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(No49) 桂吉朝 鑑賞記 その2  

 平成19年8月26日(日)、ワッハ上方ライブラリーで聴いた桂吉朝の噺。DVD「特選 吉朝庵」より。

 



(1) 桂吉朝 「蛸芝居」

  DVDの画面では、「平成紅梅亭」での高座のようだ。

 出るなり「笛のイメージは忘れていただいて!(ぶんぶんと扇子を振り回し)覚えてられると物を言えんようになる」と語る。
 おそらく、放送当時は、吉朝の出番前に何かあったのだろうが、今となっては何のことやらわからない。

 

 鳴り物入り(お囃子や音曲が入る)の噺ですので、病院の近所ではやれません。

 このお店
(たな)、旦那から番頭、丁稚、女子衆(おなごし。女中)、乳母(おんば。御乳母の意か?)さんに至るまで、みんなが芝居好きの家(うち)といぅ、まことにわざとらしぃ設定ですが・・・・・・・ここにあったんですなぁ。

 毎日芝居の真似ばかりで、朝でもなかなか起きて来
(こ)ん。

 旦那がひとつ三番叟
(さんばそう。能の「翁」をもとにした狂言の伝統演目)で起こしてやれといぅので、頭に砂糖の紙袋(かんぶくろ)をかぶって、これが烏帽子(えぼし)。身に一反風呂敷(いったんぶろしき)をまとって、これが素襖(すおう)ですな。

「おそいぃ〜、遅い。夜が明けたりや。小僧や、女子衆、おきよ〜。おんば!」

 「おきよ」というのは、店の皆を起こしているので「起きよ」とばかり思っていたが、後で「女子衆(おなごし)のお清」というのが出てくるので「お清」なのか迷っている。
 ちなみに『桂米朝コレクション』第7巻(ちくま文庫)では「起きよ」。

「定吉(さだき)っとん、うちの旦那は、けったい(おかしな)な旦那やなあ。三番叟で起こしてまっせ」
「声掛けたりまひょか。いよっ!三番!」
「何、寝間
(ねま。布団)ん中から声掛けてんねん。定吉、亀吉。表、掃除しまひょ!」
「へ〜い!」

「けど、何でんなあ。朝昼晩と掃除してんのに、ゴミてたまるもんでんなあ。何ぞ掃除しながらでける芝居て、おまへんやろか」
「武家もんは水まき奴で始まるもんと決まってまっせぇ」
「ほな、あんた亀吉やから亀内
(かめない)としまひょか。わたい、定吉やから定内(さだない)でっせ。ほたら・・・
 何と、亀内」
「何じゃ、定内」
「さらば、掃除にぃ〜かかろうかぁ〜」
 芝居がかった仕草で掃除をする二人。
 掃除を終え、「女子衆お清の目を盗み、つまみ食いが楽しみじゃあ」と引き揚げていく。


「これこれ!二人、向かいの路地
(ろぉじ)入って行ってしもたで」
「すんまへん。花道がないさかい、つい路地まで……」
「何してんねん。亀吉は、庭を掃除しなはれ。定吉はお仏壇
(ぶったん)を掃除しまひょ」

「へ〜い!」
「かなんねん、お仏壇、大きいさかい。
(く〜ぅぅ く〜うぅう・・・・・と、二重に観音扉を開ける音)
 これは、誰の位牌や?・・・あ、ご隠居さんや。ええ人やったなぁ。
 天王寺さん参る時は、いっつも「定吉、付いといでや」ゆうてくれはって、茶碗蒸し、よんどくんなはった
(ご馳走してくれた)
 で、「帰ったら、うどんよばれた、ゆうときやぁ」って。ええ人ほど早よ逝くなぁ。
 頬
(ほぉ)ずりしたげます。(いとおしそうに、すりすり) へぇ、一番上へ置かしてもらいます。

 これは誰の位牌かいなぁ・・・・・あっ、婆
(ばば)や!憎たらしぃ婆(ばば)やったなぁ。竹屋のお菊婆ゆうたら、知らんもんなかったんや。

 定吉ぃ〜ゆうて、猫撫ぜ声出しといて、陰でつねりよんねん。まぁ、どぉせあんさんら、あっち行てもろくなとこ行てはらへんやろけど、死んでも頭痛患うよぉ、位牌ひっくり返しといたげま……」

 定吉は、位牌を持ってする芝居がないか考え、仇討の芝居を思いつく。
 そして「合点ゆかぬは、この家(や)の禿げちゃん」とか「禿げの素(そ)っ首討ち落し」とか、禿の旦那のことを仇に見立てているとこを旦那に聞かれ、怒られて、坊(ぼん。小さい男の子。旦那の息子)の子守を命じられる。

「だんだん用事がえろ(つらく)なるなあ。太閤はんでも坊の守りはいやがったゆうで。坊、よう泣くさかいなあ。
 泣きなはんなぁ・・・・・・・・・
(やや、きつく)泣きなはんな。・・・・・・・・・・泣くな!
 お腹すいてんのかなあ?坊、鼻くそ食べさせたげましょか?
(横を向いてモゾモゾし、指を坊やの口に入れ)あっ、吐き出しよった。坊、鼻くそきらいですか?

 待てよ、こんな子ども、抱いてする芝居があったで……。忠義な侍が和子様
(わこさま)を懐へ入れて落ちて行くとこ。誰が演(や)ってもえぇ男に見えるちゅうやっちゃ。

 おいたわしきは、この和子様、この我の懐をば玉
(ぎょく)の寝床と思し召し、すやらすやらと御寝(ぎょし)なさる。どりゃ、兵衛(べえ。家来の自称)が子守り歌を唄(う)とぉて進ぜましょう。 
 ♪ ねんねこせぇ〜、おねやれや〜……♪」

 庭を掃除していた亀吉が、これを見かけ、
「あれ? 定吉っとん、あんなとこで坊、抱いてえらい、気分出して芝居してるがな。あッ、落ちて行くとこやな。
 こうゆうとこへは追手の掛かるもんやから、わいは捕っ手
(とって)になったろ」

 亀吉は、タイミングをはかって「えや〜っ!」と斬りかかる芝居。
 それを、定吉は、「あぁ〜の山、越ぉ〜えてぇ、里へ行たぁ〜」などとゆるゆる子守唄を唄い続け、左手で坊やを抱えたまま、右手で亀吉の刀を受ける。
 だんだん立ち回りが激しくなり、興奮したか、定吉は両手で坊やを放り投げてしまう。

「これこれ!坊を庭にぶつけて、どないすんねん!」
(慌てて拾い上げ)あっ!首がない!」
「逆さまや!坊
(ぼん)を乳母(おんば)に返して、店の番をしなはれ。今度、芝居の真似したら、承知せぇへんで!」
「へ〜い!」

「旦那、怒りましたなあ」
「しゃあけど、息が合うておもしろおましたなぁ」
「もう芝居できまへんで」
「ほな、外から入ってくる奴に芝居させまひょか」
「そんなこと、できまっか?」
「今、魚屋の魚喜
(うおき)が荷ぃ担(かた)げて、こっち来よりまんねん。あいつがまた好きやさかい、声掛けたったら、芝居しまっせ」

 
 左肩に掛けた天秤棒(てんびんぼう)の荷ぃをおろした魚喜、右手で暖簾(のれん)を軽くかき上げ、「ごきげんよろし・・・」と言いかけたところへ間髪入れず「魚屋!」「魚喜!」。 と、表情が変わった魚喜、おろした天秤棒をかつぎ直し、ふところから手拭いを取り出し、右手でプロペラのように回し始める。


「旦那さま、何〜に、御用ぅ〜?」
「堪忍してぇや。外から来たおまはんまで芝居してどないすんねん。で、今日は何があんねや?」
「へえ!てしまや茣蓙をはねのけて、市川海老蔵、中村鯛助、尾上蛸右衛門・・・」
「おかしな呼びよう、しぃなや。ほな、鯛と蛸もらうわ。鯛は三枚におろして、片身は造り
(つくり。刺身)、片身は焼きもん。蛸は酢蛸にするさかい、台所(だいどこ)で、上からすり鉢かぶせといて」
「へい!それでは鯛、蛸両名!きりきり歩めっ!」
「そんなもんが歩くかいな」

 井戸端で水を汲む魚喜。釣瓶(つるべ)の音をキュルキュルとややかん高く表現し、「さびついとんなぁ」とつぶやくあたり、芸が細かい。
 扇子を包丁に見立て「パリポリパリポリ」と手早くウロコをかき落す。鯛は骨もウロコも硬い。かき落したウロコがぴん!とはねて、目の下に飛び、片手ではがす仕草もうまいなあ。さて、手拭いをたたんだ「鯛」の腹にぐっと包丁を入れて・・・・


「こうゆう血わた見ると忠臣蔵思い出すなあ。六つ目。勘平の腹切りや。二人侍
(ににんざむらい)が『血判、たしかにぃ〜』ってなあ」

 力が入ったところで、手が井戸端に乗せていた釣瓶に当たり、キュルキュルキュルと井戸の中へ落ちていき、大きな水音が。
 魚喜は「はて、怪しやなぁ〜あ」。丁稚が駆け寄り「訝(いぶか)しやなぁ〜あ」。
 これは吉事か凶事か。怪しきありさま・・・などと芝居のセリフの掛け合い。


「魚屋、そんなとこで目ぇむいてる場合やないで。表に荷ぃ置きっぱなしやろ、横町
(よこまち)の赤犬が、ハマチくわえてダ〜ッと走って行ったで」
「いやなに、ハマチの一巻
(いちかん)を〜?」

 「遠くは行くまい」と、腕をぐるぐると回すような(いわば、スローテンポのビリーズ・ブート・キャンプ?)格好で見得をきり、赤犬を追いかけて走り出す魚喜。
 定吉も加勢して追いかけようとする。それをとどめる旦那。お互いが芝居がかっている。
 はっ!と我に返った旦那は定吉に酢を買いに行かせる。
 やかましかった店にようやく静寂のひと時が訪れる。

 と、それを聞いていたすり鉢の中の蛸が・・・・・。

「何じゃ?わしを酢蛸にするやとぉ〜?よぉし、この間に逃げたれ」
 と、足を2本、すり鉢の下へ掛け、ぼちぼち持ち上げだしよった。

 扇子を開いて、逆さま(要が上)に持ち、伏せたすり鉢を表現。それを下から指でつまみ、じわじわと持ち上げていく。
 そして、とうとう顔より上まで持ち上げきった蛸が、ぱぁ〜んと脇にすり鉢を跳ねのける。

 姿を現した蛸は口をとんがらせて、見得をきる・・・・・・ってとこが左のDVDジャケット写真。



 足を二本前へ回しましてグッと結びますと、これが丸絎
(まるぐけ)の帯。連木(れんげ)、すりこぎを取って腰へ一本刀。
 そばにあった布巾
(ふっきん)でキリキリ〜ッと頬被(ほおかむ)り、目ばかり頭巾(ずっきん)といぅやつ。

 出刃包丁を取り上げますと、台所の壁の柔
(やら)かいとこを切り破りだした・・・・・。
「何や? 台所がガタガタとうるさいなぁ、どないしたんや……? うちは呪われてんのんかい。買
(こ)ぉた蛸まで芝居しとるがな。はは〜ん、逃げる気ぃやな」

 旦那もそのまま行て、すり鉢でパッと伏せてしもたら、そんでしまいやったんですが、根ぇが好きでっさかい、芝居でつかまえようと、そぉ〜っと蛸の後ろへ回りますと、刀の鐺
(こじり)、レンゲの端をぐっと!
 蛸は、三
(み)足、下がると 墨をあたりへ、ふぅ〜っ!!そこらは真っ黒、暗転でございますな。
 ここで旦那と蛸は、暗闇の中の探り合い、いわゆる「だんまり」といぅところ。

 闇の中で旦那と蛸の立ち回り。旦那が後ろから蛸を羽交い絞め。ハンガーに掛けられたシャツみたいになって、慌てる蛸。手を伸ばして逆襲に。

 旦那をキリ〜ッと回しておいて、胸板を一発、ド〜ン!と当て身をくらわした。旦那、その場にへたり込む。
「口ほどにもない、もろいやつ。この間にちっとも早よぉ明石の浦へ。おぉ、そぉじゃ、そぉじゃ〜っ」

 蛸は六方踏んで逃げてしまいよった。

 先ほどの魚喜と同じような腕を回す見得を切って走り去る蛸。
 酢を買って帰ってきた定吉は倒れている旦那を見つける。
 旦那は「定吉かぁ、遅かった」(「遅かりし、由良の助」)と芝居の続き。

 定吉、毒消し持ってきてくれ。蛸に当てられた・・・というのがオチ。





 

 

 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音とかしてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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