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(No42) 上方演芸ホール TV鑑賞記  

 平成19年7月24日(火)、NHKでの放映分。



(1) 桂まん我 「涼み台」

 「涼み台」という落語は聴いたことがない。新作だろうか。

 まん我という噺家も聴いたことがない。若手であまり時間が与えられていないのか、早々に本題へ。

 
 暇をもてあました若いもんがお互いに苦手なもの、怖いものを尋ね合う。

 蛇だのゲジゲジなどの後、「けつね」と言った男がいた。昔きつねに騙された。ここをのぞいてみろといわれて節穴をのぞいていたが、頭の上からふぁさっと時々何かがかぶさってくる。

 それと妙な「かざ」(臭い)がする。

 

 おかしいな?と思っていると「気ぃつけい!」とどやされて我に返った。気が付くと馬の尻の穴をのぞいていたというのである。 

 怖いもの知らずで通っているおやっさんに「何ぞ怖いもんはおまへんか?」「・・・・・そういや、昔ばさん(ばあさん)が家にあるだけの糊を浴衣につけよったが、あん時は強かった(こわかった。ゴワゴワで硬かった)」「そら、こわさがちゃいまんがな」というやり取りを経て、「後にも先にもいっぺんだけ、若い時分に心底怖いと思たことがあんねやが、お前ら、この話、怖がらんと聞けるかな?」という話へ。

 農人橋のところで身投げをしようとしている女性がいたので止めたのだが、「死にたい」の一点張り。若気の至り、少し酒が入っていたこともあり、面倒になって突き放してしまった。その場を去ると、後ろで水音。
 悔やみながらも家路を急ぐと後ろから濡れわらじのような足音が。顔が血みどろな最前(さいぜん。先ほど)の女。
 度胸がすわった若き日のおやっさん、女の前に飛び出し、ここが名高い東横堀じゃ。末期の水は食らい次第じゃと目より高く差し上げた。



「放り込んだんか?」
「わいがはまった」
「おやっさんがはまったんでっか?」
「わいがはまったんじゃあ。拍子の悪い、橋の下につないだった船の角で頭ぶつけて、目ぇからバチバチっと火ぃ出て、その火で足、火傷して熱いの、熱ないの。自分の熱い〜!ゆう声で目ぇさましたんやが、お前らも気ぃつけえよ。やぐら炬燵は危ないぞぉ」
「何や、おやっさん。夢なら夢と、先に断っときなはれ。みな、顔色変えて聴いてんねがな。しゃあけど長い夢でんなあ。それ、みんな夢でっか?」
「いや、ちょいちょい、ほんまのとこもあんねん」
「そら、ややこしな。どの辺が夢で、どの辺がほんまでんねん?」
「いや、川はまって濡れねずみになった思たら、わい寝小便たれ、しててん」
「あんじょう、おやっさんになぶられてんねがな」


 「涼み台」という題がついているが、要は「まんじゅう怖い」の前半である。

 冒頭で、まん我は、芸術祭の新人賞を取ったと言っていた。声質も良く、なかなかまっとうな感じ。


 

 



(2) 桂雀三郎 「親子酒」

 まくらは、様々な酔態を描く。何や、自分のことを言われてるようで、お尻がむずむず。


 酒飲みゆうのは、何や知らん、今日は絶好調や、何ぼ飲んでも酔わんのやないか、と思いがちなんですな。これは、何の根拠もないんですが。
 ほんで、結局ぐずぐずに酔うてしもて、何や訳のわからんことゆうてる人がよういてます。

「ところで、おたく、おうちはどちられすか?」
「あ、あたし?あたし、うちは、ここぉ出まして、タバコ屋の角、左に曲がって、三軒目のこっち側です」
「さよか。・・・・・・・・・・・・え?タバコ屋の角、左曲がって三軒目のこっち・・・・・?って、そらおかしおまっせ」
「何がおかしおまんねん?」 

「そやかて、タバコ屋の角、左ぃ曲がって三軒目のこっちでっしゃろ?・・・・・そら、わいのうちでんがな」
「あ、あんた、何ゆうてまんねん。よお聞きや。タバコ屋の角、左ぃ曲がって三軒目のこっちでっせえ?
 そんなもん、ずっと前からわたいの家でんがな」
「そっちこそ人の家に、何をゆうてんねん!」


「おいおい、おやっさん。ええんか、あこで何や知らん、けんかしてる二人がおんで。止めんでええんか?」
「よろしねん。あら、親子でんねん」


 そうかと思うと、夜っぴて飲んでて、朝になっても飲み続け、また夜も飲む。こんなこと続けてるうちに、何や今が昼間や夜やわからんようになってもた二人連れがおりまして・・・・・

「ああ、ちょうどええわ。こっち歩いてくるあの人に、いっぺんたんねて
(尋ねて)みよ。
・・・・・・あのお、えらいすんまへん。いんま、空にあがってる、まあるい
(丸い)あかい(明るい)もん、おまっしゃろ?
 あらぁ、いったい、お日ぃさんでっしゃろか、それともおっ月さんでっしゃろか?」
「・・・・・・・・・・・わたい、この辺のもんやないさかい、わからしまへん」


 続いては、酔うてる者ほど「自分は酔っていない」と言い、酔うてない者は「酔いました」と言いがちだという噺。

 「だぁれがぁ〜〜酔うてんねん!」雀三郎はそう言ったとたん、斜め後ろにぶっ倒れた。ちょっとやり過ぎって感じ。
 逆に酔っているふりをしている者の所作では、(酔いすぎて)「何が何やらわかりません!」というせりふの調子が珍妙でわざとらしく、また、帰り際、「お土産の寿司折りは?」と尋ねる時の口調がはっきりしすぎていて、やや興ざめ。

 比べては悪いが枝雀師匠だと、ここは、抑え気味に「あ、酔いました」と繰り返し、酔うたというか、参ってしまったという感じを出し、それでいて、ほんと帰り際に、さりげなくお土産はちゃんとチェックするという「しっかり」ぶりを演出していた。

 次に、老若の酔態の描き分け。
 若者は、前へ行こうという思いはあるが、酔ってて足がついていかんので、つい前のめりになって、目線は上目遣いになって、「伊勢海老が税金納めに行く時みたいな格好になります。
 そこいくと、お年を召した方は、落ち着いてまっさかい、逆にやや反身になる」
といって、「親子酒」の親父の方が、家の戸を叩く場面へ。

 迎えに出てきた息子の嫁に、息子の悪口などをぐたぐた言ってるうちに頭ががくっ!がくっ!と垂れて、ついには、頭は地面すれすれに。そしてぐぉ〜っと派手ないびきをかく。ここで、客席から拍手。

 その後で、でこを舞台に至近距離から頭突きするみたいに・・・・ごつっ!

 これまた、枝雀師匠では、だんだん酔って、ぐ〜っと、ぐ〜っと傾いていって、ためて、ためて、最後に、かなりの距離から舞台にごん!とぶつけるんでそこで一斉に拍手がわいたもんだが。

 続いて、「子」の方。

 わけのわからん歌を歌っている。
♪ 一でなぁ〜し 二でなし 三でぇ〜なし ♪で「ろくでなし」まで行き、その後も「七でなぁ〜し・・・・・・・・・・・十でなし、じゅいちでなぁ〜しぃ、じゅに、じゅさん・・・・・・・この歌、終わらへんなあ」というのは枝雀師匠もやっていたが、雀三郎は、えらい元気で、早口で27、28までまくし立てる。

 どうもいかんなあ、と思っていたが、うどん屋との会話の辺りでやたら冴えてきた。

「何しまひょ」
「湯ぅ くれ」
「へ?ええ、おそばでっか、おうどんでっか?」
「わからんか?湯ぅや、湯ぅ!」
「ゆぅ?」
「知らんか?水沸かした湯ぅ!
 東京弁で『湯』!大阪弁で「湯ぅ」。大阪はね、一字のもんでも、伸ばすの。蚊ぁ、とか。目ぇ、とか。歯ぁ。

 毛ぇ。・・・・ないけど。放っとけ!」

 
 足の汚れを落とすのに湯をかけてもらう。
「熱い!」と騒ぐ男に、うどん屋が「じき慣れはる思います」と、酔っ払いの無感覚を見越して平然とかけ続けるところがおもしろい。

 湯の礼として、うどんを頼む。

「ほな、うどん、もらおぉ。百っ杯!」
「そない食べられまへん」
「しやね。ほたら、そのうちの一杯にしとこか。

 あ、うどん屋。こら、あかんわ。箸一本しかあれへん。一本では食われんで」
「いや、それ割箸でっさかい、割ってもらわんと」
「・・・・割りますか。う〜ん」
(と、箸の両端を持ち、折ろうとする)
「そない横に割って、どないしまんねん。短こうて食べられまへんがな。縦に割んなはれ」
「え?この筋ついたぁるとこを割ったらええんか?・・・・・・・わっ!二本になった。こら、ようでけたぁるなあ。おい、うどん屋、こら、あんたが発明したんか?」
「そんなもん、昔からおまんがな」
「・・・・・・・・・・・・愛想のないうどん屋やなあ。割箸を知らんやつなんか、おるかぁ?冗談でゆうてんねがな。
 そこを『へえ、わたいが発明しましてん。おかげで、よお儲かってまっせえ!』とでもゆうてみぃ?わいが『んな、あほな!』ってゆえるやないか。
 ここはボケ続けてもええんやけど、ぼけたら、自分もぼけ返して、つっこむ。少なくともここまでは大阪の人間としての義務やで。
 お前、大阪の人間やないな。どこの学校、出てんねん?」
「どこの学校て」
「大阪では、小学校の3年から、ぼけとつっこみの時間があって、勉強してるんや」
「・・・・・ほんまでっか?」
「うそやがな!そんな学校あるわけないやろ。

 うどん屋、とんがらがし、くれ。とんがらがし、なかったら食われへん」
「へ?」
「とんがらがし、くれっちゅうてんねんがな。出てへんねん、とんがらがしが!」
「・・・・・あ、すんまへん。口あけやさかい、まだ出してまへんでした。へえ、すんまへんでした。どうぞ、とんがらがしです」
「・・・・・・・・・・とんがらがしぃ?とんがらし
(唐辛子)やろ。ちゃんとしゃべれ!
 あれ?うどん屋、振っても出ぇへんで」
「あ、それ”詰め”抜いてもらわんと」
「箸、割れやの、詰め、抜けやの・・・・・。人使いの荒いうどん屋やなあ。
 ううん、取りにくいなあ。
(詰めを歯で噛んで引っこ抜き、横を向いてぷっ!!と飛ばしたので、うどん屋が慌てる)
 これで出るんやなあ。ほれ!へ、へっくしょい!・・・・・ほれ!へっくしょい!」
(と、叩くたびにくしゃみが出る)
「穴が上向いまっせえ。下向けはらんと」
「いっぺんに言え!いっぺんに!詰め抜いて、穴下向けて、叩けって。

 これでええねんなぁ。ほれ!あっ!出た!見てみぃ、うどん屋!とんがらし、出た!」
「そら、出るようになってまっさかい」
「・・・・・・・・ほんま、愛想のないうどん屋やなあ。うそでも客が出た!
(とん!)ゆうて喜んでんねんで(とん!)それを(とん!)、出る(とん!)よう(とん!)(とん!)なって(とん!)まん(とん!)ねん(とん!)って。
 そこをなんでおめでとうございますのひとことも言えんのかなぁ!
(ととととととん!)(言葉の切れ目、切れ目で叩いていく。そのうち、出なくなって「うどん屋、お代わり!」)

「お客さん、やめときなはれ。食べられしまへん」
「何ぃ?お前、食べられへんようなうどん、売ってんのか?」
「いいえな、とんがらしで赤い山ができてまっさかい、辛(かろ)ぉて食べられまへん、ゆうてまんねがな」
「何ゆうてんねん。わいら、うどんを一口つるっと食っちゃ、とんがらしをぱっ!つるっと食っちゃ、ぱっ!ちゅうて"ぱっつる食い"ゆうのんをしてるんや。それをまとめてかけただけや、どっちゅことあらへん。
♪ 赤い山かぁ〜ら 谷底見ぃれぇ〜ば♪そら、『高い山』やて?ほっとけ。

・・・・・・・・・・うどん屋ぁ。うどんがあれへんで?え?とんがらしの下に隠れてるて?
 あ、ほんまや。あ、お前とこのうどんは赤いなあ。

 こんなんな、じんわり食うたら余計辛いねん。ずずっと一息に食うたら、口の中に程好い辛味が残るんや。

ズズ、ズズズズ〜っ!ほれ、見てみ・・・ぴ、ぴや〜っ!!!ひいい、口ん中火事やあ!とても、こんなうどん食べられへん。勘定して。なんぼや?・・・・ほれ。え?つり?かめへん、取っといて。
 わいわな、こういう人間やねん。ゆうことはゆうで。その代わり、することはすんねん。まあ、つりは、おまはん、家を建てる足しにしてくれたらええ。
 何?こんなつりでは家は建てられん?誰がこれで家、建てえゆうたんや。足しにせえゆうただけやないか。また、よばれるわ」

 あとは、よその家の戸をどんどん叩き、「作さんの家は東に三軒向こうや」と言われ、三軒先の戸を叩くと「おまはんの家は、東へ六軒やで」「ええ?わい、東に三軒向こうや言われたんやで」「作さん、あんた、西へ行ったんや」「みな寄って、わいの家持ち歩いてけつかるなあ」と軒並み叩き回る。

 続いて、「酒毒が回って頭が二つも三つもある。そんな化け物に家は継がさんぞ」「誰がいるかい。こんなぐるぐる回るような家」というおなじみのオチへ。


 うどん屋とのやり取りの「ぼけとつっこみ」講座はなかなかおもしろかった。

  


 
 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録画はしてるんですが、きっちりメモはしてませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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