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(No27) 堺市民寄席 桂米朝一門会 鑑賞記その3 

 平成18年10月17日(火)午後6時30分より堺市民会館大ホールにて開催された、恒例堺市民寄席の桂米朝一門会の鑑賞記その3。




(4) 桂ざこば 「子はかすがい」

 苦笑いしながら高座にあがってきたのは、ざこば。

「何でもありでんな。わたいも早よ年取りたいわ。
  しゃあないですな。痛んでんのか。しゃれなんか、まじなんか。わかりまへんねん。
 何せ81(歳)ですからな」と、口では米朝師匠のことをぼやいてみせるが、顔はとびきり嬉しそうなのは言うまでもない。

「子はカスガイ・・・ゆうてもわからんとあかんから持ってきました。(と、本物のカスガイを場内に見せる)ちょっと後ろの方(かた)は光って見えにくいかもしれまへんが、まあ、木と木を留めるホッチキスの針みたいなもんですな。まあ、何でもわからん言葉が多くなってきました。そのうち、『おい、へっついさん(台所のかまど)、持ってきて』ゆうたり、『おめかけさん・・・・これは私のんですが・・・』とか言わなあかんようになるかもしれまへん」
と、マクラは短めに切り上げた。
「出ていかしてもらいます!しゃあけど、とらちゃんは松島の女の人にいじめられたらかわいそうやさかい、連れて行かしてもらいます」
「おう、かまへん。連れて行け!」
「それと、すんまへんけど、この金づちだけ持って行かせてもらいます」
「そない汚い金づちどないすんねん」

「とらちゃんが大きなってお父はんのこと聞かれたら、お父はんは酒飲んだらぐうたらやったけど、素面(しらふ)の時は日本一の大工さんやったって教えたげたいさかい、これだけ持って行かせてもらいます」
「・・・・・・いやみなこと言うおなごやな。早よ出てけ!」

 どうやら、松島新地の女にいれあげたぐうたら親父(大工の熊)が、糟糠の妻と愛児を追い出すことになったようだ。
 それから時は流れて、大工の熊に仕事を頼んでいた和泉屋という大店(おおだな)の番頭さんが、堀江に柱が入った(柱に使う木材が入荷した)ので見に行ってくれと頼みに来る。

 昔から熊とは知り合いだったらしく、思い出話になる。
「で、あの松島のおなごとはどないなってん?」
「いいええ、あないなおなご、家に入れても家の仕事は何一つしよりまへん。朝はいつまでも寝くさりよるし、飯の一つも炊くわけやない。ほんで、ちょっと叱ったら『あんた、わたいには何もせんでええから』ってゆうたやないか!ってえらいふくれて。ほいで、知らん間ぁに男つくって、どこぞへ行ってしまいよりました。へえ、もう、こりごりです」
「どないや、そないなると前のおかみさんの良さがわかったんやないか?」
「・・・・・・おはな。今思たら、ほんま、ええおなごでした。せやけど、今頃そんなことゆうてもしょうおまへん」
「どや、嫁さんのこと思い出すか?」
「いや、今さら嫁はんのことは思い出しまへんけど、とらこ(とら公。息子のとらちゃんの愛称)のことはちょいちょい思い出します。
 そうでんなあ。別れたんが六つの時。あれから二年やさかい、ひょっとしたら八つになってるかも知れまへん」

 と、そこへ近所の子供たちと夢中で走ってきて、熊とぶつかった腕白坊主。それは何と息子のとらちゃんだった。
 番頭さんは、熊さんを連れて堀江まで行くつもりだったが、息子とつもる話もあるだろうと気を利かせて先に行く。

「とらこ、お前元気にしてたか?」
「ああ、おとうはん。元気にしてたで。どないや、おかあはんの家、ほん近くやさかい、家行こ」
「そんなん・・・会われへんがな。それより、ど、どや、おとうはんは、お前のこと可愛がってくれるか?」
「ええ?おとうはん、何ゆうてんねん?」
「ちゃうがな。・・・・新しいおとうはんはお前のこと可愛がってくれてるかって聞いてんねがな」
「・・・・・はは〜ん。いまの家の家主(いえぬし)はんも、おかあはんに『新しい旦那さんとこ後添え(のちぞえ。後妻。再婚の勧め)に行たらどないや』ってゆうてはった。そしたら、おかあはん、『前の飲んだくれで、もうこりてます』ってゆうてたで」
「ええ?ほたら、おかあはん、まだ一人か」
「おとうはん、えらい嬉しそうやな」
・・・・・と、息子のとらちゃんは、なかなかこまっしゃくれており、「松島のおなごはどないなった?」などとも聞く。
 熊さんは、とらちゃんが近所の子とけんかをした時、向こうの母親に「しつけがなってない。てておやがいてないからや」と毒づかれ、おはなさんが「くやしい、くやしい」と泣いていたと聞き、胸を痛める。
 なお、「子別れ」という噺では、額を傷つけられ、相手の家に文句を言いにいこうとしたが、仕事をもらっているお得意さんと知り、息子にあきらめてくれと諭して悔し泣きする場面があるが、それよりはさらっとした演出だ。

「とらこ、お前、うなぎ好きか?」
「うなぎ?好きや!焼き豆腐と煮(た)いたらうまい」
「そら、頭のとこやろ。ちゃう、胴のとこやがな」
「胴は食べたことがない」
「そうか。お父ちゃんなあ、今日はこれからちょっと用事があるよって、あかんねん。その先に鰻屋があるやろ。そこの二階で明日の今時分、待ち合わせをしよ。・・・・・おかあはんにゆうたらあかんで。男と男の約束やで。
・・・・・・・・・・そや、とらこ、これ」
「え?おとうはん、50銭やで。わい、つり銭持ってへんで。え?いらん?前やったら、2銭くれ、ゆうてもないゆうてたのに」
と、こづかいまでもらったとらちゃん。
 家に帰ったとらちゃんは、母親に糸巻きを手伝うよう命じられ、握りしめていた50銭玉がばれ、問い詰められたが「男と男の約束」で黙秘する。

「そらお母ちゃんはお前にぜいたくさしてやられへん。しゃあけど、せやゆうて人のお金に手ぇ付けるような子ぉに育てた覚えはない。頭出し。ほんまのこと言わんのやったら、この金づちでお前の頭どつく(たたく)し。お前も痛いやろけど、お母ちゃんは胸が痛い。この金づちでどつかれんのは、お父ちゃんにどつかれてんのと同じことやで」
 いくら「男と男の約束」でも金づちで頭をどつかれてはたまらない。とらちゃんは、父親と偶然出会ってこづかいをもらったこと。松島の女とは別れ、酒もやめて、まじめにやっていることを話す。
 おはなさんは、とらちゃんに「おとうはんの新しいおかあはんは、どんな人やねん?」と尋ね、とらちゃんは「おとうはんが一人やゆうたら、おかあはん、えらい(すごく)嬉しそうやな。おとうはんもおんなじやったで」とまぜかえす。
 とらちゃんは、「もう、これもゆうてしまお」と明日、鰻を食べに誘われていることもばらす。翌日、おはなさんはとらちゃんにのりのきいた服を着せて送り出し、自分も落ち着かない。鼻のあたまにおしろいをぱたぱたさせてみたり、鰻屋の前を行ったりきたり。それに目ざとく気付いたとらちゃんが「おかあはん。二階におるねん。あがっといで!」と声をかける。きまり悪がっていたが、再三の誘いに、二階の座敷にあがってきた。二年ぶりに差し向かいになった夫婦。

「お久しゅうございます。・・・・・元気やったか。昨日とらことバタッ!と会うてな。・・・・元気やったか。昨日とらこと、そこでバタッ!と会うてな。・・・・・元気やったか」
 妙に他人行儀であったり、同じことの堂々巡りでなかなか本題を切り出せない。しかし、意を決したように、
「・・・あ、あかなんだらええねんで。あかなんだらええねんけど、わいのためやない。わいはこんなことゆえた義理ちゃうねんけど、とらこのためにな・・・(汗がふきでるのか、しきりに扇子をぱたぱたする)とらこのために・・・わいともういっぺん、やり直してもらうわけにいかんやろかなあ」
「・・・・おおきに。わたいも至らん嫁でした。えらい生意気ゆうて、気に障ったやろうに、そないゆうてもろて嬉しいです」
「え?やり直してくれるんか?おおきに、おおきに」
「いえ、うちの方こそおおきに」
「何ゆうてんねん。わいの方が・・・」
と、息子が、
「おかあはん、おとっつぁん。わい、ちょっと席外そか?」
「何ゆうてんねん。せやけど何やなあ。子はカスガイとは、よおゆうたもんやなあ」
「え?わい、カスガイか?せやから、おかあはん、わいの頭、金づちでどつこうとしたんか」

 ざこば師匠は、もちろん外見は思いっ切りの「おっさん」である。しかし、師匠の演じるおかみさんは可愛いなあ。で、旦那の熊さんも可愛い。

 

 



(5) 月亭八方 「秘伝書」


 8時に中入りで、再開は8時15分。
 月亭八方というと全く米朝一門とは無縁のように思いがちだが、月亭可朝の弟子だから孫弟子にあたる。枝雀の弟子の南光と同じ立場なのだ。

「米朝師匠の代演なんて大それたことはできませんので、ほんの時間稼ぎということでお付き合い願います。
 米朝師匠ねえ・・・・・・。根がしゃべりなんでしょうな。今日かて別に高座あがって噺する予定でもなかったんですが。
 私も早いもんで、58(歳)になります。もし私が商社マンや銀行マンやったらもう終わりですからな。良かった。商社や銀行に行けなくて良かった。
 私ら団塊の世代です。小さい頃は野球ばっかりしてました。これがプロ野球とか行ってたら、30や40にもなると引退ですからな。良かった。下手で良かった。
 親に感謝、感謝の日々であります。大阪に生んでもろて良かった。これは選べませんからな。これがひょっとタイにでも生まれたら、死ぬまで暑いですからな。もし、母親がパリジェンヌやったら。わたい、フランス語しゃべれまへんし。

 四国、九州に生まれた子ぉは、『僕はがんばって勉強して大阪行くねん』て言いますからな。その点、がんばらんでも大阪におるんです。ありがたい話です。

 今、マータイさんゆう人が『モッタイナイ』ゆう言葉で有名になってますな。びっくりしますな。外国人の方に『モッタイナイ』ゆう言葉を教えてもらうとは。
 昔は二言目には『もったいない』ってゆうてましたでぇ。うちのおかんから『もったいない』を聞かん日はなかったです。おかんにノーベル賞でもやらんといかん。

 昔は勉強道具もそうそう買うてもらえませんでした。それで、昔は葬式ゆうと、あわおこし(お菓子の名前)と、ノートか鉛筆を配るゆう家が多かったです。そやから『お母ちゃん、鉛筆買うてえやぁ』てゆうたら、『待っとき!裏の田中のおばん(おばあさん)がそろそろ・・・・』
 あれって、待ってるとなかなかいかんもんでっせぇ。何とのう、鉛筆やノートの欲しい子供らが、田中さん家に、様子うかがいに集まってくるんですな。そしたら、いきなり、当のおばんが窓ガラッ!と開けて『鉛筆ぐらい親に買うてもらえ!』・・・・まあ、そういう時代でございました」

 八方師匠は「始末の極意」をやるつもりやったけど、米朝師匠がおととしやったはるから別のんやりますと「秘伝書」という噺に入る。
 昔は、こっそり物陰で「裸の二人がからんでる写真」を売りつけ、こっそり見たら大相撲の写真やったとゆうのんびりした時代だったというマクラから、夜店でも食べ物屋と違い、本屋は人を引きつけるのが難しいという話につなげる。

「こん中にスリがおる!!今、動いた奴がスリやで」と言って、通行人の足を止め、
「今日は親の命日や。儲けようとは思てへん。今日は、この本、タダで持って帰ってもらうで。
 この本には、一つき100円で食べられる方法が書いたぁる。どないや、今時分、一つきはおろか、一週間でも食費が何万とかかる時代やで。それが、この本には何と一つき100円で食べられる方法が書いてある。
 ただで飛行機に乗って外国に行ける方法。これ、どうや。海外旅行で何がたこ(高く)つくかゆうて、飛行機代が一番たこつく。そこが、ただで飛行機に乗れる方法がちゃあんと書いてあるねんで。
 それから、あんたなんか、どないや。おなごにもてたい、もてたいと思てるんと違うか?そうゆう人には、若い女性にキャーキャー騒がれる方法。これもちゃんと書いたぁる。
 それから、どや、わずかな資本でがっぽり儲ける方法。こうした秘伝がぎっしり詰まった本。約束どおりタダでお分けしたいんやが、残念なことに10冊しかないんや。」と誘い、 希望者に手を上げさせる。
 もちろんサクラが仕込んであるので、希望者は定員を超え「そしたら、しゃあない(仕方ない)。うらみっこなしで、この箱に500円入れたもんから持って帰ってもらおか」とライバル意識をあおり、「はよ買わんと、なくなってしまう」とあせった男が金を出し、「大事な本や。人に見られたらあかん。こんなとこで開けたらあかんで。家帰って、一人になってからこっそり見いや」と知恵をつけられる。

 わくわくもので本をめくる男。
「なになに、一つき100円で食べられる方法・・・・。答えは次のページ。どれどれ・・・・・・。ところてんを食え。えええ?そら一突きやがな。字ぃがちゃうがな。一月100円ちゃうんかいな。
 あ、せやせや。ただで飛行機に乗って外国に行ける方法。これさえ書いたぁったら、500円のもとは取れるで。それどれ・・・・・・答えは次のページ。・・・・・・・・・パイロットになれ・・・・・・・。え、ええっ〜〜???

 こらおかしいで。ああ、若い女性にキャーキャー騒がれる方法。そや!これや!他は何でもかまへん。若いおなごにもてるんやったら、他はどうでもええ。なになに、答えは次のページ・・・・・・こればっかりやな。裸になって女学校に行け。それで、教室に入れ。若い女性にキャーキャー騒がれるって、そら騒がれるけど警察行きやがな!
 あか〜ん。だまされたぁ〜。虎の子の500円取られてしもたぁ。あ、そや。まだ、わずかな資本でがっぽり儲ける方法ゆうのんが残ってる。頼むでえ。これだけでも、書いたあったら何とかなる。頼む、頼むで。なになに・・・・・・・・・・・この本と同じ本を作って売れ」

 

 

 



(6) 桂南光 「ちりとてちん」

 南光は以前も一門会で「ちりとてちん」を聴いた。ざこばといえば「お玉牛」、南光といえば「ちりとてちん」って感じがする。
 演出のポイントというと、
(1) 料理番組で試食しても「まずい」とは言えない。しかし、私はおいしくないのにうまい!とは言えないので、「しゃれた味ですねえ」と言った時はまずいと思ってくれ。
(2) 旦さんのお誕生日で今年64歳。ええ?どない見ても63歳。 

(3) 茶碗蒸し?あない固いもんが蒸したら柔らかなりますか?え?冗談でんがな。どうです?今の冗談。え?むっ!と来た?
(4) あなご?田んぼにおる?あら、いなご?
(5) ぎんなん?どんなん?こんなん?
(6) 毒消しでわさび、梅干。
(7) あるようでない名前?長崎名物「あるよでない」?そのまんまやなあ。
(8) 白菊?しょうもない!べたべたして、おいしもない。おいしもないけど、入れるんやったら、いっぱい入れなはれ。(く、く、くと呑んで)甘っ〜!さむいぼ出るわ!とても呑まれへん。もう一杯!
(9) 「『ちりとてちん』のニセモンは『本家』と書いてまんねん」「『ちりとてちん』のニセモン?そこまで言うかあ?」
 てなとこだろうと思うが、ほとんど以前に聴いた通り。よく言えば安定してる。悪く言えば・・・・・・・ま、とりあえず今日は米朝師匠が聴けたから何でもいいや。
  

 

 



 どうも、お退屈さまでした。いつものことですが、録音等してませんので、聞き違い、記憶違いはご容赦ください。

  
 



 

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