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(No58) 堺市民寄席 桂米朝一門会 鑑賞記その2   

 平成19年10月4日(木)の一門会の鑑賞記・・・・の続き。

 


(1) 桂小米朝 「掛取り」

 
いつものようににこやかに登場してきた小米朝。
   「米團治!」と声を掛けようか、と思ったが、恥ずかしいのでやめた。

 いつもの通り、来年の秋のことですが・・・と断って米團治襲名のことを発表し、盛んな拍手を受ける。
 で、三年越しだとか、ざこば兄さんの発案だとか、米朝師匠が「わいは何になんねん」と言ったとか、月亭可朝に決まりかけたとか、春團治師匠が「来年からは〜」と言ったとかの話をした。

  

 大阪と東京とでは、ずいぶん人の気性が違っておりまして、わたくし、思いますに東京では高ければ高いほど自慢となります。
「あ〜ら、奥様。ずいぶん高級そうなブレスレットざますわね」
「あ〜ら、おわかり?こちら、100万円いたしましたの。オッホッホッホ」てな具合です。

 その点、大阪ではぜんぜん違いますな。
「見て!見て!このブレスレット!あっこ
(あそこ)のひゃっきん(100円均一ショップ)で買(こ)うてん!」
「うっそ〜!!めっちゃ、ええやん!」
 安ければ安いほど自慢になります。

 全体に大阪の人間は、昔から借金を苦にしないと言われておりますが、それでも1年の総決算である大晦日は金策で大変だったようでございます。

「おう。今戻ったで。え?金策か?あかなんだ。
 最初に松っちゃんの家、行ったんや。今年はいろいろつまらんことが続いてん。ちょっとお金を都合してもらわれへんか、てゆうたら、
『熊はんとこは、つまらんことがあっただけ、まだましやないか。わいとこなんか・・・・・・・・つまってしもた』
『・・・・・・・・・・・・さいならぁ』ゆうて出てきたんや。

 次、竹やんとこ行ってんけどな。竹やん、わいの顔見るなり、
『おお!金か?』て、こうや。
 ああ、やっぱ友達やなあ。わいの顔見ただけでわかるねんなあ、思て
『せや!』ゆうたら
『ない!』。竹やん、あっさりしてんねん。

 次、梅やんとこ行ったら、
『おお、ええとこ来た。何ぼか貸してくれ』て、こうや。

 ほな、どうすんねんて、しゃあないやないか。わいの友達はみんな金ないんやから。
 しゃあないし、去年の手ぇでいこか?」
「去年の手ぇ?
 おいてやぁ。あんた、去年『どないもならん。もうわいは死んだことにしてくれ』ゆうて、布団ひけ言いなはったやろ。
 わたいもしゃあないから、あんたの顔の上に白いきれ掛けて、枕元に線香立てたけど。

 あれ、思たけど、人間て、涙、きばり出せんもんですなあ。

 しゃあないから、そばのお茶を、こう眼の下につけて。
 最初に来はった人が『奥さん。ちゃんと泣かな、眼ぇから茶カスが出てまっせぇ』て。
 陽気な人やから笑
(わろ)て帰ってくれたけど、次に来はったんが家主(いえぬし)っさん。あの人は真面目な方やから、晦日に未亡人になったとは気の毒やぁゆうて、ぼろぼろ泣きながら家賃の台帳、その場でぴゃぁ〜っと線引いて棒引きにしてくらはったうえ、何ぼか包んで、これは少ないけど香典に・・・ゆうて、置いていこうとしはった。
 そんなん取れまっかぁ?いや、これがほんまに死んだんやったら、もらいまっせぇ。しゃあけど、明日ん朝なったら『おはようございますぅ』ゆうて挨拶するんやないか。
 いえいえ、家賃を棒引きにしていただいただけで充分でございます。これはどうぞお引取りを。いや、遠慮せんと取っとき。いいえ、いただけまへん。

 そしたら、あんさん何言わはりました?きれ、かぶったまま、『せっかくやから、もろとけ!』

 わたい、眼ぇから火ぃ出たし。
 わたいは顔から火ぃ出ただけですんだけど、気の毒なんは家主さん。『死人
(しびと)が物ゆうたぁ〜』ゆうて、ブクブクって泡吹いて倒れてしもて、いまだに市民病院通てんねんし」

 眼から火が出るのは、顔とかぶつけた時だろう。恥ずかしくて顔が紅潮するなら顔から火が正しいだと思う。自分でも言い直してたし。

 熊公は、今年は借金取りの趣味に合わせて、相手の好きなことを話題にして、いい心持にして追い返そうとする作戦に出る。

 最初に来た掛取りは洋服屋。洋服屋は「モーツァルトの生まれ変わり」と自称するほどクラシック音楽好きだった。 

「熊は〜ん。ことしの勘定は、こうゆうことに」
「♪ もはや! 払えぬ この勘定 ! 働いて〜も 働いて〜も 金は たまらないよぉ〜 ♪」
「・・・・・・おまはん。それ、ひょっとしてフィガロの結婚のつもりか?」
「アレグロ
(あれこれ。演奏記号で「速く」)、ショパン(諸般。作曲家の名)の事情があって、あっチャイコフスキー(あっちに行き。作曲家の名前)、こっチャイコフスキー。
 そのうち、今年もクレッシェンド
(暮れてしもた。演奏記号で「だんだん強く」)。だけど財布はカラヤン(空らやん。指揮者の名前)
 モーツァルトだけ
(もうちょっとだけ。作曲家の名前)待っとくれやす」
「何?バッハ
(馬鹿。作曲家の名)なことを言うな!このリスト(作曲家の名)を見てみい。おまはんの借金はフェルマータ(増えました。演奏記号で「程よく伸ばす」)
 おそロッシーニ
(恐ろしい。作曲家の名)ことを言わんと、さっさとバルトークんなはれ(払っとくんなはれ。作曲家の名)
「山田耕作
(いや〜、まだ工作(工面、金策)。作曲家の名)は、してまへんねんけど、年が明けたらハイドンどんと(はい、どんどんと。作曲家の名)働いて、手ベートーベンで(手弁当で。作曲家の名)金を貯めて、お支払いします」
「ええ?ほんまは払わんキダタロー
(気だろう。作曲家の名。浪速のモーツァルト)
 うまく追い返して、おかみさんが「何やおもしろくなってきたワーグナー」とノリノリになる。
次は、喧嘩が趣味の酒屋さん。

「熊さん。今年の勘定はこうゆうことになってまんのんで」
「はははは。無いねん。石川五右衛門でも取られへん。去
(い)に!」
「何ぃ〜?おのれが貯めた勘定を取りに来たのに、盗人扱いするんか?」
「わいとこの勘定が取れんと屋台骨が傾くとは、ヤワな店やねんなぁ〜?」
「何ぃ!馬鹿にすな!」
「わいとこみたいな眼腐れ金が要るんかい!」
「要らんわい!」
「さいなら〜〜

 ほれ、かか見てみぃ。あいつ、男に二言はないゆうて、男気出して後ろも見んと出て行きよったけど、柱の蔭で泣いとぉる。・・・・・来年なったら、ちょっとずつでも返したらな、いかんな。

 次は?醤油屋か。かか、三味線出してこい。あいつは芝居好きやさかい。路地入ってきたとこで、大向こうから声、掛けたるんや。

 よぉ、よぉ、よぉ〜!お掛取り様のお入りぃ〜」

「ええ?熊公、毎年、趣向変えて、よぉやりよるなぁ。いくら、わいが芝居好きやからゆうて、今日は大晦日やで。そんなん付き合
(お)うてられるかい。

・・・・・・しかしなあ。あいつ、芝居心のないやっちゃあゆうて、言い触らされるのもけったくそ悪いしなあ。

 よぉし、この一反風呂敷、肩に掛けて上使
(じょうし。幕府や藩からの使者)の格好したろ」

 やたら、眼を向いたり、眉を上下させたり、左右に顔を振り向けて歩いてくる醤油屋。おそらく歌舞伎か何かの真似なのだろう。

 それを「これは、これは、お掛け取り様ぁ〜〜」と深々と礼をして迎えるところで、場内大爆笑。

 本日の上使の趣を尋ねる熊に鼻声で、「つつしんで、うけたまはれへ〜」(これも歌舞伎役者の声色なのだろうと思う)

「言い訳はこれなる扇面にぃ〜」
「泉州堺の歌であるなぁ。

 泉州
(先週)は大きなことをゆうたけど
 ちょっと待ってとゆうた堺
(さかい)
 そこへ晦日が北花田
(来た。北花田は堺の地名)

 あなたの仁徳
(にんとく(天皇陵)。人徳)に、おすがりし・・・」

栂、中百舌鳥、石津、浅香、大仙公園、鳳神社など堺の地名を巧みに織り込んだ台詞に場内は大喜び。

「きっと算用〜いたすであろうなぁ〜
 さすれば明春お目に・・・」
「音羽屋!」
「かかるでござろう〜〜」
「・・・・・・・・・・・・・さぃならぁ〜〜。
 ほぉれ、かか、見てみぃ。路ぉ地を花道に見立てて、見得切って、帰って行きよったでぇ」
(三味線を弾きながら)♪ お前はほんまにええお人ぉ〜 ♪」
「お前まで、せんでええねん」

 なかなか華やかな、陽気な噺であった。

 やはり、小米朝は芝居がらみの噺がうまい。



 


(2) 桂ざこば 「狸の化け寺」

 高座に座るなり羽織を脱ぎ、「こないすぐ脱ぐねんやったら・・・・」と毎度おなじみのギャグを飛ばす。

 ざこばといえば、マクラが楽しみなのだが、
「わたいが終わったら中入りでっさかい、たばこ吸わはる方は、どうぞロビーで吸うとくんなはれ。
 まあ、たばこお吸いならん方は、どうぞシンナーでも、何でも吸うてください。

 後半はいよいよ御大の登場で、最後は南光さん」と、これからの予定を紹介するだけで本編に入った。

 くろくわ(黒鍬)というのは雑兵や農家出身で、季節的に土木作業などに従事した集団のことで、「〜組」といった建設会社の元祖のようだ。

「庄屋はん。黒鍬の連中さん、お着きになって、今、井戸の側で休んでもらってます。水飲んだり、体拭いたりしてはりますけど、お頭(かしら)の両五郎という人、身体は六尺を超えてるし、身体じゅうガマン、彫りもん入れてはって、何や人の身体やないみたいで」
「人やなかったら、何やねん」
「岸和田のだんじりちゃうか、と・・・・。いや、その両五郎さんが庄屋さんにご挨拶したいて」

「ああ、こら、お庄屋はんでっか。わたくし、火の玉の両五郎と申します」
「ああ、これはえらいご丁寧に。実はこないだの大雨できつね川の堤が切れましてな。一応は直しましたんやが、また大雨でも降ったりしたらえらいことになるんで」
「へえ、お話は聞いてましたんで、こちらへ来る途中にちょっと様子は見てまいりました。10日もありゃあ充分や思いますが、まあ、半月もみてもらえたら」
「いや、仕事の方の段取りはすべてお頭にお任せしますが、何人で来ていただきましたか?」
「私を入れて総勢21人です」
「それで泊まってもらうとこなんですが、こない小さな村でっさかい、宿屋もおませんので、こちらに二人、あちらに三人・・・・と分宿してもらうことになるんですが」
「若いもんのことでっさかい、酒飲んで村の衆にご迷惑をかけたりしても申し訳ないんで、皆、私の眼の届く所に置いときたいんですが。どこぞ、寺みたいなところはおませんのか」
「いやあ、寺もあるのはあるんでっけど、泊まってもらえませんねん。
 というのは、ここ何年も無住
(住職がいないこと)で荒れ放題になっておりまして、最近では化け寺なんて妙な噂も立つようになりましてな。
 剣術使いの先生が何人か、退治してやる・・・・と入っていきなはんねけど、だぁ〜れも帰ってこんてなわけで」
「ほな、是非とも泊めてもらいまひょ。え?いや、化け寺ゆうて怖気づいたと言われては、黒鍬の頭やゆうて、大手を振って歩かれんようになります。
 それにうちには若い衆が何人もおります。まあ、退治することまではでけんでも、正体を確かめるくらいのことはできるんやないか、と」
「そら、そうしてもらえたら大助かりでっけど。
 ほな、村の衆、黒鍬の連中さん、寺にお泊りやゆうたはるさかい、米や味噌、布団や枕をお運びもうせ」
「いや、お庄屋さん、こないな季節やさかい、ふんどし一丁で充分だ。枕かて、丸太一本あったら、皆でごろ〜っと寝よります。
 丸太の木口、金づちでこぉ〜ん!と叩いたら、朝、ぱっ!と眼ぇさましよります」
「いや、ちゃんと用意しておりますんで。ほな、お送りしておくれ」


「あっ、あっこの丘の上の寺がそうでんねん。
 ほんで、えらいすんまへんねんけど、わたいら怖ぁ〜て、この辺より先に行ったことないんですわ。こっから先、連中さんだけで行ってもらえまへんやろか」
「いや、えらいすんまへんでした。ここまで送ってもろたら充分です。


 ああ、ここか。なるほど、ほんまに荒れ放題に荒れとんなあ。半月ほど泊まらしてもらうのじゃ。きれいにせんとバチが当たる。皆の衆!カマ、出せぃ!」

 若い衆が総出で境内の草を刈った、刈った。ザク!ザク!ザク!

「お頭!お頭!やっぱり、この寺、おかしおまっせ。狢
(むじな)、狸、狐の類(たぐい)がおりますわ。獣の糞がごろごろしてます。
 わいら、ほんまに臭かった
(草刈った)
「なに、シャレゆうてんねん。
 一番肝心な井戸はどないなってる?何?葉っぱや色んなもんが入り込んでる?ほな、全部、井戸の水をかい出せ。そしたら、新しいきれいな水が湧いてきて、飲めるようになるさかい」

 また、若い衆が総出で釣瓶で井戸の水をかい出しちゃあ、ザバッ〜!かい出しちゃあ、ザバッ〜!

「お頭、お頭!井戸の水がきれいになりました!」
「ん?どれどれ?おっ、こら、いいどぉ
(井戸)
「お頭かてシャレゆうたはる」
「お前らのんがうつったんじゃ。次は本堂の掃除じゃあ」

 本堂から阿弥陀さんやら、お道具を持ち出して、二十人がかりで雑巾掛けをいたします。そして、また、阿弥陀さんなどを運び入れまして。

「お頭!お頭!見とくんはれ。本堂もピカピカになりました」
「ん?ほんどう
(本当)?」
「もう、よろし」
「ほな、お前ら、半分は風呂沸かして、風呂入れ。ほんで、半分は飯炊いて、飯を食え。
 終わったら交代じゃ。

 え?飯も風呂も済んだか?ほな、今日は疲れてるし、明日は早いさかい、もう寝ぇ!」

 たいがいのもんは、そのまま寝てしまいましたが、お頭は煙草を吸うたまま起きております。

「ええ?お頭ぁ。起きたはるんでっかぁ?」
「おお、今日は夜通し、起きとこ思うてなぁ。
 いや、幽霊の正体見たり、枯れ尾花ゆうて、大したことはないとは思うねやが、ひょっと何ぞ出よったらあかんさかい、わいは今日は夜通し起きてて、ま、何ぞあったら、お前らすぐ起こしたる。お前らは疲れてるさかい、先休め」
「へえ、すんまへん。


 おい、やっぱ、頭は偉いなあ。人の上に立つ人は、ちゃうなあ。何で?て、せやないかい。頭かて、わいらとおんなじように動いて疲れてはんねんで。それが、わいは起きてる。お前ら、心配せんと寝えやて」
「・・・・アホ、ボケ。・・・・・・カス、ひょっとこ」
「何でそないボロクソに言われな、ならんねん」
「お前は人の心が読めんさかい、いつまでも人に使われてな、ならんのじゃ。
 わいら、頭の心、ちゃあんと読めたぁる。
 なに?って、考えたらわかるやないか。お前、化けもんが出た時、起きてるもんと寝てるもんと、どっちを先に食う?」
「・・・・・・・そら、起きてる奴は手向かいもするやろから、寝てる奴が先やろな」
「せやろ?寝てる奴が食われてる間に逃げようゆうのが、頭の算段や」
「ほな、起きとかな損やな。

 お頭、お頭」
「ん?お前ら、まだ寝てへんかったんか」
「いや、お頭が寝んと番してくれてはったら、わいら気ぃ使
(つこ)て寝られしまへん。
 わいらが起きときまっさかい、頭、どうぞ寝とくんなはれ」
「ええ?そない気ぃ使わんかてええのに。そうかぁ。そこまでゆうてくれるんやったら、先、休ましてもらうわ」

 頭はごろぉ〜っと横になったとたん、いびきをかいて寝てしまいます。

「おい!頭、気持ち良さそうにいびきかいて、寝てはんでぇ」
「・・・・・・・すると、そうゆうつもりやなかったんかな」
「アホなことゆうなよ。わい、眠うてしゃあないがな。

 すんまへん。頭、起きとくんなはれ」
「お、どないしたんや」
「すんまへん。わいら、頭があんまり気持ちよぉ寝てはるさかい、つられて寝そうになって」
「せやから最初からわいが起きとくゆうてるやないか」

 お頭は煙草を友達に起きておりましたが、さすがに夜が更けた頃にうと〜うと〜とし始めました。

 すると、阿弥陀はんのところに明かりがぽっ!と灯ったかと思うと、姉さんかぶりした17、8の娘が手に花かごを持ちまして「両五郎さ〜ん。両五郎さ〜ん。お〜い、お〜い。・・・・・・・噛もかぁ〜!!」

 そこは両五郎さん、油断はなく、キセルでぴしっ〜!!

「おい、おい。皆、起きぃ!」
「え?お頭、何ぞ出ましたか?」
「おお。何かは分からんが、何ぞが阿弥陀はんの後ろに回りよった。

 おい、誰ぞ、後ろに明かりを回せ。何?なんもおらん?そっちは?そっちもおらん?
 おかしいな?確かに何ぞ、阿弥陀はんの後ろに回りよったんやが」
「お頭!最前、阿弥陀はんを本堂からお出しした時は、三体やったんでやすが、今は四体いてはりますぅ!」
「ええ?三体の阿弥陀はんが四体ぃ?一体、どうしたんや?」
「何ゆうたはりまんねん」
「おい!米
(よね)ぇ!カンテキ(七輪)に枯れ葉とか、くすべぇ!
 辰
(たつ)ぅ!後ろから扇(あお)げ!

 え?ほんまの阿弥陀はんやったら、どっちゅことないが
(どうということはないが)、ど狸やったら、煙でいぶしたら正体現す筈や」
「ちょっ、ちょお待っとくんはれ」
「どないしたんや、米ぇ?」
「いや、ほんまもんの阿弥陀はんはよろしいで。しやけど、煙でいぶしたりしたら、狸は、このガキぃ!とか思いまへんか?ほたら、わい一番前でっせぇ?
 一番先にかぶられんの、わいとちゃいまっかぁ?」
「・・・・・・・・・・そうゆうこっちゃな」
「そうゆうこっちゃって。わい、そんなん、かないまへんわぁ」

「しゃあないやっちゃなあ。おい!ざぁ公!」
「何ですか?え?私は行かれしまへんねん」
「何でや?」
「いや、生駒はんに断
(た)ったんです」
「何を?」
「バクチと・・・阿弥陀はんの前でカンテキ持つのんを」
「そんな断ちもん、あるかいな。もうええ。しぃ公!」

「行きたい!」
「行きたかったら、行たらええがな」
「行きたいのに、行かれまへんねん」
「何でや?」
「何でて・・・。親の遺言です。
 親父がいまわの際
(きわ)に、せがれや、必ず、阿弥陀はんの前でカンテキだけは持つな。ゆうて・・・・」

「そんな遺言あるかいな。
 もう何でもええから米ぇ、行け」
「へぇ、わかりました。おい!辰ぅ!ちゃんと前見てて、おかしい思たら、危ない!ゆうてくれよ。そしたら、わい、下向くさかい。ほたら、お前、前に顔出せ。ええか。

 でや?どんな具合や?」
「何ともない!」

「ほたら、お前ら次行け!」
「へえ、ほな、扇ぎまっせぇ!」
「でや、様子は?」
「何ともない」

「ほたら次行け!」
「でや?様子は?」
「何ともない」

「いよいよやな。次行け!」
「・・・・・・・次、行かんでもええんちゃいまっかぁ?」
「何ゆうてんねん。ひょっと、ハナ
(最初)から四体やったかも知れんやないか。行け!」
「・・・やらんでも、ええ思うけどなぁ。どや、様子は?」
「ああ、阿弥陀はん、目ぇパチパチしてるわぁ。あっ、ハナ
(鼻水)出てきた。こら、おもろい」

 そうこうしてると、狸が辛抱たまらんとハァ〜ックショイ!!

 正体現したかと思うと柱を登って行って、欄間の所の無数の天女の彫刻ん所に紛れ込んでしまいよった。

「う〜ん。四体の阿弥陀はんの中に紛れていただけでもわからんかったのに、こない大勢
(おおぜい)の天女の中に紛れよったら、どれがどれやら、わからんなあ」
「いや、お頭。あれがど狸ですわ。あいつだけが、こっちを横目で見とぉる」

 その狸めがけて棒でどん!と突いたら、狸は下に落ちたが、ほかの天女もそれへさして、どどぉ〜っと落ちて、どれも甦って、天人の舞ゆうやつを踊り始めよった。

  
 そして、ざこばは手をぐるぐる回して天人の舞を舞うのだが、何か動きがぎこちない。

「これがわたい、できまへんねん」とぼやくざこばに場内が沸く。

「おい、お前ら。最前までじっとしてても見分けがつかんかったのに、こない皆が踊っておっては、さっぱり見分けがつかんなあ」
「いや、わい、わかりましたで。お頭、ちょっと棒、貸しとくんなはれ」

 その男がどん!と下から突くと、狸は正体を現し、地面に落ちて、縛り上げられる。

「ええ?お前、よう分かったな?」
「へえ。あの天女だけ、金玉付いてました」

  私は初めて聴く話で、新鮮でおもしろかった。


 



 ここで中入り。

 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音などをしてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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