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(No65) 京都・らくご博物館【秋】〜栗名月の会〜 鑑賞記その3  

 平成19年10月26日(金)、午後6時30分から京都国立博物館で開催された京都・らくご博物館【秋】〜栗名月の会〜の鑑賞記・・・・・・・・・・の続きで完結編。

 


(4) 林家染二 「稽古屋」

 
身体も大きいし、顔も布袋寅泰みたいで迫力がある。
   ええ、本日は米朝一門の中に、ひとり、林家が混じりまして・・・・・・まあ、レッドソックスの中に楽天が混ざってるようなもんです。

 わたくし、大学は京都の方でして・・・・・・・京大ちゃいまっせ。龍谷大学です。いや、龍谷は浄土真宗の東大と言われてるんでっせ。
 入試の問題も違います。開祖親鸞て、漢字で書けたら通るんです。法然と書いたら落ちる。

 こうゆう仕事してますと、いろいろ司会の余興なんかも入るんですが、こないだ葬式の会館でカラオケ大会やる、ゆうんですな。
 普段、棺
(ひつぎ)が置かれてるとこがメインステージなんです。

 曲目も「みちのく一人旅」。♪ここで 一緒に 死ねたら いいと・・・・♪

 こうゆう博物館で落語やらせてもらうゆうのも珍しいことでして。
 門のとこで「落語の会なんです」ゆうたら「チケット見せてください」・・・・・・・・・。いかに知名度がないか、ゆうことですな。

 まあ、稽古屋のお師匠さんは誉めるのも仕事てな言いますが、こないだ桂三枝会長と月亭八方師匠と、わたくしの師匠の染丸とが踊りの稽古に行ったそうなんですが。

 まあ、三枝師匠は上方落語協会の会長ですからなあ。頭のええ人やから誉めやすい。「まあ、三枝はん、覚えがええわぁ」てね。
 うちの師匠
(染丸)は、歌や踊りなど芸事はやってますから、「染丸はんは、スジが・・・・」。
 そこ行くと八方師匠は、覚えは悪い、スジは悪い・・・・・足が短い。しゃあないから「・・・・ええ浴衣着てはる」。

 私もね、踊りで「蝶の道行き」てなやつ、やったんです。
(と、着物の袖口をつかみ、蝶の羽根のようにパタパタさる)でも、私、身長が180近(ちこ)ぉありまして・・・・・・どっから見ても・・・・モスラ。

 

 

「こんにちは」
「おお、久しぶりやな。どないしてる?」
「いやあ、色事、おなごのことで忙しゅうて」
「ほぉ、おまはんがそない、もてるとは思わなんだな」
「いや、もてんさかい、手当たり次第におなごのケツ追いかけるのに忙しい」
「そら、もてんやろなぁ」
「何か不都合でも?」
「そない長い顔では・・・・。まあ、芸の一つもでけんとなぁ」
「芸がでけたら・・・
・(と、片目を細め、反対側の眉を上げ、半身でぐいぐい迫るようにして)もてまんのか?
 わたい、芸、おまっせ。うどん、食いまんねん」
「うどんみたいなもん、誰かて食うがな」
「あんた、うどん、どこで食べる?口?わたいら、鼻から食うて、口から出す。
 踊りもでけまっせ」
「踊り?花柳か?藤間か?それとも山村か?井上か?」
「そんな亜流やない」
「亜流か?」
「わたいら、宇治の名物ほ〜たる踊りゆうて、西日本広しと言えども、わたいの親父とわたいの二人しか踊れまへんねん」
「あんまり聞いたことないなぁ」
「素っ裸になって、体中に墨塗って、赤い手拭いかぶって、けつにロウソクはさみまんねん。
 ほんで、踊った後、さんべん回って、屁ぇで火ぃ消すとゆう」
「そんな踊り、お前の親父さんもやんのん?」
「一子相伝でんねん。
 こないだ、まっちゃんが宿替えしましたやろ?そん時の祝いの席の余興でやったら、えらい受けて。
 しやけど、最後、火ぃ消すとこで、わたい三日ほど腹、下してたもんやから、正味が・・・」

「そんな踊り、あっかいな
(駄目ですよ)
 この横町
(よこまち)に小川市松ゆう稽古屋はんがあるさかい、何ぞ習(なろ)といで。ああ、唄でも踊りでも三味線でも何でも教(おせ)られる五目(ごもく)のおっしょ(お師匠)はんや。
 おいおい、手ぶらで行ったかて、あけへんで」
「まさかりでも持っていきまんのか?」
「いや、そうゆう稽古屋に行く時は膝付きゆうて、まあ、謝礼やな。そうゆうもんを持っていくもんや。
 まあ、普通なら2円、3円と出さなあかんとこやけど、まあ、そこやったら、わいの名前を出したら1円であんじょうしてもらえるやろ」
「1円ゆうたらわずかな金でんなあ」
「まあ、せやなあ」
「ちょっと立て替えて」
「わずかな金やったら、自分で出しぃな。おまはんには、これ以外にもだいぶ貸してるで」
「まあ、そんなもんぐらい、いつでもよろし」
「お前と話、してると損ばっかすんなぁ。そや、稽古屋行く時は俳名ゆうもんがいるんやが、おまはん俳名、持ってるか?」
「かいみょう?・・・・・・わいはないけど、こないだ死んだおじやんが・・・」
「そら戒名や。俳名ゆうのは、稽古する時の、まあ芸名みたいなもんやな。
 簡単なとこでは名前の下に丸をつける。常吉やったら常丸とか。梅吉やったら梅丸とか」
「ほな、わたい喜六やさかい、喜六丸」
「淡路通いのポンポン船やがな、それでは。
 ほな、わいが若い頃つけてた俳名、使い。一、二、三と書いて『一二三』
(ひふみ)と読むんや」

 
 すっかり甚兵衛さんに段取りをしてもらって、稽古屋に向かうアホ。
 稽古屋の中では幅一間(いっけん)の踊り舞台で、小さな女の子が「越後獅子」を稽古中。

 喜六は「どけ!こら!どけ!こら!」と立ち見の野次馬を蹴散らかして、窓のすぐ前へ行って、中をのぞく。

「♪〜咲かせたぁ〜ぁり♪っと、この『り』のとこで手を上げますの。わかりまへんか?『り』ぃで上げますねん。
 『り』!『り』ぃやがな。『り』ぃ上げなはれ」
「おぉ。こら『利
(利息)ぃ上げ』、『利ぃ上げ』て稽古屋や思たら、質屋もやっててんな。しかし、あんな小さい子が、何を質に入れたんやろ」
「そこは、もっと腰を折って。踊りの基本だっっしゃろ。腰を折りなはれ、腰を」
「うわっ!窓の格子、折ってもた!」
「家壊さんといてや。あんさん、何ぞ用事か?ないんやったらお通り。あるんやったら入って」

「ははぁ〜ん。あんた、わいが出すもん出さんさかい軽蔑してたな。ちゃあんと持ってきてまんねんで。ほれ、どうぞご仏前に」
「え?甚兵衛さんのとっから?ほんなら、こんな気ぃ使
(つこ)てもらわんかて、よかったのに」
「いらんのやったら、返してもらいまひょか?え?もろとく?この根性悪!ひねくり返しても1円しか入ってまへん」
「ほな、上っとくれやす」
「え?1円で上って?ほな2円やったら奥へ。3円やったらお二階へ、ってか?

 ほな、上らせてもらいまっさ。
(他の弟子たちの顔を眺め)どいつもこいつも不細工な顔やな」
「お前もや!」
「今来て、伝染
(うつ)ったんや。よいしょっと(と、弟子たちのところでなく、師匠の横に座り込む)
「もたれなはんな。え?おみっちゃん、何笑
(わろ)てんの?何?今来た人、鉄瓶の上に草履乗せてる?
(振り返って)あっ!あんさん、何しはりますのん!」
「いやぁ。こっち来る途中、立ちしょんして、草履が濡れたさかい乾かそぅ思て」
「もう!・・・・え〜と、次はおみっちゃん、狂乱の太鼓地
(きょうらんのたいこじ。鳴り物が派手に入る恋愛ものの踊り)やな。はい、はい、そこで、たもとを上げて・・・・・。え?たもとみたいなもん、軽いからすっ!と上がりまっしゃろ?
 何で上らん・・・・・あら、上らん筈や。たもとからお芋が二つも出てきましたえ。
 こんなんあったら、稽古にならんから、しばらくわたしが預かっときます。え?泣き出して・・・。お芋を師匠の私が預かったんが、そんなに悲しいんか?え?違う?後ろの人が、転がったお芋を食べてる?
(振り返って)あっ!子供のもん、とったりしなはんな!何?まだ泣いてんの?今、二つ目かじってる?
(再び振り返って)ええ加減にしなはれ!もう!・・・・・・・あ〜あ、泣きじゃくってしもて、こら、今日はお稽古にならへんなあ。ほな、続きはまた今度にしょうか。お母はんによろしゅうゆうてな。

 さてと、次は、かぼくさんやったかな」
「あのぉ・・・・おっしょはん。一二三さん、先すましといてもらえまへんか。何か身ぃ入らんような気ぃして」
「そうですなぁ。ほな、一二三はん、何しまひょ?」
「1円払
(はろ)てるさかいなあ。唄を20銭、踊りを15銭、三味線が10銭・・・・・・・」
「そない分け売りでけへん。唄が手っ取り早いんちゃいますか?
 あんさん、お下地
(したじ。基礎、経験)は?」
「したじ・・・・・?確か台所にキッコーマンが・・」
(下地と醤油=したじの誤り)
「もぉ、よろし。これ『喜撰』ゆう、唄の本です。
 ♪世辞で丸(まろ)めて 浮気でこねて 小町桜ぁ〜♪ はいっ!ここまで」
「え?それ誰がやるんでっか?」
「あんさんがやりまんねんがな。
 ほな、行きまっせ。あ、とん、とん、とん。・・・やぁ、おい!」
「はい!はい!はい!ああ、びっくりしたぁ!あんた、おっしょはんか思たら、大工の棟梁だしたんか」
「何ゆうたはりまんの。唄うきっかけですがな。ほな、もういっぺん行きまっせ。とん、とん、とん・・・やぁ、おい」
(声を振り絞りながら)♪世辞で〜丸めてぇ〜浮気でぇ〜〜こねてぇ〜〜〜♪
 
(のどをかきむしって)こ、この唄、苦しい!」
「あんさん、息すんのん忘れてはる。

 今日はここまでにしまひょか。今度、この『すり鉢』ゆうのん文句覚えて来とくんなはれ。
 お稽古ん時は、なるたけ高
(たこ)ぉにな」 

 このお師匠さんがゆうたんは、調子を高くっちゅう意味やったんですが、アホが、わからんもんやさかい、家の屋根の上にのぼって、唄の稽古をしよった。 

(やたら力みかえって)♪煙立つ〜 海山越えて〜♪
 こら、ちょっと力入れ過ぎやな。今度は力、抜いてみよ。
(おかま口調で)♪ 煙ぃ〜ん 立つぅ〜ん アハ〜ン ウフン ♪ あかん、自分でも気持ち悪なってきた。
♪ 煙立つ〜〜!♪」

「おい、あこ見てみ。あいつ最前から、屋根の上で『煙立つ』、『煙立つ』ゆうとんで」
「ほんまやな。近所で火事でもあるんやろか?」

「♪ 海 山 越えてぇ〜 ♪」
「ああ、そない遠かったら大丈夫や」


 まくらをいろいろ演ってくれるのは嬉しいのだが、ちょっと統一がとれてない感じ。

 「稽古屋」という噺を聴くこと自体初めてだったのだが、オチは「色事のできるような稽古を」「そら、あきまへん。昔から言いますやろ。色は指南のほか(色事は指導できない。恋愛は理屈で律することができない)でおます」というのが多いようだ。

 

 


(5) 桂都丸 「鯛」

 
こないだ聴いた「鯛」のインパクトが強かったので、「鯛」じゃなきゃいいな、と思ったのだが、ちょい残念。
   ええ、わたくしも落語始めて30年ゆうことになりまして。しかし、まだまだです。上がつかえてますから。
 定年がなくて、死ぬまでやれますからなぁ。それでまた、なかなか上が死なんのです。

 私ねえ、上方落語協会の上から数えて63番目なんです。・・・・・・中途半端でっしゃろ?

 30周年を記念して30公演やらしてもらうことになりまして、京都を皮切りに続けとりまして、来年2月24日の京都南座で、ちょうど30公演とゆうことになります。

 (会場から大きな拍手)ありがとうございます。ええ、もうじき太秦(うずまさ)の中村座ゆうとこでも独演会やらしてもらいますんで、よかったら、どうぞ・・・・・・・・それでは、今日は、この辺で。・・・・って、終る訳にはいかへん。

 生き物とは、コミュニケーションの取りようが違いますなあ。それは料理の質なんかにも関わってくるような気ぃがします。感性ゆうんでっかなぁ。
 魚なんかは、まあ・・・・・そのまんま出てきまっしゃろ?哺乳類はそうはいかん。目で訴えますからなぁ。
 魚の目ぇゆうのは無表情でっから。あれ、まばたきされたら、活け造りは食べれまへんで。

 わたい、以前水族館の一日飼育係ゆうのをやらしてもうたことがありまして、クエゆう、えげつない顔してる魚がおるんです。
 こう、ぶ〜っとしてましてね。オコゼとかね、不細工な顔してる魚ほど美味しいてなこと言いますな。

 ナポレオンフィッシュてな魚なんて・・・・
(顔を真似ようとするが)ちょっと真似できまへんわ。
 客で来ているおばさんがね、水槽のガラス叩いて「ほれ、見てみ!不細工な顔、してんで!」て。中から魚もゆうてるでって思いましたな。

 クエは割りと頭がええそうです。岩場に立ってエサをやるんですが、クエが口を水面から半分出しましてね。カプ〜!カプ〜!カプ〜!って食いよるんだ。
 根性悪して、半分くらいでやめたりますとね、『まだ、あるやろぉ?』てな顔で、ずっと泳いでますねん。

 「量、分かってますのん?」て係りの人に聞いたら「ふん」てゆうたはりました。

 ほんで、残りの半分やったら、「おおきに!」ってゆうて、まあ、「おおきに」とは言いまへんけど、そんな顔してしゅ〜っと底の方へ行きまんねん。



 さて、ここから「鯛」へ。本編の方は、うちのサイトのここここで。

 桂三枝による新作落語だが、よく出来た噺だと思う。特にオチがいい。

 

 


 



 

 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音などをしてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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