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(No46) 米朝一門会 鑑賞記 その3  

 平成19年8月12日(日)、ホテルヒルトン大阪での上演分・・・・・・の続き。

 



(4) 桂南光 「骨つり」

 にこにこと笑いながら登場してきた南光。高座に座る前に、わざとらしく足をとんとんとんと軽く叩く。言うまでもなく、先ほどのざこばへのあてこすりである。


 ええ、加齢とともに足腰も弱ってくるようでして。

 さて、祇園というところがございます。あそこはね、いろいろ伝統がございましてね。いくらお金があっても一見
(いちげん)さんはお断り・・・ゆうことになっております。どなたかの紹介がないと登楼(あが)られんのですな。まあ、そうゆうとこが一つくらいあってもええなぁと思うんですが。

 歌舞伎役者さんなんかは祇園でお馴染みです。また、梨園というとこは、よそで子供ができても、筋のええ子は跡を継がせるなんてことがありまして、せやから、祇園歩いてますと、何や、妙に歌舞伎俳優さんによぉ似た子供が歩いてたりします。ま、これは冗談ですが。

 何や、祇園自体が、「非日常」て感じがしますな。いっぺんね、米朝師匠と二人だけで祇園に行ったことがあるんです。
 「お前のファンやゆう芸妓がおってな。3人呼んでるから」ゆうてくれはって、嬉しゅうてね。
 まあ、芸妓さんゆうたら、だいたい24、5くらいかなぁって思いますやろ。楽しみにして行かせてもろたら・・・・3人足したら歳、200超えてまんねんで。

 今日は、芸妓さんや幇間(ほうかん。たいこもち)の出てくるお噂でして。幇間の繁八、今日も旦さんが芸妓あげて川遊びのおともでございます。

「旦さん、旦さん。今日は川遊びやゆうのに、船、どんどん下って、海見えてきましたで。こんな船、大きな波くろたら沈んでしまいますで」
「そんなとこまで行くかいな。ああ、こうゆう海の水と川の水が混じりあうようなとこらへんが、ええらしい。
 ほな、ぼちぼち始めよか。船頭さん、ちょっと皆に支度をしてやっておくれ」
「え?旦さん、今日は魚釣りをするんでっか?」
「ああ、せや。こないだ聞いたら、芸妓や皆、魚釣りてしたことないて、ゆうでな」

「そうでっか。そしたらわい、魚釣り嫌いでっさかい、ここで見物さしてもらいますわ」
「そうか。そら、残念やな。今日の釣りはちょっとした趣向があんのに」
「趣向ちゅいますと?」
「銘々が釣り上げた魚の中で一番大きいやつをわしの前に持ってくる。そしたら、わしが差し
(物差し)を当てて寸法を測ってやな、一寸につき一円の祝儀を出そうっちゅう趣向や」
「え?祝儀が出まんの?ほたら何でっか?三寸の魚釣り上げたら三円の祝儀が出るっちゅうことでっか?そらボロい
(うまい話)がな。
 目の下三尺の鯛てなこと言いまっせぇ。目の下三尺やさかい、目の上の頭かて五寸くらいあるやろ。尻尾かて五寸としたら、全部で四尺、え?ほたら四十円でっか?
 こら、ボロい。旦さん、わたい、釣りやらせてもらいます」
「ええ?お前、釣り嫌いなんと違うんかい」
「いや、釣りは嫌いやけど、祝儀は好きでんねん」
「芸妓や皆、竿の扱いに慣れんから、糸釣りゆうて竿使わんと釣ってるさかい、お前もそうしたらどないや?」
「そら、若い舞妓は慣れてへんか知らんけど、あっこらの芸妓や皆、いろんな竿、当たってまっせ。
 いや、わたいは釣竿の扱いはわかってま。
 さあ、来い!どうせやったら、長い魚がええなあ。ウナギ、アナゴ、ハモ、太刀魚・・・こんなとこやな。
 あっ!痛!旦さん!」
「どないしてん?」
「わたい、うっかり自分の鼻ひっかけてしもた!わたい、背ぇ五尺三寸あるさかい、五十三円・・・・」
「自分を釣ったてかい?お前、ちょっとその左手離してみ。ほれ、見い。針落ちたやないか。全く、金の亡者やな」
「あっ!旦さん!今度はほんまにかかった!」

 釣り上がったのは、どくろであった。川に蹴りこもうとした繁八を制して、旦さんが回向供養するよう勧める。

 その晩、真夜中に戸を叩く音が。

「もぉし。ちょっと、ここお開け。ちょっと、ここお開け」
「ええ?どなたさんでやす?こんな夜中に。何や、女子
(おなご)はんの声みたいでっけど」
「あの・・・・・木津川より参りました・・・・・ゆうでございます」
「ええ?ゆうさん、てな方、存知まへんねけどな。明日にしてもらえまへんか」
「あのぉ・・・・・・れい・・でございます」
「ゆう・・・・・・れい・・・?ひえ〜!えらい、すんまへん!えらい、すんまへん!決して悪気があってしたんやないんです」
「恨み言を言いに参ったのではございません。お礼に参上いたしました」
「礼やったら、ひまな時、手紙でもくらはったらそんでよろしのに。そんな丁寧にしてもらわんかて」
「開けていたただけねば、戸の隙間より・・・」 

 どろどろどろ・・・っと鳴り物入りで入ってきたのは、若くて綺麗な女性。せめてものお礼にお寝間のお伽なと、おみ足おさすりするなと・・・との申出に、繁八は気安く一晩飲み明かす。

 翌朝、文句を言ってきたのが隣に住む大工の喜六。

「おい、繁やん、殺生なこと、しないなや(ひどいこと、するなよ)
 この長屋でやもめ
(独身男)ゆうたら、繁やんとわいだけやないか。前から決め(決め事。申し合わせ)がしたったやろぉ?女子連れて来るんやったら、前もってゆうてくれたら、わい、なんぼでも、どっかよそ、泊まりに行ったのに。
 あない、一晩中、いちゃいちゃされたら、わい、寝られへんかったがな。
 そやけど、繁やん。別嬪な女子やったな」
「何や、喜ぃやん、見たんかい?」
「ああ、商売もんのノミで壁に穴開けて」
「無茶しいなや」
「あら、普通の子やないな。どや、出てる妓
(こ。舞妓、芸妓など座敷に出てる妓)ちゃうか?」
「あ、ああ、ああ。普通の子やない。出てる
(化けて出てる)子や」

 実はかくかくしかじかと事情(わけ)を聞かされ、何で魚釣りみたいな退屈なもん皆がやるのか不思議やったが、それが魚釣りの目的か。荒物屋のおじん、三日にいっぺん釣りに行くが、ええ歳して、あのすけべえが!と憤慨する喜六。

 さっそく自分も行くことにする。「安治川や尻無川なんか穴場ちゃうか」と言われるが、大川に船を仕立てる。
 大漁だが、次々魚を捨てる喜六に呆れる船頭。
 あきらめて帰ろうとした時、尿意を覚え、川の中州に船をつけてもらった。と、そこに半ば埋もれたどくろを発見。

 同じように回向供養し、その晩、意気揚々と「お礼」を待つ喜六。

「しかし、何やな。ゆんべ、繁やんとこ来てた女子は、ちぃっと若すぎるし、何や堅苦しそうやったな。
 わいは、やっぱり歳なら、二十四、五。三十凸凹
(30歳前後)で、もっとさばけた女子の方がええな。

 来る時も、陽気に下駄か何かカラコロ!カラコロ!鳴らして、戸ぉがら〜っ!と開けて、
『こんばんわぁ〜!骨
(こつ)やしぃ!』とかゆうて入ってきてなあ。

『ええ?あんさん、どこぞにええ女子がいてるんちゃうのん?あんたみたいなええ男、世間の女子がほっとくわけないわぁ〜。もう!くやしい!つねりまっせぇ!』ゆうて、このわいのももをきゅう〜っ!と。・・・・・って、えらい遅いなあ」

 と、そこに「開門!開門!」という大きな声。見ると、派手な武張った格好の大男。
 「せめてのお礼に参上なし、閨中の伽(とぎ)などつかまつらん!」と大音声(だいおんじょう)でのたまう。
「いややで、あんたのお伽や何て。第一、男同士でどないするっちゅうねん。
 ところで、あんさん、お名前は?」
「石川五右衛門にござる」
「はあ、道理でカマに縁がある」がサゲ。

 南光は袖に引っ込む前に軽快にスキップを踏んでみせた。どこまでも、私はざこばと違って足腰軽快ですよ!とアピールしている感じ。

 まあ、これはもちろん南光がざこばに敵意を持って貶めようとしているわけではなく、米朝の衰えに続き、総領弟子のざこばにも衰えがかいま見えてしまった(開口一番の吉弥もとちった)ので、会場の雰囲気を少しでも盛り上げようという気遣いだったのではないだろうか。

 

 

 


 

 

 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音とかしてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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