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(No34) 米朝・小米朝の会 鑑賞記 その1 

 平成19年1月31日(水)、午後6時開場、6時30分開演。公演場所は京都府立文化芸術会館にて。
 



(1) 桂佐ん吉 「道具屋」

 米朝一門の最年少。ただし彼は高卒なんで、佐ん吉は最年少だが、大卒の後輩がいるらしい。 

「こちらへ来る前に占いの本を見てまいりました。私、山羊座なんですが、今日は大吉と出てました。
 仕事運を見たら、これも絶好調。ただし、『おしゃべりは禁物』と書かれてました」
というマクラで始まる。 

 噺は「道具屋」。

 噺の演出の特徴としては、
(1) 「踏んでみい」(値ぶみをせよ。骨董品の値打ちを鑑定してみろ」に対し「割れまっせ」と答える。
(2) 雛人形の首が抜けるという所で、「おっ、何ぼでも回るな。(少し回し)こんにちわ。(反対に回し)おっ、こっち入り」「落語すな」というやり取り。
(3) 本屋の善さんの後頭部が禿げていると聞き、「あんた、ほんまに本屋の善さん?」「何や、疑り深いひとやな」「ちょっと向う向いて。・・・・あ、善さん!」
(4) 客に「ノコ見せえ」と言われ「ノコ(どこ)にある?」というボケでなく、「かずのこ?」とぼける。
(5) オチも最近は、笛から指が抜けなくなった客に、どれだけふっかけようかと考え、帰りのビール、親へのみやげ、家の修理・・・などと考え、最後、邪魔くさいから、家一軒すっくりこうて(買って)もらおと考えたが、客に逃げられてしまい「家、返せえ〜!」というのが多い。
 今回は珍しく、3円50銭という値を言い、「お前、足元見やがって」「いえ、手元を見ています」というオーソドックスなサゲだった。

 佐ん吉は初めて聴いたのだが、雰囲気が明るく元気があり、何かを持っていると感じさせるものがあった。 

 



(2) 桂歌之助 「書割盗人」

 高座に上がった歌之助は、10年間歌々志でやってきたが、昨年師匠の名前を継いだと挨拶して、盛んな拍手を受ける。

「わたくし、以前は東淀川の方のカルチャーハウスに住んでおりまして・・・ま、いわゆる文化住宅ですが。壁なんか土壁でございます。それもラメ入りの土壁。

 ま、そこではおかしな男と思われてたんやないか、と思います。
 何せ、噺家ということはゆうてまへんでしたから、このとおり、わたしらの仕事はたいてい夜でっさかい、昼間はず〜っと家におるわけです。
 で、夜になったら、大きな荷物持って、こそ〜っと出て行く。
 1人暮らしの筈やのに、妙に話し声がする。こんちわ、まあお入りとかね、会話してる、と。

 まあ、そんな暮らしでしたが、それなりに癒しみたいなもんもありました。
 夜、仕事ものおて
(無くて)ね、1人でさみしぃ酒なんか飲んでると、何せ壁が薄いさかい、隣の家族の団欒が手に取るようにわかるんですな。思わず、家族の会話に相づちうったりして、家族の一員になったような気分になれたもんでございます」というマクラから本題へ。
 やもめが引越しをしたが、前に小さい子供がおったと見えて、壁はえぐれてるし、落書きだらけ。
 それで、部屋一面に白い紙を貼ったが、寝ていても病院みたいで落ち着かない。所帯道具でもあればましだろうが、せんべい布団くらいしかない。

 それで、芝居では、箪笥などの家具は絵に描いてある、「書割」(かきわり)というものを使っていると知り、日頃「絵の心得がある」と言っている甚兵衛さんに、所帯道具の絵を描いてくれと頼みに来たのである。

 絵に描いた道具など使われへんといぶかる甚兵衛はんに、
「わたい、何でも、ある態(たい。つもり)でいきまんねがな」
「何や、そのあるたい、あるつもりゆうんは」
「たとえば、甚兵衛はん、わたいのこと貧乏や、おもたはるでしょ?

(間髪いれず)はい
「そない、あっさり言いなはんな。
 せやけど、わいの親父ね。前は大阪でも5本の指に入ろうかゆう金持ちだしたんや。
 気ぃが良かったさかい、いろんなとこ、無利子、無証文でお金都合したりしたげてました。
 ところが、親父が死んだとたん、商売も左前んなる。そしたら、手の平返したように世話になってた奴らも知らんふりですわ。

 今、おもやあ(思えば)、何で証文の一本でも取っといてくれなんだんか、と」
「へえ、そうかいな。えらい気の毒な身の上やねんなあ」
「いや、そういう”たい”で暮らしてまんねん」
「ええ?何やそれも”たい”かいな」
「へえ、この”たい”で暮らしてたら、おもろおまっせえ。
 こないだもバス乗ってたら、えらい別嬪
(べっぴん。美人)の娘さんが、そこここ空いてんのに、わいの横に座りまんねん。」
「そら、たまたまやろ」
「いや、その娘さん、わいに惚れよったんですわ。
 それが証拠に、『好っきゃあ』て口に出されへんさかい、わいの横っぱら、肘でと〜んと突きよった」
「え?いつ?」
「バスが曲がった時」
「そら当たったんや」
「いや、惚れてまんねん。しゃあさかい、わいも『好っきやでぇ〜』ゆう代わりに、肘でと〜ん。
 そしたら、向こうもと〜ん。と〜ん、と〜ん、と〜ん・・・・バス代は安い!


 呆れた甚兵衛さんだが、引き受けて絵の道具箱を持って、やもめのうちへ。
 「ははあ・・・・こら、部屋ゆうより、箱やなあと呆れる甚兵衛さんだが、さっそく、やもめが次々に注文をつける。

「まず、左の奥から床の間を描いてほしいんだんねん。チマチマせんと、ど〜んと三間(さんげん)の床の間」
「待ちいや。お前奥行き二間ゆうたやないか。そこにどうやって三間の床の間描くねん
「そこ、甚兵衛はんの腕で」
「無茶言いな。ま、半間
(はんげん)の置き床にしとこか。
 なに?黒檀の置き床に、紫檀の花台
(かだい。花器などを置く台)。そこに宣徳(せんとく。明代宣徳期の陶磁器)の置きもんか?」
「後は掛軸
(かけじ。かけじくのこと)でんなあ。あ、わたい、掛軸は花鳥は嫌いでんねん。赤や何や、色がねえ。
 やっぱ、掛軸は山水がよろしな。このわびさびが」

 続いて、やもめの注文を聞きながら描き続ける甚兵衛はん。

「ほな、黒檀の置き床に、紫檀の花台(かだい)、と。
 花台の足は猫足
(ねこあし。真っ直ぐでなく、猫の足のような自然なカーブの台の脚)にしとこかな。
 で、宣徳の置きもんか。そやな、獅子が珠
(たま)を踏まえているとこにしよか。
(筆を持ち替えて)
 こう、目ぇを金色に塗ると雰囲気が出るやろ。と、尻尾はこう、上に跳ね上げると勢(いっきょ)いがええ。

 それと、山水の掛軸ゆうてたな。
 山水やったら、山と・・・・こう・・・・川を描かんならん、と。
 で、山には、こう小さな家、これを亭
(ちん。あずまや)とゆうねん。こうゆうことも覚えとかなあかんで。
 山にはおじいさんがおってなあ。で、川下にはおばあさんが洗濯をしてる、と。

(と、筆を、糊を塗るような刷毛に持ち替えて)
 こう、水を含ませて、こう、な、左右にこうすると、何や”かすみ”がたなびいてるように見えるやろ」 


「うまいもんでんなあ・・・。
 ほな、その左に茶棚を描いてくらはりますか?
 で、茶棚の引き戸がちょっと開いてて、中から黒檀の菓子鉢がのぞいてて、そこに”こしあん”の羊かんが」
「ええ?こしあんて、別に粒あんでも何でもかめへんやろ?」
「いや、わたし、粒あんはあずきの皮が歯ぁに引っ掛かるよって」
「えらい、細かいな」

「で、その横は火鉢に炭がいこってて
(炭に火がついて、よく燃えていて)、鉄瓶(てつびん)がチンチンゆうて沸いてるとこ」
「音までは、よお描かん。まあ、こう湯気が立ってるようにしよか」
「その火鉢の横では猫が居眠りしてる」
「眠り猫か。まるで左甚五郎やな」

「あ、ここ上がり框
(かまち。)やよって気ぃ付けて下さい。

 で、ここにほうきとちり取り」
「それくらい買えよ」

「すぐ買いまんがな。
 ほんで、台所にはへっついさん
(かまど)で、火ぃがぼうぼう燃えて、ちょうど飯が炊きあがったとこを」
「簡単にゆうけど、火ぃ描くんは難しいんやで。こう釜描いたらええんやな」

「へえ、ほんでこっちは水屋で、戸ぉがちょっと開いてて鯛の尻尾がのぞいてるゆうとこを」
「よお、のぞかせたがるなあ」

「水屋の上に、神棚描いてもらえますか。あ、そうそう。榊
(さかき)が枯れんでよろしいなぁ。
 で、その横に、お仏壇描いてもらえますか。で、お父はんとお母はんの位牌をば。え?戒名?何でもよろし。
 それとその横に、私の心の拠りどころ。聖母マリアの絵像を
(と、両手を組み合わせる)
「どんな宗教や」 

「ほな、入り口入って右の壁。そこ下駄箱お願いします」
「これも、ちょっと中のげた、のぞかせとこか?」
「いや、用心悪いよって、閉めとってください。

 ほな、次、衣桁
(いこう。衣紋掛け=えもんかけ。スタンド式のハンガー。細い木を何段かの鳥居の形に組んだもの)を。
 一番上に一反風呂敷
(いったんぶろしき)。次、細ひもと。

 ほんで、仙台平
(せんだいひら。仙台で織られるたて縞の袴地)の袴は衣桁に掛けんと、下にくしゃくしゃぁ〜っとなってるとこを」
「ええ?縞もんをくしゃくしゃにって難しいでぇ?・・・・・う〜ん・・・え、え〜い。こう、くしゃくしゃあぁ〜っと!」
「・・・・・うまいもんでんなあ。
 ほんで、次、踏み台描いてもろて。
 その次、箪笥
(たんす)を一棹(ひとさお)。あ、ゆうときまっせ。箪笥は桐でっせ。
 何せ、桐は火ぃに強い。水に強い。ほんで、持って軽い」
「持たれへんがな」

「あ、それと、長押
(なげし。鴨居の上の水平材)の上に槍を一本描いとくなはるか(描いてくれますか)?」
「槍みたいなもん、描いてどうすんねん?」
「いや、これを見たら、今はこんな暮らししたはるけど、元は槍ひと筋、お武家はんの出ぇかいなと思われる」
「そら、ええけど、そんな高いとこ、背ぇが届かんがな」
「そしたら、その踏み台つこて
(使って)もろたら」
「あほ!使えるか。まだ墨も乾いてへんがな」

「ほんで、箪笥の奥、座敷の奥に金庫描いとくなはるか」
「・・・金庫か。う〜ん。どや、畳の上に札束でも描いとこか?」

「お願いします。
 ほんで、奥の正面とこの壁は、障子があって、その障子がぱあ〜っと左右に開いてて、庭が見えてて、築山
(つきやま)があって、池があって、その向うに倉が三つ立ってて、樹ぃは、松、梅、ひまわり、チューリップ・・・」
 

 と、描くだけのものは描いてもらったやもめ、腹が減ってるのに気付いた。部屋の中では湯は沸き、飯は炊けてるが、何せ書割だから口に入れることができない。
 それで、どこかに飯を食いに出かけた。

 入れ替わるように長屋にやって来たのが、泥棒。
「ここんとこ、商売さっぱりやなあ。・・・・えてして、こんな裏長屋の方が小金(こがね)を貯めてる奴がおったりするもんや。
 おっ、用心悪いな。あこ、ちょっと表の戸ぉが開いたるがな」
と、のぞいたのがやもめの家。

 やもめが帰ってきたので、いったん引き返し、夜中に出直すことになった。

 相変わらず戸締りはされていない。やもめがせんべい布団で寝てしまっているので、こっそり忍び込んだこそ泥。

「おおっ!危ないな。火ぃ付いたまま寝とるがな。
 うわっ!気色悪っ!猫、昼間とおんなじ格好で寝とる!」
「・・・ええ?何やこそこそ声する思たら、うちに泥棒が入りよったんか。・・・・気の毒なやっちゃなあ。
 ま、このまんま、もうちょい寝たふりしといたろ」


「よし、まずはこの箪笥から・・・・・。あや?ん?(と、つかもうとするが空振りする)箪笥の環(かん。丸い持ち手)が持てんがな。
 まあ、ええわ。金庫を、と。・・・・あれ?おぉ?何でつかめんのや?
 おっ、札束や。
(と、泥棒が手を伸ばすが、手が壁にぶつかり)
 あ、突き指した!

 ん?おお?何や、これ、みんな絵ぇかいな?はは〜ん、こいつ、銭がないよって、絵ぇ描いて、所帯道具がある”たい”で暮らしとるんか。
 とゆうて、わいかて、盗人に入って、手ぶらで帰るわけにもいかんでえ。
 こいつが”たい”でいくんやったら、わいかて”たい”でいくで。

 よし、衣桁から一反風呂敷を取って、ここにぶわ〜っと広げた”たい”。

 桐の箪笥から引き出しを出して、こうして、風呂敷の上にぶっちゃけた”たい”。

 風呂敷をこう、結んで、細紐でこう胴ぐくり
(荷物の真ん中辺を縛ること)して、嵩(かさ。体積)がぐ〜っと小(ちい)そなった”たい”。

 ぐ〜っと背負って、あごの下でくくった”たい”。
 重過ぎて、立てん”たい”」

 それを寝床で聞いていたやもめ、何ぼ”たい”でも、持ち主はわいじゃ。すっくり持っていかれてたまるかい、と起き上がる。

「と、手早く袴を身に付けた”たい”。
 細帯でたすき十文字
(じゅうもんじ)に綾なした”たい”。
 手ぬぐいで、きりりと鉢巻を締めた”たい”。
 長押の上の槍を手に取り、石突
(いしづき。槍の尻の部分)をぽ〜んと突いた”たい”。

 と、こう、槍を隆々としごいた”たい”。

 盗人をずぼ〜っ!と突いた”たい”」

 この盗人、なかなかノリがいい。ぐわ〜っと叫んで、横腹を押さえてのけぞって、
「う〜ん、と、突かれた”たい”」
「グリグリグリ〜っと、えぐった”たい”」
「死んだ”たい”」 

 

 初めて聴いた噺でした。実に新鮮。


 
 


 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音等してませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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