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(No28) 京都らくご博物館 【秋】 〜吉朝さんを偲ぶ〜 鑑賞記その1 

 京都らくご博物館と題して京都国立博物館の講堂で落語会が年4回開かれる。
 今回(平成18年10月27日)は秋の会。「吉朝さんを偲ぶ」というサブタイトルが付いている。

 今回米朝師匠が噺はしないものの、吉朝の思い出を語る座談会に出席することになっている。
 あと、千朝雀々が出演し、最後、さすがに「生」は無理なんでビデオではあるが吉朝が一席うかがうという豪華メニュー。

 このらくご博物館、毎回3000円という価格設定で、演者によっては、正直かなり高いなという気がするが、いつも売れ行きはいい。
 というのも、会場で次回の券を前売り販売し、固定ファンが多いのか、そこで相当数売れてしまうのだ。
 インターネット販売のお知らせが出る頃には、いい席はほとんど売れてしまっているのが現状。で、今回も京博からメールが来て、すぐ申し込んだのだが、いつも以上に売れており指定席は全席売り切れ、あと「立見席」なら・・・という状態だった。

 ということで、今回は初の立見席。多分、「立見席」の設定をしたのは今回が初めてだと思う。

 

 



(1) 桂吉坊 「もぎ取り」(軽業)

 お伊勢詣りの旅をしている喜六、清八の二人連れが縁日の見世物小屋をのぞいてまわる噺。

 木戸銭(入場料)は安いが怪しげな小屋で次々にだまされる所までの噺は「もぎ取り」(いったん取った木戸銭は、インチキでも返さずにもぎ取るから)、その後軽業小屋に入り、指で軽業師の足を表現するところが見せ場となる噺まで行くと「軽業」という題がつく。

 本日口開け(もっとも吉坊はトップバッター以外で聴いたことがないが)の吉坊、いつもの自らの童顔をネタにしたまくらもそこそこに本題へ。
 「板血」(鼬)と「九尺」(孔雀)でだまされ、今度は相撲。

「取ったり見たりやて。清やん、これ見よぅ」
「あほか、お前は。今、あんだけだまされたとこやがな」
「そやかて清やん。大体、そない大きな鼬(いたち)やら白い孔雀みたいなもん、最初からおる筈あらへん。そんなん考えたらわかる
「わかんねんやった、だまされなや」
 小屋主に、薄ら笑いを浮かべながら「ずっと正面、ずっと正面」と小屋の奥へと送り込まれ、
「・・・・・・ははは、清やん。何もないわ」。

 結局軽業小屋までたどり着く前に噺を終え「『軽業』の序の口でございます」と高座を降りた。

 後で会場に張り出された演目表でも「軽業」となっていたが、以前も同じ噺を「もぎ取り」として演じていたので、今回も題はその通りにしておく。

 

 



(2) 桂よね吉 「七段目」

「今日は立ち見まで出まして、本当にお疲れ様でございます。席があるのに座れない・・・というのはもどかしいものでございますね。(当日来るのが遅れてるのか、指定席が落語会が始まってもいくつか空いていた)  あまりにお気の毒ですから、あとで椅子でも用意しよう・・・・・なんてことは少しも考えておりません。どうぞ最後までご辛抱お願いします」。(と、客いじり。実際立ち見の人間にすると愉快ではない)

「私も歌舞伎が好きでよく観に行かせてもらいます。
 こないだも中村勘三郎襲名披露というのがあったんですが、26000円でっせ。そこ行くとこっちは国宝が出て3000円。何てリーズナブルなんでしょう。

 私らお金ないからいつも3階席です。そんでも5000円ですからな。

 3階席ゆうたら、役者さんこんなんでっせえ(と、右手の親指と人差し指を少しばかり広げて、小ささを表現)。私なんか、こんなんでしょう?」(と、前列のお客さんに向かって、両手を縦に大きく広げる)

「しかし、何で歌舞伎はあない高いんでしょうなあ。私、思うに、化粧代ちゃうやろかと。

 歌舞伎ゆうと、大向こうから声を掛けますな。屋号ゆうんですか。
 勘三郎やったら、『中村屋!』。あと、高島屋ですか。それと、大丸・・・そごう・・・」。

 「高島屋」というのは実際の歌舞伎俳優の屋号でもあるが、大阪難波にある百貨店の名前でもある。
 「大丸」、「そごう」は難波と同じく大阪ミナミ地域である心斎橋の百貨店の名前。

「同じ掛け声でも関西では関東と少し違います。後ろ半分だけゆうたりするんですな。
 『松島屋』やったら『島屋!』とか。何か「だしの素」みたいですが」。

 そして芝居道楽の息子を愚痴る旦那さんと番頭との会話へ。

「どないしました、あの作次郎は。え?また、芝居に行ってる?どんならんなあ。(どうにもならないなあ)

 こないだも、お前、いったい月のうちなんぼほど芝居観に行ってんねん、毎日行てるんとちゃうかゆうたら、どないゆうたと思う?『いいええ、毎日やてとんでもない。まあ、せいぜい月に二日ほど・・・・・・・は休んでます』やて。
 役者より、ようけ出とんねんがな。どもならんで、ほんま。

 こないだは珍しく『今日はわたくしが店番を〜』とか言いよったんじゃ。口調はおかしかったが嬉しかったがな。
 そんで倅が店番してるとこに、まん悪う(運悪く)来たんが巡礼の親子連れや。いやな予感はしたんやで。
 案の定、倅は巡礼の子供に阿波の鳴門から来たんか、と聞きよった。
 田舎の子供やで、正直に『いいえ、奈良の郡山です』ゆうたら押し問答になって、とうとう、そんな筈ない!ゆうて巡礼の子供の目ぇばん!ばん!と突きよった。

 後は大変やがな。子供は泣くし、親は怒るし。千度(何度も)謝って金包んで、えらい騒ぎや」

「あ、旦さん。向この角から六方踏んでこっち来んのん、あれ若旦さんちゃいまっか」
「あ、作次郎やがな。番頭さん、あんたちょっと向こ行っといてくれるか。いや、あんたがそばにいてたら小言の切っ先がにぶるでな」

 と、気分を落ち着かせるように、タバコを一服つけ、静かな調子で、
「ああ、これは作次郎。えらい遅かったんとちゃうか」
遅なわりしは拙者重々の不覚。さりながら御前に出ずるはまだ間もあらんと、次に控えおりました

「わたしは心配してますのや」
「(女形の声で)そりゃ、私じゃとて
「今のん、お前か?おまはんは、この家を継がなあかんのやで」
枝ぶり悪(あ)しき桜木は、切って接木をいたさねば太宰の家が立ちがたし
「太宰の家やない、うちの家がたちいかんがな」
そのしんぺえ(心配)はご無用ぉ、ご無用!常が常なら、この梶原・・・」

 ついに堪忍袋の緒が切れた旦さんが一発ぽかり!
こりゃこりゃ、男の生き面を〜!」とつかみかかろうとする若旦さんを番頭が後ろから
「若旦さん、やめなはれ!あんさんが悪い!」と組み止める。

誰かと思えば、この家(や)の番頭やい!親父!晦日に月の出る里も闇夜があるから、おびぇ〜〜てろい!(覚えてろ)」
「やかましわ!はよ二階上がれ!生涯降りてくな!」

 我に返った若旦那。「番頭・・・・・・・ごめん」と、可愛く首を横に傾ける。
 そして「しゃあけど・・・・盛り上がったな」と両手で軽くガッツポーズ。

「何ゆうたはりまんねん。はよ二階上がりなはれ、二階へ」
お前は料亭の仲居か。お二階へ、お二階へって
 しかし、この二階に上がる梯子段見たら思い出すなあ」
「何をだんねん」
「何をって、八百屋お七やがな。人形振りでやんねん。
『あの太鼓が鳴る時は、町々の木戸も開き、吉祥寺にも行かるるとのこと〜。打てば答ゆる櫓(やぐら)の太鼓ぉ〜』。ホッ!トッチチリトッチチリ・・・・。何段か上がったら落ちてくんねん。ズルズルズル・・・・」
「背中さすりまひょか」

 と、旦那が「何やっとんねん。二階くらい普通に上がれんのか」と怒る。
 ようやく二階にあがった若旦那、
「良かったなあ。三段目の返し。松島屋。片岡仁左衛門かあ」と、また芝居の真似事。

 旦さんは、丁稚の定吉を呼んで注意させようとするが、定吉がまた芝居がかりで「なに御用にございまするう?」とやったもんだから、
うちゃ化けもん屋敷か。まともな奴はおらんのか」と嘆く。

 二階に上がった定吉は、若旦那が芝居に夢中になっているので、普通に声をかけても聞いてくれないと、芝居口調で止めに入る。

芝居の真似をやめればよし。やめぬなんぞとぬかしたら、とっつかめえて(とり掴まえて)、(だん!だん!)ひっつかめえて、(だん!だん!)返答わあ?さあ〜、さあ〜、さあさあさあさあ!何と、なあんとぉ〜お!
「・・・うまいがな、定吉」
 派手な鳴り物入りの定吉の台詞に場内からもやんやの拍手。

「大ぉ〜手を広げてぇえ〜。そ〜ぉれえ!」どん!どん!どん!二階で立ち回りが始まり、下で騒ぎを聞いていた旦さんのキセルが怒りでぶるぶる震えだす。

「定吉、芝居しよ。役者が足りんで難儀しててん」
「何ゆうたはりますねん、若旦さん。下で親旦さんが怒ってはんのん聞いたはりませなんだんか?・・・・で、何やりまんねん
「七段目やろか」
「ええ?そやかて若旦さん、あこ、ようさん役者出まっせえ」
「しゃあから、お軽と平右衛門の場やったら二人でいける。お前お軽やったらええ」
「え?わてお軽やらせてもらえまんの?
 そら嬉しいんでっけど、わたいお仕着せの木綿もんでっせえ。こんなゴツゴツしたお軽いてへん」
「後ろの箪笥の三段目開け。そこに妹の長襦袢入ったんねん。
 かまへん、かまへん。わいもちょいちょい着て、踊ったりしてんねん
 そうそう、ええお軽や。しかし・・・下見たらお軽やが、上見たらお猿やなあ。
 その手拭いで姉さんかぶりして。よっしゃ。
 で、わいは平右衛門やさかい、なり(服装)は、こんでええけど・・・。定吉、後ろから親父の葬礼差し(そうれんざし)取ってくれ」
「あきまへん、若旦さん、これ本身(真剣)でっせえ。
 若旦さん、芝居に気ぃ入ったら抜きはるから。切れまんがな」
「こっち貸し。抜いたりするかいな」と格好をこしらえ芝居に入る。

「よお売られた。でかいた(でかした)、でかいた」
「ほたら兄(あに)さん、叱ってやないかい?」
「この兄は、誉めておるわい。誉めておるわい」

 この辺はお軽が郭(祇園一力茶屋)に身売りしたことを指しているようで、安心したお軽は大星由良之助(仮名手本忠臣蔵における大石内蔵助の役名)から身請けの話が出ていることを話す。

 下地からの馴染み(以前からの付き合い)でもなく、勘平の女房とも知らずに遊女を身請けしようとするとは、「いよいよ本心放埓、主の仇を討つ気はねえに極まったか」(茶屋遊びに興じているのは、世間の目を欺くためではなく、本気で遊蕩しているのであり、主君の仇討ちをする気がないとわかった)と嘆く兄。
 と、お軽が
「兄さん、あるぞえ、あるぞえ」
「あるとは何が」
「高うは言われぬ。もそっとこちらへ」と、耳打ち。

「すると何か?その文、残らず読んだか?」
「残らず読んだその後で、互いに見つめる顔と顔。あ、じゃら、じゃら、じゃらつき出して身請けの相談」

 平右衛門は妹の言葉を反芻して、はっ!と気付いたように、
「読めた!」
「これは兄さん、びっくりするわいなぁ」
「久しぶりに会うたこの兄の、頼みを聞いてくれまいか」
「兄さんのお頼みとはぇ〜?」
「頼みとゆうわなぁ・・・」
「お頼みとは、えぇ?」

 段々、若旦那の目が据わってきて、腰の刀に手をかけ、にじり寄って来る。
 実はお軽は仇討ちに関する密書を盗み読んでしまい(それで、兄平右衛門に、大星は仇討ちする気があると告げた)、それに気付いた大星が秘密がばれるのを恐れ、お軽を身請けした上で口封じで殺そうとしていると平右衛門は考えた。
 そこで、兄自ら妹を斬ろうとしているのである。
 若旦那の様子に怯え腰が引ける定吉。
 と、「妹!われの命は、兄がもらった!」と、腰の刀を抜いて斬りかかる。
 必死に逃げる定吉は、梯子段から下へ転がり落ちる。

「おや?何ぞ上から赤いもんが落ってきたで。何や、定吉やないかいな。目ぇ回してるで。
 ちょと、水持てきたり。あ、そうそう、(と、水を口に含んだかと思うとゴクリ!)
 あ、飲んでもた。もう一杯持ってきて。あ、よっしゃ。それ!」

 今度は、口に含んだ水を、気付け代わりに、旦さんが定吉の顔に霧吹きのようにかける。息をふきかえし「私には勘平さんという夫のある身」
「あほ!丁稚に夫があってたまるかい。何や、てっぺんから落ちたんかい」
「いいえ、七段目」

  よね吉というのは今日初めて聴いた。顔は安田大サーカスのリーダーのようだ。なかなかうまい。
  しかし、吉弥小米朝、よね吉とこれをやる噺家は誰も歌舞伎好きで芸事上手なのだろうか。
 よね吉は(弟子だから)吉朝の演出を引き継いでいるのだろう。
  鳴り物が多く入る点、二階の若旦那を止めに入る時の定吉の台詞など、先日聴いた小米朝の「七段目」と微妙に違う点がおもしろかった。

  あとは細かい点だが、最後、介抱する旦さんが気付けの水をうっかり自分で飲んでしまうというのは(おもしろいのだが)サゲにたたみかけていく所では無駄なギャグだなと思う。


 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音等してませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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