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(No37) 天王寺繁昌亭 鑑賞記 その1 平成19年4月28日(土)、午後4時からあべのアポロホールにて、天王寺繁昌亭という落語会が開催された。
これはアポロビル開設35周年の記念行事かと思うが、ともかくアポロビルと隣接するルシアスビルでの買い物・飲食のレシート1000円以上を貼り付けて応募するものだった。
2通出したら、幸いに嫁さんの名前で出した方が当たった。ペア150組ということで、嫁さんと行くことにした。
(1) 桂福矢 「牛ほめ」
口開けで高座に上がってきた福矢。初めて聴く噺家だ。トップにあがるのだから若手は間違いないが、視線が落ち着かないというか、初々しさがないというか、何か斜(しゃ)に構えている感じがする。
目線というか、全体のたたずまいににじむ反抗的な、どこか世をすねたような雰囲気が、プロレスラーの柴田勝頼に似ている。ちょっと大げさか。柴田の画像は、たとえばここで。
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福矢自身も、何となく自分の「座りの悪さ」みたいなのは自覚しているのだろうか。高座に座ると、しばらく間を置いて、
「・・・・・・落語、やります」。
これで場内が沸き、雰囲気がほぐれた。感覚は悪くないのかもしれない。
こうやって場内を見回しますと、女性の方が多いようですな。
こうゆう席は、演りやすい。
男性が多いと、どうしてもクスミます。それに男性は口を開けて大声で笑わないでしょ。どう笑うか、とゆうと肩で笑う。フフ、フフ、フフゥ・・・・・(と、肩を震わせる) |
そこ行くと、女性は、箸がこけてもお笑いになる年代がございます。(と、場内をゆっくり見渡し)
ま、今日は、だいぶんと卒業生の方が多いようで。
で、本題の「牛ほめ」という噺に入る。
この噺は、アホが、知恵をつけられて親戚(叔父)の所に行き、新築した家をほめてこづかいをせしめようとするもの。
アホは、「自慢の家ほめたら、おっさん(叔父さん)気ぃ良ぉして、こづかい5円ははずんでくれるで」と勧められるが、「え?家ほめる?そら、やめとこ。わい、懲りてんねん」と一度は断る。
実はこのアホ、知恵をつけられる前に自分でもベンチャラ(お世辞)を言いに行ったのだが、「大工の棟梁が二人、てったい(手伝い)が三人で三月がかりや」と自慢する叔父に、うっかり「せやけど燃えたら一晩や」と答えてしまい、こづかいどころかお目玉をくらっているのだ。
まったく、このアホ、チャレンジ精神というかヤマっ気(け)だけは旺盛らしく、「そこまでほめたら、ついでや。あこの牛、ほめてこい」と勧められ、「いや、わい、牛ほめて、えらい目におうてんねん」「何でもやってんねんな」とあきれられている。
アホは、誰かに、牛をほめるなら「色が黒ぉて、骨太い」と言えばよいと教えられ、忘れないよう、何度も何度も繰り返しつぶやきながら、家に行った。
叔父さんの家で、娘さんがお茶を出してくれたのだが、
「『ははは、これがわいの娘や。いたって、おかめ(不美人)やけどな』て、おっさんがゆうたさかい、わい、つい、うっかりして
『いいえぇ、立派な娘さんでんがな。色が黒ぉて、骨太い』て」
「・・・・・・そんなこと、ゆうたん?えらいこと、なったやろ?」
「へえ。娘泣く。おっさん怒る。わい笑う。・・・・・・・・わやや」(と、両手を広げ、肩をすくめる)
さて、詳しく教えられたほめ言葉を紙に書いてふところに忍ばせたアホが、叔父さんの家に行き、それを盗み見ながらベンチャラを言うのだが、読み間違えたり、ふところをのぞきながら言うものだから、「(ほめるものを)見てゆうたら、どないや」と言われたり、本人に聞かせてはいけない内輪話まで読み上げてしまうのが笑わせ所。
「ところで、おっさん、あらええ手水鉢(ちょうずばち)やな」
「家ん中におって、手水鉢が見えるか?庭におりな(ければ)」
「あ、しもた(=しまった)、しもた。庭におりなあかん。
あ、これは、ええ棗(なつめ)型の手水鉢でんなあ。と・・・・・これはおっさんが骨董品屋で30円で買(こ)うたやつやさかい、50円ほどで買いなはったんやろう、ゆうたら、おっさんきっと喜ぶ」
「何をゆうてんねん。気色悪いやっちゃな。買値まで知ってけつかる」
次に、山場の台所へ。自慢の檜の大黒柱をほめた後、
「あら!おっさん、こら、えらいとこに節(穴)がおまっせ」
「兄ぃ。そら、ゆうてくれるな。あの節が気になって、わしゃ夜も眠れんのじゃ」
「わいがええ知恵貸そか?」
「何ゆうてんねん。お前ら、どうせ、埋め木せえやの、柱削れやの、そないなことしか言わんのじゃろう?」
「埋め木したら柱に傷がつく。削ったら柱が細なりまんがな。わいのゆうのんは、そないなことやおまへん。
あれへさして(あそこに)、秋葉さんのお札を貼っときなはれ。火除け魔除けになって、穴が隠れましょうがな」
感心する叔父さんから、言葉だけではあかんと現金を要求し、しかも「2円」と言われたので、今日びの相場は5円。出し惜しむんやったら、こっそり油かけて、火ぃ・・・と恐喝までして満額の5円をせしめたアホ。サービスに牛をほめると言い出し、「やめておくれ。こないだ、お前に牛や言われた娘、あれから、乳が張って、張って」と変な断り方をする叔父さん。
とりあえず「天角地眼一黒鹿頭耳小歯違」(てんかくちがんいっこくろくとうにしょうはちごう。角は天を向き、眼は地面をにらむ。体は黒く、首は鹿のように滑らかで、耳は小さく歯がグイチ(互い違い)になっていること)の説明をして感心されていると、その牛がドサドサドサと大量にやらかす。
「こないほめてもろて、ほんまやったら礼を言わなあかんとこ、こんなむさい(不潔な)もの出して。この穴さえなけりゃ」と言う叔父さんに「この穴にも秋葉さんのお札を貼っときなはれ」というのがオチ。
東京では「穴が隠れて屁の用心(火の用心)にもなります」というオチが多いが、今回のオチの方がさらっとしてて良い。
桂福矢は昭和49年生まれ。平成6年に桂福団治に入門。
(2) 笑福亭銀瓶 「鉄砲勇助」
福矢が高座をおりた。専門のお茶子さんを置いている場合は少ないんで、たいてい、口開けの若手が高座を終えると、自分で高座を片付け、座布団を裏返し、めくり(出演者の名前が書かれた札)をめくる。しかし、福矢はそのまま、楽屋の袖に。そして、小さい(小学校低学年?)、頭の両側で髪をくくった女の子が着物を着て出てきた。
福矢は膝隠しと見台を使っていた。大人のお茶子さんなら、両方いっぺんに小脇に抱えるのだが、何せからだがちっちゃいので、一つ一つ別に運んでいく。
そして、ていねいに座布団を裏返して位置を正し、めくりの所へ。最初から、なぜめくりの横に小さな箱が置いてあるのか不思議に思っていたのだが、その子が踏み台に使うのであった。
代わって元気に出てきたのが銀瓶(ぎんぺい)。
昭和42年生まれで、昭和63年に笑福亭鶴瓶に入門。 |
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今、お茶子やってくれた可愛い女の子いてたでしょ。あれ、実は中入りの後で出てこられる坊枝さんの娘さんなんです。
あんなちっちゃいうちから働かせて・・・・ねえ。どんだけ儲けるつもりなんでしょうか。
私、悪いことしたなあ思たんが、銀瓶さん、見台どないします?て聞かれて、何の気なしに、いや、僕は使いませんゆうたんですけど、そやから、片付けなあかんようになって。
大人のお茶子さんやったらいっぺんに持っていくんですが、ねえ、1回、1回別々に運んで。何や児童虐待してるみたいで、私、えらい悪もんのように見えてるんやないか、と。
さて、皆さん、こちらでお買い物をしたうえで、抽選に当たってここに来られているんですね。まあゆうたら、お金持ちで、しかも運の強い方(かた)とゆうことです。
買いもんゆうたら、私も先ほど、この下の薬屋で買いもんしました。リポビタンD2000ゆうのを買うたんです。普段はただのリポビタンDなんですが、ちょっと疲れてますんでね。タウリン2000ゆうやつで。下の薬屋さん、ていねいでしたで。
「いらっしゃいませ、お客さま!」てね。私、一瞬、メイドカフェかな思いました。お帰りなさいませ、ご主人さま、て。
せやけど、どこでも何で、あないなしゃべり方するんでっかな。
「商品の方(ほう)、お預かりします」て、ゆうんです。商品、お預かりします、でええ思うんですが。
「お会計の方、200円となります」
「おつりの方、お返しいたします」・・・・。どこの方やねん。何やていねいなようで、ええかげんなんですなあ。
ほな、今から落語の方、やらせてもらいます。 噺は、「鉄砲勇助」というホラばっかり吹く男の噺。まずは、北海道に行った時の話。北海道は、ともかく寒い。
「田んぼで鴨が虫かなんぞをつついてますと、はるかチベット、ロシアの方から冷たい風が吹いてくる。そうすると、田んぼの水がいっぺんに凍ります。鴨があれ?と思た時にはもう遅い。足元が凍り付いてまっさかい、何ぼはばたいても、飛べんようになります。
せやから、北海道の鴨猟は簡単なもんや。鉄砲も何もいらん。稲刈り鎌でザク、ザクと刈って、背中の籠ん中に放り込んでいけばええ。
後には、稲の切り株みたいに鴨の足が2本ずつ残る。えらいもんで、春になって、暖こうなると、その足から芽が出て、一羽の鳥になりまんねん」
「ほんまかいな」
「へえ。それがカモメ(鴨芽)」
「また、だまされた。おまはん(お前さん)の話は、うかうかと聞いてしまうよって、たち(性質)が悪い。そやから、おまはんのこと、皆は、千三つてゆうのやで。知ってるか?」
「せんみつ・・・・?・・・・・・・ナハ、ナハ?(せんだみつおの昔のギャグ)」
「情けないな・・・。千ゆうても、まともな話は三つしかないゆうこっちゃ」
そうかと思うと、急に高座で膝立ちになり、フラダンスのような格好で腰や手をゆらゆらさせる。火事の炎を表現しているのだ。
「消防車がやって来て、放水しまんねけど、あ、水が火ぃのとこに届くか、と思たら、その直前でパシッと凍り付いてしまいまんねん。
ほんで、反対側からも放水するんやが、これもツツツと伸びて、もう少し、というとこでパシッと凍り付いてしまう。
あ、これでは火事は消えん・・・・と思てると、えらいもんでっせえ、あまりの寒さに火事も凍りまんねん」(と、ゆらゆらした体をぴたっ!と止める)
「火事が凍るんかぁ?相手、火ぃやでぇ?」
「それが凍りまんねん。そら、きれいなもんでっせえ。あんまりきれいなもんやさかい、わたい、土産にしたろ思て、ちょっとでええねんけど、もらえまっか?て聞いたら、へえ、よろしいで、ゆうて端っこのとこ、ちょっと切ってくれはったんですわ。
で、牛借りて、背中にくくって運んでたら、朝んなって溶けたんか、気ぃついたら、牛が焼肉になってた」
「またや。おまはんの話は、ついうかうかっと聞いてしまう。そやけど、雪もすごいらしいなあ」(と、相手の男も懲りてない)
「とにかく、一晩で屋根の上まで雪が積もってしまいまっさかい、向こうでは、向かいの家との間に節抜いた竹を通してまんねん」
「そんなもん何にすんねん」
「いや、屋根まで雪が降って、往来ができませんやろ。この竹が、まあゆうたら唯一の通信手段でんがな。
この竹で、向かいの家に、お早うさん、とか、元気かあ?とかゆうて、お互いに安否を確認し合いまんねん」
「そら、ええ話やなあ」
「ところが、ほんまに寒い日には、この声が向かいの家に着くまでに凍ってしまいまんねん。お早う!ゆうのんが、真ん中あたりで凍ってしまう。
向かいの家もお早う!ゆうたんが、これも真ん中辺で凍ってしまう。どないやあ?とか、元気かあ?ゆうのが、真ん中で固まって、ふさがってしまう。
そうすると突つき棒でグググと押して、ゴソ、ゴソ、ゴソと向かいの家に落としてしまいまんねん。
そしたら、最初はええんやけど、そのうち、その声が暖炉の火ぃで溶けて、向かいのお早うやら、こっちの元気かあ?やら、そらやかましい、やかましい」 次は、木曾の山中編。
うっそうと木が生い茂る木曾の山中は、
「昼でも、自分の鼻つままれても、わからんくらい暗いんでんねん」
「そない暗いんか」
「へえ。木曾暗い(糞くらえ)ゆうて」と、あんまり品のないシャレをかまして、「一足、二足の履きもん」(計三足で山賊のシャレ)との遭遇へ。
身ぐるみ脱いで置いてゆけと迫る追剥ぎどもに、
「近くにあった、牛ほどもある大きな岩をば、ひょいと小脇に掻い込んで」
「待ちいな。どないやって、牛ほどもある大きな岩を小脇に掻い込めるねん」
「へえ。それが木曾の名物、瓢箪岩ゆうて、こうぉ、真ん中がくびれてて」
「そんなあほな」
「その岩をば、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ」
「岩がちぎれるか!」
「出来立てでしたんや」
「餅やないで」と、まあ、山賊は追っ払ったが、今度は小山のような大きな猪が迫ってきた。
あわてて木の上に登ったが、猪はその牙で根元を掘り返す。ぐらぐら揺れて、ちょうど、その猪の背中に落ちた。ぱっと前を見たが頭がない。それもその筈。後ろ向きに落ちていた。
落ちた拍子に驚いた猪は、すごい勢いで走り始めた。振り落とされたら命はない。
「前を見たら、幸い尻尾があったさかい、これで、猪とわいの体を、こう、ぐるぐる巻きに」
「猪や豚ゆうたら、尻尾は、ほん短いもんやで」
「最初は短かったんやけど、だんだん伸びてきて。
ほんでも、がくっ!と揺れた拍子に手ぇ伸ばしたら、ちょうど、それが猪のまたぐらで、たまたまつかんだもんがおましたんや」
「何をつかんでん?」
「せやから・・・・たまたま・・・・・・・タマタマを」
「何ゆうてんねん。ま、まあ、あないなもんは、たいがい、同じようなとこにあるわな」
「人間も猪も急所に変わりはあるまいと、渾身の力で締め上げた。そしたら、ついに、その大猪も、う〜んと悶絶して、ドターっ!と倒れよった。
そこで、すかさず、猪の前足と後ろ足をば、こう両手に持って、目より高く差し上げて・・・・」
「ちょお(ちょっと)待ちいな。そない大きな猪の前足と後ろ足が両手に持てるかあ?」
「へえ、それが、木曾の名物、猫背猪」(と、前足と後ろ足の間隔は狭く、背中がぐうっと曲がった猪の格好をしてみせる)
「目よりも高く差し上げて、近くにあった岩にど〜ん!とぶつけてやったら、勢いとゆうのは恐ろしい。
ぶつかった拍子に猪の腹の皮がぷつぷつ〜と裂けて、ちょうど産み月やったと見えて、中から小ちゃい猪がようけ出てきて、親の仇!ゆうて、わいの足元つつくんやけど、まだ生まれたてで牙も柔らかいさかい、こそぼうて(くすぐったくて)、こそぼうて」
「ちょ、ちょう待ちいな」
「何匹おるか思て数えてみたら、しし(四四、いのしし)の16匹」
「しゃあから、ちょう待ちいて。おまはん、最前(さいぜん。さっき)何てゆうた?タマつかんだゆうことは、その猪は雄(オン)と違うんか?」
「(逆ギレ気味に)雄ですよ」
「雄の腹から、子供が出るか?」
「そこが木曾の名物、両性具有猪」
ここは「そこが畜生の浅ましさ」などとする演出が多いのだが、「両性具有猪」とゆうのは、あまり良い工夫じゃないなあ。
『桂枝雀 爆笑コレクション 2』(ちくま文庫)の小佐田定雄氏の解題によると、鉄砲というのはホラとか大言という意味らしく、鉄砲を「ゆう助」ということらしい。
で、しかも鉄砲勇助とはこの噺の主人公の名前でもなく、この主人公が、「ほら吹き日本一」の地位を獲得するため挑戦に行く、チャンピオンの名前であるらしい。
この続編というか後半の挑戦編は、現在ではめったに演じられないそうだ。
どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音等してませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
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