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(No38) 天王寺繁昌亭 鑑賞記 その2 

 平成19年4月28日(土)、午後4時からあべのアポロホールにて、天王寺繁昌亭という落語会が開催された・・・・・・の続き。
 
 



(3) 桂きん枝 「看板の一(ぴん)」

 マクラは大盛況の天満天神繁昌亭も夜席は空いているという話から、ゴールデンウィークに花月なんか行きなはんなや(行ったらだめですよ)という話へ。
 あれ、正月の3日でしたかな。とにかく、場内満員で、通路に新聞敷いて座ったはりまんねん。
 正月の3日でっせえ?その人の1年、あんまり、ようないんやないかなあと思いました。
 まあ、通路には違いないんですが、吉本は平気で「通路席」とか言いますからね。


 ともかく、吉本は詰め込むだけ詰め込みまんねん。
 場内が通路まで一杯になったら、これほんまはあかんらしいんですが、ロビーにまで詰め込みますねん。観れるもんゆうたら、土産物のコーナーだけやのに、同じ4000円でっからな。

 前に、そのロビーまで一杯になったんですが、なんばグランド花月の切符売りのねえちゃんは、
「でや?いけるか?」と聞かれたら、平気で
「入れます」。

 それ真に受けて、おっさん3人が入りはったんですが、そんなもん、どないもならん。さすがに怒って、
「どないなってんねん!いっこも観れんやないか!」とねえちゃんに怒鳴り込んだ。
 普通のとこやったら、えらいすんまへんゆうて、入場料返して、あと、まあ菓子折りか何ぞ添えるとこでしょうが、そこは吉本。全く動じません。
「観れるとはゆうてません。入れますとゆいました」

 この頃、まず花月へ行って、それからUSJに行くとか、京都に行くとか、そうゆうパック旅行のツアーがあるそうですな。
 こないだも広島かどこかの山ん中からツアーで団体さんが来られました。向こうを朝の4時に出られたそうです。朝の4時でっせえ。朝の4時に出ようと思たら、まあ、2時には起きなならん。
 こうゆう団体さんが来られたら、入り口んとこで花月弁当と花月のお茶を渡すんですな。
 今はまあ、普通に「花月のお茶」とか書いてますけど、ちょっと前まで「花月三十二茶」てゆうたんです。ちょうど、その頃「十六茶」ゆうのがえらい流行ってた頃でして。
 吉本の営業の社員が、
「きん枝さん、見てください。これ、三十二茶ゆうて、今流行りの十六茶のちょうど倍ですねん」
「へ〜え。どこが倍やねん?」
「へえ、倍に薄めてまんねん」

 弁当も休憩時間にロビーで食べてもええんですが、やっぱ皆さん、せっかく大阪の花月に来たんやから、ゆうので席に持って入って、幕が開いたとたんに一斉に食べ始めるんですな。
 可哀想なんは最初に出る芸人です。私、袖から見てましたけど、場内の800人が全員下向いて、黙々と弁当食べてるんです。私、何や養鶏場のニワトリ見てるようでしたわ。

 まあ、そない大した弁当やないさかい、何組か見てる間には食べ終えます。おかげさんで、私が出る時分には、だいたい食べ終えたはるんですが、こないだ驚いたんは、私が落語を始めたら、一人の男性がつかつかと私の真ん前に来はったんです。
 やらしい話ですが、祝儀でもくれはるんかなあと思てたら、くるっと私に尻向けて「お茶の無い人!!」
 団体の世話役の人やったんでしょうなあ。
 まあ、そうゆうことにもめげずに噺を続けてますと、まあ皆さんも大体ご想像がつくでしょうが、何せ朝の4時から長いことバスに揺られて来てはります。そこへ、弁当を食うて、腹の皮がつっぱれば眼の皮がたるむっちゅうやつで、場内の800人が、一斉にこくり、こくり。

 吉本の支配人に「どうです?わあっ!って大きな声出す落語でもやって、皆を起こしまひょか?」て聞いたんですが、「そんなことせんでよろし」てゆうんです。
「高いお金使って寝に来てはるんです。それにね・・・・会社にしたら、入場料払
(はろ)て入り口さえくぐってもうたら、後は寝てようが起きてようが、極端な話、生きてようが死んでようがどっちでもええんです」
・・・・・ほんま、えげつない会社ですわ。

 その寝てた800人が一斉に起きるきっかけゆうのがございます。花月ゆうのは漫才何組かと落語。あと奇術とかがあって前半が終了するんですが、そこでいったん緞帳を下ろしまして、その裏で新喜劇のセットを建てこみます。
 準備が整いますと有名な音楽とともに緞帳が再び上がります。♪ プンワカ、プンワカ、プンワカ、プンワカ ♪ それが流れたとたん、場内の800人がびくっ!と頭を上げて、お互いの顔を見ながら「今日の吉本は、落語も漫才もおませんでしたなあ」って。はたいたろか思いまっせ。


 まあ、その花月で落語がだいたい15分。そしたら長〜ぁい休憩に入るんです。だいたい1日2公演でっさかい、もういっぺん15分噺をやったら、一日の労働が終わりです。ええ大人が、これでええんでっかな?
 花月出る時、会社のもんが声かけてくれまんねん。
「お疲れさんでした!」・・・・疲れてへんっちゅうねん!

 それで、毎日まっすぐ家に帰ったりしてると、あいつは芸人として面白みのないやっちゃとか言われまんねんな。
 酒も飲めんようでは芸人としてあかんとか、芸人やったらばくちのひとつもせんことには・・・とか言われまんねん。・・・・・・私ら、全部言われたとおりにしてきました。わたい、2回捕まってまんねんで。ほんで、私らにゆうてた先輩芸人は金も残してるし、嫁さんにも逃げられてませんねん。

 私がばくちを教えてもろたんは横山のやっさんでした。
(横山やすし。西川きよしの相方)
 やすし師匠は、ばくちゆうたら競艇です。自分でもボート乗ったはりましたからね。眼が良かったら競艇の選手になってたてゆうたはりました。
 住之江競艇場に行こうなんて言わはりませんねん。おい!きん枝!住之江銀行行こう!て。
 住之江銀行て何ですねんて聞いたら、大和住友三和富士、偉そうに銀行やゆうて1万円預けて1000円利子つくのんに何年かかるねん。
 そこいくと住之江銀行はええぞ。何せ通帳いらず。はん(印鑑)いらず。わずか3分後には満期になって、1000円が10万にも20万にもなんねや、ゆうてね。

 競艇場にはやすし師匠の車で行きますねんけど、いきなり駐禁のとこにとめてはりまんねん。俺は国際免許証やねんやってゆうたはったけど、どう見ても写真がやすし師匠の顔やないんですわ。「目の色:ブルー」とか書いてますしね。
 いっぺん、やすし師匠は松の木みたいでんなあ、てゆうたことあるんです。何やそれ?ていわはるから、松葉みたいに一つ一つはまっすぐなんやけど、幹自体がいがんでる(ゆがんでる)・・・ゆうたら「うまい!」って。

 ほんで、競艇場行ったら、第6レースか何かでした。今日は1番と3番以外、見やんでええていわはるんですな。1番と3番以外は死にかけの亀にブレーキ付けてるようなもんやゆうて。
 そない遅い生き物おまっか?亀ゆうたら、ただでも、たいがい遅いでっせ。それが死にかけで、しかも、そこにブレーキが付いてまんねんで。
 ところが、スタートしたとたん、その死にかけの亀が速い、速い。確か入ったんが2番と6番で、1番と3番はかすりもしてまへんねん。
 で、やすし師匠に聞いたんだ。何が住之江銀行でんねん、1番も3番もかすりもしてまへんがなゆうて。そしたら、師匠、わいは間違
(ちご)うてへん。けど、選手がヘタ・・・て。

 
で、本題の「看板の一(ぴん)」という噺に入る。

 この噺は、若い衆たちが「ちょぼいち」(サイコロを一つだけ使い、壷の中のさいの目を当てるばくち。落語「狸賽」でしているのもこれ)をしている所で始まる。
 懐の寂しい者どうしでやり取りしていても仕方ないので、小金を持っていそうな者を引っ張り込もうと、ある老人を誘う。

 一度だけでええんです。おやっさんは、こう見えて昔は名の売れたばくち打ちやったとお噂は聞いてます。わたしら若いもんにいっぺんだけほんまもんのばくち打ちゆうのはこうや、ゆうとこ見せてくださいと下手に出て誘うものの老人は断る。

 しかし、「いや、若いもんで寄ってたかって、年寄りをいじめるなんてことはしまへんから」という言葉にむかっと来て、「何?わいをいじめるやと?よおし、そこまでゆうねんやったらいっぺんだけ付きおうたるけど、胴を張らせえ(親をさせろ)と言う。

 そら、わいも耳は遠ぉなったし、目もうとなった。そやけど、まだまだお前らには負けん。
 銭は持ってる。賭けるのは何ぼまでなんてケチなことはゆわん。いくらでも張ったらええ。その代わり、勝負は壷ん中、いっぺんきりや。


 そう啖呵を切られた若い衆たちは、一瞬とまどう。「さあ、張れ」と言われたものの、おやっさんが伏せた壷の横にサイコロが転がっており、一の目を出しているのだ。
 あんな偉そうなことを言ったが、寄る年並みには勝てず、サイコロをこぼしているのにも気づかぬほどボケているのか・・・と若い衆は次々に一の目に張る。中には、「これは兄貴から預かってる商売の金やけど・・・」と言いながら秘蔵の金まで張る奴も出てくる。

 もう張ったか、もうええか?十分確認したうえで、おやっさんは「もうないねんやったら、この辺で看板は取らせてもらおかな」と言いながら、そのサイコロを拾い上げてしまう。
 慌てる若い衆。彼らの抗議にも、

 どこの商売でも看板ゆうのがあるがな。薬屋かて見てみい。表に看板が出て、ほんもんの薬は店ん中にあるやろ。最初から勝負は壷の中てゆうてるやないか。
 わいの見たとこ、壷の中の目は五ぉやな。ほな、開けるで。・・・・・ほれ、見てみい。ほな、この銭は皆、わいの総取りやな。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ははは。何、泣いてんねん。心配せえでも、お前らのはした金なんぞ懐に入れよとは思てへんわい。ほれ、返したるさかい、お前らで勝手に分けんかい。
 なあ。バクチてなもんは怖いもんや。お前らみたいなど素人が手ぇ出すもんやない。どや、わかったか!

 こうおやっさんに怒られて、改心してばくちからすっぱり足洗う・・・・・なんてまともな人間は一人もいてまへん。こんなバクチやってるような連中は、どいつもこいつも思うのは「あ、ええ手やな!」。

・・・・・・・ここまで書いたら、オチは皆さん、想像がつくだろう。
 これはええ手や。自分でもやってみようと思った男が真似をする。「わいも耳は遠なったし・・・」とか言って「お前、わいより年下やないかい。いつ抜いたんや?」とつっこまれたり、一の目に続々と張る相手方に「誰ぞ商売の金とか預かってきてる奴はおらんか?」と念を押したりしたあげく、壷を開けると中のサイの目も「一」やった・・・・・・というのがオチ。

 騙された後、自分でやるところは短めにぽんぽんとする方がいいと思うのだが、きん枝はそこを引っ張り気味だったので、私はダレてしまった。



 
 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音等してませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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