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(No54) 桂米朝 落語会 鑑賞記 その2  

 平成19年8月31日(金)、京都府立文化芸術会館で午後6時半より開催・・・・・・の鑑賞記。

 



(3) 桂団朝 「幸助餅」
   やたら元気に登場してきた団朝。

 いかにも気が強そうな感じ。

 客席にガンをとばすというか、いつでもケンカは買うでっといった感じの表情である。

 いま、世間を騒がせているといえば、朝青龍問題ですな。
 高砂親方ゆうのは、モンゴルに35時間しかおらんかったそうで。いったい何しに行ったんでしょうか。ほんま、頼んない師匠ですな。われわれのとことえらい違いです。

 それと、びし〜っ!と意見のでける兄弟子ゆうのは、いてへんのでしょうか。もしも、この私が何か不始末をしでかしたとしますと、まずざこば兄さんがね、「・・・・けじめつけろ!指つめぇ!」ですからな。

 まあ、仁義とか、そうゆうことは外国人の方には難しいんかもしれません。あの朝青龍が来日してすぐの頃、「いつも、心に思っていることは?」って聞かれて、こうゆうたそうです。「仁義、好かん
(ジンギスカン)」。

 それと、1億円の申告もれがあったそうです。相撲の贔屓筋
(ひいきすじ)、旦那衆のことをタニマチといいますが、こら、えらい金を使うそうですな。朝青龍はこれまで21回優勝してるんですが、そのたんびに、3000万の祝儀を出してるタニマチがおるらしいです。少し、回してくれ。

 相撲とりに御馳走
(ごっつぉお)しても、ただただ黙って食べて飲んで、おもろいことを言う訳でもなく、最後に「ごっつぁんです」、これだけですからな。それでも、相撲取り連れて行くとなると、木屋町の蘭(京都の老舗の寿司屋)とかね、高級寿司店てなことになりますが、そこでも黙って食べて飲んで食べて飲んで、「ごっつぁん」だけですからな。
 そこいくと、噺家、aa
(みんみん。大衆的な中華料理のチェーン店)にでも連れていってみなはれ。ビール2本で小話100連発くらいしますからね。

 で、相撲取りが帰る時には「お車代」ゆうやつですわ。それも1本でっせぇ。帯封のついてるやつ。100万ですからな。どこまで帰んねん?いま、大阪やったら5000円以上半額でっせ。モンゴルでも帰れるわ。

 こないだ、珍しく寿司屋でご馳走してもろて。「おい!回ってる奴、何でも食え」ゆうて。何が悲しゅうて、こんなとこでハンバーグの寿司食わな、ならんねん。
 で、帰る時、「まだ、地下鉄とか動いてまっさかい、地下鉄で帰りますわ」ゆうたら「世に出るもんが、地下鉄で帰るなんてことしたら、あかん。チケットやるさかい、車で帰り」ってゆうてくれはりました。ありがたいなあ、思てひょっと見たら、バスの回数券・・・・。


「ほたら、何か。この30両があったら、餅米問屋の大黒屋の暖簾
(のれん)を取り戻すことができますのんやな。
 それにしても、いくら相撲にこったからゆうて、あれだけ大きなお店つぶすやなんて、一体どうゆうことだしたんや?」
「へえ。もともと親父が相撲好きやったもんでっさかい、小さい時分から、よぉ相撲を見に行ったり、相撲部屋に連れて行ってもろたりしてる内に、すっかり相撲の魅力に取りつかれました。

 その内に、今度は若旦さん、一人で遊びに来(き)なはれ言われて、通い始めたんが旭山部屋。そこにおった雷五郎吉(いかづちごろきち)ゆう若い相撲取りが気に入って、ひいきにするようになりました。
 雷
(いかづち)が、昇進したっちゅうたら化粧回しを誂える。勝ったとゆうちゃあ勝ち祝い。負けたとゆうちゃあ、ゲン直し。とりわけ、親父が死んでからは、したい放題。湯水の如く金を使い、ある日、雷が「相撲の本場、お江戸で修業がしたい」とゆうた時に、はっと目がさめ、商売に身ぃ入れよう思いましたんやが、遅すぎました。残ったのは借金ばかり。
 店をたたんで、この裏長屋に逃げてきたようなわけで」
「さよかぁ〜。しゃあけど、この金はあんさんの妹のお袖ちゃんの奉公でこさえたお金でっせ。お袖ちゃんもどんな勤めか、わかってる思うけど、この三つ扇屋は廓でっせぇ。
 お袖ちゃんが、親の店の暖簾取り戻すために我が身を廓に売るゆう、その思いに免じて2年待ちまひょ。その間は店には出さしまへん。
 しやけど、その2年の間にあんさんが働いてお金を返してくれへんようやったら・・・・・・わたいかて鬼になりまっせ。客を取ってもらいます。その時になって、わたいを恨みなはんなや」

 おかみさんに礼を言って表に出た幸助。
 新町は人通りも多く、三味線の音(ね)も聞こえるが、妹を苦界(くがい)に沈めて金をこさえるとは、親の罰(ばち)、妹の罰が当たるわいと、その賑やかさも幸助には遠い世界のように思えた。
 と、そこへ江戸にいる筈の雷が声を掛けてきた。



「もうし、旦那さん」
「あっ!これは雷!お前、何で、こんなところに・・・・・・・・・・・・さいなら」
「あの、もし、旦那さん。はるばる江戸から戻ってまいりましたのに、この雷を袖にされるとは、何ぞ私に悪い所があったんでしょうかぁ。ゆうていただければ、すぐ改めますでぇ」
「何ゆうてんねん。お前に悪いとこなんぞ、あるかいな」
「お暇をもろうて、丸3年。旦那に一目会いたさに、130里の道のりを、夜を日に継いで戻ってまいりました」
「なに?このわいに会いたさに、130里の道のりを・・・・・・・・・・・・・さいなら」
「何やら、旦那さんの様子がおかしゅうございますが、もしや、長堀で聞いた噂はまことやったんでは」
「何や、長堀で聞いた噂て」
「はい。こちらに戻って真っ先に長堀の大黒屋さんをお訪ねいたしましたら、代替わりがしてござる。何でも、大黒屋さんは金につまって夜逃げして、行く方知れずになったとか」
「ははは。そんなことあるかいな。いや、長堀の店がちょと手狭になったもんやさかい、前の店の倍ほどの土地買
(こ)うて、引っ越したんや。まあ、やっかみ半分でそんな噂流したんちゃうか?ははははは。はぁ〜〜ぁ(と、虚勢を張ったものの、肩を落す)
「それを聞いて安心しました。
 喜んでくだされ。この雷。花のお江戸で、大関まで出世いたしました」
「なにぃ?大関まで出世したやてぇ?よぉやった、よぉやった。そら、どうでも祝いせんならん。
 そこにおんのは?弟子の暗闇
(くらやみ)に夕立か。
 こんなとこで立ち話もなんやで、とりあえず、そこの店に入ろか」

 二階の座敷に通されまして、店の主人が挨拶にあがってまいります。

「これは、これは、本日はありがとさんにございます。・・・・・・あっ!これは雷関!」
「おっ、何や。あんた、雷、知ってくれてんのか」
「知ってるも何も、雷関ゆうたら、なんちゅうても男っぷりがええ上に、すもうがうまい」
「いや、江戸で修行してたんやが、このわいの顔見ぃに大坂に戻ってきてくれてな」
「はいぃ。何せ、この雷が今日あるのは、すべて、この旦那さんのおかげでござりまする」
「はあぁ〜。旦さん、この雷関のほんまもんのご贔屓さんでいらっしゃるんですなあ。
 雷関というと、3年前の浦風との一番を思い出しますなあ。浦風がいきなり、ばんばんばんと張り手をしてきたとこ、土俵際で受け止めて、体
(たい)を入れ替えて、背中をどやしつけたら、浦風、土俵の下まで飛んでいきよった。わたい、今までに、あんな胸のすく相撲、見たことおまへん」
「こら、嬉しいことゆうてくれるやないかい。
(と、財布をさぐって)これ、少ないけど、祝儀や。取っといて。
 あ、それと、雷。また、ちゃんとした祝いは別にするさかいな。これは、取りあえずの祝儀や。取っといて。

 ♪ うわぁ〜〜い〜 昇進や、昇進やぁ〜 あぁ、それ、それ、それ、そぉれぇ〜〜 ♪
(と、唄い、踊る幸助)

「・・・・・・・・・・・・・ちゅうて、金つこて来てんけど、怒るか?」
「・・・・あ、あんた。あの金、どないして作った金か、わかって・・・・もう!」
「おい、おい。近所でも仲のええ夫婦で有名なおまはんらが、何、表で喧嘩してんねや?」
「ああ、こら、家主
(いえぬし)さん。聞いとくなはるか?
 うちの人・・・・・お袖さん・・・・・雷・・・・・祝儀・・・・・・うわぁ〜あぁ」
「え?何?そら、えらいこっちゃないかい。幸助はん。だいたい、雷ゆうたら、おまはんが身代潰す元になったような男やないか。
 ほんで、今、雷はどうしてんねん?え?まだ、その店で飲んでる?ほな、今から行こう。何しに行くんやて?知れたこと。わけ話して、祝儀返してもらうんやないかい」
「ええ?そんなことしたら、わいの顔が立たん」
「お前の顔なんか、とうにこけてるわい。

 え?ここやな。
 あ、こら、雷関。これこれこういうわけで、いったんあげた祝儀返してもらうてな、おかしいことやが、そこを一つ、返してもらうわけにはいきまへんやろか」
「なるほど。そんなわけのあるお金でしたら、耳を揃えて返させてもらいます・・・・・・・・・・・・・・とでも申し上げればよろしゅうございましょうが、この雷、いったんいただいた祝儀は、びた一文返しません。

 つもっても、ご覧
(ろう)じませ(考えても、みてください)。そちらはお客、こちらは芸人。無理難題を言われても、旦那さまじゃの、ご贔屓だのと、顔で笑って心で泣いて、頭下げるが芸人稼業。
 いったんもろうた祝儀を返すようでは、このわしが納得しても、下げた頭が承知しませんわい。

 どうせ散ったる桜花
(さくらばな)、元の梢には戻らんたとえ。すっぱりあきらめてもらいましょうかい」

「な、何てことゆうた、雷。お前と今まで、そんなつもりでつき合うてきたことはいっぺんもないぞ。
 今のは冗談やな?本気やないねんやろ?」
「本気、本場所、本仕切り。待ったと言うのじゃごんせんわぃ」
「な、何ぃ〜?俺は、お前の性根、心根が好きで、今までつき合うてきたんやぞ。
 それが、お前の性根がそれほど腐っておったとは。そんな男が、神の清めた土俵にあがったら、大関の名ぁが汚れるぞ!」
「お目の届いた相撲の講釈やが、我が身の見えん意気地なし。

 これからは道で会うても、この雷の贔屓じゃなんぞとはゆうて下さるな。花のお江戸の大関の、雷の名前に傷がつきますわい。

 おい、暗闇、夕立。わしらの座敷がしらけてしもうた。どこぞで飲み直すとしょうかい」

 帰っておかみさんに話した家主と幸助。
「そしたら、今度はわたいが行きますわ」
「いや、わいらがゆうてもあかんかってんから、お前が行っても・・・」
「そんな性根の腐った雷に何ぼゆうたかて、あかしまへん。三つ扇屋のおかみさんに頼んでみますのや」

 泣いてわけを話したところ、女同士ということもあったんでしょうか。これは幸助さんに貸すんやおまへん。おかみさん、あんたに貸すんでっせと、もういっぺん30両を用立ててくれた。

 30両では、いきなり餅米問屋を開くゆうわけに行きませんので、阿波座に小さな幸助餅という餅屋を開きまして、人間が変わったように働きました。
 相撲はおろか、歌舞伎や浄瑠璃など一切の道楽はやめました。楽しみというと、木戸銭の安い寄席に行くだけで。・・・・・・・・私の本日のテーマは、これ一本でっさかいな。お聞き逃された方のために、もういっぺん申し上げます。一切の道楽はやめまして、ひたすら入場料の安い落語を聴き続けた。人間が成功する秘訣は、ここでございます。

 一生懸命働きまして、やがて、元の長堀に六間間口の店を構えまして、丁稚の3人も抱えるようになりました。妹のお袖も身請けすることができ、このお袖ちゃんがなかなかのべっぴんやった。看板娘がでけたとゆうことで、ますます繁盛する。 

「あ、これ。定吉は、どこ行ってます?なに?頼まれた餅を届けに行ってる?ん?平野町の堺屋さん?和泉町の宝屋さん?今橋の住友さん?・・・・・・え?住友さん?ほんまか?炭屋の友八っつぁんちゃうな?え?あの住友さん?何でや?面白いように得意先が増えていくなあ。何や怖いようやなぁ」
「何ゆうてまんのん、あんたのお餅の評判がええさかい、広まっていきまんねがな。もっと自信持ちなはれ」
「お前は楽天的やなあ。
(と、遠くで相撲のやぐら太鼓の音)
 あ、相撲のやぐら太鼓や。前に三つ扇屋のおかみさんが、これからは相撲の太鼓の音ぇは、悪魔の呼び声や思いなはれ、てゆわはったけど、今のわいには、ほんまに悪魔の声のように聞こえるわ」

(と、配達に出ていた丁稚が慌てた様子で、駆け戻ってくる)
「旦さん、えらいこってす!い、いか、いか・・・・」
「あ、こら。大黒屋の旦那さま」
「お!おのれは雷!何の用じゃ!」
「ほほぉ。餅屋に来て、餅を買う以外に何の用がありましょうや」
「う・・・・。そら、いくら仇でも、餅を買いに来たんやったら客やわい。断るわけにはいかん。ええい、何がいるんじゃい」
「小餅、1個、持ってごんせ」
「何ぃ、そんな大きな身体で、小餅1個やとぉ?」
「代は、なんぼじゃ」
「犬畜生から銭を取ったと言われたら、この幸助の名折れやわい。とっと餅くわえて去
(い)にくされ」 
「そうはいかんわい。餅を恵んでもらったとあっては、この雷の名前に傷がつくわい。

 どりゃ、小判で30両」
「・・・・・・・何ぃ〜?どこの世界に小餅1個で30両することあるかい!からこうてんのんか?」
「旦那さん・・・・・よぉ・・ご辛抱なさいましたなぁ〜」
「何ぃ。・・・・・・・え?今になって、あん時の30両、返すんゆうんかい。ほたら、何で、あん時、血の涙流してまで、返してくれと頼んだ時に返してくれんかったんじゃ。
 ははぁ〜ん。わかったぞ。お前、あん時は俺が尾羽打ち枯らした思て、縁切りしたが、どうも昔のように商売がうまいこと行ってるようや、ゆうのんで、また贔屓にしてもらお思て、尾ぉ振りに来たんか。

 お前の性根は、そこまで腐ってたんやな。
 失
(う)せろ。去にさらせ。お前と、ものゆうのも、口が汚れるわい!」

「幸助はん。あんさん、それ以上ゆうたら、罰が当たりまっせぇ」
「あ、これは三つ扇屋のおかみさん」
「あんさん、わたいが二度目に貸した、あの銭。誰が出したと思うてなはる?」
「えっ?まさか・・・・」
「そうやがな。あのいざこざがあった晩、うちの玄関先に、この大きな雷関が青い顔してずぼ〜っと立ってなはった時は、わたいもびっくりしました。
 事情
(わけ)聞いてみたら、あの祝儀、その場で返すんは簡単なことやけど、旦那さんの性分では、この後、どないなるかわからん。決して、それは旦那さんのためにならん。

 一日も早
(はよ)う、旦那さんに店の暖簾取り戻してもらうためには、辛(つろ)うても、相撲に愛想尽(づ)かし、してすっぱり縁を切ってもらわなならん、思てあないなこと言わはったそうや」
「この雷、稽古や本場所で辛い思いしたことはごんせんが、大恩ある旦那さんへの心にもない悪口雑言。五体の骨が砕ける思いがしましたわい」
「そやで、幸助はん。この雷関。大きな身体を震わせて、蔭ながら手ぇ合わせてはったんやで」

「ええ?わい、そんなこと、何も知らんかったんや。それを犬畜生までゆうて」
「それだけやおまへんで。あんたが餅屋開いた時から、贔屓筋一軒一軒訪ねて歩いて、幸助餅をよろしくお願いします。たとえ小餅一個でも注文してやってくだされ、と頭下げて回ったんやで」
「ええ?あら、みんな、お前の力やったんか。それやったら、お前、相撲取りやのうて、注文取りやないか」

「白い餅を食うてもらおう。白餅10個で10連勝や」
「お前さん、せっかくやさかい、名物の餡餅も食べてもらおうやおまへんか」
「おかみさん、そら遠慮しときます。餡をつけたら黒星になる」というのがオチ。

 団朝の、この日の高座はマクラ含めて出色だったと思う。

 


(4) 桂米朝 「始末の極意」

 公演パンフには「よもやま噺」とある。最近米朝師匠は当日の体調で演目を決めるので、記載されていないことが多い。

 さて、今日はどうなるか。

 今日、高座を見て非常に低いな、何か薄い板みたいな高座だな、と感じたのだが、米朝師匠のことを考慮したのだなと、師匠が登場する時に初めて気がついた。

 先日のヒルトンでは両脇をざこば、南光に支えられての登場であったが、本日はお一人で登場。

 低い高座がよかったのか、無事、国宝は鎮座ましました。  

 立ち座りができにくいので。

 まあ、聴こうと思たら今のうちでっせ。
 ま、噺家てなもん、口さえあったらええとお思いの方も多いやろけど、高座まで身体、運ばなあきまへんねん。

 今年一杯くらいや思いまっせぇ・・・・・・・。

 まあ、私どもの世界では、三ぼうといいまして、泥棒、つん○、けちん坊の噺がたくさんにございます。


(と、最近多用する「川越しのつん○」の噺。)

 けちん坊の噺でも、だいぶえげつないもんやないと噺にならんようで。

「食べるもんが何といっても、もったいないな。お前、最近どんなもん、やってる?」
「へぇ。最初は、ごま塩てなもん、やってましたが、ごまがもったいないんで、最近は塩でやってます。
 これほど安いもんはない」
「塩・・・・なあ。あら、減るやろ?」
「そら、減りますが」
「お前、梅干、やったか?」
「へえ、やりました。朝に皮食べて、昼に身ぃ。晩は種をしゃぶります。あの種ちゅうやつは、しゃぶっても、なくなりまへんさかい」
「一日一個てな、ぜいたくしたらあかんで。そんな大名みたいなこと。
 梅干てな食べるもんやない。あら、置いとくねん。

 ほんで、あれ食たら酸
(す)いやろなぁ思たら、酸いツバわいてきて、それでぐぁ〜っと飯、食うのや。しかし、時には気ぃ変えなあかん。たまにはウナギてなもんも食わんとな」
「え?ウナギ?」
「そうや。うちの横に鰻屋があるんやが、あの焼いてる煙のにおいかいだら、つばの湧っきょうが違う。
 しゃあけど、こないだ鰻屋から請求書が来てな。
 うちは、おいしい鰻を焼く匂いを流して客を呼びまんねん。その煙、ただで嗅がれたら、どもならんゆうて。鰻のかぎ代」
「向こうもやりまんなあ。で、どない、しはりました?」
「鰻屋の丁稚呼んでな。『細かいねん』ゆうて、チャラチャラチャラ〜っと金、あけて。『へえ、おおきに』ゆうて小僧が持っていこうとするさかい、『匂いだけやさかい、音だけでよかろ』ゆうて、また、なおしたった
(しまい込んだ)
 まあ、とにかく気ぃを変えるゆうことが大事や。たまにはおつゆなんぞものまんとあかん」
「おたくのおつゆ、ゆうたら、お湯に塩でも入れまんのか」
「何ゆうてんねん。ちゃんと鰹節でだし取ってんねんで」
「汁の実ぃは?」
「ちゃんと菜っ葉、入れてるで」
「そんなぜいたくを?」
「いや、鰹節屋行って、進物にするゆうて、ちょっと持って帰らせてもらうんや。これをな、削ったりしたら、あかんで。丸のまま、鍋にぱぁ〜んと放り込んで、十二分にだしを取った後で、火鉢の灰に埋めて、湿気を取るねや。

 ほんで、ちゃんと乾かした後で、注文を聞きにきた丁稚には『すまん。うちのかかに、ちゃんと言わんかったさかい、かかが先に買
(こ)うてしまいよったんや。この埋め合わせは、後でちゃんとするさかい』ゆうて、鰹節は引き取ってもらう」
「なるほど。ほな、汁の実ぃの菜っ葉はどないしますねん?」
「家の前にムシロ敷いといてな。間引き菜の行商人呼んで、『全部買うさかい、全部ここに空けい』ゆうねん。そしたら、『みな買うてくれはるんやったら』ゆうて、荷ぃ全部、ムシロの上にぶっちゃけよる。そこで値ぇ聞いて、2円て言いよったら、『そら、ちょっと高いな。そこ、2銭に負からんか』ゆうねん。怒りよるでぇ」
「2円のとこ2銭に値切ったら、そら怒るわ」
「馬鹿にすな、ゆうてムシロの上から荷ぃに戻して、長屋から出ていこうとしよる。
 そこをやな、追いかけていって、『こら、えらい、すまなんだ。もう1銭出すがな。3銭でどないや?』ゆうて、肩、ぽ〜んと叩いたんのや。
 そしたら、もう、怒りでブルブル震えよる。ほんで、荷ぃを長屋の角、路地の隅、あっちにぶつけ、こっちにぶつけしながら出ていくさかい、ぎょうさんこぼしていきよる。ほんで、ムシロにひっついてる菜ぁとこぼしよった菜ぁを合わせたら、三日分くらいの汁の実には事欠かんでぇ」
「そんなん、下手したら殴られまっせ」
「コブができたら、身ぃが増えたゆうて喜ぶくらいでないと、銭はたまらんで。
 まあ、人変えて、2、3回はでける」
「なるほど。ところで、ほんま、ここが始末の極意やっちゅうのはおまへんやろか?」
「おっ、えらいことゆうたな。今までゆうたんは、全部枝葉のこっちゃ。ほんまは、始末っちゅうのは、ここっちゅう極意があるねん。
 あんた、なかなか見込みがあるさかい、今晩うちに来なはれ。

 おっ、来たか。庭に出なはれ。隣との境に、大きな木ぃがあるやろ。そこに梯子かけて登りなはれ。
 そう、そこに横に伸びた太い枝があるやろ。そこにぶら下がりなはれ」
「へい。こうでっか。あっ、あきまへん。梯子外したらあきまへんがな。わて、宙ぶらりんでんがな」
「ぶら下がったか?ほたら、まず、左の手ぇ外しなはれ。そしたら、次、右手の小指を離せ。ええか?次、薬指を離せ。離したか?ほたら、次、中指を離せ」
「ええ?わたい、軽業の稽古に来たんちゃいまっせぇ。へ、へえ。中指、離しましたぁ」
「そしたら、今度は人差し指を離せ」
「ええ?そんな無茶言いなはんな。そんなもん離せまっかいな」
「離せんか?」
「こればっかりは離せまへん!」
「離すなよ。これ離さんのが、始末の極意じゃ」

 国宝は、若干の行きつ戻りつはあったものの、きっちり「始末の極意」を演りきり、お一人で立ち上がり、そしてご退席あそばされた。

 さて、中入りである。







 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音とかしてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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