やぁ」と嘆く。
「翼が欲しい〜」の後、市川団十郎の「切られ与三」の真似(鼻声)。
「一人でやってたらあほらしいなあ」とつぶやき、五段目の回想に。
山崎街道で与市兵衛が定九郎に刺され「人殺し〜!」と大声をあげる。 |
回想するのは三段目。「成駒屋!」などと掛け声をかける。 |
旦那は、それを聞いて「化けもん屋敷やなあ」と嘆き、丁稚の定吉を呼び、注意してくるよう命じる。 |
旦那は二階を見上げ「そろそろ始めよったで」と嘆き、定吉を呼ぶ。
定吉も「何、御用にござりまする?」と芝居がかりで尋ねるので旦那が「うちゃ、化けもん屋敷か。まともな奴はおらんのか」と嘆く。 |
小米朝と同じ。 |
二階では若旦那が芝居をしているので、芝居がかりで声をかける。
「見れば御家内に取り込み事のおありの様子、しからば失礼つかまつる」
「おおう、いやしばらく。ず〜んと些細な内緒事。ささ、ずっとお通り召されぃ」
「しからば、御免」 |
若旦那は猪の真似で走り回っている。(五段目の猪が疾走しているところを、身振り付きで演じる)
定吉は「〜しからば、仙崎弥五郎、失礼つかまつる」と左記のセリフに名前を入れて、声をかける。 |
若旦那が何の芝居をしているか、は明示されない(「一人で目ぇむいてる」というセリフのみ)。
若旦那は芝居に夢中だから、と言うことで定吉も芝居がかりのセリフで声をかける。
「やぁ〜やぁ〜 若旦那〜 芝居の真似をやめれば良し いやじゃなんぞと抜かすが最後 とっ捕めぇて (だん!だん!) ひっ捕めぇて (だん!だん!) やりゃあしょめぇが 返答は?あ、さぁ さぁ さぁさぁさぁさぁ〜何と、なぁあ〜んとぉ〜?」
「定吉 うまいがな。負けてられへん。
よぉいところへ丁稚の定吉
この作次郎 会うてみよえ〜
そ〜れぇ〜」
旦那は二階を伺い「えらい奴上げてしもた。二人で芝居始めよった」と嘆く。 |
「今の六段目の二人侍(ににんざむらい)のセリフやな。一緒に芝居しよ」と定吉を誘う。 |
「役者が足りぃで困ってたんや。一緒にやろ」と誘い、
「わたい、止めに来たんでっせ。そんなん・・・・・・何やりまんの?」
「やんのんかい!」 |
若旦那が誘い、定吉が断るような素振りで「何やりまんの?」までは同じ。
若旦那は、別に定吉を咎めない。 |
今、六段目のセリフやったから七段目をやろうと若旦那が提案。 |
「五段目やってたとこをお前が六段目で止めに来たから、七段目やろか?」と提案。 |
「華やかなところで、七段目やろか」と提案。
※ 五段目も六段目も出てこないので、順番で・・・とは言えない。 |
「女形(おやま)や」と定吉にお軽を配役。
「こんな格好で・・・」と渋る定吉に、妹の赤い長襦袢を着るよう勧める。 |
お軽を勧める。
「店の常着でっせ?」と渋る定吉に長襦袢を着るように言い、自分も時々着て踊っていると言う。 |
定吉がかなり積極的。「お軽、やらせてもらえまんの?」と喜ぶ。
「こないな木綿もん・・・」という定吉に「お前は芝居心があるから、そうゆうことゆうねん」と誉める。 |
「下見たらお軽みたいなけど、顔見たらお猿みたいななぁ」と手拭で姉さんかぶりするよう命じる。 |
同左 |
同左 |
若旦那は夢中になったら抜くと心配する定吉を制し、本身(真剣)の葬礼差し(そうれんざし。儀礼用の刀)を腰に差す。 |
同左 |
同左 |
手紙の場面から始めることを指示する。 |
格好が整ったところで「ちょうど、隣の稽古屋が三味線始めよった」とのセリフ。 |
|
「妹、よう売られた」
「兄さん、わしゃ恥ずかしいわいな」
「何の恥ずかしいことがあるものか」 |
同左 |
「お前は兄さん、恥ずかしいわいなぁ」
「おぉ、よぉ売られた、でかいた、でかいた」(両手を振り上げ、「でかした」と誉める)
「したら、兄さん、叱ってやないか?」
「何の叱ってよいものか。この兄は、誉めておるわい、誉めておるわい」 |
「あたしゃ、今日身請けされることになったわいな」
「そら重畳。して、どなた様に?」
「大星由良之助様じゃわいな」
「われを勘平の女房と知ってのことか」
「親、夫の恥になること、知らずじゃわいなぁ」 |
同左 |
「喜んでおくれ、わしは今宵この一力を請け出されるわいなぁ」
「それは重畳。して、どなた様に?」
「兄さんもよぉご存知のお頭、大星由良之助様」
「何ぃ?そりゃ、下地からの馴染みかえ?」
「い〜や、知らずじゃぞえ。間夫(まぶ。恋人)があるなら添わしてやろぉ、暇が欲しけりゃ、暇やろと、結構すぎる身請けの相談」 |
「知らずに身請け。・・・・すりゃ、いよいよ本心放埓。お主の仇討つ所存な無えにきわまったか」 |
同左 |
同左 |
「いや、あるぞえ、あるぞえ」
「あるとは何か」
「高うは言われぬ。これ、な」
「・・・・・うん、うん。して、その文、残らず読んだか」
「あい、残らず読んだその後で、互いに見交わす顔と顔。じゃら、じゃら、じゃらつきだして身請けの相談」
「なに?残らず読んだその後で、じゃら、じゃら、じゃらつきだして身請けの相談。・・・・・読めた!」 |
同左 |
同左 |
「びっくりしたわいな」
「先ほどの下郎の悪口雑言、お許しくださりませ」 |
同左
横を向いて手を合わせ「お許しなされてくださりませ」のセリフ。 |
同左
横を向いてのセリフはなし。 |
「妹、久しぶりに会(お)うた兄が頼み、なんと聞いてはくれぬか」
「兄さんの頼みとはえ?」
「頼みというはな・・・」
「お頼みとはえ?」
「・・・・妹、そちの命、兄がもろうた!」 |
何度目かのやり取りで、若旦那は手にぺっ!とつばを吐き、刀の柄に手をかける。
セリフを返しつつ、怯える定吉。 |
小米朝と同じ。 |
立ち回りの末、定吉は2階から落ちる。
旦那は介抱のため、水を持ってくるように命じ、その水を口に含むが、うっかり飲み込んでしまう。
もう一度持ってこさせ、霧吹きのように吹きかける。 |
定吉は、下がって避けながら「あきまへん、危ない、危ない、ああ、落ちる〜」と言いつつ、階段を落ちる。
旦那は「やかましいうちやなぁ・・・あ、何や、赤いもんが落ちてきた思たら定吉やないか、これ、しっかりせい!」と頭を叩く。 |
米朝演出と同じ(介抱用の水をうっかり飲んでしまう) |
定吉は「私には夫のある身」とうわごとを言い、「丁稚に夫があってたまるかい」と返す。 |
同左 |
同左 |
「こんな格好で、勘平とか何とかて・・・・茶屋場をやってよったんや。七段目で落ちたんか?」
「いいえ、てっぺんから落ちました」 |
同左 |
「てっぺんから落ちたか?」
「いいえ、七段目」 |