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(No276) 第33回堺市民寄席 桂米朝一門会 鑑賞記その2  
          

 平成23年10月7日(金)、堺市民会館大ホールで開催された。



桂 米團治 「稽古屋」

 登場時、髪に「寝癖」ついてるなぁなんて思いました。

 
 御曹司でございます
 伝統芸能で、親が偉大・・・・海老蔵さんの苦労がよぉ分るんですが、もっと大変なんは香川照之さんでしょうねぇ。

 年齢がいってから伝統芸能の世界に行ったら大変や思いますよ。

・・・・・・歌舞伎の世界にもざこば」兄さんは、いてるやろうし・・・。

 私ね。ええかっこしぃなんです。周りは、そこが気に障るようなんですが・・・・。

 外国行く時、飛行機乗りますね。ワインとか頼むんです。
「ワイン、プリーズ」とかゆうてね。
 そしたら、向こうが訊くんです。「レドワ?」とかね。
 多分、レッド オア ホワイト とかゆうてんねやろけど、分らんのです。
(注 米團治は「レッド アンド ホワイト」って言ってたけど、多分間違い)

「レドワ?」
「え?」
「レドワ?」
「・・・・・・・・
(あいまいに笑う)

 ニューヨーク1週間一人旅とか、昔、してんですけどね。

 日本に帰る時には「ニューヨーカー」になりたいんです。

 帰りの飛行機、スチュアーデスさんに「ニューヨークタイムズ、プリーズ!」とかゆうてね。英字新聞なんて読まれへんねけど、持ってる。

 で、朝食のサービスの時間になりました。
 見たら、ちょっと前の人がしゃれたもん食べてるんです。
 クロワッサンに、トロピカルフルーツ。バナナとかね。
 ああ、あれ軽ぅてええなぁ思てたんですが、飛行機の中でその人の後は、みんな「アメリカンブレックファスト プリーズ」ゆうて、ごっついバタートーストとゆで卵ゆう感じ、普通のん頼んでました。

 で、私の番が来て、スチュアーデスさんがね。訊いてくれたんですけど、ちょっと「ええ格好」して、
(英語で)「あんまりお腹がすいていない。だから、果物くらいで、トロピカルフルーツなんか・・・」とか言うと、私の席の前に来たスチュアーデスさんは「邪魔臭いなぁ」なんて感じを漂わせながら、バナナを1本ちぎってボン!と机に置いた。それっきり。

 ざこば兄さんならね。トレー、がぁ〜っ!と開けて「ねえちゃん!これや!」とか言わはるんやろけど。・・・・・・・・・よぉせんのです、ええ格好しぃやから。

 ということで、習い事の話になり、「恋は思案の外にして」という台詞(恋愛は理詰めのものではない)を紹介。これがオチに通じるので仕込んでいた。 

「お、喜ぃさんやないか。どないしてんねん?」
「いや、ここんとこ忙しゅうて」
「仕事で忙しいなら結構やないか」
「いや、仕事で忙しいんやのぉて、色事で」
「え?色事で忙しいて、そないもてるんか?」
「いや、もてるんやったら、その娘
(こ)と一緒におったらええから楽やけど、もてんさかい、次々追いかけなあかんから。どないしたらもてます?」
「昔から芸事の一つもでけたらもてるてゆうで。唄とか踊りとか」
「踊りやったら、でけますけど」
「え?花柳か、藤間か?」
「いや、そんなんやのぉて、琵琶湖の奥の方の、ホタル踊り。西日本で、うちのお師匠はんと私の二人しか踊れまへんねん。
 まず、着物をすっぱり脱いで・・・」
「ああ、そらアッサリしてええな。私は男のくせにジャラジャラ着物着て・・・ゆうのは、あまり好きやない」
「ふんどしもみな脱いで・・・・」
「そら、ちょっとアッサリしすぎやけど」
「身体に墨塗って、けつにロウソクかましまんねん。ほんで羽をパタパタすんねんけど、けつのロウソク落としたらあかん。この兼ね合いは難しゅうて2年はかかる」
「・・・・この先に小川市松さんゆうお師匠はんがいてはるから、そこへ行きなはれ。ただ、手ぶらではあきまへんで」
「手ぶらであかなんだら、割り木でも提げて・・・?」
「喧嘩に行くんやない。『膝付き』ゆうものがいりますねん。まあ、ついでやから、私が立て替えときますわ。こんなんも裸では持っていけん。袋に入れて、『束修』て買いときますわな。

 で、名前やが、こんなんは本名やのぉて、俳名(はいみょう。いわば芸名)ゆうのを書くんやが、おますか?」
「へえ。親父の俳名が釈○○院○○居士・・・・・」
「・・・・・・・・そんなこっちゃ思たわ。そら、戒名や。

 私が昔使てた俳名が一二三(ひふみ)ゆいますねん。芸事が一歩ずつ上達するように・・・ゆうてな」

   そんな会話を経て、稽古屋で、格子戸越しに中をのぞいているシーンにつなぐ。現在は、子どもさんへのレッスン中。

 「『り』で上げまんねんがな!」とお師匠はんが子どもを叱るシーンでは、「『利ぃ上げぃ』て、ここ稽古屋やのぉて、質屋かいな」とつぶやく。この「利上げ」とは、元本は返せないが利息分だけでも返して質草を流さないようにすること。

 「お辞儀しなはれ。いや、お尻出すんちゃうの。腰を折る。腰を折んの!」と言うお師匠はん、喜ぃ公は力が入りすぎて、「格子」を折ってしまう。

「あら、あら格子折ってしもて。何か用事ありまんのん?用事あんねんやったら、表から入って。用ないんやったら、行っておくれやす・・・・・って、格子2本持って入ってきやはった。気色悪・・・・・」

「あぁた、わたいが出すもん出さんさかい、冷とぉ扱いまんねんやろ?ほれ、この通り!取ってけ、泥棒!」
「え?甚兵衛はんのご紹介?せやったら、こんな気ぃ使
(つこ)てもらわんでも・・・」
「要らんの?さよかぁ〜。もうかったぁ〜」
「あんさん、今日はお稽古して帰りなはんの?ほな、もろときまひょか。

 あんさん、ご陽気やから踊りでもしまひょか?お下地は?ある?藤間?花柳?え?ほたる踊り?そんなん聞いたことないけど・・・・。え?裸で墨塗って?・・・・・甚兵衛はんも、えらい人紹介してくれはったなぁ。

 ほな、手ほどき、いきまひょか?♪うぅめぇ〜は〜さいぃたか さくらは まだかいな♪」
「・・・・それ誰がやりまんねん」
「書いてますやろ」
「う〜〜 めぇ〜〜 わぁ〜〜 さぁ〜〜 いぃ〜〜 たぁ〜〜 かぁ〜〜」
目の検査やないから、切ったらあかん
「♪うぅめぇ〜は〜さいぃたか♪」
「う〜めぇは〜さい〜た〜かぁ」
「♪さくら は まだかいな♪」
「さくら は ・・・・散ってもた」
「ちゃいますがな。
(口三味線で)チトンチトトン・・・・・入らんかいな?」
「どこへ?」
「ほな、きっかけ出しますわ。チトンチトトン・・・・・おい!」
「あ!びっくりした!いきなり、おいって。おいとお前の間柄になったんか思て。こら、今晩酒呑んで帰れるなぁ思た」
「・・・・・もう、よろし。まだ、お子たちのお稽古終ってへんから、ちょっと奥で待っといてもらえます?
 皆さん、今日からお仲間にならはる一二三さんです」
「ああ、さよか。どうぞ、よろしく。ささ、こっち、おいなはれ」
「何ゆうてまんねん。わたいは、あんたらとはちゃいまっせ。わたいは、お師匠はんの横で聴かせてもらいまんねん」
「ほな、おはなちゃん、いきまひょか。はい、お辞儀して・・・・あら、あら。お袖からお芋さんが出てきたえ。え?芋菊で買うた?それでは稽古ができまへんから、お師匠はんがお稽古の間、預かっといたげます。

 はい、お辞儀して、はい!上見た、・・・目がさめた・・・・あら?何やの、急にワーワー泣き出して。何?耳貸して?もう、ここでゆうたらええのに。・・・何、何?え?今日来たおっちゃんが?私のお芋を食べてます?ま!」
「あはは、ちょっと、小腹がすいて・・・」

「もう!」という感じで、横の喜ぃさんを手拭いでパシパシ叩く。

 そして「泣きな。後でお師匠はんがお芋買(こ)うたげますから」となだめ、稽古を続ける。

「・・・・・・もう!お師匠はん、ほんまに怒るしぃ!何やの、今度は急にゲラゲラ笑い出して。何?また、耳貸して?何て?今日来たおっちゃんが?鉄瓶の上に草履乗せたはる?ええ!」

 濡れた草履を干すために鉄瓶の上に乗せた喜ぃ公に呆れ果てたお師匠はん、喜六に「あんたは、何のために来なはったん?」と訊かれ、「おなごにもてるため」との答えに「そら、あきまへんわ。恋は指南のほかでおます」がサゲ。

 踊りのお師匠はんの所作は、さすがに上手い。ちょっと馴れ馴れし過ぎるというか、軽い感じはしたが。

 


桂 南光 「素人浄瑠璃」

 中トリは南光。
 

(直前の高座を努めた米團治を)一門の若旦那でございます。

 私ら、あんなん、できません。

 お父さん・・・・・・やと、思うんですが、米朝師匠が人間国宝でっしゃろ?
 で、お母さんが普通の女性やない。大阪松竹歌劇団、OSKのトップスター駒ひかる。ほんで、踊りのお師匠はんで若柳吉古錦
(きちこきん)。サラブレッド、DNAがちゃいまっからな。私ら、父親、千早赤阪村の木こりでっからね。

 初めて踊り見てもろた時(その時の踊りを再現してみて)「あんた、ロボットか?」言われました。 

 噺家ゆうのは、落語だけやってたらええんやのぉて、お囃子とかでも、お三味線は下座のお姉さんがいてはるけど、太鼓、鉦、笛は前座の噺家がやってるんです。

 もともと、台詞を節つけて語るのんを浄瑠璃と言いまして、ですから常磐津とか義太夫も浄瑠璃の一種なんですが、関西では明治、大正の時分にえらい義太夫が流行りまして、それで義太夫がその辺の代名詞となって、義太夫そのもんも浄瑠璃とゆうたりします。

 落語ではね、笑うんでも、あはははって普通に笑いまっしゃろ?義太夫はとにかく大層なんです。冷静に考えたら、どうみてもおかしい。

「ふぅ〜ふう〜」・・・・これ、笑ってまんねんで。「ふぅ〜ふう〜・・・・・はぁ〜はぁ〜・・・・・・だは!だは!だははははは!!!」・・・・・・・・あほや。

(場内、大爆笑で) おたくら、こんなん好きでっか?

 呑んでる席でね、こんなん語りたがる人がいてまんねん。名前は言いまへんけどね。カラオケは、まだよろしいねん。5、6分で終わりまっしゃろ?義太夫語ったら、短くて30分でっからね。

 その人ゆうのは・・・・人間国宝。もう分ってまいまんな。今はね、だいぶん弱ってこられたんで。7、8年前まではよぉ語られました。

 どこでも語れるゆうわけじゃないんでね。太(ふと。義太夫専用の太棹の三味線)の三味線のひける芸妓はんがおるとこでないと語られへん。大阪やと堀江、京都では祇園のお茶屋ですな。

 ですから、落語会でも危ない会場ゆうのがあるんです。大阪やと厚生年金会館、京都やと南座。ある時、京都の南座で米朝一門会があったんですけど、ざこば兄さんが中トリやったんで、中入入ったとたん、「お先に!」ゆうてしゅっ!と帰ってしまいはった。

 私も帰ろう思てたんですが、米朝師匠から「お?帰るんか?残念やなぁ。お前のファンゆう芸妓が3人待ってんねんけど」

 私、思わず傾いてしまいました。

 しやけど、その座敷行ったら・・・・・芸妓3人足したら200歳超えてまんねんで!普通、芸妓ゆうたら二十四、五か、三十でこぼこ。行ってええとこ四十て思いますやろ?

 その座敷で、何とか話が浄瑠璃とか太棹とかに行かんように必死に話をつないでましてんけど、途中で一人が「わたい、おしっこ行ってきますわ」て・・・・。そんなんいちいち言わんでええっちゅうねん!
 ほたら師匠が「おい、ちょっと付いていったれ」

・・・・手ぇ引きながら、私つくづく思いました。こら芸妓遊びやない、ただの老人介護やと。

 で、帰ってきたらもう、太の三味線継いで、音合わせしてまんねん。ああ!もう手遅れや、思いました。
 ほたら、また米朝師匠がクサイ芝居をしまんねん。「え?あんた、おいなはったんか?」って、最初からおったっちゅうねん!

 それで、その後は七転八倒ですわ。これも修業かな?思て・・・。
 まあ、何ちゅうか、人は自分より弱いもんを集めてこうゆうことをする傾向があるんですな。


 蜀山人が、うまいこと詠んでます。(素人。しろうと)(玄人。くろうと)ぶって、い顔して(き。俗に「奇(黄)な声」)な声を出す、と。

 

「ああ、ああぁ〜〜・・・・・ぎゃおぉ〜〜〜!!!
 うん、今日は喉の調子がええなぁ。

 あの、これ!襖ぶち抜きで客席をこさえてくれてんのはええけどな、座布団が5枚しか出てまへんやないか?
 倉から、あるだけの座布団出しといておくれ。

 今日は、うちの町内だけやのぉて、評判聞きつけて、そこら中の町内からこぞってやって来る・・・・・・気がしますのじゃ。うん、うん。

 ああ、ああぁ〜〜・・・・・ぎゃおぉ〜〜〜!!!

 食事はどないなってる?ん?万作に頼んだ?うん、よっしゃ、よっしゃ。仕出しも上で頼むで。お茶受けは?こないだ、あら、誰が頼んだんや、堅い、丸いせんべいやったさかい、みんな、バリバリ、バリバリやって。おちおち、語ってられへんかった。今日は?羊羹?夜の梅?そら、よろしい。

 ん?どないしたんや?お花?お前、呼んでへんで、どないしたんや、洗面器なんか持って。何?旦さんがえらい苦しんでおられるから?あほ!何ゆうてんねん。

 お〜 おぉ〜 お〜〜 ぎゃおぉ〜〜〜!!!・・・・・・・絶好調やないか

 今日、知らせにやったのは誰じゃ?手代の久七?おう、それなら安心じゃ。こないだは丁稚の定吉やったさかい、うかっと提灯屋に知らせるのを忘れよった。それ以来、会うたんびに、旦さん、こないだはうちだけお知らせがのぉて、旦さんのお浄瑠璃を聴かせていただくことができませんでした。ほんまに口惜しい、取り返しのつかんことでございました言われて困ってたんじゃ。

 ん?帰ってきたんは久七か?でや、提灯屋んとこには行ってきてくれたか?」

「へえ、旦さん。かねがねお聞きしてたんで、真っ先に行ってまいりました」
「でや、提灯屋、喜んでたやろ?」
「はい、提灯屋さん、ちょうど仕事中でしたんやが、今晩、旦さんのお浄瑠璃の会でおますゆうたら、『え〜〜!!』とゆうなり、持ってた提灯、バタ〜っと落として・・・・」
「喜んでおるのじゃ」
「この長屋に住まわしていただいてるおかげで、あの旦さんのお浄瑠璃をば、何べんも、幾度となく・・・・聴かせていただけるゆうのは・・・・・・ほんまに・・・・ありがたいにも程がある、と」
「ほな、提灯屋さんは来るのじゃな」
「それが三か町から祭礼の提灯の注文がいっぺんに来まして、夫婦揃うて夜通しせんととても間に合いませんで。何せ、祭礼のこっちゃさかい、ここに届けて、ここに届けんとゆうわけにいかん。旦さんのお浄瑠璃、まことにけっこうなんでございますが、やはり楽しみごと、道楽でございますさかい、商売をほってまで・・・とはいきまへんさかい、ということで、今回のところだけっきゃっ!・・・失礼させていただく、というこってして」
「・・・・・そうか。そらな、商売ほってまで、というわけにはいかん。そら、提灯屋さんのゆうとおりや。所詮は道楽、遊び事やさかいな。しかし、不運な男やな。さぞかし、がっかりしてるやろ。・・・せや、お前さん、後でな、提灯屋さんとこ寄ってやな、力落とすことない、後日、日を改めて、さしで、じっくり語ってあげるさかいに、とこうゆうてきなはれ。まあ、提灯屋もそれで何とかなるやろう。

 豆腐屋さんは?」
「豆腐屋さんは、でおます。ここも厚揚げ、焼き豆腐、がんもどきの注文がいっぺんに二百も三百もまいりまして、こら、夫婦で夜通し仕事せんと、とても間に合わんと。

 まあ、厚揚げや焼き豆腐は、作った豆腐を揚げたり、焼いたらしまいなんですが、がんもどきが、こら大変でして。山の芋をあたりまして、人参、きくらげ、ごぼう、しその実などを入れまして、最後、銀杏を二つずつ、にゅ〜っと・・・・」
「誰が、おまはんにがんもどきの作り方を習
(なろ)てまんねん?で、結局、豆腐屋さんは来るのかい?」
「え?せやさかい、商売のこってっさかい、今回のところだけっきゃっ!・・・・失礼させていただくと」
「金もん屋の佐助はんは?」
「へえ、金物組合の寄り合いがあるそうで、今回のところだけっきゃっ!・・・失礼させていただくと」
「甚兵衛さんは?」
「おかみさんが臨月でして」
「ええ?あこ、確か、先月子ども生まれたゆうてへんかったか?毎月生むんか?森田の息子は?」
「へえ、森田さんとこは、京都に仕事で出張で」
「手伝い
(てったい)の又兵衛は?」
「へえ、又兵衛さんは観音講の導師でして。明日早く立つさかいに、今日は早くに休ましてもらうゆうことで、何せ信心事のこってっさかい、今回のところだけっきゃっ!・・・失礼させていただくと」
「・・・・・何で明日の朝、早く起きたらあかんのじゃ?裏長屋の連中は?」
「へえ、裏長屋のご一統は、長屋に死人が出ましたさかい、夜伽、お通夜をせなあかんゆうことで、今回のところだけっきゃっ!・・・失礼させていただくと」

「・・・・・誰が死んだんや?」
「え?何でおます?・・・・・・・・困ったな、そこまで考えてなかった。・・・・・・ああ、あのひょろひょろっとした男・・・」
「ええ?あの若い男?そら、おかしいな。何でて、夕べ風呂で会
(お)うたで」

 旦那は、結局町内からは誰も来ないのだな?と久七に確認する。

 久七は「いかがなさいます?ということは、今晩の浄瑠璃の会はお流れでございますか?」と問うのだが「まあ、せっかく用意したんやさかい、今日は店のもんだけに語って聞かすと、しよか?」と返す旦さん。

 「これは、つらいぞ・・・」と兜の緒を締め直した久七っとん。番頭さんなど主だった者の病状を説明していく。


「ほな、杢兵衛は?」
「へえ、杢兵衛どんは、脚気でございまして、旦さんの浄瑠璃、いくら何でも足、投げ出して聴く訳にはいかんので、今回のところだけっきゃっ!・・・・失礼させていただくと」
「・・・・・うちゃ、病人ばっかやなぁ。たひちどんは?」
「たひっどんは、結膜炎でございまして・・・」
「ちょっと待ちぃや。耳が悪いさかい浄瑠璃が聴けんゆうなら分らんこともないが、何で結膜炎が・・・」
「いや、そこでおます、旦さん。何せ、浄瑠璃ほど目に悪いもんはないそうでして。思わず身に力が入って、ぽろっと出る涙ほど結膜炎に悪いもんはないそうで、ドクターストップがかかっております」

「うちの家内は?」
「奥さんは、と申しますと、『今晩、旦さんのお浄瑠璃の会がおます』とゆうなり、『今日は、何や朝から胸騒ぎがしてました』とおっしゃいまして、先ほどぼんと一緒に故郷
(さと)にお帰りになりました」
「お竹は?」
「血の道でして」
「・・・・・お前は?」
「は?」
「お前はどうなんじゃとゆうてますのじゃ!」
「い、いえ、私は、こうして町内の各おうちに知らせに参りましたので・・・・・何とかそれでお許しを・・・・」
「おまはん、どこぞ悪いとこでもあるんか?」
「・・・・・人のことばっか考えとって、自分の分は思いつかんがな

 あの・・・・・残念ながら達者で」
「・・・・・残念ながら達者とは、何ちゅう言い草じゃ!このバチ当たりめが!」
「・・・・・・・・・すんまへん。つい、口が滑ってしまいました。・・・・・・わたくし、身体は、どこも悪いとこ、ございません。

 13の時から、こちらに奉公にあがらせてもらいました。
 これまで旦さんに何のお返しもでけんままです。

・・・・・・・ひょっとしたら、こんなこともあろうかと、朝、親元に手紙を書きました。

 へい。私はこれまで風邪ひとつひいたことのない丈夫な身体。何とか持ちこたえることができるかも知れまへん。
・・・・・この私の身体一つで事が収まるやったら・・・・・・・語んなはれ、何ぼでも語んなはれ!

・・・・・・・・・お母ちゃ〜〜〜ん! 」


 「寝床」のくだりまで行かないので「素人浄瑠璃」。

 旦さんの「咳払い」が思いっきりな感じ。以前、「あくびの稽古」「それでは、もらい湯のあくびっ〜いぃ。フォォ〜〜!」と叫ぶことを批判的に書いたが、似たような感じ。

 


 

 どうも、お退屈さまでした。殴り書きのメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。  
 



 

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