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(No26) 堺市民寄席 桂米朝一門会 鑑賞記その2 平成18年10月17日(火)午後6時30分より堺市民会館大ホールにて開催された、恒例堺市民寄席の桂米朝一門会の鑑賞記その2。
(3) 桂小米朝 「七段目」
高座につくなり、
「桂七光りでございます」
すると「光れよ!」という掛け声がかかる。
「何せ国宝の管理が大変なのでございます。
骨折もねえ、周りは寝ゴザは滑るよって危ない、とはゆうてたんです。ただ、本人は聞きませんねん。
『夏は寝ゴザやあ!』ゆうてねえ。で、ゴザで滑ってあのとおりですわ」
マクラは、ごくあっさりと済まし、芝居道楽息子に手を焼く「七段目」という噺に入る。
親父さん(旦那さん)が、呼んだのに来ないせがれを叱ると、
「遅なわりしは拙者、重々の誤り」 |
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情けのうて涙も出んわ、と嘆く旦さんに、
「おいたわしや、親父どん」
あほ!二階に上がっておとなしゅうしとれ、と怒られ、
「そりゃ、わたしじゃとて・・・・」と女形の声。
あまりのことに思わず手をあげた旦さん。息子は「痛っあ〜。何もどつかんかて・・・」と一瞬素(す)に戻るが、血が出たことに気付くや、すぐ芝居がかりになり、
「かぁああ!これはこれは、男の生き面を!」
殴りかかろうとする若旦那を必死に止めようとする番頭に、
「誰かと思えば、この家(や)の番頭」と、次々に芝居のセリフ。出典を知っていたら、もっと楽しいのだろうな。
二階に上がる梯子段を見て、八百屋お七になりきる息子。人形振りもお手のもの。
「チャンチャカチャンチャン チャチャンカチャンチャン」と「エンタの神様」の小梅太夫のようなお囃子を口ずさむ。
梯子段を何段か上がっては、滑り落ちるさまを「トッチチリ トッチチリ ズルズルズル・・・・」と再現する。
二階に上がった若旦那は、すぐさま芝居にのめりこむ。
「わいは市川団十郎が好っきゃなあ。ちょっと鼻声でなあ。ほはひはんへ〜(おかみさんへ〜?)」
五段目山崎街道の場。お軽を売り飛ばした与一兵衛が斧定九郎に刺される場で、
「人殺し〜い!」
旦さんは二階を見上げ、ほとほと呆れた表情で「ぼちぼち始めよった・・・」と嘆き、丁稚の定吉を呼ぶ。
「なに御用にございまするぅう?」
「ばけもん屋敷かいな、ここは。まともな奴はおらんのか。これ、定吉。二階で倅が騒いどるさかいに、ちょと行って静かにするようにゆうてきなはれ」
二階にあがると、若旦那は両手を突き出し、必死の表情で走り回っている。五段目は猟師の勘平が出てくる場で、獲物の猪の気分で走り回っているのだ。
定吉は六段目の千崎弥五郎のセリフで気を引く。
嬉しくなった若旦さんは、五段目をやっていたとこ、お前が六段目で止めたさかい、七段目一力茶屋の場をやろうやないかと誘う。定吉も大の芝居好きで、すぐに乗る。
お軽役の定吉には妹の長襦袢を着させ、自分は親の葬礼差し(そうれんざし。葬礼時の儀礼用の刀)を「あきまへん、それ本身(真剣)でっせ。若旦さん、芝居となったら、夢中になって抜くさかい・・・」ととどめる定吉を「そんなことするかいな」といなして、腰にぶっこむ。
「久しぶりに会うた兄の頼み、聞いてはくれまいか」
「兄さんのお頼みとはえ〜?」
「頼みというはなあ・・・・」
「兄さんのお頼みとはえぇ〜?」(目が据わってきた若旦那に怯えて、腰が引け気味になる)
「頼みというはなあ・・・・・妹!そちの命、兄がもろうた!!」
・・・と真剣を振り回す若旦那。
命からがら逃げ回り、二階から階段を転げ落ちる定吉。
「どないしたんや。二階から何ぞ赤いもんが落ちてきたで。何や、定吉や。目ぇ回しとる。これ!しっかりせえ!」
「私には、勘平さんという夫のある身・・・・」
「丁稚に”夫”があってたまるかい。しっかりせえ!どないしたんや。てっぺんから落ちたか?」
「いいえ、七段目」・・・というのがオチ。
なお、旦さんが、定吉がお軽を演じてることを目ざとく察し、「七段目で落ちたんか」「いいえ、てっぺんから落ちました」というオチもある。
(特別) 桂米朝
小米朝が引っ込んで、次はざこば師匠かあ、とか思っていたら、再び顔を出した小米朝に支えられて姿を見せたのは・・・・・・・米朝師匠である。
場内、感嘆の声と万雷の拍手。
高座に座った師匠が、ちょっと照れたような表情で場内を見回す。
またも、場内は万雷の拍手。
そして、高座でぼそぼそと話し始める。
「(手で、胸のギブスを触りながら)
まだ、具合悪いことは悪いんです。
しかし、まあ、ちょっと短い噺でもさしてもらおうか、思うんですが。
噺も短いのんは右向いて、左向いて終わりというのがあるんですが、これが難しいんですな。 |
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『鳩が何ぞ落としたんちゃうか
『ふ〜ん』
・・・・・・・こんなもんで(高座)おりるわけにはいかん。(場内拍手)
『お前、何か落としたんちゃうか』
『へ〜』
『暗闇で何してんねん』
『し〜!』
『やってんのか』
『うん』
まあ、こんな噺ばっかしてても、いけまへんが。耳の遠い人の噺・・・・。
『おい、せがれ。今、そこ通ったん、裏の源さんちゃうか』
『え?何ゆうてんねんな。あら、裏の源さんでんがな』
『え?そうかあ。わいはまた、裏の源さんか思た』
耳の遠い人が、河を渡ろうと思て、向こう岸の人に聞いた、ゆう話。
『お〜い、ここは渡れまっかあ〜?』
『ええ?向こう岸の奴、何ぞ聞いとんねんなあ。あいにく、わいは耳が遠いんじゃ。かなんなあ。
お〜〜い!わいは耳が聞こえんのじゃああ!』
『うわあ、教えてくれたはるわあ。しゃあけど、わいは耳が遠いからなあ。水がどの辺まであるか、教えてもらうだけでええんやがなあ。
おお〜〜い!!手まねで教えてもらえんかああ!』
『えええ?まだ何ぞゆうとんなあ。まだあきらめとらへんのかいな。かなんなあ、ほんま。
わいはなあ、耳がなあ、耳が遠いんじゃあ!』と耳を指差す。
それを見た男、『あこまで深いんじゃ、渡れへんわ』」
と、ドン!ドン!と太鼓の音が入り、お茶子さんが米朝師匠を迎えに出てきたが、師匠が立ち上がろうとしないので、慌てて引っ込む。
しばらくして、代わって小米朝と雀太が「国宝の回収作業」に来たのだが、米朝師匠は小米朝を振り返り、
「もう一つ、短い噺したいねんけどなあ」。
いたずら坊主が、恐る恐る「もうちょっと遊んでもええ?」と聞いているような表情がおかしかった。何か涙が出そうになった。思い切り拍手をした。
「○んぼ、○もりの噺・・・・こんな噺は、なんぼでもあるんですが(師匠は今やこの辺の、いわゆる「放送禁止用語」にはあまりとんちゃくされない)
『おい、そこの、や、や、や、や矢立なんぼや?』
『や、や、や、ややや、矢立でっか?』
『真似すな!!』
何ぼでもあるゆうたけど、さあ、となると出てこんもんでんなあ・・・・。
思い出しかけてんけど、忘れてしもた・・・・・・・」
今度こそドン!ドン!と太鼓が鳴って、小米朝と雀太に両脇を支えられて米朝師匠は袖に引っ込んだ。場内は万雷の拍手である。
私の左斜めのおぢさんも、ハンカチを目頭に当てていた。泣いてたのかもしれんし、結膜炎かもしれん。
どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音等してませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
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