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(No259) 第四回 さん喬・松喬二人会 鑑賞記 その1
平成23年7月30日(土)、大阪市立こども文化センターで開催された落語会の鑑賞記。
桂 福矢 「阿弥陀池」
福矢は桂福團治の弟子。高座に上がって、開口一番、いつものギャグ。
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すぐ済みます。
業務連絡、先しときます。携帯電話、電源切っといてください。昔、今はもうないですけど、角座ゆう劇場出てて。漫才の劇場で合間に落語やるんです。
前のお客さん、携帯で大きな声で、
「最悪。漫才聴きに来たら、落語やっとんねん。え?おもんない。聴く?」
(と、携帯電話を舞台の方に)
こんなん、マシな方です。
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最悪なんが、携帯での会話が落語より面白い時。
「何?隣の山田さんとこ、奥さんの留守に旦那が女引っ張り込んで浮気してるとこに、奥さんが急に帰ってきた?
裸の女追い掛け回して、包丁振り回して、殺すの殺さんのって暴れてる?分かった!今から帰って止めるわ!」
劇場の客、みな、一緒に出ていってしもた。
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福矢は一所懸命とか熱演ってタイプじゃなくて、ちょっと斜に構えた芸風。
今日は、さらにもっちゃりとしたというか、ゆっくりと、何かダレた感じで噺を進める。
しかし、それがなぜか、だんだんジワジワと笑いを呼んでくる。
「聞かん(効かん)筈や。ぬかに首や・・・・・・・・・・笑い」
「笑えるか!」
「十三で柔らかい餅食べた」(柔道の修業をして、柔の心得がある」
「生麦、生米、生卵・・・・」
「ん。ゆうなぁ」
「ちゃうがな。そうそう、生兵法は青びょうたんの元」
「心猫・・・・ちゃう、心犬、心豚?あの・・・長い動物おるやろ?」
「ニシキヘビか?」
「心ニシキヘビ・・・・・ちゃうがな。鼻の長い動物」
「天狗か?」
「心天狗。ちゃうって。せやないがな。こう、鼻が長ぉて、耳が大きゅうて。四足で、キバがあって、鼻をこう上げて、ぱぉ〜んって鳴く」
「・・・・・・・・お前そこまで分かってたら、気づくやろ」
「こんな話、聞いたか?ってゆうてんねんがな!」
「せやさかい、今、お前に聞いたっちゅうてんねんがな」
「・・・・・・・・聞いたらあかんがな」
「おう、誰か思たら隣り町のアホやないかい」
「・・・・わい、アホで通ってんねんな」
「ウソや、ウソや。わい、こんなことゆうて、この辺歩いてるねん」
・・・・・・・このような何気ないギャグの一つ一つが、何ともおかし味がある。
ただ、仕草は下手ですな。歩く場で、片膝ずつの上下ではなく、両膝そろえたまま、前に傾いたり、後ろにのけぞったりするので、歩いてるようには見えない。
船、乗ってんのか!!とツッコミたくなった。
高座が終ると、走るような勢いで袖に消えていった。 |
柳家 さん喬 「三枚起請」
リーフレットに舞台番・笑福亭生寿とあったので、座布団やメクリの世話をしていたメガネの人が彼なのだろう。
さん喬は、座る前に少し座布団の位置を直した。少しお気に召さなかったようだ。
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ここ数日、東京の方じゃ涼しい日が続いてまして。このまま秋になってしまえばいいのに。
何ですか、こう暑い日と涼しい日が交代で来ると、身体がどっちを選んだらいいのか分からなくなりますな。
何か、身体がだるくて。何もしたくなくなる。人前で話をするのもいやだ。・・・・こんな日は、人の話、聞きながら寝てるのが一番いいですな。
携帯ってものができてから、待ち合わせで細部を決める必要がなくなりました。
昔はね、「ええ、新宿の、はい、西口の、ここんとこの前で。3時から30分だけ待ってますからね」・・・なんて。
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今は、「おう。今、どこ?」「東口」「ダメだよ。西口って言っただろ」「ああ、そうか。じゃあ、今から回るよ」なんてね。
約束があいまいになってきました。
私らでも、たまに契約書みたいなものを結ぶこともあるんですが、「もし、何々に出演できなくなった場合は、いくらいくらを」なんて書いてある。
損金出すのが怖いから片足なくなったって行ったりする。
でも、昔なんかはたいてい電話一本でした。
こんな私らでも詐欺にあったりするんですよ。
「何月何日、青年会館で2時にお願いします」
「はい、分かりました。喜んで行かせてもらいます」なんてね。
で、行ってみたら誰もいない。会場の人に聞いてみたら「今日は、そんな公演はありませんよ」
誰かが陰で見て笑ってんでしょうね。きっと仲間だと思うんですが。
起請ってのは熊野権現と決まってたもんでして。で、熊野権現の「おつかいひめ」はカラスなんです。
何でもおつかいひめってものがありましてね。
亡くなった志ん朝師匠の守り神は虚空蔵菩薩でして、このおつかいひめはウナギなんだそうです。
だから志ん朝師匠は生涯ウナギを食べなかった。どんないいウナギを出されても箸一つつけなかったそうです。
私の守り神は千手観音でして、おつかいひめはネズミです。だから、私はネズミは食べない。
(私が前に読んだ本では、志ん朝は元々ウナギが大好物だったが、立派な噺家になれるようにと願かけで
ウナギ絶ちをしていたとあった。)
♪三千世界のカラスを殺し、ぬしと朝寝がしてみたい♪・・・なんていいますね。こんなのもあります。
♪ぬしと朝寝をしたけれど、いびきがうるさくて寝られない♪・・・・。
カラスが、そこらのかみさん連中を起こしたりしますね。(いきなり大きな声で)カカァ〜!!!
(場内びっくりして、その後、爆笑)
よかった。いい具合に受けた。
起請文を違(たが)えると、熊野のカラスが三羽死ぬ・・・なんて言いました。それだけ大事なもんだったってことで。
「おい、いのさん!ちょっと、寄っていきなよ」
「あっ、これは棟梁(とうりゅう)。ちょいと急いでまして」
「いいから、お寄りって言ってるんだよ。
何だよ、うちのいのは夜遊び、日遊びが過ぎるっておとっつぁんがぼやいてたよ。
親から受け継いだ身上、潰しちゃいけない」
「ええ?棟梁、私は夜遊びはしてるけど、日遊びなんかはしてません」
「夜遊びして、昼は働いてるのかい?」
「寝てます」
「それを日遊びってゆうんだよ。バクチはいけないよ、バクチは」
「バクチなんかしてませんよ。もっと色っぽいこと。こっち、こっち(と、小指を変な風にくねらせて、突き出す)」
「ええ?小指?(合点したように)で、白かい、黒かい?」
「ぶちです」
「何だ、それ。素人か玄人かって聞いてるんだよ」
「吉原(なか)の女なんです」
「ええ?吉原?そりゃよした方がいい。だまされてるに決まってるよ」
「そんなことありませんよ。ちゃんと堅いもんもいただいてるんですから」
「ええ?起請をもらってんの?ちょっと見せてみな」
「だめですよ。女から、誰にも見せないで、大事に持ってて・・・ちゃぶだい、なんて言われてるんですから」
「いいから、見せな。にせもんかどうか見てやるから。(いやがる若旦那からひったくって)
え?ほんもんじゃねえか?ふ〜ん。どうだい、これもらった時ぁ、嬉しかったろ?
(自分でもうなづきながら)うんうん、分かるよ。
なになに・・・・、来年3月年季が明けたら夫婦に・・・・。書きゃあがったね。ええ?こんなこと、書く女(あま)ぁ、どんな名前なんだ?
うん?・・・・朝日楼内、喜瀬川こと本名・・・・・。
いのさん、これはどっかで拾った?(棟梁は自分のふところをさぐるが、ちゃんと誓紙(手拭)はあると気づく)
いのさん、ちょっと聞くが、この女は前に品川に出てたとか言ってなかったかい?」
「ええ、そんなこと言ってました」
「年は28」
「そう」
「色白で、(自分のほほを指差して)ここにホクロのある・・・?」
(起請文を丸めて投げつける。いのさんは、慌てて拾って)
「何てことするんです!こんなくしゃくしゃに!だから見せたくなかった」
「そんなに大事か?・・・・・じゃあ、もう1枚やらぁ」
(と、自分の起請文を放り出す。いのさん、それを読んで)
「あん?あん?あん・・・・?・・・・・・棟梁、私、だまされちゃった」
「いのさん、言っとくがな。あの女は、俺の方が先だよ。品川に出てる時から通ってんだ。
あの野郎、年季が明けたら、年季が明けたら・・・・って。
何だって俺が、こんな年まで独りでいるって思ってる?」
「棟梁、どうしよう」
「どうしようって・・・、あっ、いのさん、黙って、おしゃべりの清公が来た」
(清公、耳ざとく聞きつけ)
「何?おしゃべりの清公って?あたしゃ、口の堅いので有名なんだよ。背中ナタで割られて、熔けた鉛流し込まれても言っちゃいけないことはしゃべらねぇ」
「何、大げさなこと言ってんだ。いや、何ね。このいのさんが吉原(なか)の女に起請までもらってだまされたんだよ」
「ええ?(しげしげといのさんの顔を見て)ば〜〜か。ついこないだまでトンボつりしてたじゃねえか。
起請もらったの?ちょっと見せて。え?何で2枚あんの?
おっ、本物だよ。それでだまされてんだ。ば〜〜か。
もらった時ゃあ嬉しかったろ?何々?来年3月年季が明けたら夫婦に・・・・・かぁ〜〜!!書きゃあがったねぇ!
うん、うん、喜瀬川こと本名・・・・・・(とたんにウロが来て)あ、あ、あのよぉ〜?
この喜瀬川って、品川に出てたんじゃねえか?」
「そうです。・・・・もう1枚出る?」
(棟梁がたしなめて)「およしよ」
(おっかぶせるように)「清さん、もらった時嬉しかったろ?」
(清さんは声にならない声を出して奥に駆け込む)
「いのさん、いけないよ。止めに行きな。切れもんでも持って、暴れこんだら、ことだよ」
(様子をうかがって)「棟梁、大丈夫ですよ。出刃なんざ持ってやしません。わさびおろし持って、走り回ってます」
「お、俺はお前さんたちとは中身が違うんだ。黙って聞いてくれ!初めて上楼(あが)った時についた女が喜瀬川だ。
いきなり首っ玉にかじりつきやがって、『お前さんは、あたしが惚れてた人にそっくりだよ』なんて。
初会だからずいぶん気をつかってるな、と思って、そのうち裏を返してやると、同じようにもてなす。
こりゃ、本気だなってんで、そっからずっと通ったんだ。
そしたら去年の暮れ、実はあたしには義理の悪いとこに借金が20円ある。どうだろう、あたしとあんたとは来年年季が明けたら夫婦になるんだから、この借金はあんたに払ってもらおうと思うんだけど、あたし間違ってるかい?ってこう言うんだ。
俺ぁ、間違ってないよって言ったんだが、いくらかき集めても10円しかねえ。仕方ねえから、奉公してる妹のところに行って、吉原の女に渡すとは言えないからおっかさんが病気で薬代って言って、妹の持ってる着物やら何やら全部売りに出したが、元々ぜいたくしてないから叩き売っても5円にしかならない。
そしたら、妹、おっかさんの命にゃ替えられないって、お店のご主人に頼み込んで給金の前借りをして・・・・・。
俺はともかく、妹に申し訳が立たない」
「そうだな!全くだ!」(と、棟梁は無責任に相槌をうつ)
「何とかしてぇ!」
「べんべん」(と、棟梁は三味線の口真似をして茶化す)
「私はどうでもいいけどな」(と、さばさばしてるいのさん)
「だけどよ、元々吉原の女んとこ、だまされるって分かってて行ってんだ。
手荒な真似しちゃあ、こっちが世間から相手にされなくなるぜ。
どうでえ、これから3人で喜瀬川の店に行って、ちょいとこらしめるくらいで我慢しようじゃねえか」
「しかし、何だね、棟梁。今から喜瀬川に会えると思うと心がウキウキするが、仕返しするとなると心が沈むね」
「あ、棟梁、ご覧よ。犬が3匹並んで歩いてる。あら、オスだね。その前を犬が1匹歩いてるけど、あれぁメスだね。
どうだろ?あの犬も、やっぱり起請もらったのかな?」
「くだらねぇことばっかり、言ってんじゃないよ。
おっ、着いた。
おかみ、ごめんよ」
「ああ、棟梁、ずいぶん久しぶりじゃないですか。
たまに来てやらないと寂しがりますよ」
(不機嫌な表情で)「何が」
「ええ?私の口から言わせるんですか?あんな客に惚れてる子っていませんよ。首ったけ・・・」
「だから誰が」
「もう。きの字ですよ。堅いもんももらってんでしょ?」
「今朝までは堅かったがな。昼からは、ぐにゃぐにゃになっちまった」
「ええ?何なんです?え?うんうん、ええぇ〜〜?あの子が、そんなことを?」
(いのさんと清さんが出てきて)「ど〜もぉ〜!!だまされ組、二人追加!」
(清さんが棟梁に)「おかみ、いい女だね」
「出てたんだよ」
「ひなた?」
「店だよ」
「おいら、もう喜瀬川はいいや。おかみにしよう」
「何言ってんだよ。おかみ、そういう訳だ。ちょっと喜瀬川、呼んでくれるかい?」
「あっ、はい、分かりました。そうですよ。手荒い真似なんかしたら、皆さんが世間に顔向けできなくなります。
座敷は、好きに使ってください」
「よし、じゃあ、いのさんは押入れん中、隠れておくれ。
清さんは、びょうぶの陰へ。
いのさん!押入れん中で煙草吸うんじゃないよ!
清さん、かがまないと見えちまうだろ!」
(喜瀬川が店にやって来る)
「ああ、ここんとこ二、三日頭が痛くて仕方なかったけど、おあかりあげたら、丁子が立ったから(お灯明をあげると、うまく丸くなった)、何かいいことあるんじゃないかなぁと思ってたら、やっぱり!
(声を張り上げ、店の中の棟梁に聞こえるように)
棟梁が来てくれた!」
(座敷で差し向かいになる二人)
「バカに久しぶりじゃない。棟梁は何でも好きなことできるけど。
私は籠の鳥なんだから、たまにゃ、顔出してくれなきゃダメよ」
(棟梁は、喜瀬川を目の前にすると感情が高ぶり、喜瀬川をにらみながら、キセルに刻み煙草を詰め、煙草盆を持って煙草を吸う)
「やなことがあったのかい?すぐあたしに当たるんだから」
(棟梁は、ますます気持ちが高ぶり、呼吸が荒くなる)
「あたしにも吸わせておくれよ。・・・・子どもみたい。
(棟梁の煙管で吸いつけるが、うまく火がつかない。少し雁首の先を調べ)
通したげるから、紙、ちょうだい」
(棟梁が紙を渡す。何か字が書いてあるので)
「あっ、反古の紙。嬉しい。棟梁ったら、草履拭くのだって、きれいな半紙使う人だから。
心配してたんだ。ちょっとは所帯のことを考えてくれるようになったんだね」
(しかし、その紙が自分が渡した起請と気づき)
「え!え!棟梁!これ、起請じゃないか!」
「え?それ起請かい。広告かと思った」
「・・・・ひどい。そりゃ、あたしはこんなところの女だから、よそに女ができて、おめえとは所帯持てなくなったと言われても仕方ないけど。
でも、こんなイヤミな真似しなくたって!」
「けっ、そら涙流すんじゃねえ。そんな大事な起請なら、何めえ書くんだ?」
「そんなもの1枚に決まってるじゃないかね!」
「古道具屋のいのさんにも書いただろ!」
「古道具屋の・・・・・・いのさん?い・・・のさん?あっ、ああぁ〜〜。
あんなの、ただの子どもじゃない!バカみたい。
いのさんなんて、あたし、大嫌い。水がめ落っこちたおまんま粒みたいに、ぶくぶくふくれて・・・」
「おい!水がめ落っこちたおまんま粒、出て来い!」
(いのさんが出てきて、驚き)
「あら、まあ、いのさん。色が白くてきれい」
「いのさんだけじゃねえぞ、おめえ、清さんにも書いただろ?」
「清さん?小間物屋の清さん?」
「違うよ」
「あっ、ああ、荒物屋の清さん?何だ、頼まれたから仕方なしに書いたのよ。
私、あの人嫌い。日陰の桃の木みたいにひょろひょろして・・」
「おい、日陰の桃の木、出て来い!」
「こ、この野郎!」
「あら、清さん。背が高くて素敵。
(清さんが拳固を握ってるのを見て)
何?何それ?殴れるもんなら殴ってごらんよ。あたしには、大枚の金がかかってるんだよ。
何なのよ、その拳固は?」
「い、いやぁ、このくらいのヤツガシラなら、いくらくれぇするかなぁと思って・・・」
「だまされんの承知で、こうゆうとこ来てんだろ!
あたしには大枚の金がかかってるんだよ。殴りたけりゃ、身請けしてから好きにしろってんだ!」
「・・・・・・居直りやがったな。そうさ、だまされんの承知で来てんだが、起請まで書いてだますのは、性質(たち)が悪いって言ってるんだ。
起請にうそ書くと、1枚で熊野のカラスが3羽死ぬんだぞ」
「ふん!起請が何だい!あたしゃ、1万枚でも書いてやらぁ!」
「何ぃ!そんなに書いてどうすんだ?」
「知れたこと。ゆっくり朝寝をするんだよ」
どうも、お退屈さまでした。殴り書きのメモとうろ覚えの記憶で勝手に再構成してます。聞き違い、記憶違いはご容赦ください。
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