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(No64) 京都・らくご博物館【秋】〜栗名月の会〜 鑑賞記その2  

 平成19年10月26日(金)、午後6時30分から京都国立博物館で開催された京都・らくご博物館【秋】〜栗名月の会〜の鑑賞記・・・・・・・・・・の続き。

 


(3) 桂九雀 「猫の忠信」

 
小学校低学年とおぼしき子供さん連れで来ていた。
   写真を撮らせてもらおうか、と思ったのだが、手に切符を持っていたので、万一「単に着物を着ている、子供連れの若いお父さん」ではいかんとためらっている内に楽屋に引っ込んでしまわれた。

 その切符は、お子さん用だったのだ。

 京都だと、けっこう客にも着物を着た人がいてそうで、ためらってしまった。

 あと一席で休憩なんで、もうしばらくご辛抱願います。
 落語ブームてなことを風の便りでは聞くんですが、東京の方の話なんでしょうなあ。大井川の辺りで止まってんのんかなあ。
 ブームゆうのは去るもんですからなあ。もう既に来て、神崎川辺りへ行ってしもてるんかわかりまへん。

 まあ、100人いてたら100通りの感想がございますからなあ。ところが、今は思ってることが世間に広く流せる時代でございましょう。ブログ・・・とかゆうて。だいたい日記てなもんは、人に見せるもんやないと思うんですが。

 まあ、こん中にはそんな不心得な人はおらんとは思いますが、時間的にゆうと、午後9時半くらいには、この落語会の感想が世界的に知られてしまうことになりますのでね。

 昔は、感想とかを知るにも、もう少し時間がかかったもんです。アンケート調査とかで。
 私らもアンケートを読んだりするんですよ。それで、「フン!素人のくせに!」・・・・・・・・・・・・・って冗談ですよ。おもしろく言わないといけないから。


 今日はアンケートの正しい書き方をお教えしたいと思います。あのアンケートというのは、落語会のお知らせなんかを送るための住所とか個人情報が欲しいだけなんです。ただ、それだけでは紙が埋まらんから、便宜上アンケート項目が設けてあるだけなんです。

 まあ、感想ぐらいやったらええんですが、批評や批判をしはるんですな。我々は皆さんが思ってはるほど謙虚やないんで、悪く言われるとムカッと来たりします。

 ですから、下は余白のまま出していただいたら、そんでええんです。それやのに、妙に具体的に書きはる方がおるんですなぁ。「あそこは米朝師匠のように、もっと重々しくやってほしい」・・・・とかね。できるもんやったら、やってるゆうねん!

 また、最近ではアマチュアの方も落語を聴くだけやのうて、自分でもやってみようとする方が増えてるんですな。ですから、アマとプロが一緒に落語会をするなんてことも増えてきました。
 アマプロ交流戦というか、オープントーナメントですな。我々の中にはアマと一緒にやるのはいやや、ゆう人が結構いますが、私は好きなんです。
 その理由と申しますと、アマの方は落語会やるとなると親戚や友達に声をかけまくるから席がすぐ埋まるんですな。これが利点の一つ目です。
 次に、アマプロとなると我々はアマの後で演ることになりますので、上手に見えるんです。これが利点の二つ目ですな。
 でも、最近のアマには悪い傾向があるんです。それは何か、と言うと、やたらええ着物を着るんです。
 何せアマは趣味でやってますから、本職で儲けた金を全部趣味の落語に注ぎ込むんですな。ところが、落語ゆうのは扇子と手拭いと着物くらいしか持ち物がないんで、あまり金のかかるもんがないんです。ですから、勢い、着物に金をかけることになる。
 そこ行くと、我々は稼いだ金を全部着物に注ぎ込むことはできません。大半は「おかず」に回さんといかん。そこで大変なハンデを負わされてるんです。

「次郎貴(じろき)やないか。稽古屋行くんか?」
「あッ、六さん?そやねん、今度、会があるよってな」
「おさらいの会か?聞いてへんで。まあ、わいも長いこと行ってへんかったからな。
 ほんで、建て
(一つの演目を通しでする)かい、見取り(みどり。各自が好きな演目をばらばらに行う)かい?」
「さあ、今度は一つ、通し狂言でいこか、ゆうてんねん」
「ほぉ、何を通すねん?」
「『義経千本桜』いこか、ちゅうて」
「なるほど、千本の通しができるゆうたら、稽古屋がようけあっても、うちの会ぐらいやろ。
 しかし、そぉなると、つらいなあ」
「何が?」
「何が、て、どうしたって、わいが『鮨屋』を語らんならんやろ。年取って、あの長丁場はなぁ」
「いや、『鮨屋』は、六さんやないで」
「え?ほな誰が語んねん?」
「吉野屋の常やんや」
「ああ、常丸かぁ・・・・・。まあ、あいつは声がええさかいな。ほな、わいは『四
(し)の切り』か?」
「『四の切り』は伊勢屋の旦那や」
「ほな、『渡海屋』
(とかいや)か?」
「『渡海屋』は片岡さんや」
「『吉野山』は?」
「そこは掛け合いでいこか、ゆうて」

「ほな、わいはどこを語んねん?」
「せやねん。わいも、お師匠はんに『ほな、六さんの語るとこがあれへん』て、ゆうてんで。
 そしたら、お師匠はん、『そうでんなあ。ほな、六さんには「椎の木の小揚げ」でも軽ぅ語ってもらいまひょかなぁ』て、ゆうてたで」
「何ぃ?馬鹿にしやがって。わいは、あの稽古屋で一番の古手やで。

 お前らもな、ほんまに上手になりたかったら、男の師匠につけ。わいは、ちゃぁんと文楽やってたお師匠はん、見つけたぁるねん。
 お前ら、どうせ『あわよか連』やろ。お師匠はんのお静さん、ええ女子
(おなご)やさかい、あわよくば物にならんか思て通てる連中のことを『あわよか連』ゆうねや」
「その通り!」
「お前ら、何ぼ通たかてあかんわい。お静さんには、決まった男がおんねんぞ」
「おる!おる!」
「知ってるんか?」
「知ってる!知ってる!」
「誰やねん?」
「わいや。証拠もあんねんで。
 こないだ、稽古屋のみんなで炬燵入ってわいわい喋ってたんやけどな。お師匠はんがお手水に立ちはる時、わいが送っていく、いや、わたいが・・・・ゆうてみんな手ぇ挙げたんやけど、わいがご指名を受けてん」
「手水場のお供して、嬉しいんかい!」
「せやけど、感心したで。戸ぉの前で待ってたけど、お師匠はんのしし
(おしっこ)の音の上品なこと!
 出てきはってサラ
(新品)の手拭い渡したら、『これからも頼んまっせ』ゆうて!
 わい、これからもおしっこの音、一人占め!
「変態か!
 決まった男ゆうのは吉野屋の常丸じゃ。そやなかったら、何で昨日や今日入った常丸が『鮨屋』を語るねん。
 お前、温
(ぬく)い造り(刺身のこと)て、知ってるか?」
「造りてなもん、わざわざ冷やすねんで。温かったら、うも
(美味く)ないがな」
「それを、わざわざ製造して食とんねん。
 最前
(さいぜん。さっき)稽古屋の前、通った時、障子に穴が空いとったさかい、のぞいたら、常丸と師匠が酒飲んどぉる。それだけやないで。
 常丸が造りを口に入れて、それを口移しで師匠が受けてムシャムシャムシャ、ああ、美味しかった・・・・と、これを温い造りちゅうねん、よぉ覚えとけ。
 わいはあほらしいから、もう行かへんからな」


「おい、おい・・・・・・・・・・・・・行てしまいよった。損な男やなぁ。人の嫌がること、あっちやこっちで言い触らし、結局、自分が一番嫌われとんねん。
 お、稽古屋の表まで来たがな。・・・ん?確かに障子に穴空いてるけど・・・・。こら、空いたぁるゆうより、あいつが空けよったんや。どれどれ・・・・・・・・・・・。え?ほんまに温い造りやっとるがな!
 腹立つなぁ。怒鳴り込んだろか?しやけど『わたいは独りもんでおます。誰とどうしようとわたいの勝手やおへんか』言われたら・・・・・・『そら、おめでとうございます』ゆうしかないもんなあ。

『手水場での約束はどないなりますねん!』て、ゆうたろか。しやけど『これからも、それはお願いします』ゆわれたら・・・・・・『はい!光栄です』・・・・・・・ってゆうてる場合やないで。

 せやけど、悔しいなぁ。あっ、せや。常やんのかかのおとわはん、あら町内一の悋気
(りんき。焼餅焼き)しぃやよって、このことゆうたったら、皿や茶碗や皆割ってまうに違いない。
 うちの兄貴、こないだ瀬戸物屋
(せともんや)始めよったさかい、儲けさしたろ。


 おっ、おとわはん、縫い物してるな。・・・・・おとわはん!」
「ああ、びっくりした。何でんの、耳のねき
(近く)で」
「すまん、すまん。あんまり根
(こん)つめて(一生懸命)縫い物してるさかい、聞こえんか思てな。
 それ、男物の着物みたいやが、常やんのんか?」
「へえ、何か近々、会があるそうやさかい、あの人に内緒でこさえて、当日後ろから着せかけたろ思て」
「いやあ、亭主に内緒でおのれの着物買うおなごは多いけど・・・・あんた日本一の貞女やなあ。
 それに引き換え、常やんがやってんのは・・・・・
(もごもごもご)」 
「次郎
(じろ)はん、何や言いにくそうにしたはるけど、何ぞ噂でもおまんのか?町内の皆さんが知ってて、わたいだけが知らんてなことがあったら、あんまりわたいが惨めだっしゃろ?可哀想や思たら教(おせ)ておくなはれ」
「・・・・・・・・つらいなぁ〜。何や、わい、わざわざ言いに来たみたいになるやろぉ?
 いや、相手は稽古屋のお静はんや」
「ええ〜!そういや、いくら何でも稽古屋への出入りが多すぎる思てましてん!」
「せやろ?二人は、これこれしかじかで温い造りの間柄や」
「きぃ〜!悔しい!わたいかて、そんなことしてもろたことないのに!」
「ほな、わいとしよか?」
「そんなんも知らんと、こんなもん縫うて。もう引き裂いてしまいますわ!」
「おお、びりびりに破り!そんなんだけで気ぃ済むか?奥行って皿や茶碗もばりばりばりぃ〜と割ってしまい!」
「割りまへいでか!
(割らずにおくものですか)
 そやけど、次郎はん、そらほんまのことなんでっしゃろうなあ?」

「ほんまもほんま。現にわいが今見てきたんやから」
「え?今見てきた?今て、いつの今でっか?」
「いつの今て、いんまの今やがな」
「・・・・・・・・・・はぁ〜〜。もうちょっとで着物一枚わや
(だめ)にするとこやった。
(すっかり落ち着いた風情で縫い物を再開し)
 次郎はん。用事がないんやったら、いんでやったらどないや?
(帰ったらどうですか)
「ええ?どないしたんや?」
「そら、わたいは町内一の悋気しぃでっせ。せやけど、次郎はん。あんた、惑乱させんの下手。
 これがこないだとか、せめて昨日とでもゆうたら別やけど、いんまの今やなんて。
 今、うちの人、奥で寝てるしぃ」
「・・・・・・・偉い!!おとわはん、あんた人間でけてるなあ。
 亭主の恥を外に出すまいと、はやる気持ちを抑えて、奥で寝てます・・・・・やなんて、ちょっと言えんセリフやで」
「大きい声出さんといておくれやす。うちの人が目ぇさます・・・」
「え?さませる目ぇなら、さましてもらおか!」

(と、奥からあくびをしながら、起き出して来た常吉。おとわに茶を命じ、煙草盆を持ち、キセルで吸い付けながら、上目遣いで次郎貴を厳しくにらみすえる)

「次郎貴・・・・。友達ゆうのは、親切なもんやのぉ。
 よしんば、そんなことがほんまにあったとせぇ。亭主の留守に女房をたきつけて、夫婦喧嘩
(みょうとげんか)さしたり、夫婦別れ(ふうふわかれ)さすんが友達のやることか?
 陰にまわって、それではおとわはんが可哀想やないかとか注意してくれてこそ、友達と違うんかい?
 今日、わしが家におったから、ええで。もし、おらなんでみい。お前も、うちのおとわの悋気しぃは知ってるやろ?
 こないだ、辰が浮気した時、辰のおかみさんはもうええゆうて納得してんのに、こいつが辛抱たまらんゆうて、丑の刻参りや。辰、それから調子悪いねん。わし、呪い殺されてまうわ。

 3年前、人に言えんような病気になった時、友達仲間に声かけて、有馬へ湯治にやったったんは誰のお陰やねん」
「・・・・いや、わい、別に悪気があってやったわけやない・・・・」
「あんまり、ええ気でもないやろ」

「・・・・・・常やん。すまんけど、しばらくおとわはん、貸してもらわれへんやろか?」
「何?かか貸せと?」
「いや、ちょっと稽古屋まで一緒に行って、見てもろて、ああ、これやったら次郎はんが間違えたんも無理ないて、得心してもろたら、わいのこと許してもらわれへんやろか?」
(苦笑して)おい、かか。行ったれ。こいつも、立つ汐(しお。機会)のぉて困っとんねん。
 どうせ、路地の角あたりで逃げよるさかい、追わんと帰ってこい」
「すまんなぁ」
「・・・・暇なかかや。ゆっくり使
(つこ)て」
「つらいなぁ〜。おとわはんも、すんまへんなぁ」
「もぉ〜。わたい、こないしといたる
(と、着物の袂で目隠しをする)さかい、早いとこ逃げなはれ」

「そんなこと、しまっかいな。

 ああ、ここ稽古屋ですわ。どれどれ
(と、障子の穴を覗き込む)・・・・・はっやいなぁ〜。もう、来てるがな。
 やっぱ、よぉ似た人ゆうのと、本人は違うで。
 おとわはん、ちょっと見てみなはれ。常やんが中に・・・」
「何をゆうたはりますねん?あんた、おかしなとこにおしっこでもして、狐か何かに化かされてるんとちゃうか?

どれどれ・・・・(と、覗き込み、びっくりして)ええ〜〜??何でこないなことに?」
「さあ、それや。そう言や、こないだわい、常やんと講釈聴きに行った時、『真田の抜け穴』ゆうて、よぉけ穴掘って、一人の真田幸村があっちゃに出たり、こっちゃに現われたりする話、常やん熱心に聴いとった。
 こら、家の床下から稽古屋の縁の下まで抜け穴が掘ったぁるに違いないで」

「暴れこもか?」
「そんなことしたら、外で亭主に恥かかせたゆうて、相手に言い分与えるがな。
 それより家に帰って畳、上げたら大きな穴が空いたぁる筈や。そこで待ってて、常やんが顔出したらザルで押さえよ」
「イタチやがな、まるで。
 それにしても悔しいわぁ。やっぱり、着物は引き裂いてしまお」
「おうおう、破れ、破れ。ほんで皿や茶碗も皆、割ってしまえ」
「・・・・・・・・・・・・・・あんた、何で最前から瀬戸物
ばっか言いなはんの?

「ほれ、家に着いたで。あかん。もう帰ってる」
「ええ〜??」
「ギャアギャア吠えな。何?おとわ、お前が見てもわしに見えたか?
 こないだから、長年の思いが叶いましたな、とか思わせぶりなことを言われると思てたが・・・。
 何や時々頭ん中かすみがかかったような、何ぞにとりつかれてるような気がしてたが、こら、狐狸妖怪の類
(こりようかいのたぐい)の仕業やな」
「常やん、何やねん、その氷の羊羹ゆうのは?」
「氷の羊羹やない。狐狸妖怪。狐、狸の化けもんのこっちゃ。次郎貴、ほな、これからちょっと稽古屋行って、確かめてこよか」
「次郎はん。すんまへんけど、うちの人も立つ汐、のぉて困ってますねん。すんまへんけど、ちょっと一緒に行ったっておくなはれ。そんで、うちの人が走って逃げても後、追わんように・・」
「何ゆうてんねん。おとわ、お前、わしが出ていったら、あと戸締りしっかりしとくんやぞ。ほんで、わし帰ってきたら、
(とん、とん、とん)・・と、こう三度叩くさかい、この合図がなかったら、なんぼ姿形がわしに似とっても開けたらあかんぞ、ええな。
 ほな、次郎貴、行こか」

「ああ・・・・。わい、何思て常やんとこ行ったんやろ?最前から常やんの家と稽古屋の間、行たり来たりぃばっかしてんねんがな。

 ・・・・・・・なあ、常やん。これ図星やったら、図星てゆうて。
 わい、それ聞いたからちゅうて、それを女房に言いに行くような・・・」
男やないかい!!まるっぽそ
(まるっきり、その通り)やないか」


「あ、着いたで」
「ほな、次郎貴、中にわいがおるか、覗いてみぃ」
「あほなこと言いなや。常やん、ここにいてるがな。
(覗きこんで)はっやいなぁ〜
(穴から目を離し、横の常吉を見て)え、え〜??」

(代わって覗きこみ)
「・・・・・・・・よぉ似せよったなぁ。ここまで同じやと、俺があいつか、あいつが俺が・・・・」
「心細いこと言いなや」
「こら、いよいよ・・・・」
「やっぱり氷の羊羹か?羊羹が冷たいから、お造りが温
(ぬく)かったんか?」
「次郎貴。お前、中入れ。そしたら、あいつお前に酒、すすめよる。
 そしたら、ご返杯ゆうて、盃を返す時、あいつの手をぐっと握って、手の先を探れ。
 その先が五つに分かれてたら良し、もし、丸ぅなってたら、狐狸妖怪やさかい」
「そんなん、ようせん!そんなん、ようせん!」
「入れ!」
「はい!・・・・・・・・中も怖いが外も怖い。・・・・ごめんやす」
「あ、誰か思たら、次郎はんやおへんか。今、常丸さんとちょっとお酒飲んでましてん。
・・・・・・常丸さん。どないしましてん?次郎はん、来てくれたはるんやさかい、お盃、あげとぉくれやす」
(ちょっと、うつろな表情、話しぶりの常吉)
「・・・おっ、次郎貴。一杯いこ」
(おそるおそる盃を受け取り、不安そうに少しにおいを嗅ぎ)
「・・・・馬の小便やないやろなぁ?」
「どうせ、うちには、ろくな酒はおまへん!」
「いや、お静はん。そんなことゆうてんのとちゃうねん」
「次郎はん、ほな、肴もつまんどぉくれやす。ちょっと、お造りは温ぅなってしもてますけど」
「お造りは温いのが結構です。
(と、刺身をつまんで)・・・・・・・温いのなんか、うもないわ。
(意を決したように盃の酒を飲み干し)ほな、常やん。ご返杯・・・・・・・・丸い!丸い!」
(表で様子をうかがっていた常吉が飛び込んでくる)
「よっしゃ!代われ!」
「え?え?」
(同一人が現われ、狼狽するお静)
「おのれ、いったい何者や?言わんかい!言わんと・・・・
(と、手にしたキセルで打ちすえる)

(以下、芝居口調で。なお、長台詞のためメモしきれなかったのでちくま文庫『桂米朝コレクション 5』を参照)
「申します、申します。
 頃は人皇
(にんのう)106代、正親町(おおぎまち)天皇の御宇(ぎょう)
 山城・大和二カ国に田鼠
(でんそ)といえる鼠はびこり、
 民百姓の悲しみに、時の博士
(はかせ)に占わせしに、
 高貴の人に飼われたる、汚れを知らぬ三毛猫の生皮
(なまがわ)をもて、三味(しゃみ。三味線)に張り、天に向かいて弾くときは、田鼠直ちに去るとある。

 私の両親は伏見院
(ふしみのいん)様の手元に飼われ、受けし果報が仇(あだ)となり、生皮はがれ三味に張られました。
 その時はまだ、仔猫の私、父恋し、母恋し、ゴロニャンニャンと鳴くばかり。
 尋ね尋ねて、その三味が、ご当家様にありと聞き、仮に常吉様の姿を借り受け、この家
(や)の内に入りこみ師が・・・・・・・・・・・・・・・あれ、あれ、あれ(と、三味線を指差し)壁にかかりし、あの三味の表皮は父の皮、裏皮は母の皮。私はあの三味線の子でございます」


「なに?お前、猫やったんか」
「しかし、常やん。これで今度の会、うまいこといくで」
「何や、唐突に」
「そやかて、役者が揃てるがな。
 常やんが吉野屋の常吉で義経やろ。
 わいが駿河屋の次郎吉で駿河の次郎。
  この猫は、常やんの姿を借りて毎日酒、タダ
(無料で)飲んどぉってんから、狐忠信ならぬ猫のタダ飲む・・・とは、どないや?」
「そやけど、肝心の静御前が」
「あほらしもない。お師匠はんがいてるがな。名前もお静。器量もええし、ぴったりやがな」
「何ゆうたはりますの。わたいみたいなお多福、なんの静
(しずか)に似合いますかいな」
 そしたら、猫が顔を上げ・・・・
(と、片手を上げて)
「ニヤウ(似合う)


 出色の高座だっただけに、本番前に写真を撮りそこなったのが残念。

 九雀は、なかなかええんじゃないでしょうか。


 



 

 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音などをしてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。