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(No53) 桂米朝 落語会 鑑賞記 その1  

 平成19年8月31日(金)、京都府立文化芸術会館で午後6時半より開催・・・・・・の鑑賞記。

 



(1) 桂都丸 「煮売屋」

 登場の雀太、第一印象は「眉が太い」。初めて見た時は髪が短く、自分でも「修行僧ではありません」というギャグを飛ばしていた。
 

 ところが、登場時は左写真よりもさらに髪が伸び、オールバック的な髪型になっていた。良く言えば「原田大二郎」的な、かなりくどい顔に。

 携帯の電源を切ってくれ。ただし、予め切っておられる方は、もう一度押すと電源が入るというシステムになっています・・・というギャグを交えながら、携帯を切るよう呼びかけていた。

 「煮売屋」は、先日、吉弥で聴いた。

 よって、その吉弥との違いだけを列挙する。もっとも、吉弥もそう言っていたのに、覚えてないだけの可能性も多いのだが。

(1) 喜六が清八に「め」をひっくり返してくれと要求する時、「きっちり返してもらいまひょ!」と見得を切るような表情をし、清八が「おっ、目ぇ向いたな」と返す。

(2) 「”ことまに ぼくめんだいしも いな”とは思わんかい?」「何や、それ」「”まことに面目しだいもない”をひっくり返したんや」「お前の方がうまいがな」というやり取り。これは多分吉弥も言っていた。

(3) 「一つ せんめし」のところで、「悪い書っきょうやな」「お前の読みようが悪いんや」というやり取り。これも、吉弥も言ってたかな?

(4) お品書きを読み上げるところで、「口上」を一番左端、「貸し売りお断り」を一番右端と言っていた。縦書きなら、右から左へ書き進めるのが普通と思うので、これは雀太の言い間違いかもしれない。

(5) 濁点を字の肩に「ちょ〜ん、ちょ〜ん」と表現していた。枝雀師匠などは「ちょぼ ちょぼ」と表現していた。別に何でもかんでも「枝雀至上主義」をとっているわけではないが、店先にこちょこちょと書いて貼ってあるお品書きの字であるから、「ちょぼ ちょぼ」の方がベターと思う。

(6) 味噌を買いに行く町までの道のりを「三里」ではなく、「三里十八町」と表現していた。別にどちらでもいいが、特に追加する意味もない気がする。

(7) 高野豆腐の汁を絞ってくれというリクエストに対し、煮売屋の親父は、客の方を向いて「ほたら、こう・・・・包丁の背ぇで押すようなことに・・・しましょかな?」ときっちり念を押す感じ。その他のリクエストにも、いちいちこういうリアクションを取る。

(8) 「酒は甘口か、辛口か」との質問に対し「いや、薄口です」「何や、醤油みたいやな」というやり取り。

 若手らしく、習ったことをきっちりとやっている感じではあるが、ややくどい、何か粘着質的な印象を受けた。最後、ほとんど礼をせず、そそくさと立ち去ったような感じに見えたのも、印象が悪かった。
  


(2) 桂吉坊 「おごろもち盗人」

 満面に笑みをたたえながらの登場。
 左の写真を見ていただきたい。何とかわいらしい写真だろうか。

 でも、登場した吉坊は、ほとんどこの写真と変わらない感じであった。

 今までは、座布団をめくったり、雀太くんみたいに最初に出てたんですが、今日、初めて二つ目をやらせてもらうことになりました。
 二つ目ゆうたら、何をしたらええんやろか、と。まあ、落語をしたら、ええんですが。

 まあ、よぉ聞かれるんのが、「いったい、いくつやねん」と。
(会場の観客も同じ気持ちだったようで、満場の拍手)
 えらい、賛同の拍手、いただきました。「何歳ですか?」って、あんまり漢字で訊いてもらえんのですな。たいがい、「おいくつですか?」とひらがなで訊かれる。

 まあ、こんなとこで年の話、すんのもおかしいですが、こないだ誕生日でして、26になりました。
(場内から驚きの声)
 先日、中学の時の同級生と会
(お)うたんですが、そいつはえらいオッサンになってたんですが、「お前、中学ん時からいっこも変わらんな」って言われました。喜んでええんやらどうやら、わかりませんが。

 家から着物着て出ることも多いんですが、私みたいによぉ遅刻する人間は、着物ちゅうやつは裾が乱れて走りにくいんですな。それで、最近は、よぉ袴をはいております。
 こないだも、白の浴衣に袴で電車、乗ってたんですが、どうも後ろのおばちゃんらが私のことを話し、してるような感じでした。
「あの子、何してる子ぉやろ?」って。
 この時点で「子ぉ」ですからな。「柔道やろか?」「いや、柔道やったら、あない格好せえへんで。剣道やで」って。
 まあ、前、回って顔見てもろたら、剣道とは思わへんかったと思いますが。

 さて、最近で支払いといいますと、現金のほかにカードなんてのが一般的ですが、あれも、まあゆうたら1か月分まとめての後払いですな。昔も、掛売りというのがございまして、月末とか、大晦日などにはまとめて払うことになっておりました。節季
(せっき。大晦日など、締めくくりの時期)ともなりますと、どこの家でも支払いの段取りに苦労したものでございます。

(旦那は、ソロバンをはじき、帳面を見ながら首をかしげている)
「なあ、あんた、もう1時過ぎてまっせ。もう寝まひょう」
「おう、お前、眠たかったら先寝たらええ。今日は節季やないかい。支払いの段取りせなあかんのや」
「そやけど、あんた起きてんのに、わたいだけ先寝られへんやないか。なあ、ええから早よ、寝まひょいな。わたい、一人やったらさぶい
(寒い)
「わいはコタツか。

 しやけど、おかしいなあ。帳面とソロバンは合
(お)うたるねや。何で現金だけが合わんのかなあ?・・・・・おい、お前、銭函から銭出して買い物(もん)とかしてへんやろな?」
「・・・・え?銭函・・・?あっ、すんまへん。そう言や、こないだ、そっからお金出して買い物したん、ころっと忘れてましたわ。
 こないだ、足袋がどれも古なってたよって、ちょっとそっからお金出して買いましてん」
「そんなことするさかい、帳面と銭が合わんようになんねがな。・・・・・・ええ?ちょっと待てよぉ。足袋みたいなもん、ごく安いもんやで」
「ついでに”えり”も買いましてん」
「・・・・・・・・足袋とえりだけか?」
「ついでやさかい、帯と着物も」
「どこの世界に、足袋のついでに、帯と着物買うもんがいてんねん。無茶したらあかんで。どないすんねん、明日の払い・・」

 この家の前におりましたのが、おごろもち盗人、いわゆるモグラ泥というやつで。
 これが何でモグラ泥とゆうかとゆうと、昼間の間は商売人の振りして、長屋なんぞを歩き回って下見をしている。どこの家はどんな間取りや、この路地は、ここに抜けるといったことを調べておく。
 それだけではございません。この家は、何間
(なんげん。1間、2間といった寸法のこと)の戸ぉがあって、端から何寸の所に掛け金がある、なんてことまで調べておきまして、夜中、家の者が寝静まった時分に、玄関先を掘り返す。
 昔はどことも下は、コンクリやアスファルトやのうて土ですからな。こう、敷居をくぐって、向こう側、つまり、家の中まで腕の入る穴を掘り、手ぇを伸ばして、内側の掛け金を外し、それで玄関の戸を開けて中に忍び込むという、こんな泥棒がおったそうで。
 この家の夫婦がなかなか寝んもんやさかい、待ちきれんと掘り始めよって。

 うつぶせになって右手だけを家の中に伸ばした泥棒、必死に掛け金を探るが指先に当らない。しもた、寸法を測り間違えたか。しかし、もう一度掘るのも面倒だ、何とか手が届かないか、と必死で伸ばす泥棒。


(支払う金が)もうちょっとやねんけどなあ」
(手の長さが)もうちょっとやねんけどなあ」
「わずかばかり足らんやなんて、情けないなあ」
「わずかばかり足らんやなんて、情けないなあ」
「こら、何でわいの真似するんじゃ」
「わたい、何もゆうてしまへんで」
「そやかて、わいと同んなじことゆうてたやないか。寝言でもゆうてたんか」
「・・・・・起きてて、何で寝言ゆうねんな」

「ええ?おっ、かか、ちょっと土間の隅見てみい」
「まあ、いややの。あんなとこから手ぇが生えてる。誰が種まいたんやろか」
「あほ。盗人やないか」
「え!ぬす・・」
「しっ!静かにせえ。かか、細引きを持ってこい。盗人の手ぇを縛るんや。ええか・・・よし!つかまえた。ぐ〜っと縛って、上のかんぬきにくくり付けたんねん」
(泥棒、手を引っ張られ)そない、伸びしまへん、そない、伸びしまへん(そんなに伸びません)
大将、そんな理不尽な」
「何が理不尽な、や。こないくくっておいて、明日の朝、警察に突き出したるんや。泥棒捕まえたら、警察から何ぼか礼金が出るやろう。それで、勘定の穴埋めしよ」

「あんた、そんな怖いことせんかて、うちはまだ何にも盗られてへんやないか。この人かて何ぞ訳があって、こんなことしてはるんちゃうか・?」
「あぁ、おかみさんでっかぁ。そうでんねん。わたい、うちに病気の八十六のお母
(か)んがいてまんねん。薬を買(こ)うてやることができんで、ほんの貧(ひん)の出来心だ。堪忍しとくんなはれ」
「あかん、あかん。こら!お前がそんなことゆうさかい、つけこまれてるやないか」

「あんた、ひょっと、この人に子分がぎょうさんおって、仕返しでもされたらどうすんねや?」
「そうだっせぇ
(と、泥棒は急に低音ですごむ)わいには、35人の子分がおりまんねんで」
「・・・・あのなあ。八十六のおかん一人が養われんのに、どないして35人の子分を養うねん」

「そら、そうです。そら、ご主人のおっしゃるんが正しい。でもね、わいには子分はおらんけど友達がいてます。この仲間が大将の家に油かけて、火ぃ付けて・・・」
「やりたきゃ、やれ。うちゃ、借家じゃ」

「そんなことしまへん。わての友達、ええ人ばっかりです。すんまへんでした。堪忍してください。お願いします。堪忍・・・・・。ああ、そうかい。ええわい。もう堪忍していらんわい。その代わりなあ、わいが10年放り込まれるか、何年くらい込むかわからんけど、出てきたら、きっちりお礼参りするさかいな!」
「そんな時分までおるかい!」
うっそで〜す。そんなこと、ようしませ〜ん」

「おい、かか。こんなアホ、ほっといて、もう寝るぞ」
「ええ?ちょっと、大将。寝たらあかん、寝たら・・・・・・って、ほんまに寝てもたがな。
 ええ〜?わい、明日の朝までこのままかいな。あっ、犬来た。うわ、ねぶりな
(なめるな)。おまえと遊んでるとこやないねん。こら!あっちゃ行け!シャイ!シャイ!・・・うわ、片足上げて・・・・ぶぶぶぶ、ご丁寧に砂までかけて行きよった」

(そこへ通りかかったのが別の男、不景気な顔で何かつぶやいている)
「困ったなあ、何とか明日まで5円の借金が返せんと、えらいことになんねがな。
 しやけど、さっぱり返せるあてもないしなあ・・・。いっそ、首でもくくって・・・・・って、そんな度胸ないしなあ。
 しゃあない、せめて、下でも向いて歩こか。ひょっと、財布でも落ちてないこともない。
・・・・・・ええ?あんなとこに人が寝てるでぇ。あの、もし、あんた、酔うたはりまんのか?」
「いや、別にわいは酔うてるわけやない。実はわいは泥棒なんや」
「え?わい、金おまへんで」
「何も、お前の銭取ろう思て、こんなとこ寝てるわけやない。実はかくかくしかじかで、つかまってしもたんや」

「え?ほたら、あんさん、体は表で、手ぇだけ”うちら”
(内側)でっか。・・・・そら、オモロイ」
「おもろいことあるかぁ。いや、あんたに頼みがあんのや。
 実は、わいの”かくし”
(着物の中の物入れ)にがま口があって、そん中に小刀が入ったぁんねん。あとできっちり礼はするさかい、その小刀を取ってほしいんや」
「へえ〜。ほんで、あんさんのがま口には小刀より
(=小刀しか)入ってまへんのか?」
「いや、小銭ばっかりやけど、合わせたら5円ほどは入ってるかな」
「へえ、さよかぁ。・・・・え?こっから手ぇ入れまんのか?左の手でおかしなこと、しなはんなや。どれどれ。
(と、がま口を探り出し、開けて中をのぞき込む)あったぁ〜・・・・・・・・5円」
「5円はどうでもええねん。な、小刀あるやろ」
「あんた・・・・・ほんまに逃げられまへんねんな?・・・・・・・へっへっへっ」
「いやな笑い方すな」

 と、その男は金を握って一目散に逃げてゆく。縛られた泥棒、思わず大声で「泥棒〜!!」がサゲ。

 初めて聴く噺で、おもしろかった。

 吉坊は爽やかだし、うまい。しかし、ともかく、容貌が子供っぽい。おかみさんが、さかんに襟元をちょい、ちょいと直しながら、旦那に「寝よう、寝よう」と誘うところなど、何だか聴いていて少し照れてしまう。




 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音とかしてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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